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共同作業

◆柊木春香◆


 最近、誠治君との電話の時間が短くなってきた。


 あたしもあたしで疲れているから、あまりよく考えずになんとなーく、ふわーっとしゃべっているだけだから、会話に中身はないんだけど、「ふーん」「そう」「へえ」という定型句を誠治君が返してくる。


「誠治君、夜電話するの、嫌になった?」

『え。なんで?』


 学校帰りの暗い帰り道。

 秋も深まりカーディガンやストールが必須な季節となっていた。


 自転車を漕ぎながらの通話は、息が少しあがってしまう。


 ひいひい、となるべく誠治君に聞こえないように、抑え気味に会話をする。


「だって……沈黙の時間も増えてきたし……誠治君も、話に興味なさそうだし……」

『毎日顔を合わせているわけだし、話すことがなくなるのも仕方ないと思うんだけど』


 それはそうだけど。

 付き合いはじめてからずっと続けている平日夜の電話が、蔑ろにされている気がして、なんだかちょっと寂しい。

 自転車で風を切って走ると、今日はとくに寒い。


 前は、あんなに楽しかったのに……。


「昼間顔を合わせているのは柊木先生であって、誠治君の彼女であるあたしじゃないんだから、電話は電話で……」

『あ、ごめ、ちょっと――、なんだよ、勝手に入ってくんな』

『兄さんが何回もノックしてるのに出ないからよ!』


 もー。紗菜ちゃんっ。シリアスな話をしているときに割って入ってこないでよぅ。


 ブツン。


「あ」


 切られちゃった。

 紗菜ちゃんとの話が長そうだから切ったんだと思うけど、結局まともに話すことはできなかった。


「これは……マンネリってやつかな?」


 家に帰って、ノートパソコンを起動させて、ネットで検索してみる。


【彼氏 マンネリ 対策】


 おっと。関連サイトがいっぱい出てきた。あたしだけじゃなくて世の女の子たちはみんな悩んでるんだ。


 気になった見出しの記事にアクセス。


【連絡が減った! 電話しても素っ気ない! そんなときの対策マニュアル☆】


 これだ。


 まずは、連絡に関して文句を言わないようにする――。


 ……さっき、顔を合わせるのと電話は別だからって言ったばかりだ。そう言ってしまうと、彼氏は連絡意欲が失せてしまうものらしい。

 そうなんだ……。勉強しようとしているときに、お母さんから勉強しなさいって言われるのと似たような気分になるのだとか。


 ――付き合った頃は、そんなんじゃなかったのになぁ。これはNG。言っちゃダメ。


 うわあああああ、言いかけたぁあああああああ!

 紗菜ちゃんが割って入らなかったらぼそっと言ってたよ!


 他にもいくつも参考になる対策法があった。


 さらさら、とメモを取っておく。

 よし、あとは、実践あるのみ!



◆真田誠治◆



 昨晩の電話は、紗菜が部屋に無理やり入ってきたから思わず切っちゃった。

 そのあとメールでフォローして、「いいよ、気にしてないよ」と返信があったけど、電話の内容も内容だったから、お詫びの意味も込めて、HRG社でのバイトも休みなのでケーキをいくつか買って、柊木ちゃんちへやってきた。


 インターフォンを鳴らすと、柊木ちゃんが顔を出した。


「いらっしゃい」


 ううん……? いつも通りだ。

 気にしてないってメールにはあったからそうなんだろうけど、社交辞令を使うことだってある。


「あの。これ。買ってきたから、一緒に食べよう?」

「え、いいの? ありがとうー!」


 ぱあ、と子供みたいに柊木ちゃんが表情を輝かせた。


 上がろうとすると、待ったをかけられた。


「ちょっと待って。今日は、お外にいきます! 家デートは、しばらく禁止っ」

「え、なんで?」

「なんでも! ケーキは、あとでね。冷蔵庫入れておくから」


 くるーん、とターンした柊木ちゃんは、ケーキの箱を持って奥に行ってしまった。

 何か企んでる……?

 もしそうなら隠し事が得意なほうじゃないだろうから、わかりそうなもんだけど。


 今度は、余所行きの服装になった柊木ちゃんが出てきた。

 ポニテにした髪は下ろして、伊達眼鏡をかけている。


「はい。誠治君も帽子と眼鏡」


 キャップを渡され被ると、柊木ちゃんが眼鏡をかけてくれた。


「うん、似合ってる似合ってる」

「外って、どこに行くの?」

「誠治君は、好きだと思うよ?」


 俺は、好き?


 首をかしげていると、手を取って歩き出した柊木ちゃんについて行く。


 車に乗り込んで発車。


 街のほうへ柊木ちゃんがハンドルを切った。


 昨日の中途半端な電話とその内容のことできちんと話そうと思っていたけど、なんだか切り出しにくい……。


 それは柊木ちゃんも思っているのか、車内で俺たちは無言だった。


 コインパーキングに車を停めて降りると、ゲームショップが目に入った。


「俺は好き……あ。ゲームのこと?」

「うん! あたしも、最近ちょっと興味があって」


 なるほど、そういうことか。


「誠治君、たまにゲームの話をしたりするでしょ? あたしもやってみよっかなーって思って」

「そういうことなら任せて! けど、春香さん、ソフトどころかハードもないでしょ?」

「合わせて買うからいーの」


 行こ、と柊木ちゃんと手を繋いでゲームショップの中へ。


「前来たときは、春香さん、こっそり俺と紗菜を遠くから見てたでしょ」

「あ、やっぱりバレてた?」

「瘴気を出しまくってたからね」

「瘴気?」


 自覚はないらしい。草木が枯れて大地が腐りそうな瘴気出してたんだけど。


 中高生が多い店内だけど、ぱっと見じゃ知り合いらしき人はいなさそうだ。

 変装しているからわからないとは思うけど、それでも一応気にしてしまう。


「春香さん、どういうのがしたい?」

「そもそもゲームって、どういうのがあるの?」


 そこから!?

 ああ……お嬢様だとそういうのに触れる機会は少なかったのか。


 俺はゲームソフトを手に取って、あれこれジャンルの解説をしながら一帯をうろうろした。


「うーん。誠治君のオススメでいいよ?」


 あれこれ悩みながら、二本に絞り、一本を選んでもらおうとしたら、


「じゃ両方で!」

「大人だ!」

「ふっふーん、でしょー?」


 ドヤ顔で柊木ちゃんはレジに並んで、ハードも購入。

 店を出て待っていると、紙袋を下げて出てきた。


「帰ってさっそくやろう!」

「二人でも協力プレイできるから、手伝ってあげられるけど?」

「二人でできるの!? じゃ、一緒にやろ♪」


 るんるんな様子で歩き、意気揚々と柊木ちゃんは車に乗り込んだ。

 けど、どうして急にゲームに興味を持ったんだろう?

 前々から、ゲームを話題にしたことは何度もあったけど、このタイミング……?


 内心疑問に思いながら家に到着し、部屋に上がる。


 柊木ちゃんは俺が買ってきたケーキとお茶を準備している間、俺はゲーム機の準備を整えておく。

 そのとき、テーブルの上にあるノートパソコンの下に、紙が挟まっているのが見えた。


「?」


 引っ張ってみると、柊木ちゃんの字で、メモが書いてあった。


『彼氏とのマンネリ脱出!』


 俺はメモを今度は見えないようにノートパソコンの下に戻した。

 今日の違和感は、そういうことだったらしい。


 あのメモは見なかったことにしよう。

 俺だって、柊木ちゃんともっと仲良くしたいし、楽しく毎日を一緒にすごしたい。


 ちょっと電話でそっけなかったのは反省しよう。


「誠治君ー? ケーキ、どれがいい?」

「春香さん、先選んでいいよ」

「いいの!? じゃあ、遠慮なく……」


 ケーキと紅茶を楽しんだあと、俺たちは、さっそくゲームをすることにした。

 はじめてらしい柊木ちゃんは、「や! ほ、はっ!」と声を上げながら、コントローラーを持ちながら体を傾けたり動かしたりしていた。


 絵にかいたような初心者っぷりが微笑ましくて、俺は声を上げて笑った。


「はじめてなんだから、仕方ないでしょーっ」


 ぷくーと膨れると、今度は俺の真ん前を占拠して熱中しはじめた。


「春香さん、ありがとう」

「え。何か言った? ふわああ!? やばい、やばいやばいー!」

「下手っぴ」

「うるさぁーいっ!」


 びしびし、と柊木ちゃんが俺の膝を叩いた。


「じゃ、手伝って」

「へいへい」

「ここクリアできなかったら、チューする」

「クリアしたら?」

「チューする」


 結局するんかい。


 それから二時間ほど続けたけど、センスゼロの柊木ちゃんは一向に上達せず、俺がいないとダメみたいだった。

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