心理テストは当たる? その2
あれから、柊木ちゃんが心理テストにハマってしまった。
恋愛系の心理テストばかりで、とくに恋人に対して本当はどう思っているか、という本音を聞き出そうとするものばかりだった。
「誠治君は、緑の芝生が広がる広ーい公園で、友達と紙飛行機を作って飛ばしました」
「はい」
占いや心理テストが好きなのは紗菜も同じなので、女子はこの手のものには目がないのかもしれない。
「そのうちいくつの紙飛行機が遠くまで飛びましたか?」
友達っていっても、藤本くらいしかぱっと思いつかないし……。
あいつのより俺のほうが飛びそう。
「一個」
「え!? 一個!?」
な、なんだよ、そのリアクション。
「へ、へえ、そうなんだ。ふうん、一個なんだ。……むふふ、わかってた、わかってた♪」
不満があるとすれば、これ。
こんなふうに、一人で納得して、一人でむふふと変な笑い方をして楽しんでいるのである。
「何がわかるの、これ」
「内緒」
なんでだよ。
「ええっとねえ、次は……」
俺は柊木ちゃんに質問責めされて、結果は柊木ちゃん一人で楽しむというのが、心理テストに飽きるまで二週間ほど続いた。
そんなある日の週末。
俺は復讐してやろうと、心理テストの本を買って、柊木ちゃんちにやってきた。
「春香さん、さんざん俺に訊いておいて、自分はやらないってズルいでしょ」
「ズルくないよー? だって、本買ったときにひと通り自分でやっちゃうんだもん」
「ってわけで、今日は俺が出題するターン」
「お。なんだかんだで、誠治君も好きだね」
心理テストが当たりやすいっていうのは俺も認めるし、やっぱり柊木ちゃんが本当はどう思っているのかっていうのは知りたい。
ソファに座っている俺の隣にやってきた柊木ちゃんが、するりと腕を絡ませる。
「じゃいくよ?」
「どんとこい」
ぱらぱら、とページをめくっていく。
あ。これ、面白そう……。
柊木ちゃんに見えないようにしながら問題を読む。
「恋人が、目の前にいます。その人はパンツを一枚だけ履いている状態です」
「ふふっ♡ 誠治君、風邪ひくよ?」
「想像の俺の心配すんな。……で、あなたは最初に何を着させてあげたいですか?」
選択肢タイプなので、四つを掲示してあげる。
「むむ……誠治君……いい体してるからなぁ……」
「そういう設定はいいんだよ。直感で選んで」
これでわかるのは――SM度!!
ノーマルなのかSなのかMなのか――。
「えっとねえ。ズボン!」
「へええええ。はああああ。なるほどおおおおおお」
柊木ちゃん、ドMだった。
なんか納得。この前の未来では立派なMになってたし。
意地悪したくなるタイプというか……ん? こういう考えになるってことは、俺はSなのか。
「何、なになになになに! 何がわかったの!?」
俺の腕を子供みたに柊木ちゃんは引っ張る。
「内緒」
「えええええ」
ふふふ。もやもやするだろう。
これが俺の復讐だ。
気が済んだので、教えてあげることにした。
「あ、あたしドMなの……?」
「思い当たる節は?」
「あるううううう。当たるどころか、その節しかないよ!」
どんだけ当たってんだ。
「誠治君、意地悪するでしょ? あれが、なんか好きなの」
「すげーカミングアウトきた!」
「意地悪したくなるほどあたしのこと好きなんだ、って思うと、愛しくなる……」
ドMの思考回路は、俺にはさっぱりわからん。
「たまに、あたしのほっぺぎゅってつまむでしょ? あれも好き……」
「は、はあ……」
確かにたまにやるけど、あれ、好きだったんだ。
「叩いたりするのはさすがにアウトでしょ?」
「セーフ」
「許容範囲の広さ!」
柊木ちゃんの聖母みたいなあふれる母性は、ドMだからこそのものだったのか。
「痛いのがいいの……?」
さすがにここまでディープに掘り下げると、わからないだろう。
「……うん」
頬染めながら即答すんな。
Mっ気に関しては意外でもなかったけど、具体的に訊くと結構驚くことばかりだ。
「あ、でも、誠治君以外にされると普通に嫌だし怒るし、一〇倍返しで反撃するけどね」
「好きな人なら、許せるの?」
「うん」
柊木ちゃんのほっぺをつまんで引っ張ってみる。
「あたたたた」
「これがいいの?」
ほっぺを離すと、手でさすりながら恥ずかしそうにうなずいた。
「……うん。なんだか、心地いい……」
いずれ「気持ちいい」に進化するぞ。
柊木ちゃんが、変な扉を開けようとしている。……俺のせいで。
次の問題にいこう。このままこの話をしていると進化を促してしまいそうだから。
適当に本のページを開く。
「じゃ次の問題。好きな異性のタイプを三つあげてください」
「んー? なんだろうにゃー?」
甘えん坊モードに入った柊木ちゃんは、伸ばした足で俺の足の甲をすりすりさすったり、俺の肩に頭をのせてみたりと、ベッタリだった。
「直感だよ、直感」
「えっと、ひとつめは体つき。細マッチョ的なの。次は……しゃべってて楽しい人。で最後は……」
ちょっとだけ悩んであっさりと言った。
「誠治君」
「は? タイプだよ?」
「いいの、いいの。タイプって言われてもふわっとしかわかんないから、直感で」
これでわかるのは、本当に好きなタイプらしい。
で、重要なのは三番目。
……俺!?
タイプじゃなくて個人でてきちゃった!?
「そ、そっかぁ……」
「何? 誠治君顔赤いよ? 何がわかるの?」
「どんな異性が本当に好きかっていうのが、わかるみたい……」
説明をすると、へえー? と柊木ちゃんはニマニマしながら俺の横顔を見つめた。
「それで赤くなってたんだ? 嬉しかったんだねー?」
くそぅ……。言い返せねぇ!
だって、俺も昨日こっそりやったら、三番目は柊木ちゃん個人だったから。
「両想いってことみたい」
「え? なんで?」
「……俺も、昨日こっそりやったら、三番目は、春香さん個人だったから」
ニマニマが消し飛んだ柊木ちゃんが、ぼふん、と顔を赤くした。
「そ、そっかぁ……」
「大恋愛の相手だもんね、春香さん」
「くふぅ……言わないで……とろけちゃうから……」
組んでいた腕をちょっとだけゆるめると、柊木ちゃんは俺の手で恋人繋ぎをする。
「俺はそう思ってたのに、春香お嬢様ったら……はしたないんだから」
「やーめーてー。もう言わないでー!」
ぽこぽこ、と俺を叩いてくる。
うん、やっぱり意地悪しがいがあるんだよな、柊木ちゃん。
「意地悪を言う口は、塞がないと……っ」
照れながら目をつむって唇を突き出してくるので、さっとかわす。
柊木ちゃんは、ぶちゅ、とソファの背もたれにキスをした。
「な、なんで避けるのっ! ちゅーしたい気分マックスだったのにっ!」
こ、この人、面白い……。
「逃げちゃダメ」
がしっと顔を両手で押さえられて、長いキスをした。
他にもいろいろと試したけど、意外な結果はあまり出てこず、柊木ちゃんが俺のことが大好きだという事実の再確認となった。
ストーカー度診断は、怖かったので柊木ちゃんには試さなかったけど。