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心理テストは当たる?

書籍版の2巻が4月15日発売予定です!

書籍版もよろしくお願いいたします。


「……好きな人を思い浮かべてください……」


 奏多の淡々とした小声が家庭科室に響く。


「す、好きな人ね……、わかったわ……」


 ちら、と紗菜が一度こっちを見て、目をつむった。


「好きな人……!」


 じっと柊木ちゃんもこっちを見て、目が合うとぽ、と頬を赤らめた。


 わかりやすい人だなー。


 俺も目をつむって思い浮かべる。もちろん柊木ちゃんだ。


「……あなたは、時間を止めることができます――」


 と、奏多が俺たち三人に言う。


「な、何よ、それ。異能力の類い!?」

「心理テストだっつーの。そんな設定ねーから」


 昼ごはんを食べたあと、時間があったので奏多が図書室から借りた心理テストの本で心理テストをしていた。


「……好きな人の時間を止めたあなたは、その人のどこを最初に触りますか?」


 時間を止めて……自由に柊木ちゃんに触れるとしたら……。

 あかん。これはあかん。エロいことしか考えられない。


 正式におっぱいを揉むなんて、ハレンチすぎる。


 目を開けると、はい、と紗菜が挙手した。


「……はい、さーちゃん。どこを触りますか」


「く、唇よっ! なんとなくよ、なんとなく。直感だからその、深い意味はないんだからっ」

「……唇を選んださーちゃんは……」


 ごくりーん、と紗菜が喉を鳴らす。


「じ、実は両想いだったり――?」

「……その相手とは片思いで終わります」


 奏多がどうしてその結果になるのかしゃべっていると、


「……………………………………は、はは……」


 乾いた笑い声を上げた紗菜が放心状態になった。

 あ! うっすらと口から魂みたいなものが出てる!?


「おい、紗菜! 気を確かに持て!」


 俺が肩を掴んで揺らすと、ばんばん、と子供みたいに紗菜が机を叩いた。


「う、う、うるさぁーいっ! 誰のせいでこうなって……あ、違う。もう、兄さんのバカァ!」


 魂が体内に戻ったようなので、俺はひと安心して胸を撫で下ろした。


「あ、カナちゃん、今のやっぱりなしで……実は……」

「……さーちゃん、ズルはダメ」

「うぅぅぅ……こういうところは厳しいんだから……」


 今度は柊木ちゃんが挙手。


「……はい、先生」

「あたしは…………そのぅ……」

「何よ、先生。こーいうのは直感なんだから、スパーンと思い浮かんだ場所を言っちゃえばいいのよ」


 柊木ちゃんは俺を一瞥すると、意を決したのかキリっとした顔になった。


「男の人の、大事なところを触ります」


「「…………」」


 二人がやや引いていた。


 ま、けど、セクシャルっていう部分は俺と同じ。

 似た者同士のカップルってことかな。


 それはそれでちょっと嬉しい。


「そういうところが、パッと思い浮かぶってことは、その人とだと子宝に恵まれて幸せな家庭を築いて――?」


「……その相手とは、体だけの関係で終わります」


「「っっ!?」」


 ピシャーン、と俺と柊木ちゃんに衝撃が走った。


 奏多が冷めた声で解説をしてくれているけど、解説は右から左で頭に入らない。


 ててててて、ていうか、俺たちキスから先には進んでないんですけど。

 体だけの関係なら、もうとっくに色々と済ませてると思うんですけど。

 そこらへんどーなんですかねえええええ。


「プップクプー。先生どんまーい。てことは、先生、体目当てで遊ばれて終わりってことなんじゃないのー?」

「っっっっっっっ!?」


 ズビシャーン、と柊木ちゃんにさらに再び大きな衝撃が走った。


「そんなわけねえだろ!」


 思わずガチで否定してしまった。


「急に大声出さないでよ。兄さんは関係ないでしょー?」


 涙目で柊木ちゃんがこっちを見てくるので、俺は全力で首を振った。


 本当にそうならもうお手付きになってるはずだし、遠慮なんかしない。


「さっきのは実は嘘で……」

「無理無理ー。変更は受け付けられないから!」


 紗菜がイキイキしていた。自分だってさっき変えようとして拒否されたくせに。


「……最後は誠治君。どこを思い浮かべた?」


 どこをって柊木ちゃんのおっぱいを正式に揉む……じゃなくて、おっぱい様を下から支えて……じゃなくて、おっぱいを指でつついて、じゃなくて……。


 ――どっか行けぇえええええ、思春期のリビドォオオオオオオオ!


 おっぱいでがんじらがめじゃねえか!! 思考の身動きがとれねえ。


 いや、違うんだ。おっぱいじゃなくて、俺が触りたいっていうかふれたいのは、その奥にある心――ハートってやつだから。

 それをつついて、支えて揉みほぐしたいっていうか。そういう感じだから。


「ハート。心のつながりってやつ? そういう意味でふれたい――」


 ふぁさぁ、と前髪を払いながら言うと、紗菜に「はぁぁああああ?」みたいな顔をされた。


「何言っちゃってんの、兄さん。大丈夫? 中学生以下のポエムを聞かされた気分なんだけど。どうせ、友達以下の片思いなんでしょー?」


 奏多が本をぺらぺら、とめくって、ふんふん、とうなずいた。


「……ハートというのはないけど、近いのが、心臓。……それだと、その好きな人と、大恋愛になる可能性が高いです」


「ぅおっっっっしゃぁああ!!」


 俺、立ち上がって渾身のガッツポーズ。


「ほらな?」


 何が『ほらな?』なのかはわからないけど、おっぱいを揉む気満々だった俺は、ドヤ顔で紗菜を見下す。


「へ。へえ……だ、大恋愛……」


 ん? なんでおまえが頬染めてんだ。


「……障害があっても乗り越えるってことでしょ……?」


 ちら。もじもじ。ちら。もじもじ。


「? たぶん、そういうことだろうな」


 急に立ち上がった柊木ちゃんが、だだだだだ、と家庭科室から出ていった。

 どうしたんだろう。ま、いいや。


「身分や立場を気にせず、一直線……ってこと……なのよね……」

「てことになるな」


 俺と柊木ちゃんの関係はまさにそうかもしれない。

 やだー、当たってるじゃないですかあああああああああ!


「兄さんの、えっち!」


 ドゴン、と割と強い力で肩にグーパンされた。


「……さーちゃん、どうどう。落ち着いて」


 兄の俺よりも奏多のほうに懐いてる紗菜は、ふんすふんす、と荒げていた鼻息をどんどん鎮めていった。


「先生、どこ行ったんだろう。ちょっと見てくる」


 俺は二人に言って、家庭科室を出ていくと、すぐに見つけた。


 出てすぐの柱にもたれて、両手で顔を覆っていた。泣いているかと思ったけど、違うらしく、恥ずかしいのか耳が真っ赤になっている。


「あたしのこと、超好きだよ……恋しくて愛しくてたまらないってことじゃん……わぁ……。大恋愛……っ」


 悶えている柊木ちゃんの赤い耳に、こそっとつぶやいた。


「それなのに、先生は、エロいことを考えていた……」

「!?」


 柊木ちゃんがばっと顔を上げた。


「ち、違うの、せい……真田君……」


 自分で口にした『結婚するまではお預け』っていう最終防衛ラインはかなり強固らしい。けど、その分興味関心は高いようだった。


「どんなこと、考えたの?」

「べ、別に……そんな、変なことは、あたし……」


「言えないようなことなんだ? 先生って……実は、どスケベ?」

「ち、違うの……真田君……スケベじゃない、スケベじゃないけど……」


 半泣きで柊木ちゃんがぷるぷる震えはじめた。

 あ、イジりすぎた。


 俺が反省していると、くすん、と鼻を鳴らしながら、ぼそっと言った。


「あ、あたしだって……エッチな気分になるときもあるんだから……」


 ぐふっ……!?

 か、可愛い……。


 涙目でそんなこと言うなよ。抱き締めて押し倒すぞ。

 そんな度胸があるのかどうかは別として。


「あー! 帰ってこないと思ったら、兄さんが先生泣かしてる!」

「泣かしてねえよ!」


 おまえは小学生か。


「先生、兄さんに何されたの? 大丈夫?」


 変態とその被害に遭った女性みたいだから、その訊き方やめてもらえませんか。


 大丈夫、と言って柊木ちゃんは立ち上がった。


 俺と柊木ちゃんは、最終防衛ラインのせいか、発散されない欲求を抱えていることがわかったのだった。

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