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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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体育倉庫の忍者


 ジャンケンで負けた俺は、一〇月の頭にある体育祭の実行委員の一人になってしまった。


 前回の高二の体育祭なんて、俺は別にいいところもないし、いいところを見せる相手もいなかったので、恥をかくこともなく無事に終わった。


 さて。今回はどうなることやら。


 放課後、生物室に実行委員は集合とのことで行ってみると、柊木ちゃんがいた。


 そういえば、体育祭役員の先生になったって言ってたっけ。


「あ。真田君も実行委員?」


 嬉しそうなオーラを振りまいている柊木ちゃん。

 ……主人を見つけた飼い犬みたい。


「ジャンケンで負けたので」

「へえ、そっかそっかぁ」


 ニマニマと笑って、『あたしが役員の先生だから実行委員になったんでしょ? わかってる、わかってる』とでも言いたそうな顔をする。


 いや、申し訳ないけどジャンケンで負けてなっただけだから。


 全クラスの実行委員が揃うと、柊木ちゃんが説明をはじめた。


「基本的には、みんなにはプログラムがスムーズに進行できるようにお手伝いをしてもらいます」


 簡単に言うと、小道具の準備やら片付けといった雑用係だ。


 だいたいのプログラムはもう決まっているので、外の倉庫に行き、どの競技にどの道具を使うのか、というのをプリントを手に確認しながら、柊木ちゃんは説明していく。


「――で、玉入れが終わったときに、このおっきな棒? みたいなのは下げてください」


 くるっと、生徒たちを振り返る柊木ちゃん。


 毎回説明が終わるたびに、『誠治君、あたし今仕事頑張ってるんだよ!』っていうドヤ顔はやめなさい。


 俺たちも同じプリントを持っているので、どこに何を設置してどこにしまうのかも、グラウンドの地図が描かれていて、かなりわかりやすい。


 柊木ちゃんがこのプリント作りにひいこら言っていたので、七割くらい俺が作ったプリントだけど。


 近くの体育館からは、バスケ部とバレー部が威勢のいいかけ声を出しながら練習をはじめた。


「そんなに難しいことじゃないので、お手伝いよろしくお願いします」


 柊木ちゃんが最後に軽く頭を下げると、実行委員の生徒たちも「おなしゃーす」と適当にあいさつを返した。


「先生はまだ確認することがあるので、ここで解散してください」


 ぞろぞろ、と生徒たちが出ていき、俺だけが残った。


「真田君、解散だよ?」

「手伝うよ。何を確認するの?」

「……そ、そうやって他の女子にも優しくしてるんでしょ!? 先生、迂闊にも今ときめいたんだから!」


 何を大声で言ってんだ。

 扉が閉まっているので、俺は一安心する。


「無差別にときめきを振りまくのは、誠治君の悪いところだよっ」

「クラスの女子とはほとんどしゃべらないから安心して。ときめきも振りまいてないから」


 ……ときめきを振りまくって、なんだ。

 不思議なワードに改めて俺は首をひねった。


「玉入れのお手玉数えるね」

「そうやってはぐらかして――お願いします」


 黙々と作業をして、一通り確認し終わったころに気づいた。


 そういや、扉、ずっと閉まってるけど……?


 まさか……まさか、ねえ……。

 持ち手に指をかけて引いてみる。


 ガシャン。


 び、びくともしねえ!


「春香さん、鍵かかってる。外から」

「ほんとーっ? じゃ、二人きりでしばらくゆっくりできるね♡」

「ポジティブッ!?」


 ここは、今部活をしているバレー部もバスケ部も道具を置かない、どちらかというと物置に近い倉庫だ。


 このままじゃ……閉じ込められたままだ。


 鍵は柊木ちゃんの手にあるけど、外にある錠前を開けるための鍵なので、今持ってても扉は開けられない。


 てことは、解散した生徒たちを見たどこかの気の利く先生が、ご丁寧に開いている扉をお閉めになられたってことか……!?


 薄暗いところで黙って確認作業をしてたせいで気づかなかったんだ。


「誠治君、誰も来そうにないね……」


 ぺたん、と重ねられたマットに柊木ちゃんが座った。

 しばらく二人きりになれるのはいいけど、外に出られないんじゃ不安にもなるだろう。


「今度からここ……二人きりになるときに使えそう……!」

「ポジティブッ!」

「マットが埃くさいの癪だけど、ごろんって横になれるよ♪」


 この時間を楽しむ気満々だ……!


「俺の携帯は、生物室に置いてきた鞄の中だし、春香さんは?」

「あたしも職員室の引き出しの中」


 助けを呼べない絶望的な状況だった。

 窓は小さすぎて、人が出入りできそうな大きさじゃないし、どうしよう……。


「出たあとは、マットを干して、シーツを買って――」

「快適にしようとすんな」

「たぶん、帰ってこないあたしに気づいた他の先生が探しに来てくれると思うけど……いつになるだろうね」


 相変わらず口調はのん気な柊木ちゃん。マットに横たわると、とんとんと隣を叩いた。


「ここ、おいで。添い寝したげる♪」

「いや、そんなことしてる場合じゃ……」

「……嫌?」

「……」


 ごろん、と柊木ちゃんの隣にお邪魔した。


「何してんだ俺!?」


 柊木ちゃんの甘やかしスキルは世界最強だった。


「そんなケンケン吠えないの。大丈夫、大丈夫」


 一応、他の先生が来てくれるかもしれないっていうのなら、ジタバタしても無駄か……。

 柊木ちゃんと同じように助けを待つことにして、ぬいぐるみのように柊木ちゃんにぎゅっとされていた。


 ……安らぐ。


「……っ」

「? どうかした、春香さん」

「う、ううん……ただ、ちょっとおトイレ、行こうかなって思って」

「トイレって……あるわけないでしょ。倉庫に」

「だ、だよね……」


 声が裏返っていた。


 ――あ。もしかしてギリギリ!?


 顔が強張って、異常にまばたきの回数が増えてきた。


「っ……、れ、かも……」

「え、何? 大丈夫?」


 ぷるぷる、と首を振った柊木ちゃん。


「れ、ちゃうかも……」

「れちゃうかも?」

「漏れちゃうかもぉおおおおおお!」


 顔を赤くして、うっすら目に涙を浮かべる柊木ちゃん。

 もじもじ、と足を動かしはじめた。


「だ、誰かぁああああああああああああああああああ! いませんかああああああああああ」


 俺が慌ててドンドンドン、と扉を叩いてもうんともすんとも言わない。


 いい年したレディに漏らさせるわけにはいかない。

 それが愛しの彼女となればなおのこと。


 必死に助けを呼んでも、人の気配すら感じられなかった。


「せ、誠治君……あ、あまり大声出すと、響いて……」

「あ、ごめん」


「あっ……っ」

「え、何!?」

「ちょ、もう……」


 鼻をひくひくさせて涙目の柊木ちゃんは、もはや表に出せない顔になっていた。


「漏らしたあとは、誠治君を殺してあたしも死ぬぅううううっ」


「頑張れ! そんで、さりげなく俺を巻き込むな」


「ふみぃぃいいいええええええんっ、もう、あたし、頑張れないぃいいい……」


 精神的にも限界を迎えそうな柊木ちゃんが、ついに泣き出した。


 そのとき、ガチャガチャ、と扉から物音がした。


「さ、サナ待ってたのに。兄さん、全然昇降口来ないんだもん……! 兄さん、いるんでしょー!?」


 がら、と扉が開いた。


 スンッッッ――……!


 忍のような俊敏さを発揮した柊木ちゃんが、一瞬で体育倉庫から姿を消した。


「ふわあ!? な、何今の!? ニンジャ!?」


「紗菜ぁあああああ! 助かった! 俺じゃなくて……主に……ニンジャが」


 がしっと抱きしめる。


「やあああああ!? な、何してるのっ!? 離れなさいよっ、兄さんのバカ、変態、シスコン!」


 じたばた暴れるので、俺は紗菜から離れた。


「なんであっさり離れるのよ!」

「どうしろと」

「もういいわよ……」


 ふん、と髪の毛を払って整えた紗菜は、「帰ろ?」と言って歩き出した。


 帰り道訊いたところによると、たまたま俺たち実行委員が体育倉庫に入るのが見えたそうだ。

 けど、俺が全然出てこないから変だと思って、鍵を借りて開けたらしい。


「もう、手間のかかる兄さん。感謝してよね?」

「へいへい、ありがとありがと」


 柊木ちゃんは、感謝してもし足りないくらいだろう。

 受信した柊木ちゃんからのメールには、ニッコリマークの絵文字だけあった。


 どうにか間に合ったらしい。


「紗菜、ジュースおごってやる。アイスでもいいぞ?」

「何よ、珍しい……」


 不審そうにする紗菜だったけど、遠慮容赦は一切なく、アイスもジュースもお菓子も、合計五〇〇円近くおごるはめになった。

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