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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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夏休みの家庭訪問 前


「夏休みのうちに」


 ジャカジャカ、とキッチンで洗い物をしながら、柊木ちゃんは言った。

 テレビの音量を下げて、俺は続きに耳を傾ける。


「家庭訪問をしたいと思うんだけど、どうかな?」

「は? 家庭訪問? ……春香さん、俺の担任じゃないでしょ」

「そうなんだけど……」


 きゅ、と水を止めて、後ろで結んだエプロンをほどいて俺のほうへやってくる。


 なぜかこの仕草がグッくる今日この頃だった。


 むかいじゃなくて、俺の隣に座った柊木ちゃん。


「顧問として、一度、誠治君のご家庭の状況を把握しておきたいというか」

「把握してどうすんの?」

「うぅ……」


 唸って、柊木ちゃんは唇を一文字に結んだ。


「……俺んちに遊びに来たいんでしょ?」

「そ、そうとも言うかなー?」


 ふーふー、と吹けもしない口笛を吹いた。

 俺の部屋に興味があるっていう気持ちはわからなくもない。


 思い返してみれば、一度も柊木ちゃんを招いたことがなかった。


「風邪をひいたときに一回お邪魔はしたんだけど」

「風邪ひいたとき? 俺んちに? 放課後来たんだ?」

「あ。えっと……、うん、そう。放課後。でも寝てたみたいだったから、帰ったけど」


 なぜか俺の目を見て話さない。何か隠してる?

 まあいいか。


「来るっていっても、実家で親も紗菜もいるけど、どうなんだろう。顧問が家に来ちゃうってのは」

「そのときは、柊木春香、誠治君のお父様とお母様に、全力でご挨拶させていただきます! もちろん、顧問としてね」


 俺が、ひーパパに付き合っている報告をしたことに触発されたのかもしれない。


 けど、うちはごく普通の常識的な一般家庭だ。この前みたいにカミングアウトすれば、両親も紗菜もひっくり返るだろう。


 だから、ややこしいことになるので、ご挨拶はしないでいただきたい方向で。


「じゃあ……今日来る? うち、誰もいないけど」

「行くっ!」



 ということで。

 柊木ちゃんを俺んちに招いた。

 

 両親は仕事で、父さんは夜遅いし、母さんも今日は帰りは遅い日だった。紗菜も今日は奏多と出かけるらしく、もしかすると遅くなるかもしれないとのことだった。


 部屋に連れてくると、柊木ちゃんがあちこちを見回している。


「マンガを入れたカラーボックスに、ゲームが何本か……勉強机も綺麗に整頓してある……」

「いや、結構適当だから。ソファかベッドか、適当に掛けてて。お茶入れてくる」

「あ、お構いなくー」


 とはいうものの、いつも出してもらっているし、今日くらいはこっちが出す番だ。

 キッチンで麦茶を入れて部屋に戻る。


「お待た……せ……?」


 くるん、と俺を振り返った柊木ちゃんの目がウルウルしていた。


「え。何!? どうかした!?」

「これええええええええ! 何ですかあああああああああ!」


 ずい、と柊木ちゃんが持っていた雑誌を突き付けてくる。


 うげ!? 机の引き出しの奥の奥にしまってたのに!

 やばい……。


「こ、こんなエッチな本を……!」


 ハタチになるまでダメって言ったでしょーーーー!? って言われるに決まってる。

 それとも、こんなのが好きなんだ……。って軽蔑されるかだ。


 俺は慌てて雑誌を取り上げた。


「あー。これ、あー。そうだ、そうだ。藤本のだぁ! あいつ、忘れていきやがってー!」


 プロレスラーのパフォーマンスよろしく、ビリビリに破いてゴミ箱にダンクシュートを決める。


「そういうことなら、いいんだけど……」


 ふう。耐えた。


「誠治君のだったら、どうしようかと思ったよ」


 お世話になっていた皆の衆、すまん……。

 俺はこっそりゴミ箱の中身に謝っておいた。


「俺の物なワケないでしょー」

「だよね。だって、誠治君が女子高生好きなワケないもんね!」


 …………いや、それは、いいじゃないですか。


「マンションの隣に住むお姉さんとか、教師ものならセーフだったんだけど」


 ジャンルの問題!?


「妹ものは未来永劫、絶対にダメ!」

「ジャンルに詳しいな!?」


 まずいぞ……。

 あと二か所……伏せカードがある……。


 母さんや紗菜に最悪バレても大丈夫なように、リスクを分散させておいて正解だった。


 カラーボックスに詰め込んだマンガの奥に、『別のマンガ』が収納されている。

 あとは、ゲームソフトのケースの中にパッケージとは違う『別のディスク』がある。


 どれもお姉さんものでもないし、教師ものでもない!!


 全部バレればスリーアウト……。

 じゃあもう女子高生と付き合えば? って、冷たい目をされる可能性大!


 俺の部屋で楽しくイチャこらできると思っていたのに!

 こんなところに落とし穴が……!


「誠治君、汗すごいけど、大丈夫?」

「え、ああ、うん。大丈夫……」


 柊木ちゃんの隣に座って、動けないように腰に腕を回す。


「もう、誠治君ったら……♡」


 ごろごろ、と甘えるネコみたいに、柊木ちゃんがくっついてくる。

 うん。そういうつもりはなかったけど、それでいいや。


「あ。あのマンガ、この前面白いって言ってたやつでしょ!?」


 カラーボックスを柊木ちゃんが指さした。


 く――! あの裏には――!


「一巻だけ、読んでみてもいい?」

「無理! 絶対に無理! ていうか、全然面白くなかった! ごめん!」


 一冊でも引き抜けば、裏にあるマンガに気づかれる……!


「えー? でもこの前書店で見かけたとき、累計二千万部突破って帯に書いてあったよ?」

「そ、それは、たぶんなんかの見間違いじゃない?」

「うーん……けど……あたし、誠治君が何を読んでるのか気になるなぁ……?」


 すみません! 普段は、表のマンガじゃなくて裏にあるほうを熱心に読んでます!

 回数でいえば三倍は違います!


 紹介するわけにもいかず、どうにか俺は興味をそらすことに必死にだった。


「なんか目が血走ってるけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」


 俺は別の棚に入っている一冊を渡すことで、どうにか柊木ちゃんの好奇心を鎮めることに成功した。

 もちろん、裏には何もない場所の棚からチョイスした。


「誠治君、退屈じゃない?」

「そ、そんなことないよ?」

「じゃあ、一緒に読もう?」


 柊木ちゃんがマンガの右半分を俺に渡した。ここで拒否してマンガを読むことをやめられても困る。

 なので、大人しく従うことにした。


「誠治君、読むの早い」

「内容知ってるからね」

「もー」


 一冊のマンガをイチャつきながら読むこと二〇分。

 さくっと読破してしまった。


 どうしよう。


「普段、どんなゲームしてるの?」

「い、いや、これ、俺のじゃなくて紗菜のだから、ゲームとか今まで一回もしたことないなぁー」

「そうなの? じゃあいい機会じゃん。一緒にやろ♪」


 四つん這いになって、ゲームソフトを納めた棚に柊木ちゃんが近づく。

 むけられたお尻と、スカートの裾からのぞく太ももに俺が釘付けになっていると、「どれが面白いのかな……?」とソフトを手に取って裏のパッケージを眺める。


 あ。あれは――!


「ちょ、待って、これは――」


 さっと取り上げる。

 よりによって、ビンゴのソフトじゃねえか……危ねえ。


「それが面白いの? じゃあ、機械? のスイッチ入れるね」


 ほう、と胸を撫で下ろしながら、念のためそっと開いて中を確認する。


 あれ……? パッケージと同じソフト?

 じゃあ、『別のディスク』はどこに――!?


 俺、ケースを勘違いしてる!


 どこだ、どこだ、どこだ……!

 あれこれ開いては閉じ、引き抜いては戻すことを繰り返した。

 けど、どれもきちんと収まっていた。


 収まってる? そんなはずは……。


 うぅぅぅぅぅぅぅううううん、と駆動音をゲーム機が鳴らす。


 シュイン、シュイン、シュィイイイイイイイイイイイイイイン――。


 手元のソフトは全部収まっていたのに、ゲーム機が何かを読み込んでいる。


 あの中かぁあああああああああああああああああ!


 読み込むと同時に再生される設定にしてるから、このままじゃ――!

 美少女女子高生がハレンチする映像が流れる――――!


 忍者よりも素早く、俺はコンセントに差してあるプラグを全部引っこ抜いた。


「あ、あれ……? テレビが映らない?」


 きょとん、と柊木ちゃんは首をかしげている。

 どれがどれかわからなかったので、全部抜いたのは正解だった。


 ふいー、と俺が手の甲で汗をぬぐっていると、ゴソゴソ、と柊木ちゃんがゲーム機の裏側を探りはじめた。


「線が抜けちゃったのかな……? あ、ゲームソフトが奥に……」


 引っ張り出したゲームソフトのタイトルを読み上げた。


「『十七歳女子〇生のリアルな放課後』……」

「………………」


 制服姿の可愛い女子たちが、柊木ちゃんに微笑みをむけていた。


「「…………」」


 なくなったのかと思ってたら、そんなところにあったのかよぉおおおおおお!


「誠治君、これ、何」


 冷たぁぁぁぁぁぁぁい声だった。


「い、いいい、い、一種のど、ドキュメンタリーみたいなやつで。あ、そう、N〇Kとかでやりそうな感じのドキュメンタリーで……」

「ドキュメンタリー……?」


 くるっと柊木ちゃんが手首を返し裏のパッケージを見る。


 あ――。終わった……。


 苦悶の表情をする女子高生がハレンチする画像が断片的に載せられていた。


 ブルブル、と柊木ちゃんが怒りで震えている。グシャ、とケースを握りつぶした。


「誠治君のバカぁあああああああああああああああああああ!」


 光の速さでケースが俺目がけて飛んできた。

 ガン、と顔面に直撃。


「いだ!?」


 松坂世代か!


「どうして教師ものじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「そこかよ」


 ぽいぽい、と手当たり次第に物を全力投球してくる柊木ちゃん。


 手当たり次第に投げる物は、マンガコーナーにもおよび、結局伏せカードは二枚ともオープンするはめになってしまった。


 女子高生がスケベするマンガを手に、柊木ちゃんが怒りで震えはじめた。


「これもぉおおおおおおおおお!? これも女子高生じゃんっ! さっきの雑誌も誠治君のでしょぉおおおおおおおおおおお!」


「ごめんなさいいいいいいい!」


 風神のように暴れる柊木ちゃんだったけど、抱きついて優しくキスをすると、スーパー風神モードに入っていた柊木ちゃんは、一発で静まった。



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