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個室で休憩


 ジュワジュワ、ジュワ、ジィィィ……。


 蝉の鳴き声がさらにうるさくなりはじめた昼下がり。


「誠治君、暑いね……」

「うん。まったく同感」


 柊木ちゃんはハンカチで上品に汗をぬぐい、外科医と看護師よろしくついでに俺のおでこの汗もふいてくれる。


 遠くの町なら変装も要らないだろう、と遠出したのが運の尽きだった。


 知らない町で、俺たちはあれこれと無駄に歩き回り体力を消耗していた。


「どこか喫茶店か何か、涼しいところを……」


 と言いながら早一時間。

 汗だくになりながら、あちこちを歩き回っている。


「誠治君、あれ。休憩二時間一九〇〇円だって!」

「何、喫茶店見つけたの?」


 ううん、と柊木ちゃんは首を振って「あれだよ」と指を差した。


 柊木ちゃんの言った通り、確かに二時間一九〇〇円~と表記されている看板があった。


 でも、時間制ってなんかおかしいだろ。喫茶店じゃねえな……?


 看板の近くまで行くと、休憩の他に宿泊、フリータイムなどと色々な料金体系が表記されていた。


 ……うん、だと思った。よくよく周りを見れば、無機質な建物だったり、南国風の店構えの何かだったりしていて、共通点は、いずれもどこが出入口なのかわからない、ということだ。


「春香さん、ここらへんって……」

「??」


 やっぱりわかってない。


「春香さんが思っているような休憩をする場所じゃなくて……」

「喫茶店もカフェも見当たらないし、なんならこっちのほうが安いから行こ行こ♪」


 俺の手を引っ張って、看板の建物に入ろうとする。


 休憩といえば休憩だけど、それは言い回しであって、むしろ体力を消耗する休憩で……。


 わかりにくい入口を俺が見つけると、柊木ちゃんはずんずん進んでいく。


 そんなつもりはさっぱりないんだろうから、まあいいか。


 俺より前に柊木ちゃんが悪い男と知り合ってなくてよかった。


「あれ? 店員さんがいない……?」

「こういうお店だから……」

「そうなんだ?」

「無人のカラオケだと思えば」

「なるほど!」


 かくいう俺も、中に入るのははじめてだったりする。


 あれだ、噂の部屋を選ぶパネルは。


「春香さん、ここでどの部屋で遊ぶか選べるみたい」

「ほぇ~色んなのがいっぱいあるね……。暗くなっている部屋は、もう誰かいるってことなのかな」

「だと思うよ」


 すでに三〇部屋くらいあるうちの半数が使用中。みなさん、しっぽりお楽しみ中らしい。

 ここに来たのは休憩をするためであって、柊木ちゃんにそんな気がないのは百も承知だ。

 だから、変な気を起こすつもりはさらさらないけど、柊木ちゃんとこんなところにいるってことが、なんだかドキドキする……。


 じゃあこれ、とポチと柊木ちゃんがボタンを押して鍵を受け取る。


 狭いエレベーターに乗って、部屋にむかう。


「二時間一九〇〇円って安いよねー? 普通の喫茶店で、二人でケーキセットとあと何か頼めばそれくらいはかかるだろうし」

「ちゃんとした金銭感覚はあるんだよなぁ……一人暮らしのおかげ?」

「どうしたの?」

「春香さんは、先生してるのに常識なさそうだなって」

「ありますよーだ!」


 唇を尖らせてるところ悪いけど、こういう場所をガチの休憩所だと思っている時点で常識ないんですよ、先生。


 鍵で部屋の中に入る。

 ビジネスホテルの一室に似ていて、いかがわしい雰囲気はない。

 俺はほっと胸を撫で下ろした。


「わー! すごい! ベッドがあるよ、ベッド! しかもおっきい!」


 そりゃ、あるでしょうね……。


 旅行に来た子供のように柊木ちゃんがはしゃぐ。


「テレビもゲームもある! こっちは……」


 ガチャ、と扉を開けて中を確認。


「ふわぁああああ。お風呂だ! おっきいよ、誠治君!」

「いや……そりゃあ……あるでしょうね……」


 ちゃんと教えたほうがいいんだろうか。一大人として。

 けど、純粋に休憩をしにきたんだから、今言わなくてもいいか。


 ピ、と柊木ちゃんがリモコンで、テレビの電源をつける。


「この時間だったらドラマの再放送してるかも。結構好きだったんだよね、あれ――」


『あっ、あっ♡ ん、ん、ん、ああっ♡』


 ベッドの上で女の人が乱れに乱れていた。


 ピ。

 凄まじい速度で俺はすぐに電源を切った。


「……」


 柊木ちゃんが真顔でフリーズしている。


「「………………」」


 気まずい空気が流れた。


 ベッドの上にある番組表を見てみると、R18のAVチャンネルだったらしい。


「そ、そういえば、汗いっぱいかいちゃったし……シャワーしよっかな……」


 この場の空気に耐えきれなくなった柊木ちゃんが、ててて、と扉のむこうに消えていく。


 はぁぁぁ……。

 免疫なさすぎるから、ここがそういう場所だって説明すると、卒倒しかねない。


 ちゃんとした説明は、ここを出てからにしよう。


 俺は柊木ちゃんが戻ってこないのを確かめて、再びテレビをつける。

 さっとチャンネルを切り替え、柊木ちゃんが言っていたドラマの再放送にしておく。


 よし、これで再びテレビをつけても、気まずくならない。


 …………。


 待つのは暇だけど、ここで柊木ちゃんが先にシャワーをしていると思うと、妙にドキドキする。


 柊木ちゃんが見つけたら困るから、いかがわしいもんは俺が先に見つけて隠しておこう。


 テレビはもう仕方ないとして、他だ。変なアイテムあったりしねえだろうな……。


 振動するアレとかマッサージ機とか。


 ベッドのまわりをくまなく探索。

 このベッドは、下に収納棚がついているタイプらしい。


 持ち手を引っ張ってみると、服がしまってあった。


 セーラー服、婦警さんにナースなどなど……。

 コスプレグッズだ!!


 うわあ……。でも、着てみてほしい……。


 柊木ちゃん、まだまだ制服着ても十分似合うと思うんだよなぁ。


 浴室に侵入して、服ささっと入れ替える。


 怒るかな……? そうなれば正直に「見たかったんです」と謝ろう。


「あれっ!? あたしの服が……制服になった……!?」


 服は急にトランスフォームしたりしないからね。


「あ。でもセーラー服っ♪ ブレザーだったから憧れてたんだよね……スカートを折ってと……」


 いいんだ。

 着ちゃうんだ。

 抵抗ないんだ。


 俺が想像して一人でドキドキしていると、がちゃ、と扉が開いた。


「へ、変じゃないかな……?」


 恥ずかしそうに柊木ちゃんが出てきた。


 思った通りだ。二〇代前半とはいえ、まだまだ全然イケる。


「セーラー服似合ってるね!」

「ほ、ほんとっ!? やった♪」


 ポニテ美女がぴょん、とその場でジャンプする。

 細い足に白い太もも。相変わらずミニスカートがよくお似合い。


「あ! 今、おばさんが何チョーシ乗ってんだって思ったでしょー!?」


 膨れるJK柊木ちゃんに俺は思わず苦笑する。


「思ってない、思ってないから」


 肌も綺麗だし、髪をくくっているから清潔感もある。

 柊木ちゃんが元々もっているふんわり可愛い感じやその他魅力が、五割増しだった。


「町を歩いてても、全然違和感ないよ。女子高生に間違われるかも」

「も、もおおおお、誠治君、褒めすぎぃ! さすがに間違われたりしないからぁ!」


 きゃー、な感じで謙遜しながらも、柊木ちゃんは嬉しそうだった。


 場所が場所だし、似合いすぎるせいで女子高生の場違い感がすごい。

 余計にいかがわしさが増してしまった。


 くるり、とその場で回ってみせて、いたずらっぽく微笑む。


 蠱惑的な目で、俺からの何かを誘っていた。


「春香さん?」

「なぁに?」


 ちょっと甘えるような声で、小首をかしげる。


 可愛い……。


「そういうのは、他の男の前では、しないでほしい……かな……」


 するり、と近寄ってきて、俺を見上げた。


「そういうのって? 制服を着ること? それとも、ぎゅってしてキスしてほしいって、目で訴えること?」

「どっちも」

「どーしよっかなー?」


 俺に背をむけて、ちらっとこっちをのぞき見る。

 後ろから抱きしめると、頭を柊木ちゃんが撫でた。


「こらこら、がっつかないの」


 そういうふうに仕向けたクセに、このぅ……!


「意外と俺は、独占欲が強いみたい」

「うん。いいよ。あたしもだから」


 柊木ちゃんのほっぺにキスをすると、こっちをむいた唇が、俺の唇を求めた。


「あたしの服、取り換えたでしょ? このイタズラっ子め」

「すごく可愛いよ、春香さん」

「もぉ~。……許す♡」


 それから、ベッドの上でちゅっちゅ。テレビを見てはちゅっちゅ。

 俺と制服姿の柊木ちゃんは、休憩を時間まで目いっぱい楽しんだ。


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