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プール3


 大将を落ち着かせた俺は、どうにかプールの外に出ることができた。


「なんでサナの胸を触る必要があるのよっ!」

「いやー、不可抗力じゃん。そんなに怒んないでよ」


 口喧嘩っぽい雰囲気だけど、紗菜も夏海ちゃんも仲良くなれたらしい。


「んん……、春ちゃんのほうが余裕でおっきいから……空き巣君はおっぱいが好きなのかな」


 おい、変な分析ヤメロ。

 俺は、柊木ちゃんのどこが好きとかそういうのはないんだからな。


 おっぱい大きかったっていうのは結果論で、肌がスベスベしてるとか色白とか脚が綺麗っていうのも、同じく結果論だ。


 だから好きになったわけじゃない。

 

 ……ただ……大きかったり綺麗だったりするほうが、恋人として嬉しいのは、確かではある。


「今度は、空き巣君、ウチと滑る?」

「あ、あなた……」

「夏海でいいよ、紗菜ちゃん」

「な、なつ……なっちゃんは兄さんと関係ないでしょー?」


 うん、紗菜、わかるよ、わかる。初対面の人なのに呼び捨てって抵抗あるもんな。

 相手がよくっても。


「じゃあ先生は、紗菜ちゃんとねー?」

「え、サナは……兄さんとが……あ――」


 強引に柊木ちゃんが紗菜をウォータースライダーの上まで連れていった。


「春ちゃんも、紗菜ちゃんと仲良くしたかったみたいだね」


 にっと笑って、上でどっちが前後になるか話している二人を夏海ちゃんが見上げる。


「で、春ちゃんのおっぱいどうだった?」

「ぶっ!? どうだった、何……」


 くすくす、と笑いながら夏海ちゃんは俺の反応をうかがっている。

 からかってるな、こいつ。


 きゃー、と楽しそうな悲鳴とともに二人が滑り降りてくる。

 柊木ちゃんは楽しそうだったけど、紗菜はなぜかヘコんでいた。


「前なんて、選ぶんじゃなかった……生物としていかに劣っているかを思い知らされたわ……」


 二回目の俺と同じで、おっぱいを思いきり背中にぶつけられていたらしい。


 それから、休憩を少し挟んで、今度は波のあるプールへ行くことになった。


 こういうの、はじめてだけど、本当に海みたいに寄せては返す波がある。


 柊木ちゃんは、レンタルしてきた浮輪を装備していて、楽しむ気満々だった。


「行こう、せい……真田君」

「はいはい」


 手を引いて、ザブザブと柊木ちゃんが奥へと進んでいく。


「ま、待って……さ、サナも……」

「いいじゃーん。放っておきなよ。それよりも、ウチは紗菜ちゃんと遊びたいなー?」


 おお、姉想いの妹がまたしても援護を。

 夏海ちゃんフィルター発動だった。


「な……なっちゃんがそう言うなら、別にサナだって遊びたくないわけじゃないから……仕方ないわね……」


 とか言いつつも、友達になれそうな夏海ちゃんの言葉が嬉しかったのか、紗菜が夏海ちゃんについていった。


「夏海には、あとでお礼言わないと」

「そうだね」


 ぷかぷか浮輪で浮いている柊木ちゃんに捕って、いると係の女の人が拡声器を手にアナウンスする。


「……次は、大きな波がきます……」


 ……どっかで聞いたことのある声……って、奏多じゃねえか。


 何してんだ、あいつ。この施設の帽子をかぶって、Tシャツまで着て……。

 あ、プールに来るって、客としてじゃなくて、バイトとしてってことか。


 手にもったカンペらしき紙をチラチラ見ながら、波プールにやってきた客にアナウンスをしている。


「……当園の波は、少々荒いです。日本海よりも荒いです」


 どんだけ激しいんだよ。


「……一メートルを越す波もありますので、その際は事前に連絡します。あと、カップルはできるだけ離れてください。個人的な気分により」


 最後はおまえの要望じゃねえか。


「では、みなさん……楽しんでください……に、にゃん……」


 うわー。やらされてる感マックスの台詞だ!


「どうしよう、誠治君、井伊さんが」

「大丈夫、俺が奏多の位置を把握しながら春香さんに隠れるようにするから」


 柊木ちゃんの浮輪をくるくると回しながら、俺は奏多から隠れるのに夢中になっていると。


「誠治君、誠治君!」

「何、今ちょっと忙しくて――」

「波がっ」


 へ? と気づいたときにはもう遅かった。

 いつの間にか、大きな波が迫っていた。


「うぎゃ!?」

「ふにゃん!?」


 ざばぁあああん、と一気に飲まれて俺は容赦なく水の中。


 ひら~、と蝶のようなものが見えて、思わずつかんだ。


 ……白いビキニだった。


 あれ、柊木ちゃんは?

 水上に顔を出しても浮輪はもぬけのから。


「ふぷ、あぷ、ほっぷ……」


 ばしゃばしゃ、と手をめちゃくちゃに動かしてる柊木ちゃんがいた。


 ばっちり溺れてるぅうううううう!? 足つくのに!


「大丈夫、落ち着いて!」


 近寄ると、柊木ちゃんが上半身何も身にまとっていない姿だということに気づいた。


 俺の手にある白いビキニってもしかして……。

 あ。今、生のおっぱいが一瞬……。


 これ柊木ちゃんのやつぅううううううううううう!?


 浮輪がすぽんと抜けるときに、ヒモが引っかかったんだ。


 溺れるのを助けるのが先!? いや、このまま外に連れ出せば、柊木ちゃんのおっぱいが公衆の面前に晒されることに……!


 ――同時だ!


 おっぱいも柊木ちゃんも助ける!


 ばしゃばしゃと水を叩く柊木ちゃんを抱っこする。水上より少し上に顔が出た。


「春香さん、俺を見て」

「あう、ほぶ、あぷ……好き」


 溺れるついでに想いを伝えないでください。

 抱っこはいいけど、生乳が容赦なく俺にその存在を主張してきている。


 この我がままボディめ!


 どうしよう。

 ビキニってどうやって着せるんだ!?


「やだ、まだ、誠治君と結婚してないのに……死ねない……!」

「もう、普通に呼吸できるでしょ? 深呼吸して、スーハー、スーハ、――あうんっ!?」


 じたばた暴れるせいで、俺の股間に柊木ちゃんの膝かつま先か何かがクリティカルヒット。


 ごぉーん、と重い音が頭の中で響いた。


「ぐうう……」

「あ、あれ。息できる?」


 きょとんとしている柊木ちゃん。

 そのかたわらで、お元気だった大将がどんどん静まっていった。


 グッと親指を立てた大将が、うっすらと俺の脳内から消えていく。

 なぜか擬人化大将は、ハードボイルドなオッサンだった。


「せ、先生……落ち着いたんなら、これを……今、大変なことになってるから……」


 痛みで涙目になりがら、俺はビキニを渡す。


「ひゃんっ!?」


 柊木ちゃんがばっと自分の体を抱くようにした。


「な、なんか、脱げたっぽいよ……」

「よかった、拾ってくれたのが誠治君で……。て、あれ? なんでそんなにいっぱい持ってるの?」

「いっぱい?」


 よく見ると、俺の腕にビキニのトップスがいくつも引っかかっていて、ひらひらと泳いでいる。


 鯉のぼりかっていうくらい色とりどり。


 誰のぉおおおおおおおおおおおおお!?


 こ、これはまずい……! 俺がイタズラをしたんじゃないかと勘繰られる……!


 あの波、どんだけビキニさらっていってんだ。

 小学生のエロガキかよってくらいの悪意感じるぞ!


「誠治君…………」

「ちょ、誤解だ! そんな目で俺を見るな!」

「プールに潜む妖怪……トップスさらい」

「変な名前つけんな!」


 あれこれと説明して、どうにか柊木ちゃんの理解を得られた。

 俺が返しにいくと余計な誤解を生むからということで、トップスをきちんと装備しなおした柊木ちゃんが、浮輪でバタ足をしながら被害者を探してまわった。


 柊木ちゃん……ちっちゃい女の子みたいで可愛い……。


「な、な、な、なっちゃん……サナの上、知らない……?」

「紗菜ちゃん、何、流されたのー?」

「うぅぅぅぅぅ……」

「大丈夫、大丈夫、紗菜ちゃんのおっぱい、あってないようなもんだから、上がなくてもみんな気にしないよ」

「あるわよちゃんと! なかったことにしないでっ!」


 涙目で、顔を赤くしながら紗菜が困っている。

 紗菜も無差別スケベテロの被害者だったらしい。


「ま、ウチのも流されたんだけどね」


 おまえはもうちょい焦れ!


 浮輪を装備した柊木ちゃんの水上移動はかなり早かった。

 持ち主に柊木ちゃんがすぐに返してくれたおかげで、大きな騒ぎにならずに済んだ。


 それから、スパコーナーでまったり疲れを癒し、俺たちは帰ることにした。


「色々あったけど、楽しかったね♪」


 帰りの車内で柊木ちゃんがみんなの言いたかったことを代弁してくれた。


 楽しかったけど、基本的には、柊木ちゃんのおっぱいしか印象に残らない俺だった。


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