プール1
「夏海がね、よかったら三人で遊ばないかって」
そんな提案を柊木ちゃんが持ちかけてきた。
どうやら、妹の夏海ちゃんに順調かどうかよく訊かれるらしく、柊木ちゃんとしても、俺と夏海ちゃんに親しくなってほしいと思っていたようで、こういう話になったそうだ。
明日から夏休みに入ることだし、遊ぶ場所やタイミングには事欠かないだろう。
俺が了承すると、もう姉妹の間で何をするか決まっていたらしく、プールに行くことになった。
柊木ちゃんちに、クソ暑い中自転車をこいでむかうと、もうすでに夏海ちゃんは来ていて、ハローと俺に手を振った。
相変わらず軽いノリで久しぶりーと挨拶をして、柊木ちゃんの車に乗り込む。
むかう先は、一昨年できたばかりのレジャー施設の大型プール。
流れのあるプールだったり、大きなウォータースライダーだったりがあるので、大人から子供まで楽しめる、ってCMか何かで言っていた。
「こういうところに行くの、あたしはじめてだから緊張するっ」
「じ、実はウチも……」
ヘイヘイ、ガールたち。何をビビってんだ。ただのプールだろ。
あれ? そういうや俺もはじめてだ。き、緊張する……。
プールよりも、俺は柊木ちゃんの水着が楽しみ。
夏海ちゃんは、柊木ちゃんよりは劣るものの、小柄だけど年相応に出るところは出ている。
水辺の女神と、彼女と戯れる町娘をなんとなく俺はイメージしていた。
平日のせいか、まだそんなに人はおらず夏休みにしては空いているほうだった。
ちゃちゃっと着替えを済ませ、プールサイドで姉妹の到着を待つことに。
俺が思っていた以上にプールはでかい。
人が多かったら、迷子になる子供とかいそうな程度には広い。
「ほら、夏海、見て。誠治君の背中。白くて綺麗でしょー?」
「春ちゃんって、体フェチ……?」
「ち、違うよ」
二人がやってきた。
柊木ちゃんは、白ところどころ控えめにリボンをあしらった白いビキニ。
推定Dカップくらいだと思ったけど……け、結構、お、大きゅうございますね……。
水着だからそういうふうに見えるのか……?
あ、歩くたびに、プッチンしたプリンみたいにふるふると揺れている。
何がとは言わないけど。
何あれ、兵器? 兵器ぶら下げてるぞ。
腰の横にあるヒモが、引っ張りたくなる欲求をかき立てる。
柊木ちゃんちでこの水着を見てたら、絶対に引っ張ってたな……。なんとなく、そんな自信がある。
セクシーなくびれと、ほーんのちょっとついちゃったお腹のお肉が、相反して余計にエロい……。
「どうかな……?」
「うん、春香さんに似合ってて、いい」
「やった♪」
喜んだ拍子に小さくジャンプする柊木ちゃん。
ふるんっ、とひと揺れした。
ひ、人が少なくてよかった。今日なら、変な男にナンパされずにすみそうだ
「はいはい、イチャイチャしないで。ウチもいるんだからさー」
からかうように夏海ちゃんが言う。
夏海ちゃんが着ている水着はツーピースタイプのもので、ストライプ柄がよく似合っている。
じい、と夏海ちゃんがこっちを見てくる。
「な、何?」
「春ちゃんが、空き巣君がイイ体してるって言うから……うん。確かになーと思って……」
「な、夏海っ」
慌てて柊木ちゃんがしいーと人差し指を立てる。
柊木ちゃんは、体フェチ、とメモメモ。
高校生の体でよかったぁー。現代の俺の体なんて、運動不足と不摂生で、だるんだるんのゆるゆるになってるから。
「あっち、流れるやつがあるらしいから、行こう!」
「待って、夏海。まずはちゃんと準備運動をしてからじゃないと――」
なんか先生みたいなこと言うな。あ、先生だった。
「そんなのいーじゃん。ガチで泳ぐわけでもないのに」
うん、俺も夏海ちゃんに同意。けど、柊木ちゃんが「ちゃんとするの!」と言うので、簡単に体操をして俺たちはドーナツ型になっているプールに飛び込む。
「気持ちいいーっ」
ざばっと水面から顔を出した夏海ちゃんが犬みたいに首を振った。
「うわ、学校のプールと同じだと思ってちょっとナメてた! 冷たくもなく温くもなく、ちょうどいい!」
「はいはい、解説乙ー」
きゃっきゃ、と楽しそうに夏海ちゃんが流れに沿って軽く泳ぎはじめた。
いや、ここ泳ぐところじゃ……。
あれ、そういや、俺の女神は……?
手すりに捕まりながら、ゆっくりゆっくり、水に浸かろうとしている。
おばあちゃんみたいなスローな動きだった。
「ま、ま、待っててね、い、今行くから」
あ。そういや、柊木ちゃん泳げないんだった。
近くまで行って、手を差し出した。
泳げないってことは、水の中にいること自体もしかすると怖いのかもしれない。
「捕まって」
「あ、うん……♡」
ゆっくりゆっくり下りてきた柊木ちゃんを抱きとめる。
相変わらず柔らかい柊木ちゃんの体は抱き心地抜群なのだった。
その本人は、俺の腕にぎゅっとしがみついて、何があっても離さない構え。命綱と同じだと思っているらしい。
それはいいんだけど、水着越しにふにふにおっぱいの感触が、腕に……!
プールの中でよかった……。
「大丈夫だよ、春香さん。足つくし、ゆっくり歩けば」
「そ、そう……? は、離さないでね?」
鷲に狙われる小動物並みに柊木ちゃんがガクブルしている。
泳げないのはわかっていただろうに、どうしてプールに行こうなんて思ったんだろう。
流れのあるプールをぐるぐると回る。ただそれだけなのに、楽しい。
手を繋いで隣を歩く可愛い彼女がいるからなんだろう。
リア充って言われても文句は言えねえな……。
むしろ、世のリア充たちはこんなことを経験して大人になるのか……。
――ロクでもないな!!
「プールは、夏海ちゃんが行こうって言ったの?」
「ううん、あたしだよ」
「え。なんで?」
「えぇぇ……? 忘れちゃったの?」
「何を? 俺、なんか言った?」
「プールの授業のとき、ちゃんとした水着を買って見せてあげるって話」
ああ、そういやそんな話ししたっけ。
「あ、その顔は忘れてた顔でしょー?」
てことは、俺に見せるために、わざわざ泳げもしないのにプールに来たってことか。
俺は、家でファッションショーをしてくれればそれでよかったのに。
「ぷはっ」と、夏海ちゃんが付近から顔を出して、柊木ちゃんがいる反対側にやってきた。
「春ちゃん、すっっっごい、楽しみにしてたんだよ? 水着選びもチョー気合入ってたし」
「にゃ、夏海っ!」
けらけら、と笑うと夏海ちゃんはまたズボッと水中に戻っていった。
……何あの子、水の民?
「もう……」
「楽しみだったんだ?」
内情をバラされた柊木ちゃんは、唇を噛んで頬を染めていた。
「……そ、そうだよっ。誠治君とどこか行くときは、何だって楽しみなんだから! 泳げなくても、プールだって楽しみになるんだから」
あ、開き直った。
「誠治君は、楽しみじゃなかった?」
「楽しみだったよ。春香さんの水着」
「どう、これ? 時間、すっごくかかって選んだの」
「よく似合ってる」
にへへ、とマジ照れの柊木ちゃん。ぼそっと「どうしよう、誠治君にキスしたい……」と小声で聞こえた。
「……あとでね」
「えっっっ!? 声に出てたっ!?」
あぅぅぅ……と柊木ちゃんは手で顔を覆った。
このあと、夏海ちゃんの目を盗んで人けのないところに行き、めちゃくちゃキスした。