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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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授業中のピンチ


 世界史の授業中のことだった。

 俺が下敷きを団扇代わりにして仰いでいると、教科書を広げている柊木ちゃんがちょうど通りがかった。


「真田君、仰いでも変わらないよ? 暑いけど頑張りましょう」

「はい……」


 ふん、と高飛車ぶる柊木ちゃんが『今は先生と生徒なんですからね』って顔で通り過ぎていく。


 柊木ちゃん、今日はズボンだけど暑くないんだろうか。


 この季節の学校は本当に嫌いだ。

 教室にエアコンはないし、風の通りも悪いし、汗ばんだ腕にノートが引っつくし。


 注意されてやんの、といつもなら藤本がからかってくるはずなのに、今日はそれがない。

 横目でちらっと見てみると、後ろを振りむいていた。


「むふ。ぐふ……」

「何変な笑い方してんだよ、藤本」

「いや、ちょっと……」


 ? 珍しいな、こいつが隠し事なんて。


 気にしても仕方ないので、柊木先生の世界史の授業に集中することにした。


「先生、今日ズボンなんだー? 暑そうー!」

「スカートでも暑いのに。先生、他になかったのー?」


 フレンドリーに話しかける女子数人。


「あ、これ涼しいズボンだから、割と大丈夫だよ?」


 柊木ちゃんがズボンを引っ張ってみせる。


 清涼パンツ的な? そういうズボンってことか。


「柊木ちゃん、若干PK気味っていうか……」

「うん、若干ね、若干」


 こそこそ、と離れたところで女子が話しているのが聞こえた。


 なんだ、PKって。

 エリア内でのファール……?


 それを言うなら、生徒と交際しているって時点で、ファールもファール、一発レッドカードだ。


 くるっと俺たちに背をむけた柊木ちゃんが、授業の内容を黒板に板書していく。


「やべっ、鼻血出そう……」


 ゆるんだツラで藤本が鼻をつまんでいた。


「どうしたんだよ、さっきから」

「気づかねえのかよ、真田」

「何が?」


 やれやれ、とでも言いたそうに、外人みたいなリアクションで藤本が首を振る。


「見ればわかるだろ。おまえだって、女子のブラ線見て興奮することあるだろ」

「うるせーよ」

「ねえのかよ?」

「あるよ」

「そういうことだよ。それよりも、もうちょっとレアだけど……」

「何の話だよ」


 そりゃ、男子はみんな好きだろう。

 夏服のブラウスから透ける風物詩。


 柊木ちゃんに見てるなんてバレれば確実に怒られるだろうけど。


 藤本が興奮気味ってことは女子の誰かが標的になってるのか……?


 きょろきょろ、とあたりを見回してみてもそんな様子はない。

 ブラウスの下が下着ってわけじゃなくて、インナーを着る子のほうが大多数だ。


 柊木ちゃんは厳しいほうじゃないから、みんな授業中は私語をすることもある。


 けど今日は、男子がみんな静かにしていて、女子がときどきざわついていた。


 カツカツ、とチョークで板書する柊木ちゃん。

 今日もお仕事を頑張る彼女の姿を見て俺も――。姿を見て……。


 んあああああああああ!

 PKの意味がわかった!


 どうして藤本がグフグフと気持ち悪い笑い方をしてるのかも。

 そりゃ、男子はみんな静かに柊木ちゃんを見るわ。


 ど、どうしよう。

 どうにかして知らせないと。


 ああ、けど、柊木ちゃんが板書モードに入っているから当分こっちには来そうにない。


 ジャージか何かを渡せば、どうにかなりそうだけど俺のはもう持って帰ってるし……。


 柊木ちゃんのピンチだ。どうする、俺――。


「ええと、それじゃあ、今度は教科書を読んでもらいたいんですけど――」


 来た。

 ここだ。


「はい! はいはいはいはいはい! はい!」


 参観日ではりきる子供みたに俺は挙手しまくった。


 ぱあ、と柊木ちゃんが、滅多に見せない俺の積極性に表情を輝かせている。


「それじゃあ、真田君! 九〇ページからお願い♪」

「はい。……ミロのヴィーナスとは、ヘレニズム期の代表的ギリシア彫刻である。遠くを見る小さい眼、高い鼻が特徴的で――」


 よし、ここだ。


「腰に巻いた布から…………その……」

「? 真田君? そんなこと書いてないよ?」


「ヴィーナスの腰の布付近っていうかお尻のあたりから、下着のラインが透けて見えていて……」


 ばっと、クラス全員が俺を見たのがわかった。


(え、今言うの!?)みたいな女子の視線だったり(言うなよ!)っていう男子っぽい視線を感じる。


「真田君? だからそんなこと、教科書には……」


 気づけけええええええええええええええ! 

 ズボンが薄手なのか知らんけど、パンツのラインが余裕で見えてんだよぉおおおおおおお!


 て、テイクツーだ。


「ヴィーナスのお尻のあたりから、パンツのラインが見えていて……」

「?」


 PKってのは、パンツ食い込んでる、の略だ。たぶん。

 それがわかるくらいはっきり透けて見えてんだよ!


 もう、俺のほうが恥ずかしい……。

 なんでクラス中の視線が集まる中、パンツのラインが透けて見えてるなんて注意しなくちゃいけねえんだ。


 もうちょっとはっきり言わないとダメか……!?


「ミロのヴィーナスっていうか……オレのヴィーナスっていうか……」

「??」


 ダメだ! 気づく気配がない!


「ええっと、もう先生が読みますね?」


 柊木ちゃんが、くるっと背中をこっちにむけた。


 あああああ、アウトぉおおおおおおおお!


 これ以上男子の視線に柊木ちゃんのお尻を晒すワケにはいかねえ!

 もう強硬手段だ!


 俺はカッターシャツを脱いでTシャツになる。

 長袖を折っているだけだから、これを戻せば腰に巻けるはず。


 席を立って、後をむいた柊木ちゃんのところへ急ぐ。


「先生、ちょっと!」

「え、え、え――何……?」


 前にやってきた俺に驚いて、柊木ちゃんが目を白黒させる。


 ずいっとカッターシャツを渡した。


「これ、腰に」

「え、何で? どういうこと……?」


 こそっと、俺は耳打ちした。


「先生、パンツのラインが透けてます……」

「嘘っ!?」


 かぁぁぁぁぁぁぁ、と顔を真っ赤にした柊木ちゃんは、教科書をぽとりと落として、お尻に手をやる。

 目がグルグルになっていて、もうパニック状態だった。


「だから、これ使って」

「……え、あ、あ、うん……っ。あ、ありがとう……」


 カッターシャツの袖を体の前で結んで、どうにかお尻をガードすることができた。


 これでひとまずは安心だ。

 俺がひと息ついていると、パチパチ、と女子から拍手された。


「言おうかどうか迷ったんだよね」

「ウチらでも言いにくいところあるしさ」

「真田君、めちゃ紳士……」

「自分のシャツ使ってガードしてあげるなんて、ちょっとキュンとするかも……」


 いや、どうもどうも。


(何してくれてんだ、真田……!)っていう男子の視線をビシビシ感じる。


 授業途中で柊木ちゃんは一旦教室から出ていき、運動用のジャージに履き替えて戻ってきた。


「真田君、カッターシャツ、ありがとう」


 真っ先に俺の席にやってくると、俺のカッターシャツを返してくれた。


「先生も、キュンとしてしまいました……!」


 てへへ、とマジ照れの柊木ちゃん。


 こらこらこらこら。何言ってんだ。授業中だぞ。


「あー、気持ちはわかる」

「だね」

「うん、まじキュンのタイミングだった」


 女子たちがわかるわー、と共感していたので、変な意味で取られることはなかった。


 柊木ちゃんのピンチを救うと、女子の中で俺の株はグンと上がって、他の男子の株はグンと下がったのだった。

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