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占い



「二人の相性は……」


 ごくりーんっ、と紗菜が大きく喉を鳴らした。


「……76%」


 奏多が淡々と告げ、携帯の画面をこっちに見せた。

 やや胡散臭い占いサイトで、怪しげなフォントで76%と書いてある。


「むううう……!? 76……? 喜んでいいのかへこんでいいのか、わかんないわね……」


 昼休み、話題が占いになると、流行りのサイトがあると紗菜が言い出したことが発端だった。


「入力する順番を逆にするとどうなるの?」

「……逆にすると、86%」


 視点が変わるから、多少数値も変動するようだった。


「友達同士なら、それくらいが案外ちょうどいいんじゃないかな? 言いたいことがお互い言い合える、みたいな」


 と、先生モードの柊木ちゃんが、ニコニコと紗菜と奏多を見守っている。


 今占ったのは、紗菜と奏多の相性だった。


 占いは、自分と相手の生年月日と名前の総画数を入力すれば、相性診断もしてくれる。


「そんなに気になるもん? 相性。……相性っていうか、占い」

「兄さんだって、家出る前、ちゃんと星座占い見てから家を出るじゃない」

「あれは、朝見てる番組がちょうど占いコーナーに入るだけだから、気にしたりしてねーの」


 柊木ちゃんも、こういうの、好きなんだろうか。

 ちら、と見ると目が合って、微笑まれた。


 先生モードで微笑まれると、いまだにドキッとするんだよなぁ……。

 彼女のときの笑顔とはまたちょっと種類が違うっていうか。


「先生も、気になる?」


 俺が話を振ると、柊木ちゃんは考えるように首をかしげた。


「どうだろう。気になるといえば気になるけど。朝の占いも同じで、よかったら信じるし、悪かったら信じないタイプだから、先生」


 おぉ……ここ最近あまり見なかった、大人な柊木ちゃんだ。


「そ、それで……に、兄さんはいくつなの?」


 ぴくっと柊木ちゃんも反応した。


「いくつって、何が?」

「総画数よ」


 いくつだろう。頭の中で計算してみると、三七だった。


「……まさか、紗菜。おまえ、俺と相性診断する気じゃないだろうな」

「――――し、しないわよっ! 生年月日知ってるからって、う、ううう、占ったり、しないから!」

「やめとけって、ロクな相性じゃないんだから」

「だ、だから――占わないって言ってるじゃないっ! 兄さんの自意識過剰マンッ!!」


 変なヒーロー作んじゃねえよ。


「……誠治君、総画数、いくつ?」


 奏多も訊いてきた。


 柊木ちゃんもそれは知りたいらしく、うんうんと強くうなずいていた。


「三七だよ」


 ばっと紗菜が自分の携帯で何かを入力しはじめた。


「どうせ占ってるんだろ?」

「ち、違うって言ってるじゃないっ! 兄さんの自意識過剰マン。ち、違う人だから……」


 携帯をじいっと見ている紗菜が「あ。……100%……」とつぶやいた。


 ピシッ、と柊木ちゃんがフリーズした。


 にへへ、と紗菜が笑う。その日は終始ご機嫌だった。



『そういえば、先生、誠治君の誕生日を知りません。付き合ってそろそろ二か月経とうとしているのに』


 夜、仕事が終わったらしい柊木ちゃんから電話がかかってきた。


「春香さんも、占いしたいんだ?」

『したいような……したくないような……でも気になるっていうか……』


 気持ちは俺も同じだった。

 いい結果が出るんなら一番だけど、悪い結果が万一出たら、付き合っている分ショックは大きい。


「俺も、春香さんの誕生日知らなかった」

『あたしは、十二月の二日』

「え? 俺も」

『ウソー? ほんと!? 誕生日一緒だなんて、なんかロマンチック!』

「一緒にお祝いだね」

『うんっ♪ うんっ♪』

「てことは、今年二五歳?」

『違うよ。今年で二四。現在は二三歳です』


 あれ。てことは、微妙に勘違いをしていたらしい。


 まあ、今年二四も、現在二四もあんまり変わらないだろう。

 口にすれば怒られそうなので、言わないけど。


 一応、占いの件は釘を刺しておこう。

 結果が悪かったら、本気で柊木ちゃんはヘコみそう。


「もし、占いして悪い結果が出ても――」

『大丈夫だよー? 占いを真正面から信じるほど、あたし子供じゃないのでっ』


 そっか。忘れがちになるけど、これでも柊木ちゃんは大人だ。

 似たようなことを学生の頃からしてきただろうし、その経験は豊富なんだろう。


 話もそこそこに終えて、翌日、朝一番に世界史の授業があった。


 柊木ちゃんが生気のない顔で入ってくると、教室がざわついた。


「柊木ちゃんの生霊?」

「いや、ドッペルゲンガーじゃね?」

「双子の妹?」

「影分身の、分身のほう?」


 ってみんなが勘違いするくらいに憔悴していた。


「………………はい。……それじゃあ…………授業します……」


 声ちっちゃ。

 しょぼーん、と肩を落として、教科書を読んでいく。


「……こうしてイングランド連合軍が包囲したオルレアンの町をジャンヌダルクたちのいるフランス軍が解放しました。この戦いを占いの結果がよかった戦いといいます」


 んなこといわれてねえよ!


 絶対に占いやってるぞ、あれ。

 しかも結果が最悪だった、ってところかな。


 あたし占いを真正面から信じるほど子供じゃないのでっ(ドヤ

 って感じだったのに。


 真正面から受け止めてヘコんでるじゃねえか。

 言わんこっちゃない。


「――イングランド連合軍は、占いの結果がとても悪かったのでは、というのが先生の見解です」


 根拠のない私見混ぜんな。歴史を教えてください、先生。

 占いに引っ張られて余計なことをしゃべってる。


 はあ、と大きなため息を柊木ちゃんがついた。


 占い信じすぎて、詐欺師に釣られたら一生お金をつぎ込みそう……。


 昨日の威勢はどこにいったんだよ。


 あんなにヘコむってことは、相当悪かったんだろう。


 俺もこっそり携帯で例の占いサイトにアクセスする。


 俺と柊木ちゃんの生年月日と総画数を入力し、占うボタンをポチ。


 しばらく間があいて、画面が切り替わった。


『相性0.6%』


 低っ!? ゼロ%じゃないってあたりが微妙にリアルだ。

 下にコメントが書いてある。


『前世はお互い親の仇です』


 最悪じゃねえか。

 ううん……確かに、ちょっとヘコむなぁ……。


 柊木ちゃんが入力を間違ってて、実はちゃんと入力したら相性100%で大勝利! みたいなことをちょっと想像していたのに、現実はそう甘くないらしい。


『柊木春香』の総画数はきちんと合っている。

 俺の総画数もきちんと合って……あれ。


 数えながらノートに書いてみる。


 うん? 『真田誠治』の総画数は三七じゃないぞ?

 三六だ。


 通りがかった柊木ちゃんに、『落とし物』の報告をする。


「先生、さっきこれ落としましたよ?」

「…………え、ああ、うん…………」


 落とした物は、以前同様、手紙のカモフラージュ用の消しゴムだ。


 いつもはツカツカ、と高速移動して教卓で中身を確認するのに、今日はそんな元気もないらしく、幽霊みたいな足取りで教卓のほうへ戻っていった。


 手元でごそごそ、と柊木ちゃんがしているのがわかる。


「……!?」


 読んだっぽい。


「せ、先生、ちょっと教材を忘れてしまったので、準備室に行ってきます」


 準備室をやたらと強調して、一瞬俺に目配せをした。


「し、静かにしててくださいね?」


 そう言うと、ダッと走り柊木ちゃんは廊下へ飛び出した。


 もう一回試す気だ。


 俺もトイレに行くフリをして、教室を出ていく。

 小走りで準備室まで行くと、柊木ちゃんが携帯を握りしめていた。


 俺がきちんとした数値を入力して、結果を伝えても慰めだと思われかねない。

 だから、自分でやってもらったほうがいいと思ったけど、柊木ちゃんの表情を見る限り、それは成功だったらしい。


「誠治君……!」


 泣きそうな顔で、携帯の画面を俺にむけた。


『相性120%』


 ほ、と俺は安堵のため息をついた。


「よかったね。今日、占いの結果が悪かったからヘコんでたんでしょ? 真正面から信じるほど子供じゃないって言ってたのに」


「ち、違うから……よくないことがあっただけだから。そ、そんなことよりも、これ、よぉく見て!」


 指差したのは、コメントのところだった。


『運命の相手です』


「運命の相手、ねえ……」

「な、何? い、いいじゃない。運命の相手。それとも、誠治君は不満?」


 じりじり、と近寄ってきた柊木ちゃん。近寄り方で、だいたい何をしたいのか、わかるようになってしまった。


「不満じゃないよ。十分満足」

「やったね!」


 ゆっくりと顔を近づけてきて、ちゅ、とキス。


「授業中なのに」

「いいの。一回だけなら」


 とか言いつつ、二度三度繰り返すのにも、慣れてしまった。


 運命だなんて言葉にすると、安っぽく感じてしまう。それにやっぱり携帯占いなんて胡散臭いと俺は思う。


「あたしにとっての運命の相手が誠治君であるように、誠治君にとってのその人が、あたしだといいな……」


 あ、そっか。

 入力順の前後を変えると、今度は俺視点での占いってことになるのか。


 俺視点で試してみると、「どうだった?」と柊木ちゃんが画面をのぞいて、照れくさそうにはにかんだ。


『相性120% 運命の相手です』


 うん。普通に嬉しい。


 ちょっとくらい信じてみても、いいかもしれない。


「大勝利! ぶい」


 えへへ、と柊木ちゃんが、いつもの笑顔でピースをした。


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