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二度目


 ビビビビビビ、とアラームがうるさい……。

 もう朝らしい。


 目をこすって体を起こすと、そこは見慣れない部屋だった。


「あれ――?」


 実家の部屋じゃない。


 アラームを止めようと、スマホを操作した。


 ん……スマホ?

 画面に見える日付は十年後の日付だった。


 ま、また現代に戻ってきとるぅうううううう!?


 カチャ、と扉が開いた。


「あ、誠治君、珍しく起きてるー」


 顔をのぞかせたのは、エプロン姿の柊木ちゃんだった。


 相変わらずエプロンが似合う素敵な彼女である。


 俺の知っているそれより大人度が増している。


「あ、おはよう……春香さん」

「うん、おはよ」


 そっか……十年後ともなれば、そりゃ大人度は増すよな……。


「え。てかなんで先生がいるの? てかここどこよ」

「? 誠治君の家だけど?」

「俺んちじゃない……」


 周囲を見回しても、見慣れな小物が置いてあり布団もベッドも見覚えがない。


 あ。


 そもそも、タイムリープ前の俺は、柊木ちゃんと付き合ってもないはずだ。


 前回は紗菜と一緒に暮らしていて、今は……?


「寝ぼけてるの?」


 くすくす、と柊木ちゃんが笑いながらこっちにやってきて、ベッドに座った。


「朝ごはんを作りに来てるんだよ?」


 あたしのこと、わかりますかー? と俺を子供扱いして、ほっぺをいじってくる。


「そっか。ってことはあれからもう一〇年付き合っているってことか」


 以前は別れていたけど、今はきちんとこうして恋人関係が続けられている。


 前回現代に戻ったときにに知った、お別れフラグを回避したおかげだ。


 左手の薬指を見ると指輪はない。もちろん俺も。


 結婚していたら、一緒に住むだろうから、まだ結婚はしてないんだろう。


「早く食べないと、遅刻しちゃうよー? 今日は職員会議があるから、早めに行かないと」

「大変そうだね、先生も」


 きょとん、と柊木ちゃんが首をかしげた。


「何言ってるの。誠治君もだよ?」

「ふぁ?」


 ん――? あれか。修学旅行のとき、柊木ちゃんが言っていたお願い。


 俺が先生になって、一緒の職場で仕事するってやつ――。


 ってことは……。


「俺、先生になったの?」


 くすっと柊木ちゃんは微笑む。


「なったの、じゃなくて、なってるんだよ? あたしと一緒の高校教師。真田センセイ、しっかりしてください」


 高校教師、本当にになったんだ……!?


 ん? だとしたら、ちょっとおかしい。

 一緒の職場で楽しく仕事をして、結婚するっていうのが、柊木ちゃんの理想だったはず。


 なのに、まだ結婚はしてない――。


 どういうこっちゃ。単純にプロポーズしてないだけ? だとしたら何してんだ、俺。


「げ、元気出して、誠治君! 朝から暗いのはなしだよ! あたしからも、お父さんを説得するから!」


「お父さん?」

「え? 週末に、あたしの実家に同棲の挨拶に行ったでしょ? そのことでヘコんでるんじゃないの?」

「何それ!?」


「もぉー、忘れちゃったのー? お父さんに『年収一千万いかない間は、そんなことは許さん』って言われてヘコんでたでしょ?」


 実家に挨拶かぁ……現代の俺たちは、結構進んでるんだ。俺も頑張ってんだなぁ。


 って、年収一千万!? 吹っかけすぎだろ、柊木ちゃんパパ。


 二七歳で一千万って……貨幣は円でオッケー? ペリカじゃなくて?


 いつぞや、柊木ちゃんに訊いたリアルな年収は、意外と安かった。

 だから現代にいる俺も、それに近い年収なんだろう。


 何だかんだで先生っていう職業は、肩書の上では公務員だ。


 年数が経てば自然と年収は上がるけど、キャリアが積めないうちは、大したことはない。


 俺が頭の中であれこれ計算していると、柊木ちゃんが俺を抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫。彼氏なんて連れていったことがなかったから、お父さん、ビックリしちゃっただけなんだよ。どう考えても年収の額があり得ないもんね? 吹っかけすぎだし。気にしないで?」


 なでなで、と頭を撫でてくれる柊木ちゃん。相変わらず、柊木ちゃんのなでなでは、癒し効果抜群。


 ぎゅ、と彼女を抱きしめる。


 いい子、いい子、と柊木ちゃんは、あふれる母性で俺を撫で続けてくれた。


 一〇年後も柊木ちゃんは可愛いいし、スタイルも全然変わらないままだ。

 けど、ちょっとだけ顔に疲れが見え隠れしている。


 以前の俺なら絶対にわからなかった変化だ。


 男の俺は、結婚とかそういうものにはこだわらないけど、やっぱり女の人は、早いうちに結婚はしておきたものなんじゃないだろうか。


 たぶん、この現代にいる俺は、柊木ちゃんの希望通り頑張って勉強して教師になったんだと思う。


 けど、大事なことを忘れてる。


 俺は、教師になりたいんじゃなくて、柊木ちゃんを幸せにしたいんだ――。


 ――お? 来た。タイムリープの感覚。

 前回はわからなかったけど、ちょっとした浮遊感がある。



 目に見える風景が一瞬にしてガラッと切り替わった。


「――おい、真田」


 肩を揺すられてそっちを見ると、制服を着た藤本がいた。


 ……あれ、ここ教室?


 携帯は昔の携帯。

 日付も、記憶にある通りのものだ。

 時間は、ちょうど昼休憩がはじまったあたり。


「大丈夫か? なんかぼうっとしてたけど」

「え、ああ、うん。大丈夫」


 よし。

 どうにか高二にまたタイムリープできたらしい。


 今の状況の延長が、あの一〇年後なんだ。


 俺はまっすぐ職員室の柊木ちゃんのところへ行く。


 ぱあ、と俺を見つけた柊木ちゃんが笑顔になった。


「先生、資料を貸してほしいんですけど」

「はーい」


 世界史資料室の鍵を手にした柊木ちゃんと資料室に行き、中にこもる。


 カタン、と鍵を閉めると先生の顔から彼女の顔に変わった。


「今日は、家庭科室の日じゃなかったっけ?」


 不思議そうにしている柊木ちゃんの肩を、俺はガシッと掴んだ。


「先生。俺、もっと稼げる男になるから!」


「ど、どうしたの急に? っていうか、先生じゃなくて春香さんでしょー?」


 どうしたの? とまた訊いてきて、柊木ちゃんに何をどう伝えたらいいのか迷った。


 タイムリープしているから未来を知っている、なんて言っても誰も信じてくれないだろう。


「おいで」


 両手を開いて、柊木ちゃんが受け入れ態勢を整えた。


「今は、そういう時間じゃなくて、もっと真面目な――」


 ぎゅむ、と問答無用に抱きしめられた。


「そういう時間だよ。恋人同士が密室にいたら、イチャつく。当たり前のことだよ?」


 物欲しそうに、柊木ちゃんが唇を尖らせるので、リクエストに応えてキスをした。


 キスを煽ったくせに、柊木ちゃんがてへへと照れている。


「勉強、俺、もっと頑張るから」


「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ? あたしが、誠治君を幸せにしたげるから」

「春香さんはそれでいいかもしれないけど、俺だって、春香さんが幸せじゃないと嫌だ」


 何かのメーターが上がるように、柊木ちゃんの顔が赤くなった。


「も、もおおおおおおお。そ、そういうことを言うのは、高校卒業してからだよ! ぷ、ぷぷ、プロポーズじゃないんだからっ」


「それでいいよ」


 ふぐう、と変な呻き声をあげた柊木ちゃんが胸を押さえる。


「キュンとして死にそうになった……」

「春香さん、顔赤い」

「う、うるさい……」


 照れを隠すように、長いキスをした。


 家庭科室に行く日だったけど、昼飯も食わず、こうして昼休憩はずうっとくっつきっぱなしだった。



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