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修学旅行1


 高二の一学期。中間テストが終わった五月半ば――。

 年一の学校行事がある。


 そう、修学旅行だ。


 俺の記憶通り、隣県の山奥にある施設にむかう。

 どちらかというと、修学旅行というより林間学校って感じだ。


 一度目の高二のときは、二泊三日の修学旅行は、別に楽しいものでも何でもなかったけど、二度目の今回は、ちょっと楽しみだったりする。


 前回はいなかったはずの柊木ちゃんが、引率の先生に交じっているからだ。


『誠治君、あたし、絶対に修学旅行ついて行くからね!! 最悪、賄賂だって送る構えだよ!』


 どんだけ一緒に行きたいんだよ。

 で、その構えはやめておけって言っておいた。


 何だかんだで、俺も柊木ちゃんが来てくれるのなら、楽しみは数倍以上になるので、強くは制止しなかったけど。


 執念のかいあってか、柊木ちゃんは引率の先生団に組み込まれることになった。


 そして現在、バスで移動中。


 車内は、後ろを比較的男女のリア充グループが占めて、前の席へ行けば行くほど座っているやつは大人しいキャラとなっていく。


 もちろん、俺は前のほうで通路側。窓側には藤本が座っている。


 通路の補助席に座った柊木ちゃんがスナック菓子を出してきた。


「真田君、お菓子食べる?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「オレもらっていっすか!」


「え。……う、うん……いいよ……」


 柊木ちゃんの微妙そうな顔!


 俺のために買ってきた(らしい)のに、結局無関係の藤本に食われているってのが納得いかないらしい。


 バリバリ、と俺のために買ってきたスナック菓子を食いながら、軽~いノリで藤本が訊いた。


「柊木ちゃん先生、彼氏いないんスかー?」


 どきん、と思わず反応してしまう。


 そろーり、と横目でうかがうと、柊木ちゃんは『どうしよっかなー、ホントのこと言っちゃおっかなー』ってくらい、超照れていた。


 とんとん、と俺は柊木ちゃんの座席を叩く。は、と柊木ちゃんは我に返った。


「い、いないよー?」


 誰にも見えないところにあった俺の手に、ちゃっかり手を重ねてくる。


 もう、ほんとに柊木ちゃんは、四六時中俺とくっついていたいらしい。


 …………俺もだけど。


「じゃあじゃあ、生徒のこととか……好きになることってあるんスか?」


 藤本がキメ顔で柊木ちゃんを見る。

 藤本、すまんが、全部無駄な努力に終わると思うぞ?


 そうだなあ、と柊木ちゃんは俺をチラ見しながら唸る。


「ううんっと……あるかもね!」


「っしゃぁあぁああ! オレもワンチャンあるううううううう!」


 喜んでるところ悪いが、ノーチャンだ、藤本。


 くすくす、と柊木ちゃんが笑っている。悪い女の人だ。


「じゃあじゃあ! イケメンになったオレと真田。どっちがいいスかっ!?」

「汚ねぇ!? 何勝手に自分だけ美化してんだ」


「真田君」

「ノォオオオオオオオオオオオオオオ」


 藤本が外人みたいに大げさに頭を抱えた。

 リアクションでけー。


「女は……イケメンなら何でもいいんじゃないのか……?」


 たぶん、そういうところだぞ、藤本。おまえに彼女ができないのは。


「だって、真田よりオレのがイケメンっすよね?」

「ううん……。顔の好みってあるからねぇー」


 ごもっともな話でもあり、割とリアルな裏話だった。


「僅差かぁぁぁぁぁぁ!」


 本気で藤本が悔しがっている。


「じゃあ先生、芸能人なら誰が好きなのー?」


 話を聞いていたらしい付近の女子が話題に食いついた。


 ああだこうだ、ガールズトークがはじまって、寝ようかなというときに藤本が肘でつついてきた。


「おい、真田。おまえもなんか訊きたいことねーのかよ。せっかくのチャンスだぞ? おまえも柊木ちゃんのこと好きだろー?」


 へ? なんで知ってんだ!?


 あ。おまえもって言っているから、藤本と同レベルの好きって認識なんだろう。


 恋人としての好きじゃなくて、憧れているっていう意味での好きってことか。


 藤本の声が聞こえていたらしく、柊木ちゃんはガールズトークをやめて、興味津々って感じでこっちを見ていた。


 真顔ときどきニマニマの表情を展開している柊木ちゃん。


「真田君って、あたしのこと好きなんだぁー? そうなんだー? へえー?」


 悪い女の人がいる。

 んんん? と柊木ちゃんがいたずらっぽい顔で俺をのぞきこんでくる。


「いや、別にそういうんじゃなくって……」


 ……照れる。


「顔真っ赤じゃねえか、真田。ウブですなぁー!」

「そういうんじゃないって、どういうことー?」


 くっ。絶対に言わせるつもりだ。


「思いきって言っちまえよ、真田!」


 オラオラ、と肘で藤本がつついてくる。


「言っちゃえ、言っちゃえー♪」


 柊木ちゃんと、恋バナとかいうエサに食いついた周囲の女子たちは「言っちゃえー」とノリノリだった。


 こいつら……! 他人事だと思って……!


「柊木先生のこと、好き、です……」


 きゃー、と聞いていた女子が色めきだって、「ひゅーひゅー」と藤本が口笛じゃなくて口でそのまま言っている。


 肝心の柊木ちゃんはというと、煽っておいて、「ふぐぅ……」と悶絶していた。

 顔も若干赤い。キュンとしたらしい。


 いや、心の準備しとけよっ。


「うん……っ。ありがとう……あたしも……好き……」


 彼女の顔になってるから! 先生の顔に戻して!

 って、好きって言っちゃってる!?


 盛り上がっていたのに、しんとした。


 全員が、(え、今なんて言った……?)って顔でフリーズ。


 ガチトーンでガチの返事するから!!


 慌てて俺は柊木ちゃんの座席を叩いた。は、とまた柊木ちゃんが我に返る。


「――っていうのは嘘でー! ごめんなさいっ! あ、あはは……」


「で、ですよねぇー! はははは」


 HAHAHA、と冷や汗を流しながら俺と柊木ちゃんが笑い飛ばす。


「あー、もう先生、びっくりさせないでよー」

「今の演技? 先生スゴイ! 女優になれるよっ」


 と、女子たち。演技っていうかマジだからなぁ……。


 焦った……。


 左サイドの藤本はというと、きゃっきゃ、と嬉しそうに手を叩いている。


「柊木ちゃん、鬼畜ぅ! オッケーしておいてからの嘘ですパターンッ! くぅぅ、真田残念だったなっ!」


 煽っておいて、こいつ、あとで覚えとけよ……!


「まあ? オレはまだフラれてもないから」


 さっきイケメンバージョンで俺に負けてただろ。


「というわけで、改めて。――先生好みの顔になったオレと、今フラれたばっかの真田、どっちがいいッスか!?」


「おまえの印象操作と執念すごいな」


「フフ、柊木ちゃん好みになったオレに死角は――」

「真田君」


「僅差かぁぁぁぁぁぁ!」


 僅差じゃねえから。さっきも思ったけど。

 戦う前から負けてんだよ。


「どっちかなら真田くんかな」「うん、だね」「うん。あたしも」


 満場一致で俺だった。


「うっ、くぅう……ふぐう……」


 泣くな、藤本。

 肩を叩いて慰めてやる。


 ぱらぱら、と柊木ちゃんが旅のしおりを開いて、何かを確認した。


「あ。あたしが担当する班に、真田君の班も入ってるんだねー?」


 また、わざとらしいことを言って、この人は。


 柊木ちゃんが引率を担当する班のひとつに、俺たちの班が入っているのだ。


 改訂前は違う先生だったけど、改訂後は、柊木ちゃんになったんだよなぁー。

 どうしてだろうなー?


「楽しみだねっ♪」

「そうだね、先生」


 補助席との間隔がわずかしかないのか、俺と柊木ちゃんの肩はずうっとくっついていた。

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