柊木ちゃんと温泉旅行2
海鮮料理を中心とした豪華な料理を堪能したあと、お風呂の時間と相成った。
「先にどうぞー」
と柊木ちゃんが言うので、お言葉に甘えて先に入った。
檜風呂にぼんやり浸かっていると、カラカラ、と扉の開く音がする。
「わっ。思った以上にいい感じ♪」
振りむくと、タオル姿の柊木ちゃんがいた。
「うわぁああああ!? なんで!? 先にどうぞって言ったのに!」
「だってぇ。誠治君、あたしが先だと入ってこないでしょー?」
「当たり前だろ!」
柊木ちゃんと付き合いはじめて、ブラジャーをぽいしたり、スカートをぽいしたり、パンツ丸見えだったりするような事態に遭遇することは多々ある。
けど、タオル一枚ってのは、むしろ素っ裸よりもエロい……。
「背中流すよー? おいで」
「おいでって……」
俺の大将、ノーガード状態なんだけどどうしたらいいの?
防具ゼロなんだけど。
誰か入ってくるなんて思ってなかったから、タオル持ってきてねえ……。
ボディタオルは、今柊木ちゃんが手にして、全力で泡立てている。
……パン一までならあるけど、俺は大将を柊木ちゃんに見られたことはない。
「早く早く」
「自分で洗うからいいってば」
「えー。あたし、これが一番楽しみだったのにぃ……堂々と混浴して背中流し合いっこ……」
くっそ……ズルくないですか。
大変な仕事を超頑張ったっていうのを知っている俺に、そんなこと言うの。
「……そっち行くから……あ、あの……目、つむっててもらっていい?」
「やだ、誠治君可愛いー! 女の子みたい」
「だまらっしゃい」
ばしゃ、とお湯をかけると、「きゃー!」と柊木ちゃんは楽しそうな悲鳴を上げた。
「タオル巻いてないんだよ」
「へえ、そっかそっか……え。丸出しってこと……!?」
「そ、そうだよ!」
ノリノリだった柊木ちゃんは、かぁーと顔を赤くした。
「な……なんで巻いてないの? あたしがくるって、わかってたでしょ?」
「わかってたら、こんなに動揺してねえよ」
「わ、わ、わかった。あたし、絶対目開けないから」
ぎゅむっと目をつむって、木製の高そうな小さな椅子をぽんぽん、と叩く。
『誠治君の大将を見るのはまだ恥ずかしい』より、『背中流し合いっこしたい』が勝ったんだ……。
覚悟を決めて浴槽から出る。さささ、とカニみたいな敏捷性を発揮し椅子に座った。
「い、いいよ。開けても」
「はい……慎んで開眼いたします」
慎みすぎてよくわからない日本語だった。
「わ。すごい。広くて綺麗な背中……」
「そう?」
ごしごし、と柊木ちゃんは俺の背中を洗いはじめた。
「強くない? 大丈夫?」
「うん。ちょうどいい」
「かゆいところないですかー?」
「ないです。って、それ美容室のやつ」
「前失礼します」
「失礼すな」
脇の下から伸びてきた腕をがしっと掴んでストップをかける。
てか、背中。ほぼ密着してるんですけど……。
大将が活気づくから離れてほしい……。
「前は自分で洗うから! タオル貸して」
「えー?」
「洗いっこってことになると、俺も春香さんの前を洗うことになるよ?」
「……」
す、とタオルを渡された。ご理解いただけたようで何よりだ。
一通り洗い終えると、柊木ちゃんがシャワーで湯加減を調整してくれる。
タオルを巻いてかがんでるせいで、こぼれそう……。
しかもタオル、濡れて体に貼りついててエロい……。
ざざざ、と柊木ちゃんに洗われて攻守交替。
「べ、別に誠治君が面倒だって言うなら、あたしのは洗わなくてもいいんだよ?」
「俺があんだけ嫌だって言ったのに、自分だけ逃げようってのは、ちょっとズルくないですかねえ、先生」
タオルをほどいて、背中を見せてもらう。
真っ白でとても綺麗な背中だった。
「失礼しゃーす」
「ひゃう」
ごしごし、ごしごし。
「どう?」
「結構気持ちいいかも」
柊木ちゃんは、体を包んだバスタオルを抱きしめるようにしている。
「こことかどう?」
肘を持って上げる。
「脇はダメぇえっ」
「二の腕柔らかっ」
「もおおお、ぷにぷにしないでええええええ」
耳まで真っ赤にする柊木ちゃんが可愛くて、ついからかいたくなってしまう。
先行ってて、と促され、露天風呂で待っていると、ちゃぷん、と柊木ちゃんもやってきた。
タオルは置いてきているようで、腕で胸を抱いていた。
見入ってしまったけど、慌てて目をそらす。
「本当にすごい旅館を予約したんだね、春香さん」
「せっかくだからねー。気に入ってくれた?」
「うん。それもこれも、先生が仕事を頑張ったからだよ」
「二人のときは先生じゃなくて春香さんでしょー? もう、わざとでしょ」
ついにバレた。
怒ったフリをしながら、柊木ちゃんは俺のほっぺを掴んで軽く引っ張る。
「あたしが頑張ったんじゃないよ?」
「ん? じゃあ誰が?」
するり、とお湯の中で腕を組んで、俺の肩に頭をのせる。
「誠治君が、あたしを頑張らせたんだよ」
「ていっても、俺、なんもしてないよ?」
「いいの、いいの。一緒にいてくれるだけで、十分なんだから」
「物は言いようだなぁ」
「そんなこと言わないの♪」
そんなふうに他愛ない会話をひそひそと繰り返す。
空には月も出て、雰囲気は抜群だった。
「のぼせるから、そろそろ出よう?」
「柊木春香は、もう、のぼせてます……」
「え、大丈夫?」
柊木ちゃんははにかみながら、ぼそぼそと小声で言った。
「誠治君にのぼせています……もう、お熱です……全然大丈夫じゃない……。誠治君は?」
頬を染めながら、そんなことを言う柊木ちゃんは、やっぱりズルいと思う。
「俺もお熱です」
目をつむって唇を差し出してくる柊木ちゃん。
リクエストに応えて、キスをする。
「もう一回……」
ちゅ。
「もっと、して。足りない……」
甘い声に理性が吹っ飛びそうになる。
このあと、イチャつきすぎたせいで本当にのぼせた。