番外編1
七夕のショートストーリーです。
最近、一緒にスーパーで買い物をするのが柊木ちゃんは好きらしく、よく連れ出される。
「誠治君。晩ご飯は何食べたいー?」
重ねられた買い物かごを手にすると、柊木ちゃんは俺に尋ねた。
「何って……」
柊木ちゃんの作る飯は大抵うまい。
だから何でもいい。
けど、それを一回言うと、
『誠治君、「何でもいい」は一番困ります』
って言われた。
そのことを思い出して発言に窮していると、入口から入ってすぐのところに笹が置いてある。
学校で見かけるような長机がそばにあり、色とりどりの短冊とペンもあった。
「七夕」
「七夕だねぇ」
「何か書く?」
「いいねー。やろやろ」
ふん、と鼻を鳴らした柊木ちゃんはやる気満点。
何書くんだろう。
ペンを握った手元を覗いていると、こっちを振り返った。
「何見てるの? 誠治君も書くんだよ?」
つんつん、とキャップがついたペンでつつかれる。
「何か書く? って提案したの、誠治君のくせに」
「俺は、先生がやりたいかなって思って――」
「すぐ先生って言うーーーーー」
むう、と怒ったように頬を膨らませて、またペンでつついてきた。
「あたしは、もう絶対これって感じで、というか、それ以外にないから……」
言葉の途中で何を思ったのか、むふふ、と照れくさそうに口元をゆるめた柊木ちゃん。
「それ以外にない?」
何だろう。
「書かないんだったら、こっち見ないで」
完全に手元が死角になるように、柊木ちゃんは短冊にペンを走らせる。
「でーきた」
俺には何があっても見せない気なのか、裏返しで見えないように、短冊にこよりをつけて笹に結んだ。
「え、何、何書いたの?」
首を伸ばそうとすると、さ、ささささ、と柊木ちゃんは視線を遮るようにガードしてくる。
「ダメだよ?」
気になる。
これしかないって言われると、余計に。
「あたし、先行ってるから。食べたい物、考えといてね」
ご機嫌な柊木ちゃんは、るんるん、と弾むように歩いていく。
あ、カゴカゴ、とそばのカゴを掴んで、野菜コーナーに行ってしまった。
……柊木ちゃん、俺を一人にすると、短冊が覗かれるって思わなかったんだろうか?
けど、見てほしくなさそうだったから、勝手な覗き見はやめよう。
少し考えた末に、俺は短冊にひとつだけ願い事を書いた。
野菜コーナーでキャベツを吟味している柊木ちゃんを見つけて、すぐに追いついた。
「何食べたいか決まった?」
「そうめんとか、どう?」
「いいね」
俺が言った食べ物を、柊木ちゃんは否定したことがない。
カロリーが気になるのか、ファストフードが食べたいって言うと、ちょっと嫌そうな顔をするときがあるけど。
材料を買っていき、レジを済ませ元来た出入口から出ていこうとする。
あ。俺の短冊、裏返しておいたのに、表向きになってる。ま、バレないだろう。名前書いてないし。
「……」
ちらっと柊木ちゃんが笹のほうへ目をやって、表情がゆるゆるになった。
「やだ、もう、誠治君ったら……」
もおー、と食材を持つ俺を好き放題叩いてくる。あれ? バレてる……?
「先生、誠治君の書いた字くらいわかるんだから」
「うわ。俺のだけバレた。なんか恥ずかしい……」
「そんなことないよ? あたしも、書いた内容一緒だったから」
「そうなの?」
うん、とはにかんだような笑顔で柊木ちゃんはうなずく。
これ、と指差した短冊を確認してみる。
『好きな人とずっと一緒にいられますように』
柊木ちゃんの字でそう書いてあった。
「帰ったら、いーっぱいちゅうする」
耳元でこそっと言ってきた。
「いや、ご飯作ってよ。そのための買い物なんだし」
「もー! 冷静なんだからぁ!」
怒ったような顔だったけど、嬉しそうな柊木ちゃんだった。
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