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監視者柊木ちゃん


 日曜日の夜。

 のーんびり、と柊木ちゃんちで週末を過ごして、俺は家に帰ってきた。


 来週は、テストの作成やら何やらで忙しくなるから、週末は遊べないそうだ。

 そっか、大変だなー。ってくらいに俺は思っていたけど、柊木ちゃんは涙目だった。


『週末の一日二日会えないだけで大げさじゃない?』って言うと、


『学校で会うのは柊木先生ですぅ。柊木春香として会える日は週末だけなんですぅ……』


 と言って、寂しがった。


 柊木ちゃんは、裏表のないそのままのキャラだから、俺からすると先生としても彼女としてもキャラは一緒で、全然変わってないように見える。


 けど、本人はそうじゃないらしかった。


「兄さん……? どこ行ってたの?」


 部屋で楽しかった週末を回想していると、紗菜がこっそりのぞいていた。


「どこって、友達んちで遊んでたんだけど……?」

「それって……か、彼女、とか……?」


「違ぇよ。友達のいないおまえにはわからんだろう。夜通し遊ぶ楽しさが」

「サナだって夜通し遊んでるからいいもん」

「どうせネットでゲームしてただけだろ」

「なんでわかるのよ」


 ネットにフレンドたくさんいるって言ってたからな。


「それで、なんか用?」

「とくに用はないけど……」


 もじもじ、と何か言いたそうに膝をすり合わせている。

 用がなかったら、わざわざ俺の部屋までこないだろうに。


 言うのを待っていると、紗菜は中に入ってきて、俺愛用の二人掛けの小さなソファに座った。


「本当は、サナ、今週、付き合ってほしいところがあったの。なのに兄さん、出かけて全然帰ってこないから」


 妙にしおらしい紗菜。頼み事をするときは、だいたいこんな感じになる。


「さては……ブラジャー選びか」

「ちっ、違う! そんなのに付き合ってほしくないから!」


 ぼふぼふ、と紗菜が何度もクッションで叩いてくる。


「やめろって。冗談だ。ムキになんなよ」

「変に茶化すからでしょ! ゲームの店舗予約とマンガの新刊買ったりとか、あと色々! 来週! 今週ダメだったから」


「いい加減、一人で行けるようになれよ」

「誰かに見られたら、紗菜がオタクのぼっちだってバレちゃうから」


 もうバレてると思うぞ?


「兄さんが一緒なら、言いわけできるから」

「俺の買い物に付き合ってただけだ、って?」

「そう」


 そう、じゃねえよ。何俺になすりつけようとしてんだ。


「井伊さんと行ってくれば?」

「まだちょっと……遊びに誘うのは……」


 仲良くなりたてで遊ぶのは、不安がおっきい。それは、俺もわかる。


 二人きりで、会話が途切れて気まずい雰囲気にならないか、とか。自分の知らない相手の地雷を踏んじまわないか、とか。


 もしそうなったとき、誰も助けてくれない。


「仲良くなれそうな相手だからこそ、慎重になっちゃうってところか……」

「わ、わかってるじゃない」

「じゃ、三人で行こう。井伊さんも誘って」


 これなら、紗菜も抵抗が少なくていいだろう。

 俺が何か役に立つとは思えないけど、二人きりよりは三人のほうが遊びやすいはず。


「またカナちゃん……サナは二人がいいのに……」


 つまらなさそうに、紗菜がぼそっと言う。

 それから、ぱちん、と手を叩いた。


「あ、そうだった。か、カナちゃん、来週は予定あるって言ってた」

「後づけ感すごいけど、本当かよ……」

「本当! 本当だってば!」


 面白そうなゲームやマンガがないか見て回るのは結構好きだから、頑なに断る理由は、とくになかった。

 柊木ちゃんも今週末は忙しいっていう話だし。


「わかったって。じゃ、次の土曜日な?」

「どうせ予定ないんでしょー? サナ、わかってたんだから」


 ドヤ顔でさりげなく俺をディスってくる紗菜。

 ここ最近では見ない、いい笑顔だった。



◆柊木春香◆



『ねえ、誠治君、土日は何をして過ごすの?』

『あー、明日は紗菜に付き合ってゲームショップに行ったりマンガ買ったりするよ』

『そっか、楽しんできてね♪』


 って、言ったものの、やっぱり気になる……。


 紗菜ちゃんは、どう考えても妹として誠治君に接してない。


 決定的なシーンを見ちゃったのもあるし、それ以前に、誠治君に対する言動が妹ぽくないなって思っていたから。


「兄と妹って、先生と生徒以上にアウトだと思うよ、紗菜ちゃん」


 職員室の時計は、もう十一時を回ろうとしている。


 土曜日に出勤して仕事をする先生は意外と多い。

 午前中は、顧問の部活で指導をして午後から仕事という先生もいれば、単純に平日では片付けられなかった仕事を処理しにくる先生もいる。


 あたしは後者。

 もっと早く仕事ができれば、今週も誠治君と遊べたのに……今何しているか気になって仕方ない。

 朝の八時に来たのに進捗は全然ダメ。

 気合を入れて今日一日で終わらせて、明日は誠治君と遊ぼうと思ってたのに。


「む~ん……進まないなぁ……」


 誠治君と付き合いはじめてからというもの、金曜日は付き合い程度に呑みに行ったりするけど、そういう席でお酒は呑まないことにしていた。もちろん二次会も行かない。


 あたしは、酔っぱらうときっと、彼氏がいるってことをしゃべっちゃうから。


 彼氏がいるって言えば、どこの誰で何歳で、仕事は何してる人とか、聞きたがる人は絶対にいるから絶対に禁止。


 誠治君はそう言って、あたしにかん口令を敷いた。


 嘘を重ねれば、どこかで矛盾点や綻びが絶対に出てくる。でも、彼氏はいないという大きな嘘をついておけば、小さな嘘を重ねないで済むって。


 もう、誠治君、天才だと思った。

 考えていると会いたくなってしまった……。


 ………………。


 仕事は家に持ち帰ってやればいいや。

 パタン、とノートパソコンを閉じて、あたしは荷物をまとめて車に乗り込む。


 会いたいっていっても、今日は紗菜ちゃんと遊んでるんだよね……?


 ゲームやマンガってなると、場所は……。


「中心街のほうだよね、そこしかないもんねー」


 ゲームやマンガ、アニメの専門店はそっちのほうだ。


 車を走らせ、目的地付近の駐車場に車を停めて、外に出る。

 ちょうど愛しの誠治君を発見。


「ラッキー。見ーつけた」


 ううん……声をかけたい。

 けど、仕事するって言ってあるから、たぶん、こんなところで何してんの? ってちょっと怖い顔をする。


 誠治君が真面目なのか、あたしがポンコツだからか、「仕事はちゃんとやりなよ」ってガチトーンで怒られることがある。


 誠治君は、しっかりしてるっていうか、仕事に厳しい先輩みたいな一面がある。高校生なのに。


 誠治君がいるから、あたしはお仕事頑張れるのに。


 脳内誠治君に言いわけをしていると、クレープを手にした紗菜ちゃんがやってきた。


「何ファンシーなもん買ってきてんだ」

「兄さんだって、さっきずうっと見てたじゃない。食べたかったんでしょ?」

「まあな」


 するり、と紗菜ちゃんが誠治君と腕を組んで歩きはじめた。


 あうううううう。

 あたしも、誠治君とああいうのしたいいいいいいいいい。


 街ブラデートは誰の目があるかわからないから、誠治君が禁止令を出しているから、あたしたちは絶対にできないのに……。


 てか、なんで腕組むの!? 兄妹だよ!?


 腕組んでひとつのクレープを一緒に食べながら歩くって、兄妹のすることじゃないよっ!

 どう見てもカップルだよ!!


 あううううう。

 うらやましいいいいよぅううううう。


 あたしがメイドさんだったら、エプロンの裾を噛んでるところだったよ。


 もう、怒った。

 誠治君、あたしが見てないからって、紗菜ちゃんとイチャイチャしすぎ。


『あなたを見ています……ずっとずっと見ています……』


 ぱしゃり、と撮った写真も添付してメールを送る。

 物陰から兄妹を見守ることにした。


「――!?!?」


 あ、誠治君がメールを読んだっぽい。きょろきょろ、と首を振りながらあちこちを見回している。

 愛しの春香さんを探してるみたい♡


「兄さん? どうかした?」

「な、な、なんでもない。今日は……忙しいって話じゃあ……。さては、サボって俺を尾行してたな」


 うぎ。バレた。ま、けど、証拠写真なんて送りつければバレるのも仕方ないか。


『余所行きの服、カッコいいね♪ 似合ってていいなって先生思います♡』


 メール送信。

 褒めておけば、話題もそれるはず。

 誠治君が携帯を操作すると、すぐに返信があった。


『仕事してください』


 距離感んんんんんんんん!


『来週も遊べなくなるよ?』


 それは困るぅううう!


 きょろきょろ、とまた周囲を見た誠治君は、急いでクレープを食べて店の中へ入っていった。


 でも、気になるんだもん……。ついて行っちゃおうっと♪

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