姉妹と初詣
現代戻りとタイムリープのスパンが最近短くなっているような気がする。
またタイムリープして高校時代に戻ってきていた。柊木家の応接室で年を越したところだった。
――今と高校時代、先輩の軸足がどっちにあるのか、思い出してください。
不穏なことを言ったあと、最後に怜ちゃんは俺にそう言った。
俺の軸足……。
さっきの現代の滞在時間は、たぶん一〇分やそこらだったけど、また少しわからないことが増えた。
怜ちゃんは何かに気づき、柊木ちゃんとの別れを回避できない理由を俺に尋ねた。
「何に気づいたんだ?」
「おおーい? 空き巣くーん? ぼうっとしてどしたの?」
まだ柊木家にいて、周囲には寝ている紗菜と奏多。あとはぼんやりしている俺を心配そうに見ている柊木ちゃんと夏海ちゃんがいた。
「あ、ごめん。ちょっと考え事を」
ふうん、と夏海ちゃんは意に介した様子はなかった。
「初詣どうする? 春ちゃんは――」
「行く、行きます」
柊木ちゃんの酔っ払い具合も、いつの間にかずいぶんとマシになったようだった。
「他の人は……起こすのも可哀想かな」
「紗菜ちゃんあたりは、どうして起こさないの! ってあとで文句言いそうだけど」
くすくす、と柊木ちゃんが笑う。
「まあ、そのときは、俺が紗菜の初詣に付き合うよ」
「さすがお兄ちゃん」
「うるさいな」
俺を茶化したあと、夏海ちゃんが「じゃあちょっと準備しないとね」と言い、柊木ちゃんを促す。
待っててねと言い残して、姉妹は部屋をあとにした。
しばらく経って、二人が戻ってきた。
コートやマフラーを装備してきたのかと思えば、全然違った。
二人とも振袖に着替えており、小物も持って髪型もきっちり着物に合うように変えていた。
どうりで遅いはずだ。
「どうどう、空き巣くーん?」
入口で一回転してみせる夏海ちゃん。
青い生地の着物と花柄がよく似合っている。
「新鮮」
「えぇー? それだけー? もっと、ほら、あるじゃーん」
「夏海、そうやって催促しないの」
妹を窘める柊木ちゃんも、すごく自然体で振袖が似合っていた。
ミスコンのときに、自分で着つけができるって夏海ちゃんが言ってたっけ。
白地の着物に亀甲柄の帯。派手さは夏海ちゃんに負けるけど、着慣れている感がすごくあって、上品な大人って感じだった。まさに晴れ着姿。
催促しないの、って言ったくせに、ちらちらと俺のほうを見てくる。
「二人とも似合ってるよ」
「よかったね、春ちゃん」
「……う、うん」
にししと笑う夏海ちゃんと小声でうなずく柊木ちゃんだった。
玄関を出ると、すでに車が待っていて、後部座席に乗り込むと姉妹に挟まれる形になった。
「何で夏海も後ろに来るの」
「なんでー? いいじゃん、後部座席って一応三人までオッケーだし」
「誠治君が狭いでしょ」
「あぁ、そっか、春ちゃんのお尻がでっかいから」
「ッ」
「ケンカやめて!」
姉妹のケンカを仲裁しているうちにも、車は目的地の神社へと走り出した。
「本当は、ウチはお邪魔虫だから行かないでおこうって思ったんだけど」
柊木ちゃんが誘ったわけか。
「恒例行事みたいなもんだからいいの」
どうやら、毎年姉妹二人で初詣に行くのがお決まりらしい。
けど、振袖をわざわざ着込んでいく神社って、人が多いんじゃ……?
「空き巣くん、心配しないで。屋台とかも出ないし、人で溢れるなんてこともっまずないから」
「それならよかった」
「あ、そっかぁー、人が多いと困るもんねぇ」
柊木ちゃんはようやく気づいたように、のん気に言った。
こういう危機管理が甘いんだよなぁ、柊木ちゃんは。
夜で暗いし、顔がはっきり見えないから大丈夫なんだろうけど。
「まあ、そもそも毎年ほとんど人いないしね」
軽く夏海ちゃんが言う。それはそれで大丈夫なのか?
車を走らせて約一時間ほどで、目的の神社に到着した。
道中、かなり山の中を走っていたけど、ここ、どこなんだ?
「相変わらず暗い……」
鳥居の前で、柊木ちゃんが立ちすくむ。
外灯がいくつかあるけど、それ以外の光源は何もなく、場所によっては何も見えないくらい真っ暗だった。
全然知らない神社だし、初詣でもなければ、わざわざここまで来なかっただろう。
聞いた通り、閑散としていて人けがない。
鳥居をくぐり、石段をのぼっていくと、静かな境内が見えた。
しん、としていて、深夜の冷気も相まって雰囲気が厳かに感じられた。
「ここはどういう神社なの?」
「裏手の墓地に、柊木家代々のお墓があるんだよ。だから、何かあるときのお参りは、ここなんだ」
つーことは、ハッピーエンドになれば、柊木誠治として俺もここの墓地に入れられることになるわけか。
誰もいない参道を進み、お賽銭箱にお金を入れて、綱を引っ張り鈴をガラガラと一人づつ鳴らしていく。
二礼二拍手一礼をして心の中でお願い事を言う。
「……」
「……」
最後に一礼すると、二人が俺をじっと見つめていた。
「どうかした?」
「何お願いしたのー?」
「夏海、そういうのは聞いちゃダメなやつだから」
「気になるじゃん。あんなに長くお願いするなんて」
どれくらいそうしてたんだろう。
「とか言って、春ちゃんも超気になってるくせにぃ」
「そ、それは、そうだけど……」
「言わないほうが叶うってどこかで聞いたから、言わないでおく」
姉妹そろって、むむむ、それなら仕方ないなって顔をしていた。
性格は全然違うのに、こういうところは似てるんだな。
「春ちゃんは、空き巣くんともっとイチャイチャしたいですとか、そんな感じでしょ?」
「はうううっ」
図星なのかよ。
「うわ、マジで当たった……なんというか、偏差値低いお願いだね……」
当てた本人も「さすがにそれはない」って顔でちょっと引いてるし。
「ち、ち、違うから」
「「もう遅いって」」
俺と夏海ちゃんが、声が揃ったのがおかしくてけらけらと笑う。
「夏海と誠治君、仲良いね」
むう、と柊木ちゃんが膨れる。
「ウチと春ちゃんも仲良いよ!」
だきっと夏海ちゃんが柊木ちゃんに抱きつく。
「きゃ。――こら、もう」
お姉さんらしく夏海ちゃんを叱る柊木ちゃんだった。
この前、夏海ちゃんが、別れる理由を「好きすぎてツライから」って言ったけど、当たらずも遠からずなんじゃ……?




