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告白


 年の瀬も迫り、もう数日で大晦日という今日。


 以前俺が夏休みにバイトをしていたカフェにやってきていた。どこを場所に選んでいいのかわからなかったのだ。


「……」


 向かいの席には、朝から黙ったままの紗菜がいる。


 かすかな緊張とともに注文したカフェラテをちびりと飲む。


『話がある』


 それだけで、紗菜は何かを察した。こいつもこいつで、改まって俺がそんなふうに言うから緊張しているのかもしれない。


 夏海ちゃんに打ち明けたときのことを思い出す。あのときも緊張したけど、今日ほどじゃなかった。


 カランカラン、と出入口から鐘の音が聞こえて来客を告げる。


「いらっしゃいませ」の店員さんの声と、「待ち合わせで――」と言う聞き慣れた声。


 振り返ると、コートを手に持った柊木ちゃんがいた。


 俺と目が合うと、小さく微笑んでこちらへやってくる。


「ごめんね、冬休みなのに」


 俺の隣に座ると、一瞬だけ紗菜が眉をひそめたのがわかった。


「……サナ、帰ってゲームしたいんだけど」

「まあ、そう言わないで。ね?」


 柊木ちゃんの笑いにも苦いものが混じった。


 柊木ちゃんが紅茶を注文し、それがテーブルにのせられる。準備をするようにひと口だけそれを飲んだ。


「……紗菜ちゃん、もしかすると、なんとなく勘づいているかもしれないけど……」


 うん、と小声で返事をする紗菜。

 周囲に知り合いらしき人はいない。俺はその先を続けた。


「俺と柊木先生は、付き合ってる。付き合ってるっていうのは、恋人として交際してるってことな」


 言うと、隣の柊木ちゃんも身を硬くするのがわかった。


「……し、知ってたもん……サナ。なんとなく、そうかもって思ってたし」


 うつむきがちで、ぷくーーーーっと膨れていた。


「もう、信じられない。サナ納得いかないっ!」


 子供みたいに足をじたばたさせはじめた。


「な、何でだよ!? 信じてって、おまえ言ってたじゃねえか!?」


 話が違うぞ、おい!!


「何の話をしてるのよっ。そんなこと、サナ言った覚えないしっ」


 いや、確かにそう言ったのは未来の紗菜なんだけど――。


「隠すとめちゃくちゃ不満になって、兄妹仲をこじらせることになるのに!」

「言っている意味がわからない」


 でしょうね!


「紗菜ちゃん、聞いて。きちんとしたお付き合いで」


 じろりと俺と柊木ちゃんを交互に見る紗菜。


「きちんとしてるのよね? じゃあ、ちゅーとかしてないのよね?」



「「…………し、してません」」



「はい嘘ー! 絶対嘘ー! なんか間が怪しかった! 不潔、兄さんの不潔っ」


「おまえ子供か! いい大人が付き合えば色んなオトナなことするんだよ!」


「そういうところよ。すぐ隠すんだから……サナ……そんなに信用ない?」


 なさそうに見えるぞ! 子供みたいに喚いちゃったりして。


「柊木先生は大人で、大人と恋愛すればいいのに。どうして兄さんなの」


「紗菜ちゃんだって、お兄ちゃんのことを好きじゃなくてもいいじゃない? ブーメランだよ、それ」


 あ、あれ? 柊木ちゃんが、真っ向から受けて立ってる……?


「べ、別に、サナ、兄さんのことはこれっぽっちも、なーーーーーんとも思ってないわ」


「ふうん、あそうなんだ」と、柊木ちゃんが半目をする。


「家庭科室でこっそりちゅーしたくせに。しかも寝ているところを不意打ちして」

「ふひゃっ!?」

「何それ」


 おい、何だそれ! 何だそれ!? 奏多にか!?


「そ、そういうふうに見えただけでは……?」


 口調変わってんぞ。どんだけテンパってんだ。


「不潔って言っておいて……もう、最近の子は。了承を得てないのに強引に――」

「あー。あーあーっ。そんな事実はないわ! いい、兄さん!?」


 目がグルグルになっている紗菜は、もうノックアウト寸前みたいだった。


「あれ、今日ってそういう話をしに来たんだっけ?」


「紗菜ちゃんが、自分のことを棚に上げるからだよ」

「せ、先生だって、兄さんのことを独り占めして――」

「恋人なんだから独占するのは当たり前でしょ」

「そ、そのおっぱいでたぶらかしたのねっ!? 結局巨乳が好きなんじゃないっ。シツボーしたわ!」


 何で矛先が俺に向いてるんだよ。


「真田君……誠治君から告白されたの。たぶらかす時間なんてなかったよ」

「年増の何がいいのよ……」

「年増って言うな。年上って言え、年上って」


 素敵感が全然違ぇだろ。って前も同じセリフ言った気がするな。


「先生、兄さんは舞い上がっちゃってるだけよ。他にもきっといい子いっぱいいるのに、他に目がいかない状態になってるだけなの」

「……それは……」


 気勢を削がれたように、柊木ちゃんは手元を見つめた。


「そうだったとして、何か問題あるのか?」

「先生と生徒でしょ。大ありじゃない」

「そうじゃなくて。好きな人にだけ目がいく状態――それがそんなに悪いのか? って話。身分や年の差、家柄はこの際置いといてだ」


「それは……」


「紗菜ちゃん。誠治君のことは、真剣に好きなの。生徒としてじゃなくて、一人の男性として」


 カップのコーヒーをぐいっと飲んだ紗菜。


「兄さんを泣かしたら、サナ許さないんだから」

「もちろん」


 それならいい。と小声で答えた。


「まだモヤモヤするし、隠してたことがムカツくけど、認める。二人が真剣だってことを。言いふらしたりしないからそこは信用して」


「紗菜」

「紗菜ちゃん……」

「……もうこれで終わりでしょ? サナ帰る」


 鞄を掴んで、紗菜は席を立った。


「これでよかったんだよね」

「そうでないと、紗菜は不信感を俺や春香さんに持ち続けたまま暮らしていくことにから」

「……そっか」



 それから紗菜は、二日ほど部屋から出てこなかった。


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