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クリスマス2


 夕食の準備が整うと、テーブルにはパーティ料理がたくさんのった。


 こういうのを見るだけで、少し楽しい気分になる。


 各自席に着いて、ワイングラスに入った飲み物を受け取る。中身は冷蔵庫にあったシャンメリーだ。

 これが出てくると、いよいよクリスマスって感じがする。

 ちなみに柊木ちゃんが持っているワイングラスの中は、さっき自分でコルクを抜いたスパークリングワイン。


「メリークリスマス」


 いえーい! なテンション高めに柊木ちゃんが言うと、それに遅れること二秒ほどで、俺たちもグラスをチン、と合わせる。


 ちびりと久しぶりにシャンメリーを飲む。

 あー……なんか懐かしい気分になるな、これ。


「せんぱぁーい、ボク酔っちゃいましたぁ」


 こてん、と隣に寄り添ってくる怜ちゃん。

 やっぱ、怜ちゃんはブレないな。現代でも同じことするし。


「怜ちゃん、これ――」

「これ、ジュースだから。酔わないから!」


 俺が言う前に紗菜がツッコみを入れた。


「雰囲気に酔ってるんですぅー。そんなこともわからないんですかぁー?」

「うきー!」

「小学生相手に、やきもちなんて、妹ちゃんは、可愛いですねぇー?」

「バカにされてる……! それと、やきもちじゃないから」


 俺の右側と左側で売り言葉に買い言葉の応酬がはじまった。

 仲良いなぁー、この二人。


 向かいに座った柊木ちゃんは、それを楽しそうに眺めている。その隣の奏多は、料理に舌鼓を打っていた。


「先生、仕事山積みなんじゃないの?」

「ふふふ、真田君。先生を甘く見ないで? これでも、先生はデキる先生なんだから」

「具体的には?」


 それを言うと、無言で汗をたらたらと流す柊木ちゃん。


「…………本当は、いっぱいあります……。お仕事……。二五日に、休日出勤して、なんとかします……」


 ずずーん、と柊木ちゃんの周囲の空気が一気に重くなった。


 そんなことだろうとは思ったけど、余計なこと訊いちまった。


「……先生、どんまい」

「ありがとう、井伊さん」


 ぐいっとグラスを呷って、「んふー」と変な声を出す柊木ちゃん。


 そんなビールみたいなノリで呑んだらすぐに酔っぱらうぞー?

 とは思っても口にはしない。

 普段から呑んでいる姿を見慣れているみたいだから。


 奏多がボトルを手にして、柊木ちゃんのグラスに注いでいく。


「……先生、まあまあ、どうぞどうぞ」

「いやいや、すみませんねぇ」


 向かいの席だけ昭和の居酒屋みたいになってる。


 ワイングラスにワインを入れているのに、徳利とお猪口みたいに見えた。


「先輩のほうにある、唐揚げ取れないですぅー」


 怜ちゃんが困り顔で言うと、いいこと思いつきました! と俺の膝の上に乗ろうとする。


「ちょっと、こら、怜ちゃん。何してんの」

「ここなら、唐揚げ取りやすいので」

「サナが取ってあげるから、自分の席にいなさい。兄さんの邪魔になるでしょ」

「先輩、ボク、邪魔ですか……?」


 怜ちゃんが、チワワみたいに目をうるませて俺を見上げてくる。

 純粋面が本当に上手だな、怜ちゃんってば。


 何と言えばいいか困っていると、紗菜が、


「連絡するわよ。保護者――お母さんに」

「…………」


 よいしょ、と怜ちゃんは俺の膝から下りて、自分の席に戻った。


「何? お母さん怖いの?」

「悪さをすると、連行されてしまいます……」


 厳しいご家庭らしい。


「柴原ってこのあたりじゃ珍しいから、調べたのよ」


 フフフ、と紗菜が得意げだった。


「どこの柴原さんかと思ったら、あんたのお父さん、市議会議員さんなのね?」

「ううう……ここに貧乳のCIAがいます……」

「ひと言多いわよ!」


 なるほど。

 だから品行方正なお嬢様でいなくちゃいけないらしい。


「先輩……ボクと結婚すれば、父の議員秘書になれて、ゆくゆくは父の政治基盤を継いで先輩が議員さんになれるんですよ?」


「クリスマスに生臭い話はやめろ」


「でもまあ……逆玉の輿具合でいうと、議員レベルじゃ負けちゃい――ふにゅ」


 がしっと片手で口を塞いだ。

 それ以上はこの席では言っちゃダメだぜ、お嬢ちゃん。


「あれ――みんな、服どうしたの?」


 本当に今ようやく気づいたかのように、柊木ちゃんが声を上げた。


「先生……それ、帰って来て最初に言うことなのに」

「だって、それどころじゃなかったんだから――こほん」


 咳払いをしてその先を言わないようにした。

 みんな知っているのに、サンタに扮してプレゼントを配ったのは何があっても隠したいらしい。

 あ、怜ちゃんがいるからか?

 プレゼントはみんな同じ。お菓子の詰め合わせ。怜ちゃんを基準に考えれば納得だ。


「せっかくだから、写真撮りましょ」


 柊木ちゃんの鶴の一声で、写真撮影をすることになった。


「じゃこれで撮ろうかな」


 柊木ちゃんが、少し前に買ったデジカメを持ってきた。

 デートの度にあれこれパシャパシャと撮っているやつだ。


「じゃ、俺が撮るよ」

「何で先輩が撮るんですかー」


 呆れたように怜ちゃんが笑って、手を差し出して来た。


「デジカメ、ください。先輩は真ん中ですよ。早く早く」

「え――」


 みんな同じことを思っていたらしく、怜ちゃんが撮影することに異論は出なかった。

 仕方なく、空けてくれた真ん中の席に収まる。


「はい、チーズ」


 一枚、二枚、と写真を撮っていく怜ちゃん。


「あ、あの……サナの携帯でも、撮って、ほしい」


 携帯を操作して、怜ちゃんに渡す紗菜。


「ぷぷ。今どきパカパカする携帯って……化石……」

「これ、今年の三月に買ったやつよ? 化石って……」


 現代ではハタチの怜ちゃんからすると、ガラケーってのは骨董品みたいなもんなんだろう。


「うわぁ……画像粗っ。時代感じます~」


 スマホの高品質カメラと高画質に慣れてたら、ガラケーのそれらはまだまだだもんな。


「あのちびっ子、何言ってるのかしら」


 俺以外は、みんな首をかしげているようだった。


「あっちなら一枚撮れば、みんなでシェアできるのに。ほんと、不便な時代なんですね」


 と、怜ちゃん、マウント取り放題だった。


 そんなことを口で言いながらも、怜ちゃんは、渡されたみんなの携帯で写真を撮ってくれた。


 デジカメにセルフタイマー設定があったので、全員バージョンも撮っておいた。


「それじゃあ……次は、兄妹で撮ります?」

「それは――」


 俺が拒否しようとしたら、下を向いたままの紗菜が、ぎゅっと服を掴んだ。


「……おっけー、いいぞ。ドンとこい」

「兄さんってば……ほんとシスコン……」


 小声で言ったそれは、奏多と柊木ちゃんに聞こえていたようで、二人とも何とも言えないニマニマした表情をしていた。


「先生と奏多さんはフレームアウトお願いします」


 返事をした二人が俺と紗菜から少し離れる。


 はい、チーズ――とデジカメで写真を撮った。さらに紗菜の携帯でも撮った。


 デジカメか携帯のどっちかでよくね? と思ったけど、あとで柊木ちゃんがまとめてプリントアウトしてくれるらしく、現物の写真とデータの両方が紗菜はほしかったらしい。


「見せて」

「はーい」


 デジカメの写真を確認する紗菜。


「……ふうん……」


 ちらっと俺を見てきた。

 ん? 何だ? 俺、変な顔してたか?


「あの、どうかしました? 撮り直します?」

「ううん。あんた、結構上手に撮るじゃない」

「誰がやっても同じですってば」


 不服そうな顔で、紗菜が向こう側を指差した。


「兄さん、あっちに行って。撮ってあげる。ちびっ子とツーショット」

「え? どうしたんですか、嫉妬の鬼が」


 嫉妬の鬼って。


「別に、何でもいいじゃない」


 それ以上は言わないけど、紗菜なりに、何か恩に感じる物があったらしい。

 俺が怜ちゃんの隣に行くと、さっそく腕を絡めてきた。


「じゃあ、お言葉に甘えて……♡」

「……ッ」


 ピクピク、と紗菜が眉を動かしている。けど、自分で言った手前、自重を促すのも憚れたようだ。


「せんぱぁ~い、ちゅーします? ちゅー」

「しねえから」


 めちゃくちゃ唇を尖らせて顔を寄せてくる怜ちゃんの顔に、俺はアイアンクローをして距離を取った。


「ああ~ん、先輩のいけずぅ。じゃあ、お姫様抱っこ♡」

「まあ、それくらいなら……」

「……ッ」


 紗菜がブルブル震えている。メキッとデジカメが軋んだ。


「あ、紗菜ちゃん。デジカメははじめて? そんなに力入れなくても、写真撮れるよ?」


 柊木ちゃん、そういう意味で力入ってるんじゃないから。


「……プ。いや、それ違……ふ、ふふ……ふふ、ふふふ……」


 奏多は椅子の上で抱えた膝に顔をうずめている。爆笑したいのを堪えているらしい。


「紗菜ちゃん、左手は添えるだけだよ」

「先生、その助言が使えるの、バスケだけだから」


 ついにズレたアドバイスに面と向かってツッコみが入った。


 怜ちゃんをお姫様抱っこしてあげる。めちゃくちゃ軽いので、簡単に持ち上がった。


 パシャパシャと適当に何枚か撮った紗菜は、うんざりしたようにデジカメを柊木ちゃんに返した。


「楽しみだね、写真ができあがるの」


 柊木ちゃんがニコニコしながら言うと、怜ちゃんはうっとりした表情をした。


「ボク……あの写真だけで一〇年は生きていけます……」


 愛人志望はメンタル強ぇな。


「そ、そうね。楽しみ、かも……」


 少しだけ頬を染めた紗菜は、小声でうなずいた。

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