表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/173

因縁の対決8


 評価の上では、紗菜は6ゴッド。柊木ちゃんは、4ゴッド。

 現在トップは特技で大逆転した紗菜だった。


 特技審査の順番が柊木ちゃんに回ってくる。実行委員らしき生徒二人が大きな何かを運び、ごとん、と壇上に置き、その奥に座布団も敷いた。


「あ、あー。なるほど、そういやそっか」


 と、得心がいったように夏海ちゃんが声を上げた。


「そっかそっか。なるほど」

「何一人で納得してんの」

「まあまあ、見てるといいよ。当たり前すぎて忘れてたけど、確かに特技って言っていいかも」


 柊木ちゃんの特技……あの壇上に置かれた平べったくて大きなソレが関係しているらしい。

 糸らしきものがいくつも張ってあるのがわかった。


「……あ。もしかして」


 奏多が何かに勘づいた。それと同時に柊木ちゃんが現れた。


 水色の基調とした着物姿だった。長い髪は後ろでまとめて楚々と歩いて座布団に座った。

 姿勢がいいのもあって、凛とした雰囲気が醸し出されている。


「琴……?」


 俺のつぶやきは、正解だったらしく夏海ちゃんがうなずいた。


「柊木の家では、華道や茶道は叩きこまれるんだ。ああいう雅楽の演奏もね」


 ウチは嫌いだったからすぐやめたけど、と夏海ちゃん。


 柊木ちゃんは爪のようなものを手につける。解説の夏海ちゃん曰く、琴爪というらしい。


 弦を弾くと、シャララン、と軽やかな音が鳴り、どこか荘厳な気分にさせる。正月になるとあちこちで聞こえる音色だった。


 日本人なら誰もが知っている曲をやったり、流行りのポップス曲を演奏してみせた。


 その場で一礼すると拍手が起きた。


「春ちゃんってば、大人げない。ガチじゃん」

「……先生は、着物、一人で着られる?」

「それくらいできるよー。待ち時間の間に、準備したんだろうね」


 柊木ちゃんのスペックの高さを俺は改めて思い知った。

 俺と一緒にいるときは、ポン&コツなんだけどなー。


 審査得点は、音楽の先生がゴッドの採点をして、1ゴッド38点のほぼ満点となった。


 ゴッドが最高評価なら……柊木ちゃんはこれで5ゴッド。


 あれ? となると……?


 これで全審査が終了し、出場者が全員壇上に集まる。トップ5が順に発表されていった。


 三人が発表され、残るは柊木ちゃんと紗菜の二人となった。


「では、続いて――準グランプリの発表です。第一回ミスコン準グランプリは――柊木先生です!」


 大きな拍手が起きて、柊木ちゃんは照れくさそうにしながら、結果についての感想を話した。


「ちょっと大人げないかな、と思ったけど、みんなが楽しめたんなら、よかったです」


 そう言ってコメントを締めくくった。


「栄えあるミスコンテスト、グランプリは、一年E組、真田紗菜さんです――」


 大きな歓声と拍手が巻き起こり、あたふたしながら、マイクを渡された紗菜が前に出てきた。


「……えと……と、とても、嬉しいです……びっくりです」


 声ちっちゃ。


 何だかんだで柊木ちゃんが勝つんだろうな、と思ったけど、意外な結果に終わった。


「……さーちゃん、大勝利」

「チャンサナは、男子から今後アイドルみたいな扱いされるんだろうな。目をつけていた逸材がこうして羽ばたく日が来るとは……」


 感慨深そうに藤本がうなずいている。


「紗菜ちゃん、本気で春ちゃんを倒しにいったからね。その熱意の勝利だよ。カラオケのときは、やらかしたーって思ったけど」


 ししし、と夏海ちゃんが笑い、じゃあね、と手を振って去っていった。


 観客たちが体育館から出ていくのに合わせて、俺たちもぞろぞろと会場をあとにした。


 紗菜を待っていると、小さなトロフィーを抱いた紗菜がやってきた。


「お疲れ」

「……うん。疲れた」


 ずいっとトロフィーを渡された。

 二人で帰り道を辿る。


「柊木先生に勝った」

「うん。見てた。頑張ったな。グランプリおめでとう」

「ありがとう」


 何かお祝いの品でもやろうかと思ったけど、何も思い浮かばない。


「今度、何か買いに行くか? グランプリ祝いで」

「いいの? 本当に!?」

「いいぞ。兄さん、ニートと違ってバイトしてちゃんと稼いでるからな」

「じゃ、じゃあ、今度……ゲーム買いにいく」


 やっぱこいつは筋金入りのゲーマーなんだなぁ。

 真っ先に欲しいものが、アクセサリーとかそういうもんじゃないもんな。


「何? まじまじとサナのほうを見て」

「いや、それがおまえの将来の糧になるんだろうなーと思って」

「……どう、思った? イラストのこと」


 恐る恐る訊いてきたので、答えてやった。


「いい趣味してるよ。めっちゃ上手いし」


 ふ、ふうーん、と紗菜の強張った表情がゆるんだ。


「授業中、こっそりイラストを描いてたことがあって、それがクラスの人にバレて、『暗い』とか『キモイ』とか言われて、学校では描かないようにしてたんだけど」


 べしべし、と俺は華奢な肩を叩いた。


「胸張れよ。それで飯が食えるようになるんだから」

「え? どういうこと?」


「あ――。いや、それでプロになれたらいいな? っていう意味で……」


 と、俺はお茶を濁す。


「じゃあ、サナ、これからもっとゲームして漫画読んでアニメ見る」

「いいんじゃね、それで」


 うん、と紗菜は笑った。


「新しいソフト、何買ってもらおうかしら。ミスコン出たかいがあったってもんよ」


 機嫌がよくなった紗菜と、最近発売のソフトで何を買うかでちょっとした討論になった。


 夕方に、柊木ちゃんから電話がかかってきた。


『誠治くぅ~ん……紗菜ちゃんに負けちゃったぁ……』


 電話口でシクシク泣いていた。


「残念だったね。でも春香さんの意外な一面をたくさん見られて、俺はよかったよ?」

『ほんと? ……それならよかった』


 メソメソしてたけど、あれがよかった、ここがよかったと褒めるとすぐに元気になった。


 うーん。人前に立つ「柊木先生」と柊木ちゃんは、やっぱりちょっと印象違うんだよなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ