因縁の対決6
カラオケ審査の順番が柊木ちゃんへと回った。
「春ちゃん、何歌うんだろう……妹ながらすごく心配……」
言葉通り心配そうな顔をしている夏海ちゃん。
「まあまあ、見ててよ」
「自信ありげだね?」
柊木ちゃんが登場してマイクを握る。
カラオケで練習をした曲のイントロが流れはじめた。
「何、この曲? すごく激しい」
「……私、これ知ってる。マイナーなロックバンドの曲?」
「うん」
ロックもロック。ジャンルでいうなら、メロコアパンク。かなり激しいロックって言えばいいだろうか。おおよそ普段の柊木ちゃんから想像できないようなジャンルでもある。
この手のバンドはクセが強かったり、万人受けしにくいのが難点だったりする。
それを踏まえて、そのバンドの中でもとくに聴き心地のいい曲を俺は選んだ。
「意外でしょ」
夏海ちゃんと奏多に言うと、二人同時にうなずいた。
激しいと言えば聞こえはいいけど、人によってはうるさいとすら感じるかもしれない。
歌詞の一番はすべて英語。
あの夏の女神みたいな服装でそんな曲を歌うもんだから、俺が想像した以上のギャップがあった。面食らった観客が聞き入っているのがわかる。
普段ポワポワしてる柊木ちゃんだけど、練習のかいあってか、今はめっちゃカッコイイ。
二番から日本語に変わる曲で、聞き手を飽きさせないギミックが詰まっている。
歌いきると、大きな拍手がおきた。
審査得点は、四六点。カラオケ審査の最高点だった。
「空き巣くん、よくあんなこと思いついたね?」
「ロックバンド系の曲は聴くって言ってたから、それで。インパクト大きいでしょ」
一本取られた、とでも言いたげな夏海ちゃんは、悔しそうに唸っていた。
「春ちゃんに、あんな才能があるとは……」
歌いにくいはずの英語の部分もサラっとできたし、その点は確かに意外な才能だった。
「これでミスコンテストの審査も折り返しです。現在の途中経過ですが、柊木先生の3ゴッドがトップ、2位は真田紗菜さんの1ゴッドがそれに続きます――」
ゴッドが一番いいのか……審査得点の意味!
次はコスプレ審査。
コスプレと特技は、何も聞いてない。柊木ちゃん、何やるんだろう?
出てきた女子たちは、定番のナースやら婦警さんやら、アニメキャラに扮して出てくると、衣装の説明をして、舞台袖へと去っていく。
そして、紗菜に順番が回った。
出てきた紗菜は、以前ハロウィンで来たという猫耳メイドの恰好をしていた。
「うわあ、紗菜ちゃんめっちゃ似合う」
「……さーちゃん、可愛い」
夏海ちゃんと奏多にも好評だった。
「……これは、見ての通り、メイドです。猫耳の」
面倒くさそうにマイクをむけられた紗菜が答える。
「とくに見てほしいポイントがあれば」
「別に……」
審査得点はというと、「10、8、冷たい目線isゴッド、7、8」
校長、そんな性癖丸出しの審査を続けてると、PTAと教育委員会がざわつくぞ。
体育教師が舞台袖から現れた。観客たちがざわつく中、ガシッと校長を後ろから羽交い絞めにした。
「え!? ちょっと、何――!? 何するの――!?」
じたばたする校長を体育教師が連行していった。
あーぁ……校長、自重せずにはしゃぐから……。
今日の事件は、きっと後々語り継がれるだろう。
「ええっと、校長に代わり、教頭先生に審査員とし参加していただきます――」
代打の教頭が校長の審査員席について、騒ぎは収まった。