因縁の対決4
蓮森高校ミスコンテストの第一回が開催されることになった今日。
体育館には、たくさんの見物客がいた。
土曜日なので生徒は自由参加だったけど、代表の女子の応援とか、下心満点の男子たちがやってきたので、俺が予想していた生徒の数よりもずいぶん多かった。
あたりを見回してみると、ここが志望校らしき中学生がちらほら見えたり、他校の男子生徒もいるようだった。
結局、ミスコンにむけてやったのはカラオケの練習くらい。
あとは柊木ちゃんに任せていた。
このミスコンでは、カラオケ、コスプレ、私服、特技の四つを審査される。
カラオケはばっちりだし、私服は可愛いと思うけど……コスプレって何するんだ?
前見せてもらった魔女のコスプレとか? それに特技って何かあったっけ?
入口で配られる進行表を見た藤本がふうん、と言う。
「チャンサナと柊木ちゃんも出るんだな?」
「ああ、みたいだな」
実行委員のアナウンスがはじまり、審査員の紹介があった。
まず、このミスコンを企画した実行委員長、生徒会長、校長、保健室の先生、音楽教師の五人。それぞれが各一〇点満点で評価して、合計が一番高い出場者がグランプリ――っていうルールだった。
それとは別に、観客投票も最後に行われるという。
「……真田、これ柊木ちゃん圧勝じゃね?」
どうだろう。藤本の話によれば、他の出場者も粒ぞろいらしいけど。
とくに紗菜は柊木ちゃんをライバル視して、夏海ちゃんとあれこれ打ち合わせを重ねてるっぽいし。
「この学校、最可愛と呼び声高い柊木先生の牙城を崩す女子は現れるのでしょうか――。実況はわたくし真田、解説は藤本さんでお送りします。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
適当な野球中継風ミニコントを俺たちがはじめたところで、実行委員長の挨拶があった。全然聞いてなかったので割愛する。
「最初は私服審査か。それに加えて簡単な自己紹介……」
柊木ちゃんは大丈夫だろうけど、紗菜は大丈夫か?
……昨日。
『兄さんは、サナのこと応援してくれるの?』
と、わざわざ俺の部屋を訪ねてきた紗菜が訊いてきた。
『そりゃ応援するよ。紗菜なりになんか頑張ってるっぽいし』
『ふうん。……柊木先生より?』
『一緒くらい』
『ん~ッ! 兄さんのバカ』
俺を罵倒した紗菜はすぐに部屋を出ていった。
彼氏という立場上、柊木ちゃんの援護に回ったけど、どっちも応援しているというのが本音だった。
紗菜がこういうのに自分から出るなんて本当に珍しいことだし、だからなおさら応援してあげたくなるのが兄心ってやつだろう。
音楽が流れはじめると、壇上の袖から女子が一人出てくる。何度か見かけたことのある可愛らしい一年生の女子だった。
中央にやってきて、マイクを握って軽く自己紹介をする。
司会役の実行委員がいくつか質問したりして、円滑に進行をしていく。それが終わって審査に入る。点数は五〇点満点中、三七点という可もなく不可もなくという点数だった。
「……さーちゃん、もう終わった?」
いつの間にか奏多が隣にやってきていた。
「紗菜はこれからだよ」
「……よかった。間に合った」
奏多はどうやら寝坊で遅刻したらしい。髪に若干寝癖がついている。
壇上では、また一人出てきては自己紹介をして審査され、また一人現れては捌けていった。
「引っ込み思案世界選抜のチャンサナは、ま、まだなのか……?」
「お、落ち着け、藤本。何だかんだで、あいつはやるやつだ。し、心配、すんな」
そろそろだと思うと、俺まで緊張してきた。
「解説の井伊さん、どうでしょう。普段まったく人前に立ちたがらない彼女ですが」
……何、その変なノリ。とか言われると思ったら。
「――そうですね。今日のために、彼女なりに準備を重ねてきたので、きっといいステージを見せてくれると思います」
実況と解説ごっこにちゃんと乗っかってきた!?
「準備って――」
俺が奏多に訊こうとしたら、ついにうちの妹様の登場だった。
見たことがない私服で、かなり雰囲気が大人っぽくなっていた。
……さては夏海ちゃんセレクトの私服だな? ほとんど化粧をしないのに、今日はばっちりとメイクがしてある。
せーの、と前のほうで声がした。
「「「「サナサナー! かわいい!」」」」
「……う、うるさいっ」
同じクラスの女子たちの声援だったらしい。
モデルみたいに歩いた紗菜が、壇上中央で止まり、マイクを渡される。
「では自己紹介を」
「あ、はい……」
声ちっちゃ。だ、大丈夫か、さーちゃん。
おほん、と咳払いをした。
「み、みなさん、はじめまして! 真田紗菜です☆ サナサナって呼んでください♪ よろしくお願いしますっ」
あ、アイドル風に仕上げてきおった!?
ニッコニコで、キラッって感じの表情が徐々に崩れて、顔色が赤に染まりはじめた。
「~~っ」
紗菜、恥じらいを捨てないと余計恥ずかしくなるんだぞ。見てるこっちも恥ずかしい……。
「……さーちゃん、可愛い」
クスクス、と奏多が隣で笑っていた。
「可愛い……」「誰あの子、一年?」「うちにあんな子いたんだ」「クールだけど可愛い」「貧乳良き……」
周囲の男子たちがボソボソと言っているのが聞こえた。
藤本はというと、隣で目を点にしていた。
「なあ、チャンサナ、キャラ違うくね?」
「うん。だから今、あんなに顔真っ赤なんだろ」
あ、なるほど。と藤本に納得された。
さて、注目の審査は、実行委員長、生徒会長、校長、保健室の先生、音楽の先生の順に――9、8、貧乳isゴッド、7、8。
「で、出ましたぁ~、評価ゴッド!」
評価は点数でやれ! 何なんだよ、神って。
そんで、出ましたーじゃねえんだよ。こっちは定番じゃねえんだよ。
「校長って貧乳好きなんだ」「これ性癖モロバレするやん」「校長としてそれ大丈夫なのか」
「審査得点は――1ゴッド32点です!」
ゴッドって単位なんだ。
……何点に相当すんだよ!?
パチパチ、と拍手が起きていた。いや、パチパチじゃねえんだよ。
俺が混乱していると、奏多がちょんちょん、と服を引っ張った。
「……誠治君、これ。『ゴッド』……点数では言い表せない、または点数評価を無粋だとした場合に使われる』ってある」
奏多が見せてくれた進行表にはそう書いてある。
ああ、『尊い』みたいな評価ってことか。
――逃げて。この学校のBカップ以下の女子、みんな逃げて。
それから、評価ゴッドは紗菜だけで、他の女子たちにその評価を受けることはなかった。
そして、最後の一人。柊木ちゃんの登場だ。




