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因縁の対決2



◆柊木春香◆


『先生、サナもミスコン出るから』


 突然かかってきた紗菜ちゃんからの電話に出ると、開口一番、そんなことを言われた。


「そうなんだー! 先生も出るから、お互い頑張ろうね!」


 よかったぁ。知っている生徒が一人でもいて。これで心細くはならないはず。


『お互い頑張ろうとか、そういうんじゃなくって――』

「どうかした?」

『ん~、この天然……っ!』


 電話口の紗菜ちゃんが、じれったそうな口調をした。


「し、失礼な。先生、これでもちゃんとしてるんだから。天然じゃありません」

『と、とにかく、サナ――先生には負けないから!』


 プチン、といきなり切られてしまった。


「……何の電話だったんだろう?」


 首をかしげて、あたしは職員室に戻って残った仕事を片付けた。




 その日の夜。

 この出来事を夏海にメールで教えると、電話がかかってきた。


『春ちゃん、春ちゃん!』

「何? 急に電話してきて」


 夏海の声が、どことなくウキウキしている。


『それで! 柊木先生は紗菜ちゃんに何って言い返したの!?』


 め――めちゃくちゃ食いついてきたぁ!?


「え? お互いに頑張ろうって……」

『かぁーっ、わかってない! 全然わかってない! そりゃ、紗菜ちゃんに天然呼ばわりされても仕方ないよ!』

「えー? 何でー?」


 一緒に出るから頑張ろうって、そんなに変なこと?


『要はさ、紗菜ちゃんは宣戦布告してきたんだよ。空き巣くん絡みで、張り合ってきたんだよ』

「そうなんだぁ。紗菜ちゃんってば可愛いね」


 お兄ちゃんにイイトコ見せたいってことかー。

 うんうん、とうなずいていると、ため息をつかれた。


『そういうとこだよ。子供扱いじゃなくて、対等に張り合ってあげてよ』

「あたしだって、別に負けるつもりないよ? 誠治君にイイトコ見せたいし」

『その意気だよ、春ちゃん!』


 別に仕方なく出るだけだけど、どうせならやっぱり勝ちたい。

 誠治君の自慢の彼女でありたい。……諸事情により公表はできない関係だけど。


『そっか、そっか、ついに直接対決かぁ……胸が熱くなるね……!』

「面白がってるでしょ? 体育祭のときも、変に焚きつけて」

『全力で紗菜ちゃんサポートしなきゃ』

「何で!?」

『何でって、絶対王者が勝つなんてつまんないじゃんかー』


 つ、つまんないって。つまんなくていいよ。


「み、身内は、身内を応援するの。ていうかしてよ。あたしばっかり悪者みたいにして」

『その理屈だと、空き巣くんは紗菜ちゃんを応援するってことだよ?』


 ……………………。


『ちょ、ちょっと、本気でショック受けるのやめてよ』

「せ、誠治君は、あたしを応援してくれるから……」

『声に全然元気ないから説得力ないんだけど』


 もし紗菜ちゃんを応援してるんだったら、ちょっぴり悲しい。


『てか春ちゃんさ、カラオケできるの?』

「できるよー。失礼な。歌を歌えばいいんでしょ?」

『そりゃそうだけど……カラオケでは何をよく歌うの?』

「行ったことないけど、歌えばいいんでしょ?」

『……え?』

「え? 何?」


 何か変だった?


『間違いじゃないけど……ううん……』


 夏海の歯切れが悪くなった。


『あの、何を歌うおつもりで?』

「何だろう……教科書に載ってる曲とか」


『あはは。音楽の授業じゃないんだからさ』


「変?」

『今の……まじ? ボケじゃなくて?』


 ふざけたつもりはないけど……。

 受話器の向こうで、夏海が気の毒そうな沈黙を作った。


『ま、まあ、先生だしね。教科書に載ってる歌でオッケーだと思うヨ?』


「カラオケって、そういうことじゃないの……!?」


『春ちゃん、ごめん。ウチは紗菜ちゃん陣営だからこれ以上アドバイスは――』

「ちょっとぉ――――! それくらい教えてくれてもいいじゃないっ」


 プチ、と電話が切られた。


 ま、また一方的に切られた!? もう、最近の子は……っ。

 誠治君は全然そんなことしないのに!




◆真田誠治◆


 ――って話を、昼休憩の間中、世界史準備室で聞かされた。


「きょ、教科書に載ってる曲って……」


 やべえ。俺の彼女は思った以上に世間を……いやカラオケを知らなかった。


「別に変じゃないよね?」

「先生、気を確かに持って聞いて。――――変」

「何でぇぇぇぇぇ!? って、先生じゃなくて今は春香さんでしょ!」


 ぽこぽこ、と俺を叩く柊木ちゃん。

 みんなが流行りの曲とか歌うのに、柊木ちゃんだけそれってなると、ちょっと場違いというか浮くのでは……?


「ロックバンドの話を前にしたけど、あれは――?」

「ご、ごめんね。何曲か知ってるだけで、実はそんなに詳しくないの」


 どうやら、俺が好きだから、という理由であのときは話を合わせてくれたらしい。

 それを責めるつもりはないし、そんなふうに気遣ってくれるのは嬉しい。


 けど、普段音楽を聴いているってタイプでもない……どうしたら……。


「誠治君は、紗菜ちゃんを応援しないの? コレ一番大事なとこ」

「多少はするよ」


 ふうううううん? と柊木ちゃんがむくれてしまった。


「春香さんのことはちゃんと応援するよ」


 てへへ。と嬉しそうに笑う柊木ちゃん。

 わかりやすい人だなー。


 応援するってことと、どういう結果になってほしいかは別の話で、俺はどっちが勝ってもいいと思う。ただ、紗菜のブレーンに夏海ちゃんがついたとなると話は別だ。


 そっちがそうなら、こっちもこの天然女神をこのままミスコンに出すわけにはいかなくなる。


「今度の土曜日、カラオケに行こう」

「あー♡ 誠治君からデートのお誘い、久しぶりで嬉しい♡」


 ぎゅむっと抱きしめられた。


 デートっていうより、本番を見据えた練習なんだけどなぁ……。



5巻鋭意制作中です。

刊行までもうしばらくお待ちください。


マンガUP!様で連載中の漫画版1巻も売上好調みたいです!

未読の方はこの機会に是非読んでみて下さい!

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