Xデー 後
書籍版4巻が3月15日、コミカライズ版1巻が3月13日発売です!
柊木ちゃんは、
『もう、夜遅いよ?』
と言ったけど、声は少し嬉しそうだった。
はじめて家に行った日もこんな時間だったし、注意しても今さらだろう。
「行っていい?」
俺が繰り返すと、すぐに『うん』って言ってくれた。
『誠治君ってば、不良なんだから』
いたずらっぽい口調で言って、またあとで、と俺は電話を切った。
準備をして、部屋から出ていく。
そこを俺を呼びに来た紗菜に見つかった。
「あ――兄さんどこ行くの?」
「ちょっと夜遊び」
「明日土曜日だからって、不良ぉ~っ! だ、誰と夜遊びするの……?」
「誰でもいいだろ」
「……サナとDVD鑑賞会は――」
「また今度な」
ひらひら、と手を振って階段を降りて、家を出ていく。
この季節の自転車は風の冷たさが体に染みる。
めっちゃ寒い……。
柊木ちゃんのアパートまでやってくると、ちょうど柊木ちゃんも帰ってきたところだった。
「仕事、お疲れ」
俺を見つけると、ぱたぱたと走ってきて抱き着いた。
ん? 今日あげたマフラー、さっそく使ってる。
「ふわぁ~ん、誠治君……山場が終わったよぅ……やっとちょっとゆっくりできそう」
「そっか。よかった。お疲れ様」
久しぶりにぎゅっとするせいか、全然柊木ちゃんが離れてくれない。
「ちょっと、ここ外だから」
「はっ。そ、そうだった……」
他に誰もいないし、駐車場自体が暗いから、誰かいても顔はわからないだろうけど。
荷物を持ってあげて、一緒に部屋へ入る。
仕事が忙しくても部屋は綺麗なまま。
「すげー……。仕事が忙しかったら、俺だったら洗い物とか洗濯物溜めまくりなのに、全然そういうのがない……」
「えへん。でも誠治君、『俺だったら』って、今実家でしょー?」
あ、やべ。
「あー……ええっと、俺が一人暮らししたらっていう妄想だから」
そっか、と柊木ちゃんはあんまり気にしてないようだった。
ソファに座って、適当にテレビをザッピングしていると、
「春香さん、マフラーありがとう。使わせてもらうよ」
「ううん。怜ちゃんに言われて、あたし、はっとなって……ついはしゃいじゃって……手編みでマフラー編んでたんだけど……」
怜ちゃんが、この関係を知っていると、俺は柊木ちゃんに言った。
「確かに……相談しがいがあるよね……おませさんっていうか、意見がすごく大人で」
まあ、中身ハタチだから。
「夏海も、ちょっと引いてたんだよねぇ……『春ちゃん、手編みは重いって。やめときなって』って」
解せぬ……と言いたそうな難しい顔をしている柊木ちゃん。
気持ちが重い、ってことで物理的な話じゃない。
「え? 手編み、重い……?」
恋人にあげるんなら、別に大丈夫なような……?
あれ? 俺と柊木ちゃんがズレてるのか?
「そ、そうだよね! 重くないよね! 今度夏海に言ってあげよーっと」
「あ――あの、先生!」
「は、はいっ!? ……って、先生じゃなくて春香さんでしょぉー!?」
ぶすぶす、とほっぺを人差し指でつつかれる。
「えっと。……これ! 渡しそびれてて……」
俺は渡せずにいたプレゼントをポケットから出す。
高級感ある黒い箱。手の平にのせられるくらいの小さなものだ。
柊木ちゃんは目を丸くしている。
「え――? でも、今日、マフラーもらったよ……?」
「うん。あれは三人からだから。それはそれ。これ、俺から……」
それでようやく、柊木ちゃんが、俺が差し出した小箱を見つめた。
小箱を俺が開けると、この前買ったブランド物のシルバーリングがひとつ現れた。
大切な人への誕生日プレゼントって考えたら、そんなに高いもんじゃない。
大人の俺の感覚なら。
けど、高校生だってことを考えたらかなり高いと思う。
「これ……」
柊木ちゃんが言葉を詰まらせていた。
反応が怖くて、俺は顔を直視できなかった。
結構真面目だから、こんなに高い物買って! って言わないとも限らない。
女の人……ブランド物をそれほど好きでもない柊木ちゃんでも、一〇〇%知っているくらいのブランドだし。
女の人が好きそうなデザインってわからないし、気に入らないって可能性も……。
店員さんに、めちゃくちゃ聞いたけど……。好みは個人差あるし……。
「嬉しい……」
涙声で言う柊木ちゃんを見ると、目に涙を溜めていた。
「……どの指に」
指輪を抜いて、柊木ちゃんの左手を取る。その薬指に指輪を通す。
ぴったりとはまった。
「誕生日、おめでとう、春香さん」
ぶわぁ、とついに柊木ちゃんが泣き出した。
「びっくり、した……」
抱きしめて頭を撫でる。耳元で柊木ちゃんはまだ嬉し泣きしていた。
「よかった、喜んでもらえて」
「喜ぶよぅ……マフラーでもすごく嬉しかったのにぃ……」
涙を指で拭いてあげて、優しくキスをする。
気持ちを表現するように、柊木ちゃんは最初のキスから飛ばしてきた。
部屋はまだちょっと寒いはずなのに、顔が火照って、妙に熱い。
唇が腫れるんじゃないかってくらいのキスをして、恥ずかしそうに柊木ちゃんがこそっと耳打ちした。
「今日を、もっと特別な日に……したい……誠治君と、あたしの……」
目を合わせようとすると、さっと目をそらした。
「……うん。わかった」
俺たちは、何も言わず、何も聞かなかった。
柊木ちゃんをお姫様抱っこして、寝室に連れて行く。
「お、重いから、降ろして、誠治君……」
「大丈夫」
そっとベッドに下ろして、またキスをする。
「脱がすね、服」
「~~っ」
柊木ちゃんが息を呑んだのがわかった。
薄暗かったけど、顔を真っ赤にしているらしい。
こく、と一度だけうなずいたのも、よくわかった。
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自主規制
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