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プレゼント

書籍版4巻が3月15日発売予定です!

よろしくお願いします。


 Xデーが近い。

 クリスマスのXじゃなくて、某日って意味のX。


 まあ、一二月が近づいてるから、クリスマスのXでもいいんだけど。


 ともかく、俺は自分の通帳を見ながらあれこれ計算をしていた。


 週三日ほど、HRG社でバイトをしているのもあって、高校生にしてはそれなりにお金はあるほうだ。電話オペレーターの時給は結構高い。


「先月分が二五日に入るから……残高が……」


 ふむふむ。なるほど。


 何をしてあげたらいいんだろう。


 柊木ちゃんの顔を思い浮かべながら考えてみる。

 ……何をしてあげたらっていうか、何をしても喜びそうだな、あの人。


「ねえ、兄さんってばっ」

「うわちゃぁ!? あぶね、椅子からひっくり返るかと思ったわ」


 紗菜が部屋の入口でゆるく腕を抱いていた。


「何回も呼んだのに、全然返事しないからよ」

「で、何?」

「打ち合わせするの。今日は。家庭科部で。カナちゃん、もうちょっとで来ると思うから」


 あー……。それでこいつ部屋着じゃなくて余所行きの服を家ん中で着てるのか。


「打ち合わせって何?」

「これも昨日言ったのに。全然聞いてない……。お誕生日会よ、先生と……兄さんの」


 そういや、そういう話になったんだっけ。

 俺と柊木ちゃんの誕生日が一緒だから、お祝いをしようってことになった。


 そう、来る一二月二日は、ビッグイベント――柊木ちゃんの誕生日なのだ。ついでに俺も。


 来週の金曜が二日だから、その日の放課後やっちゃおうって話でまとまったのだ。


「この年になってお誕生日会って言われてもなぁ……あんまり喜べないんだよなぁ……」

「何ジジくさいこと言ってんのよ。どっちかっていうと、兄さんより先生のほうだから」


 まあ、柊木ちゃんをメインで祝うっていうんなら、俺も大賛成だ。


 紗菜の携帯が鳴ると、電話に出ながら部屋を出ていく。どうやら奏多が来たようだ。

 下りていった紗菜が二階まで奏多を案内し、俺の部屋に連れてきた。


「……誠治君、お邪魔します」


 入口でぺこり、と頭を下げる奏多。


「うん。いらっしゃい。……おい、紗菜、なんで俺の部屋なんだよ」

「いいじゃない」

「ま、おまえの部屋汚ねぇもんな」

「フンッ」


 ぼふん、とクッションで殴られた。


「仲良し兄妹」


 ぼそりと奏多が言った。


「打ち合わせって何するんだ? プレゼント買ったりとか、ケーキ買ったりとか?」

「ま、そんなところね」

「……みんなが個別で買うか、お金を出し合ってひとつ買うか」

「こ、個別で買うって、センスが問われるわね……。サナ、ちょっと予算あんまりないから……みんなでひとつがいい」


 こくん、と奏多がうなずいた。


「……そうしよう。私も、何買っていいかわからないから」


 まあ、それが一番無難だよな。


「そういや、紗菜、おまえ貯めてたって言ってなかったっけ?」

「いいでしょ、何でも。予算的に、サナは、二〇〇〇円が限界……」

「俺は一〇万くらいかな」


 はぁぁぁぁ? って顔を紗菜にされた。


「何、一〇万って。はりきり過ぎでキモいんだけど……」

「すまんな。戦闘力に差がありすぎて。放課後もらった小遣いで遊んでいるだけのニートJKと放課後は仕事してる俺とじゃ違うわけよ」


 どや顔を紗菜に見せつけると、嫌そうな表情をされた。


「ニートJKって。学生は勉強が本分なの。バイトなんてしなくってもいいもん」

「おまえはその勉学すらおろそかにしてるだろ」

「働いている人が偉いって風潮、なんなの」


 こいつ、本格的にニートみたいなこと言い出した。


「……さーちゃん」

「何?」

「……働いている人が、一番偉い。それ、正論」


 間を取りながらしっかり言う奏多の言葉には、なんか知らんが重みがあった。


「うぐぐ……」

「……でも、一〇万円はさすがにやりすぎだから、さーちゃんの予算に合わせて、二〇〇〇円にしない?」


 三人が二〇〇〇円ずつで合計六〇〇〇円。それくらいあれば、それなりの物が買えそうだ。


「そうしよう。こうしてこっそりプレゼント決めるのもいいけど、先生を除け者にしてるみたいで、なんか嫌だな」

「いいのよ。先生、忙しそうだし。サプライズってことにすれば」

「それはそれで喜んでくれそうだな」

「……金曜日のこと自体は伝えてるから、もしかすると、ケーキ作ってくれるかも」


 あー……、作ってきそう。

 ウェディングケーキかっていうレベルのやつ、作ってきそう。


 それからはプレゼントは何にするかっていう話し合い。

 それぞれ携帯でネットを見ながら、ああでもない、こうでもないって話していく。


 途切れがちの会話の中、ちらちらとこっちを見る紗菜が訊いてきた。


「に、兄さんは、欲しい物……なんかないの?」

「富と名声」

「……誠治君、ちゃんと答えてあげて」


 ふざけてると奏多に叱られた。


「紗菜、おまえまさか……」


 慌てて、手をぶんぶん振りながら、紗菜は顔を赤くした。


「ち――――違うからっ。たまたま、会話の流れでっ。聞いただけっ。勘違いしないでっ」


 こいつ、もしかしていいやつなのか?


「……茶化さないで答えてあげて」と、また奏多に言われたので、考えてみることにした。


「何だろう……。あ、『雷銀の王ブレイグ』のDVD全巻セット。欲しいって思ってて、ま、いいかってなって買わずにいたやつで――」


『雷銀の王ブレイグ』っていうのは、オリジナルのキッズ向けロボットアニメで、これが大人が見ても熱いシーンがあったり泣けるシーンが多くて、名作と呼び声高い。


「DVD……全巻、セット……サナも好きだけど、ブレイグ……」


 あ。ニートJKには全巻セットはキツかったか。


「無理しなくていいんだぞ?」

「無理じゃないし! て、てててて、ていうか、サナ、兄さんのために買うなんて言ってないんだからっ」

「……バレバレなのに、恥ずかしいから頑張って隠そうとするさーちゃん……」


 奏多、解説すんな。


 話がそれたので、元に戻す。紗菜はずーっと頭の中で何かを計算していたらしく、俺と奏多の質問も上の空だった。


 俺と奏多で話して決めたのは、実用的で、普段から使える物がいいんじゃないかってことだった。


「……マフラー、とか、どう?」

「あ。いいんじゃない? 先生、ときどき自転車で来るときあるから必需品だろうし、予算内で買えそう」


 最近は寒いからって、車で通勤してるけど。

 あれはまた太……。これ以上は言わないでおこう。


 柊木ちゃんへのプレゼントは、マフラーで決定。


 まだ昼過ぎだったので、街までプレゼントを買いに行くことにした。




 街はあと一週間ほどで一二月に入ることもあり、早くもクリスマスムードが漂っている。

 お馴染みのクリスマスソングが流れ、気の早い店は、店員がサンタ帽を被っていた。


 ちょっとお高いマフラーを買うっていうことで、俺たちは大手百貨店にやってきていた。


 婦人服コーナーにやってきて、カシミヤだのなんだののマフラーを紗菜と奏多は手に取っている。


「デザイン、どれがいいかしら……」

「……通勤で使えるものだから、派手じゃないほうがいいかも」


 俺は二人を店の外から見ている。

 婦人服売り場って男は入りづらいんだよな……。


 ……俺もちょっと気になる物があったし、あとでこっそり寄っておこう。


「これ、可愛い」

「……うん」

「兄さん、これ、どう思う?」


 紗菜が見せてくれたのは、赤いチェック柄のマフラーだった。

 デザインはいいと思うんだけどなぁ。


「チェックよりは、無地のほうが無難だと思うぞ? 赤は派手だし」


 通勤に使うだけだから、それくらいいいんじゃねーかと俺も思う。

 でも、そういうのは案外細かい。


「先生が、学校の中で身に着けてて不自然じゃない物――が適当なんだとさ。それは外でも一緒」


 って、教師の服装について柊木ちゃんは以前教えてくれた。


「兄さん……詳しいわね」

「え?」

「……誠治君、まさか……」

「え? え? ……な、何……?」

「兄さん、教師になりたいの?」

「…………ああ、うん。バレたかー」


 適当に誤魔化しておいた。


「……さーちゃん、それを踏まえた上で、これとかどう」

「あー。ナイス」

「……でしょ」


 奏多が無言で見せてくれたのは、グレーのもこもこしたマフラーだった。

 あ、なんか似合いそう。


 同じ物を二人が巻いてみた。


「「……あったかい……」」

「よし、それで行こう」


 代表して奏多が会計を済ませてくれた。

 プレゼント用にラッピングもしてもらい、準備完了。


「先生、喜んでくれるかな」

「……さーちゃん、大丈夫。たぶん」


 うん。きっと大丈夫。

 マフラーを持ってないわけじゃないけど、あの系統の物はなかった。


 百貨店を出たあたりで、解散することにした。


「俺、ちょっと寄るところあるから、ここらへんで」


「それじゃあ」と、とくに気にする様子もなく、二人は駅のほうへと歩いて行った。


 俺はそのまま百貨店にUターン。


「あのプレゼントは、三人からってことだからなぁー」


 俺は俺で、別に用意をすることにした。

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