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願いを叶え給え


 ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。


「ぜえ、はあ……兄さん、速い……待ってって言ったのに……」


 ぎゅうううう、と俺を抱きしめていた柊木ちゃん(見た目紗菜)は、ぱっと俺を離した。


「紗菜ちゃん、帰ってきたみたい」


 リビングにいた俺と柊木ちゃんは玄関に顔を出す。

 そこには、部屋着のまま俺を追いかけていた紗菜(見た目柊木ちゃん)が両膝に手をついて息を荒げていた。


「おかえり」

「おかえり、じゃ、ないわよ……」

「あーっ、ちょっと紗菜ちゃん! そんな格好で外出たのー!?」

「何? 文句ある? ……自分に言われるのって、なんか不思議ね」

「文句あるよっ。いい大人なんだから、ちゃんとしてくださいっ」


 ぷう、と紗菜の顔で膨れる柊木ちゃん。

 仕草が柊木ちゃんだから、紗菜でも可愛く見える不思議。


「こっちだって文句あるんだから! 何よ、この体! 肩こりすごいし、足遅いし運動神経全然ないし、体が全体的にだるーんってして重いんだから!」

「うう……それは、なんか申し訳ないかも……」


 しょぼん、としてしまう柊木ちゃん。


「それにこれよ、これっ!」


 紗菜(見た目柊木ちゃん)は、かなーり嫌そうな顔で自分の胸を指差した。

 柊木ちゃんなら絶対しそうにない恨みつらみのこもった表情。

 般若のお面みたい。マジで黒柊木ちゃん。


「あたしの胸が何?」


 きょとんと首をかしげる柊木ちゃんに、紗菜は人差し指をビシビシと突きつけた。


「走ったら、プルンプルンして、すっごい走りにくいの! セクハラよ、セクハラっ。おっぱいで無自覚にマウントを取るのはやめてっ」


 体は巨乳。心は貧乳……。


「やめてって、今はおまえがその体だろうが」


 俺が半目で言うと、「兄さんは黙ってて」とギンッと紗菜がこっちを睨む。

 柊木ちゃんの顔で睨むから、変な性癖が目覚めちまいそうだ。


 ……てか、プルンプルンしてたんですか?

 フ〇ーチェみたいに?

 み、見てえ……急がず紗菜に合わせて走ればよかった。


「えー。そんなこと言われても……。ちなみに、紗菜ちゃんの体、すっごく軽くていいよ♪ ほんと、若さって……素晴らしいね…………」


 柊木ちゃん、そんな死んだ魚みたいな目しないで。


「先生、サナの体、返して」

「あたしもなりたくてなったわけじゃないからね?」


 どーすんだ、これ。


「あ、そうだ、紗菜ちゃん……」


 こそこそ、と柊木ちゃんが耳打ちをする。


「ぶ、ブラしてないの……?」

「してないわよ。どこにあるのかわかんないし」

「えぇぇ……」


 ノーブラだったのかよ。

 そりゃ柊木ちゃんのあの規模なら、走ったらフルー〇ェするでしょうね。


「紗菜ちゃんは別にしてもしなくても大丈夫かもしれないけど――」

「ちょっと――! 必要だからっ。サナもちゃんとしないとダメなんだから」


 触りがいのない胸を触った柊木ちゃんが、うんうんとうなずいた。


「まだ、ブラはしなくてもいいかな? サイズ的に」

「遠回しにサナのおっぱいをディスらないで」

「大丈夫だよ、紗菜ちゃん。紗菜ちゃんのいいところは、おっぱいじゃないもんね」

「やめてっ。サナ、諦めてないんだから!」


 むう、と怒ったような顔をする紗菜と、くすくすと笑う柊木ちゃん。

 仲良くなったような……?


 柊木ちゃんは紗菜とも仲良くなりたいって思っていたわけだし、これはいい傾向なんだろう。


 落ち着くために、一旦リビングへ移動する。


 かちゃかちゃ、とキッチンでは柊木ちゃんがお茶の準備をしてくれていた。


「兄さん、他人の家のキッチンなのに、どうして道具の場所がわかるの……?」

「さあ。ちゃんと料理している人からすると、そこまで難しくないんじゃないか?」


 解せぬ、と言いたげな紗菜が腕と足を組む。

 ふわふわなショートパンツを穿いているせいで、白い太ももがよく見えた。

 腕を組んだことにより、おっぱいがより強調されている。

 本当にノーブラなんですね……。


「……」


 柊木ちゃんがコーヒーを運んできてくれた。

 ニコニコと超嬉しそうだ。


「真田君、先生の体をそんなまじまじと見ちゃダメだよ?」


 あーそうか。俺が普段どんな目で柊木ちゃんの体を見ているのか、第三者目線でよくわかるのか。

 唇だけで「えっち♡」と言ったのがわかった。


「いや、別に俺はそんなつもりじゃ……」


 しゅばっと紗菜が俺から離れた。


「に、兄さん……!? い、妹をいやらしい目で見るなんて……」

「見てるのはおまえじゃねえんだよ。残念だったな。いいから席につけ、ノーブラ」


 柊木ちゃんも紗菜も着席する。ていうか、俺の両サイドに座った。

 もうお互いの体の愚痴は言い終わったらしく、雑談をしながらどうしてこんなことになったのかを考えていた。


「昨日の夜まではお互い元の体で、朝起きたらこうなった――ここまではいい?」


 俺が話をまとめると、二人はうなずいた。


「じゃあ、何か変わったことしなかった? 普段しなようなこと」

「別に変わったことは……」


 思い返すようにぶつぶつ昨日の行動を口に出す紗菜。


「お風呂入るでしょ。上がったらゲームするでしょ。歯磨きするでしょ。玉を七つ集めて巨乳になりたいってお願いするでしょ。それから――」


「胸も願いもちっちゃすぎてシェ〇ロンも悲しくなるわ」


 もううるさいわね、兄さんは、とジト目をされた。


 叶うのかよ、それ。

 いや、叶ったから困ってんのか。


「あとそれから、寝る前に教えてもらったおまじないを試したの。巨乳になりたいって」


 こいつ、どんだけ願掛けるんだよ。

 自力で大きくすること諦めてんじゃねえか。


「おまじない?」

「そう。当たるってクラスの人が言ってたから……」

「ガキくせぇ……」


「左の薬指にマジックでお願い事を書いて、次の日の朝消えてると叶うってやつなんだけど」


 意外と紗菜は夢見がちなところがあるんだなー。女子はみんなそうなのかもだけど。

 そんな頭の中お花畑のやつなんて――


「あたしもそれ昨日やった!」


 いたっ!?!?!?

 しかも結構いい大人っ!


 柊木ちゃんが、自分の体を確認する。


「なくなってる……」

「ちょ、ちょっとサナも見せて。……、あ。こっちも……!」

「待て待て。どういうことだ。じゃあ、紗菜は巨乳になりたいってお願いをして、先生は、何をお願いしたの?」

「えーっと……内緒」


 あ。さっき膝枕したときに言ってたな。俺と一緒に暮らしたいって。


 つーことは、偶然にも二人の需要と供給が一致したのか。


 ふうん。そうか、そうか……。


「何で入れ替えるんだよ、ややこしいな!」


 もうちょっとストレートに願い叶えてくれよ。


「本当に効果あるんだ~。あたしびっくりしちゃった」


 自分の(紗菜の)体を改めて見回す柊木ちゃん。


「サナも、ダメ元でやってみたらこんなことに……」


 自分の(柊木ちゃんの)胸をぽいんぽいんと触る紗菜。


 そこだけ触るのはやめなさい。癖になったのか?


「じゃあ次は元に戻りたいってお願いしたら、戻れるな」


 需要と供給一致してるし。


 一瞬考えた二人だったけど、やっぱり自分の体がいいようで、異論は出なかった。

 あ、でも翌朝って条件だから、今日一日はこのままなのか。


「先生、サナ、体調不良ってことで学校休んじゃった……」

「ううん。大丈夫。明日なんとかするから。紗菜ちゃんもごめんね、今日学校休むことになって」

「ううん。一日くらい大丈夫」


 ノート見せてもらえる友達がいるのか……よかった。

 兄さん、目頭がちょっと熱くなったぞ。


「俺も学校早退してるし、せっかくだし遊ぼうか、三人で」

「先生は賛成♪」


 紗菜の顔でノリノリだとやっぱり違和感がある。


「兄さんが、サナと遊びたいって言うんなら、別にいいけど……」


 そうそう、これこれ。紗菜はこうでないと。

 ツン、とされると、これはこれで良しってなっちゃうな、外見が柊木ちゃんだと。


 それから俺たちは、平日のズル休みを堪能した。




 翌朝、二人はきちんと元通りに戻っていた。これで一安心。


 そんな効力があるんなら、と俺もやってみたけど、全然ダメだった。


『柊木ちゃんと結婚できますように』って、油性で書いたせいか知らんけど、全然消えねえ。


 自分でどうにかしろってことらしい。

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