表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/173

紗菜の秘密


「はあ? おまえ、あれ失くしたのか」

「さ、サナだって失くしたくて失くしたんじゃないし!」


 何でこいつ早速開き直ってんだ。

 俺が貸していたRPGを紗菜がどこかに失くしたらしい。


 そういえば、あのゲームって現代ではHRG社の傘下に入るASW社の作品だったな。


「あのな、俺、あのゲームあと二周くらいする予定だったんだぞ」

「何周する気なのよ。い、いいじゃない。もうストーリーは知ってるんだし」

「バッカ、おま……やり込み要素ってもんがあってだな……。どうせ、クローゼットとかに入れたまま忘れてるだけだろ」

「そんな間抜けじゃないわよ」


 はあ、と俺はこれ見よがしに大きなため息をつく。


「捜索する」

「へやぁっ!? しなくていい、しなくていいからっ」


 ずんずん、と紗菜の部屋へ歩く俺を、紗菜が引っ張って止めようとする。


「止まって! 止まりなさいっ」

「フン」


 華奢な小娘の制止なぞ効かぬわ!


 ばーん、と景気よく扉を開ける。

 家から持ち出すとは思えん。

 どうせ、クローゼットの中とかにあるんだろ。


「出てって! 勝手に部屋入らないでっ」

「失礼しゃーす」

「挨拶してもダメ! 出てけ、シスコン!」


 ポコポコと俺を叩いている紗菜。

 ときどき、ゲシゲシとローキックを入れてくる。地味に痛い。


「こん中のどっかにあるんだろ、どうせ」

「そこ、触らないでっ」


 やたらクローゼットに近づくのを嫌がるな。


「心配すんな。兄さん、おまえの下着なんか見ても何とも思わねえから」


 ズザザ、と持ち前の運動神経でクローゼットの前に紗菜が立ち塞がる。


「ここから先は、サナのプライバシーだから。これ以上は、プライバシー侵害で訴えるから!」

「あそ」


 だいたい、おまえが俺のゲーム失くすのが悪いんだろうが。


「ちょっとごめんよ」


 立ち塞がる紗菜を強引にどかす。

 プライバシーとやらが詰まっている紗菜のクローゼットをどんどん捜索していく。


「どこやったんだよ、おまえー? あれ名作なんだぞ。一〇年後でもかなり評価高いままで――」

「探す探す、サナが探すから!」


 がさごそとやっていると、見慣れないスケッチブックを発見。


「ん? なんじゃこれ」

「っ!」


 シャっと早業で俺からスケッチブックを奪った紗菜。


「「……」」


 じっと見つめると、紗菜が背中にそっとそれを隠した。


「「…………」」


 そろーり、と壁を背にして俺から距離を取った。

 こっちを見つめて、野良猫みたいに警戒している。

 よっぽど何か見られたくないことが書いてあるらしい。


 気になるけど、ま、いいか。

 今はゲーム探してるんだし。


 紗菜の邪魔が入らなくなったことで、捜索がはかどるようになった。


 余所行きの服に、部屋着に、パンツにブラジャー。

 はいはい、次、次。


「……?」


 そのゾーンに、見慣れない物を発見した。


「カチューシャ……に、猫耳……?」

「はぁっ!?」


 紗菜がこの世の終わりみたいな顔をしている。


「なあ、おまえ、これ……」

「友達のやつだから!」

「……おまえ、そもそも友達がいな――」

「うるさぁぁぁぁぁぁいっ」

「なんか、ごめんな……?」

「可哀想なものを見る目をやめてっ! こうなったら、せーくんのクローゼットも荒らしてやるんだから!」


「ご自由にどうぞ。てか、俺は荒らしてないし、あとせーくんって呼ぶな」


 まあ、俺は別にいかがわしいもんとかないし。存分に見ればいい。あってもAVくらいだし。

 俺が堂々としているせいで、紗菜がクローゼット荒らしを諦めた。


 そうこうしているうちに、一番下に畳んであった服を引っ張り出した。


「……メイド服?」


 市販されてる感じのちょっと安っぽい生地だけど、スカート丈が短い。

 ……どエロや。


「はぁっ!? 見つかった――」

「コスプレカフェでバイトでもしてんのか? こんな、すぐパンツ見えそうなもん着て……」

「してないわよ! た、ただ、もらったから……捨てるに捨てられなくて……」

「もらった? 誕生日は……まだ先だろ?」

「ハロウィンのときに! 似合うからって、ほとんど強制的に持って帰らされて――」


「は、はろ、は、は――ハロウィン!?(裏声)」


 ハロウィン!?(二回目)


 じゃ、じゃあ、これは、なんだ……引っ込み思案ドラフト1位のさーちゃんが、着たってことか? 空気読むとか関係なく拒否りそうなのに。


 ギギギギギ、と俺は首を回し、手元の猫耳カチューシャ&メイド服を見て、もう一回紗菜を見る。


「お、おま……そんなリア充イベントに……出たのか……?」

「クラスの子たちが誘ってくれたから……それで……」


 つん、と顔を背けて、照れ隠しに髪の毛をイジイジといじる。


「さ、サナはそんなのする気全然なくて、普通の私服で行ったら、用意してて……それで……」

「猫耳どエロメイドに仮装した、と……?」

「な――――何よ! 文句ある!? てか、どエロって言わないで」


 引っ込み思案オブサイヤー受賞のうちの妹が、成長している。

 驚くと同時に、ちょっとした敗北感がある……。


 もしかすると、こいつ、イケてるグループに属しているのでは。

 教室ヒエラルキーの上位種なのでは。


 俺は下から数えたほうが早いってのに……。


 俺が呆然としていると、猫耳カチューシャとメイド服が紗菜に奪われた。


「げ、ゲーム探すんでしょ? 早くしなさいよ」

「い、言っておくけどな、夜遊びとか夜遅くなるバイトとか禁止だからな!」

「兄さんには関係ないでしょ」

「く、ムカつく……! あー、あー、やっぱないわぁー。俺のソフト。めっちゃ大切にしてたソフト。めっちゃ好きだったのに。紗菜が失くしやがったー。あーぁ」


 俺は大人げない作戦を取ることにした。


「だから何回も失くしたって言ってるじゃない」

「人のモン失くしたやつの態度じゃねえよなー?」

「それはその……ごめん。弁償するからいいでしょ」

「弁償とかいいんだ、別に」

「じゃあ、何を……」


 ちらっと俺が紗菜の持つメイド服を見た。


「もしかして、これ着てほしいの?」


 何も言わないで、くるっと紗菜に背を向ける。


「こっち見ないでね」


 と、着替えはじめた。

 俺の大事なソフト失くしたんだ。

 ちょっとくらい罰を受けさせてもいいだろう。


「んもう、とんだシスコン。サナの心配までしちゃって。夜遊びなんてしないし。ちゃんとウチにいるし」


 声が嬉しそうだったのは気のせいか?


「もういいわよ」


 声に振り返ると、猫耳メイドさんがいた。


 めちゃくちゃ細いな。腰回りも腕も足も。まじでモデルみてー。

 胸は相変わらず不毛の大地。貧しいまんま。

 けど、想定通りだった。


「まあ、こんなもんか」

「んなっ! 人がわざわざ着替えてあげたのに!」

「はぁー? 俺は何も言ってないんですけど?」


 ぷるぷる震えると、猫耳カチューシャを俺にぶん投げてきた。


「ぬお!?」

「出てけぇぇぇぇぇえ!」


 スケッチブックで俺をばしんばしん、と叩いてきた。


「わかった、わかった、出ていく、出ていくから」


 ぷりぷり怒る紗菜に追い出され、俺は部屋をあとにした。


「……ハロウィン……柊木ちゃん、コスプレお願いしたらやってくれるかな」


 言えば、ノータイムでイエスが返ってきそうだ。


 今度提案してみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ