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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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後夜祭


 二日目の学祭。

 登校すると、藤本が話しかけてきた。


「おまえ、今日の放課後どうすんの?」

「何の話だよ?」

「有志の男女が募ってグラウンドでダンス踊るだろ」


 あー。片付けとかが終わった放課後にやるんだったな。

 誰もそのことを話題にしないから、すっかり忘れてた。


 ダンス……。

 柊木ちゃんと……いや、無理だな。

 一瞬その絵が思い浮かんだけど、人目があり過ぎる。


 学祭シーズン中に『一緒にダンス踊ってください』って異性を誘うセリフは、男女問わず告白の代名詞みたいなもんになる。

 だから、堂々と男女ペアで踊るってことは、カップルorカップルになった二人って認識されるはず。

 となると、ますます無理だ。


「ああ……。帰るよ。片付け終わったら」

「ふうん、そうなのか。ま、残っててもロクなことねえんだから、帰ろうぜ」


 俺の回答に満足した藤本は、バンバンと肩を叩いた。


 担任がやってきて出欠を取ると、あとは各々自由行動。


 喫茶店の当番のやつは準備をするし、部活で何か店をやっているんならその準備、彼氏彼女と遊ぶやつはそうする。


 今日は、喫茶店の当番もなく、自由にできる時間も多かった。


 仕込みは、昨日あれからやったしな。


 家庭科室へやってくると、三人が揃っていた。


 一一時の開店に間に合うように、ご飯を焚いておく。


 柊木ちゃんも奏多も、同じカレーを昨日のうちに作って寝かしておいたようだ。


 今は鍋を温めて最終確認中。


「に、兄さん……今日は、お店終わったらどうするの?」

「どうするのって……昨日食べれなかったモン食って……体育館で演劇とかバンドやってたりするから、それ見ようかなーと」

「ふうんー? サナも、見たいのあるから、一緒に見てあげる」


「? 別に一緒じゃなくてもよくね?」


「あっっっそっっっ! じゃあ一人で見ればっっっ!」


 何を怒ってんだ。


 紗菜は、プンスプンス、と口をへの字にして鼻息を荒くしている。


 柊木ちゃんがくすくすと笑っていた。


「井伊さん、予定何かある? 今日は学祭、四時まででしょ?」

「……私は、ないです」

「よかった。じゃあ、みんなでお店回りましょう」

「せ、先生も……?」

「先生いたら、ダメかな?」

「別に……いいけど……」


 紗菜は複雑そうな顔で渋面を作っている。


「ふふふ。ありがとう、紗菜ちゃん」

「別に、お礼言われることじゃ……ないから……」


 夏海ちゃんは、今日は来ないらしく、家庭科部四人で学祭を楽しむことになった。


 皿やスプーン、その他備品の準備もでき、あとは家庭科部のスペースに道具を運ぶだけだ。


「今日もみんなで頑張っていこう―! ――おーっ♪」


 と楽しそうに柊木ちゃんが、一人で拳を掲げている。


「「「……」」」


 それを、俺たちは真顔で見ていた。


「どうしてやってくれないの! おーって合わせてよ」


 三人の真顔に、柊木ちゃんは恥ずかしそうだった。


「先生、それ、最初に言ってくれないとできないから」

「え、あ、そっか。ご、ごめんね。先走っちゃって。えっと、では改めて……」


 まだ顔が赤い柊木ちゃんが、こほんと咳払いしてもう一度言った。


「今日もみんなで頑張っていこうー!」

「「「おー!」」」


 こうして二日目がはじまった。




 一一時から店をはじめるのに、開店前から腹ペコ高校生たちが早速列を作って並んだ。

 準備が早くできたこともあって、店を開けると、飛ぶようにカレーが売れていった。


 昨日のリピーター、その話を聞いた友達、列を見てなんとなく並んでみた人、色んな人がいた。


「真田家のカレーに死角なしッッッ!」

「うるせえよ」


 昨日よりも人気だったので、紗菜のテンションは上がりっぱなしだった。

 昨日と同じ味だったけど、柊木ちゃんや奏多と同じように売れた。


 ……やっぱり、値段と一緒に書いた言葉か?


『マイルド甘口カレー by1E真田紗菜 五〇〇円』


「昨日みたいな惨めな思いしなくてよかったな?」

「昨日は、兄さんが書いた紙が原因だったのよ。きっとそう」


 値段設定もあると思うけどな。


「辛いのは苦手だけど、カレー食べたいって人はいるかと思って」

「真田君のその着眼点の勝利だね。食べたことないカレーって、辛いのが苦手な人からすると、ちょっと不安だし」

「……グッジョブ、お兄ちゃん」


 奏多からお兄ちゃんって言われると、なんかくすぐったいな。


 むかって左から、辛口、中辛、甘口……そんなふうに差別化が図れたのもよかったんだろう。

 開店から二時間も経たずに、すべて完売。

 早々に店を閉めることとなった。


「大勝利っ!」


 目を輝かせながら、やたらと紗菜は嬉しそうだった。


「今度、サナが家で作ってあげるわ」

「わかった、わかった。どんだけ自信ついたんだよ」


『完売御礼』と書いた紙を貼りだして、即座に家庭科室へと撤収作業を開始した。


「片付けの時間が四時から五時までだから、洗い物はそのときにしましょう」


 先生然としたアナウンスで、柊木ちゃんは言う。


 まだ一時にもなってないから、結構な自由時間があった。


 予定通り、グラウンドや校庭の出店を回ることにした俺たち。


「…………」


 幽霊みたいな顔をしてフラフラしていた藤本が、仲間にしてほしそうにこっちを見ていたので、パーティに加えることにしてあげた。


「チャンサナ、今度何食べたい? パイセンのオレが奢ってやんよ!」

「え……別に……お小遣いあるから、いいです……」


 元気になったノリノリの藤本は、紗菜の餌付けに失敗していた。

 もう完全に警戒されて、紗菜は俺を盾にするように後ろに隠れている。


「兄さん、あの人何?」

「隣の席の人だ」「おい、親友って言え、親友って」


「兄さんとの『オレたち普段こんな感じで仲良くしてます』感が、鼻につくんだけど。やたら馴れ馴れしいし」


 テンションの高い藤本は、家庭科部ではすこぶる不評だった。


「あっ、せんぱーいっ」


 ちょこちょこ、と人ごみを縫うようにして、怜ちゃんが走ってきた。


「来ちゃいました」

「いらっしゃい」

「これからお昼? ボクも一緒にいいですか」

「うん。いいぞ」


 こうして、ちびっ子タイムリーパーの怜ちゃんも仲間に加わった。

 わいわい、がやがや、と出店を回っていく俺たち。


 焼きそばやたこ焼きをみんなで分けたり、校内のクラスの展示物を見て回ったり、昨日は忙しかったけど今日は普通に楽しい。


「せんぱーい。ボクかき氷、食べたいです」

「お兄ちゃんが、買ってあげようか?」


 すかさず割って入ってきた藤本に、怜ちゃんが眉をひそめた。


「いや、年下にお兄ちゃんとか言われても……。高二とかガキ過ぎるっていうか、別に奢られたくないんで」


 怜ちゃん、辛辣だった。

 そして、またしても藤本は餌付けに失敗した。


「さ、真田……真田……。小四ガールに、ガキって言われた……」

「ええっと、結構精神年齢上のほうだから、怜ちゃんは」

「ボクは、先輩みたいな落ち着きがあって仕事がデキる人がいいんです」


 腰に勢いよく怜ちゃんが抱きついてくる。


「同じ高二なのに……なんで真田だけ違うんだよ……」

「ドンマイ、藤本」

「あのねえ――」


 つかつか、と紗菜が歩み寄ってきた。


「この前からずううううううううっと思ってたけど、兄さんにベタベタ引っつかないで」

「いいじゃん。ボク、久しぶりに会ったのに。妹ちゃんはずっと一緒なんだから、ちょっとくらい先輩をレンタルしてよ」


「年上には敬語を使いなさいよ、小学生」

「だったら、その言葉、そっくり返すよ」

「先輩って言うのもやめなさいよ」

「ボクが先輩をどう呼ぼうが関係ないでしょ」


 むううううう、と二人が睨み合っている。


 柊木ちゃんはというと、そんな二人を微笑ましそうに眺めていた。


 争いは同じレベルの者同士でないと起きないっていう言葉が脳裏をよぎった。


「やっぱり、精神的なレベルが別格なんだなぁ」


 俺たちパーティは、体育館へ移動し、演劇やら吹奏楽部の演奏やらを鑑賞していると、時間はすぐに四時になった。


「先輩、ボクまた来ますからー!」

「帰り、気をつけてな?」

「うーん!」


 手を振って、怜ちゃんはお子ちゃま自転車を漕いで去っていった。


「たまに家にも来るのよ、あのちびっ子。ストーカーよ、ストーカー」


 フン、と鼻で息をついた紗菜は、かなりご機嫌斜めだった。


 校内アナウンスで、学祭終了が宣言され、片付け、掃除の時間となった。

 それが終わると、教室に戻ってホームルーム。


「真田……ありがとう……こんなオレを、仲間に、入れてくれて……」


 戦士の最期のセリフみたいなことを言う藤本は、今日ささやかに女子と触れ合ったことで、ずいぶん浄化されていた。


「女子って……尊い……」

「白藤本……」


 ホームルームが終わると、リア充のパーティことダンスがはじまる前に、白藤本は家へと帰っていった。


「さて。柊木ちゃんはどこいるんだろう」


 一応メールしてみたけど、反応はない。

 学校にいる間は、携帯を職員室の机に置いているからだろう。

 変なところで真面目なんだから。


 保健室、家庭科室、と順に見て回ったけど、どこにもいない。


 紗菜からメールが来たけど、どうせ大したことじゃないだろう。


 世界史資料室へ行くと、愛しの彼女は、窓の外を眺めていた。


「見つけた」

「見つかっちゃった」


 てへっと可愛く笑う柊木ちゃん。


 薄暗くなった外は、取り外されなかった照明が灯っている。


「何見てるの?」

「グラウンドに出てきた生徒たち。青春だなーと思って」

「紗菜に気を遣ってくれたみたいで、ありがとう」


 俺が言うと、きょとんと柊木ちゃんは首をかしげた。


「自由時間、みんなで回ろうって言ったでしょ?」

「あー。あれのこと。それは、ただあたしが仲良くしたかったからだよ」


 思えば、柊木ちゃんは、紗菜がやりたいって言ったことに対しては、積極的だった。

 学祭の出店もそうだし。


「なんか……誠治君の青春を独り占めしているみたいで、悪いなーって気もしなくもないんだ」

「俺は別にそれでいいけど」


 そもそも二回目だし。


「だったら、いいんだけど。あたしも高校生なら、こんなこと気にしなくてもよかったのに、と思ってたところ」


 外では、学祭の実行委員が拡声器を使ってダンスの案内をはじめた。


 スピーカーから、すこし雑な質の音楽が流れる。


「みんな、楽しそう」

「春香さん、一緒に踊らない? ……踊りませんか……?」


 この誘い方、照れるな……。


「え? ここで? 狭いよ?」

「い、いいんだよ。どうせ、俺たちしかいないんだし」

「あははは。いいよ。やろう。……踊り方わかる?」

「ちょっとだけ」

「じゃあ、リードはお任せしようかな」


 俺の隣へやってきた柊木ちゃんの手を握って、ステップを踏む。


「誠治君、上手上手」

「それはよかった、です……」


 柊木ちゃんの柔らかい手と、髪の毛のにおいに気を取られて、ごん、と腰を机の角にぶつけた。


「いだっ」

「だから狭いって言ったのに。……ふ、ふふ……あはは……」

「そんな笑わなくても」


 ごめんごめん、と柊木ちゃんは目尻の涙を指先ですくった。


「誘ってくれてありがとう。嬉しかったよ?」

「どういたしまして」


 片手を離して、くるんとその場で回る柊木ちゃん。


「ここで一回、キスを挟みます」

「そうだっけ?」

「そういうことにしよ?」


 柊木ちゃんが勝手にアレンジしたせいで、約一分に一回ちゅっとキスする振付になった。


「ふふふふ、変なの……あははっ」

「変えた本人が言うなよ」


 柊木ちゃんに釣られて、俺も笑った。



 こうして、二度目の高二の学祭は、少々忙しかったけど充実した二日となった。

今回で学祭編は終了です。

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