9. お出かけ
久しぶりの日常回です
今、オレはどうすればいいかわからず悩んでいた。
「うーん、うーむ……」
ギルド局で小隊の連携のための訓練が終わり、休憩室でジュースの缶をいじりながらうなっていた。
「あー、もう、うっさいわね、なんなのよ」
そこに、タオルを首にかけた赤井がいらいらした調子で文句をいってきた。
(赤井なら、年も近いし、葉月とも仲がいいしなぁ)
おれは考えながら赤井をじっと見ると、顔を赤くしながらうろたえた。
「な、なによ、文句でもあるの」
「なぁ、赤井、ききたいことがあるだけど、いいか?」
「きいてやろうじゃないの」
「おまえぐらいの年の女子だと、してもらってうれしいことってなんだ?」
「ずいぶんと抽象的ね」
赤井はすこし考えたあと、得心がいった顔をした。
「あー、そういことか。葉月ちゃんのことね」
「う、まぁ、葉月のことなんだが、元気がないみてえだから、なんかしてやりてえなって思ってな」
「あんたにしてはまともなこと考えるじゃないの」
赤井がニヤニヤしながらいってきた。
「うるせぇな、んで、なんかアイデアないか?」
「ん~、それなら、どこかにつれていけば気晴らしになるんじゃない。遊園地は…… 葉月ちゃんにはあわないわね」
無表情のままどうすればいいか戸惑う葉月の姿が目に浮かんだ。
「それじゃあ、いつもとは違う場所に買い物にでもいけばいいんじゃない」
あいつはほしいものとか特にいってこないし、いいかもしれないな。
「そうか、ありがとな、赤井」
「べ、別にあんたのためじゃないわよ、葉月ちゃんのためにいったんだからね」
赤井はぶっきらぼうにいいながらそっぽをむいたが、耳が赤く染まっていた。
日曜日に、最近できたショッピングモールにいくことにした。シェルターも敷地につくられていて、魔物発生時にも安心というのを宣伝していた。
オレと二人きりだと間がもちそうもなかったので、美里も誘って三人でやってきた。
「おー、すっげぇな、みろよこれ全部食べ物屋なのか」
美里が案内板をみながら、テンション高めにレストラン街を指差していた。
「お昼はそこに食べに行くから、まだ我慢しろ」
「たのしみだなぁ~」
鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌ぶりだった。
一方で葉月のほうは、相変わらずの無表情だった。
「じゃあ、靴屋にいくか」
事前に、葉月になにかほしいものが無いかと聞いたら、靴がだいぶ磨り減ってきたので、新しいのがほしいといわれた。
靴屋の中にはいると、近所の靴屋の2倍以上の広さだった。いろんな種類の靴が、きれいに陳列され、ディスプレイの仕方も工夫されていた。
「見て見て、葉月ちゃん。すげーたくさんあるな」
美里が元気よく靴をみてまわり、その後を葉月が静かについていった。
美里がサッカー用のスパイクシューズの見ながら、目をキラキラさせていた。
「葉月ちゃん、これなんて強そうだな」
「……それ、ちがう」
次に作業靴コーナーにいき、美里は安全靴を手に取り、つま先をコンコン叩いていた。
「みろよ、これ。つま先に鉄板が入っているんだってよ。すげー頑丈そう」
「……それも、ちがう」
美里に女の子らしいセンスを期待したが無駄だったらしい。
「葉月、このあたりのくつならどうだ」
カジュアルなスニーカーが置いてあるコーナーにいき、深い青色の靴を手渡してみた。
「……うん、いいかも」
「おー、葉月ちゃん、いいぞぉそれ、似合ってるよ」
サイズの合っているものを探して試着してみたら、どうやら気に入ったようなので、レジを通した後、買った靴を葉月に渡した。
靴の入った紙の手提げ袋を持ちながら、葉月はうれしそうに見えた。
「……兄さん、ありがとう」
「おうよ」
「なーなー、リョースケ、あたしも買ったぜ」
美里が買ってきたものを自慢げにみせてきて、袋のなかには丈夫そうなゴムの長靴がはいっていた。
「なんで、それにしたんだ?」
「これがあれば、雨の日にも水溜りに突っ込んで遊べるだろ!!」
胸をはりながら、楽しそうに笑っていた。
その後、店をいくつか見て周り昼食の時間となった。
「どの店がいい?」
「肉だ!!肉がくえる店がいい!!」
「……どこでも」
美里の要望にしたがって、とんかつ屋に入ることにした。
メニューをみながら決まったので、店員を呼んだ。
「オレは竹定食」
「あたしはジャンボカツ定食!!」
「……松定食」
オレのカツは普通のサイズで、葉月が小さめ、美里のは皿からはみ出るぐらいでかかった。
巨大なとんかつを美里ががつがつと食べて、見事に食いきった。
「よく、そんなにたべられるな」
「肉は別腹だぜ!!」
満足そうに腹をぽんぽんと叩く美里をみる葉月の表情は、どこか楽しそうに見えた。
とんかつ屋からでてきて、やることも終わったし帰ることにした。
ショッピングモールからでているバスに乗るために、バス停に向かった。
「今日はたのしかったな~」
「……うん」
楽しげに葉月に話しかける美里と、すこし表情が柔らかくなった葉月をみながら、またこれそうだったら来ようとおもった。
そのとき、ポケットにいれている携帯から着信音がきこえた。この音はギルドからの緊急用の連絡のものだ。
同時に葉月のほうからも携帯がなっているように聞こえた。
(ちっ、こんなときに)
舌打ちをしながら電話をとった。
『こちらギルド局東京支部、異相境界の発生を確認。場所はショッピングモール、ギルドに急行せよ』
「なに!? オレはいま、そのショッピングモールにいる」
『では、いまから応援を向かわせるので、それまで現場で対応せよ』
「了解」
電話をきると、美里が不安そうな顔をしてこっちを見ていた。
ほどなく、ショッピングモール内に魔物発生をつげる放送がはいり、係員たちがモール内のシェルターへの避難誘導を始めた。
「おまえら、シェルターに避難しろ。おれは魔物の対処に向かう」
「リョースケぇ……」
「……兄さん」
「大丈夫だって、おれはギルド局の勇者だぜ。魔物なんてすぐに蹴散らしてやるよ」
オレはふてぶてしく見えるような笑みをうかべて、ショッピングモールの中心地に向かった。
逃げていく人の波に逆らうようにすすんでいくと、人々を追い立てるように何匹かの魔物が走ってくるのが見えた。
「ひいいぃぃぃっ!!」
通路に倒れた中年の女性が、自分にこんぼうを振り下ろそうと構えるゴブリンに対して、目を見開きながら悲鳴を上げていた。
「やめろぉぉぉぉ!!」
おれは拳に意識を集中させて、ゴブリンに顔にむけて振りぬいた。
鈍い音がしてゴブリンの顔が陥没し、近くの壁までふっとんだ。
「あ、あう、あう」
「おい、あんた早くにげろ」
襲われそうになっていたおばさんが吹っ飛んでいったゴブリンを凝視しながら、顔を青くしていた。
「ひぃぃぃ、化け物!!」
「チッ」
オレの顔をみてから、手足をばたつかせながら逃げていくおばさんの背中を見ながら舌打ちをした。
沈みそうになる気持ちを落ち着けて顔を前にむけると、通路の奥から魔物たちがつぎつぎとこちらに向かってくるのが見えた。
近くにあった看板を持ち上げ、スイングするように殴りつけた。
『ベキッ!!』
魔物を吹き飛ばすことができたが、看板は根元から折れ曲がっていた。
(くっそ、いつもの六角棒じゃねえと。それに、今回のは数が多すぎないか)
いつもならば10数体の魔物がでるだけだが、目の前にいるだけで20体以上はいた。
(なきごとをいってるヒマはねえ、とり逃したら、葉月や美里が危なくなる)
不安になりそうになる気持ちを押さえつけて目の前にいる魔物たちを見据え、拳を握りぐっと構えた。