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8. 追いかけてきた恐怖

 薄暗い廃工場のなかで、男のいらだった声が響いた。


「くそがっ、ふざけやがって!!」


 そこには、高校生ぐらいの若い男3人がたむろしていて、そのうちの一人がいらだった様子で、壁にすえつけられたロッカーを蹴り飛ばしていた。


「藤堂さん、おちついてくださいよ。助かってよかったじゃないッスか」


「あ゛あ゛ン、うるせえな、つぶされてえのか、テメェ」


「グェッ、す、すいま、せん」


 声を荒げる男に卑屈そうに声をかけたが男が、急に体が重くなったように地面に這い蹲り、手足で必死に体を支えようとしていた。


「チッ」


 息も絶え絶えになりながら地面に転がる男を解放すると、男はいらだたしげに舌打ちをした。


(くっそ、おれがあんな醜態をさらすなんて……)




 先日、いつもどおり仲間たちと新宿駅構内の店に侵入して、放置されている品物をかっぱらっているとき、構内に魔物が発生したという連絡がはいった。


「藤堂さん、やばいっスよ、すぐにずらかりましょう」


 仲間たちはビビッて、すぐに逃げようと言い出した。


「ばーか、魔物ごときにビビってんじゃねえよ、みてろオレが倒してやっからよ。おまえらもゲームでモンスターをたおしてるだろ」


 駅構内をすすんでいき、地下一階のホームに差し掛かったあたりで、緑色の肌をした小学生ぐらいの背丈で、明らかに人間とはことなる生物を見つけた。


「いまから、あいつをやるぞ、準備しろ」


 化け物をこちらにきづいないようで、ゆっくりと近づき手のひらをむけて能力を発動させた。

 すると、人間につかったときと同じように、化け物は地にはいつくばった。

 オレの能力は対象の質量を操作するもので、歯向かってくるやつらに能力をつかって、増加した体重を支えきれずに地面に這いつくばったところを一方的に攻撃していた。


「おら、みろよ。魔物っていっても所詮こんなもんよ」


 身動きがとれなくなった魔物をみて、恐る恐る近づいた仲間たちは、やがて手に持っていた鉄パイプを振り下ろしていった。


「さすが、藤堂さん、まじぱないっスね」


 動かなくなった魔物を見ながら、顔をゆがませて笑っていた。

 もう一匹見つけて、さっきと同じように能力をつかってから袋叩きにしてるときに、妙な連中が声をかけてきた。

 なにかいってきたが、うっとうしかったので、放っておいてさらに先に進んでいった。

 そのあとのことを思い出すと、体が震えてくる。

 別の魔物を見つけて殴りかかった後に、次々と魔物が周りの暗がりから現れ、オレたちを取り囲み始めた。

 マヌケなヤツが一人魔物にやられているスキに、なんとか地上まで駆け上がっていった。

 地上にでてきたあとでてきた巨大な化け物をみた瞬間、体がすくみ心が完全に折れていた。

 そのあと、後ろから魔物が追いかけてこないか怯えながら、線路沿いを走っていったら自衛隊に保護された。


 あの日から、路地裏の暗がりをみるとそこに魔物がいそうな気がしてならなかった。


(くっそ、おれはビビってなんかいねぇ、この能力があればこわいものなんてねえんだ)


「藤堂さん、気晴らしに女でも狩りにいきましょうぜ」


 こぶしを握り眉根をよせて必死にくだらない考えを振り払おうとしていると、取り巻きの一人がへらへら笑いながらいってきた。


 能力を手に入れてから、生意気そうな男を能力でおさえつけてボコボコにしたり、女をさらってきてこの廃工場で弄んだりしていた。

 いまはムシャクシャしていて、とにかく誰かに当り散らしたい気分だった。


「そうだな、いくか」


 廃工場から抜け出し、3人で街の方に出かけた。

 ポケットに手をつっこみ肩をいからせながら往来を歩き、そこらを歩く会社員や学生をにらみつけると目をそらして足早に離れていった。



「葉月ちゃ~ん、こっちこっち」


 ランドセルを背負い、髪をポニーテールにした女子小学生が、ガキ特有の甲高い声を上げながら走ってきた。


「いてっ」


 ガキは前を見てなかったようで、オレの足に当たってころんだ。


「テメェ、どこみてあるいてんだよ」


「ご、ごめんなさい」


 ガキはしりもちをつきながら、にらむオレをみて涙目になっていた。


「……美里、大丈夫?」


 どうやら、連れがいたようでもうひとりのガキが近づいて、助け起こした。

 そいつは、適当に切りそろえられた黒髪のスキマからじっとオレのことを無表情のまま見ていた。感情を感じさせない、まるでガラス球のような瞳が不気味だった。


 小さな背丈と、その瞳は、あの日みた魔物を連想してしまい、いつのまにか後ずさっていた。


「てめえら、なにみてやがんだよ!!」


 仲間の一人がガキにむかって吠え掛かっていた。


「……ぶつかって、ごめんなさい」


 ポニーテールのガキのほうは完全に萎縮してるようだったが、黒髪の方の表情にはまるで変化がなく、無表情のまま代わりに謝ってくる始末だ。


「おい、てめえ、ちょっとこっちこいや」


 オレは焦りにも似た感情に突き動かされるように、黒髪のガキを引っ張っていこうとした。


「はーい、そこまでだよ、にいちゃんたち」


 そこに、髪をオールバックに撫で付けてスーツ姿の細身な男が立っていた。


「んだよ、おっさん。邪魔すんじゃねえよ、これからこのガキにしつけをしてやるんだからよ」


「白昼堂々、小学生の子供をつれていこうなんて、世も末だねぇ」


 そいつは皮肉げに口元をゆがませながら、ニヤニヤわらっていた。


「テメエなめてんじゃねえぞ、ボコられてえのか」


 仲間の一人が顔を赤くしながら、おっさんのむなぐらをつかんでいた。

 それでも、おっさんはニヤニヤ笑いをやめず、おれたちのことを見ていた。その不気味さにどこかイヤな予感がした。


「おーし、テメェ、こっちこいや」


「女子児童の次はおっさんをさらうとか節操がないなぁ、君たちはぁ」


 おっさんの背中を押して路地裏につれていこうとしたら、急にふりむいて声をあげた。


「あー、キミキミ、おじさんは大丈夫だから。通報とかしなくていーからねー」


 おっさんを連れて行こうとしたオレたちをみながら、ポニーテールのガキはオロオロしていたが、黒髪の方が手をポケットに入れていた。

 どうやらガキが通報しようとしていたようだが、おっさんが止めやがった。


(こいつ、ほんとになにを考えてやがんだ)


 おっさんを路地裏のくらがりにつれこんで、壁におしつけた状態で取り囲んだ。


「さーて、君たちに聴きたいことがある。この付近で能力をつかって、暴力をふるったり、女性をさらったりする悪いやつらがいるらしいんだけど、君たちのことだろ」


 オッサンはまるで天気をきくように軽い調子で、自分の状況をまるで気にすることなく話しかけてきた。

 オレたちは顔を見合わせて、こいつを半殺しではなく全殺しにすることにした。


「おっさん、警察かなんかか、だけど一人でくるなんて用心がなっちゃいねえな」


「いいね、いいね、そのギラついた目、やっぱり犯罪者をそうでなくっちゃ」


 いまだ軽い調子のおっさんが、なにげなく前のひとりの肩に手を置いた。

 次の瞬間、そいつは肩からだんだん崩れていき全身が塵になり、足元に塵の山ができあがった。


「て、てめえ、なにしやがった」


 わけのわからない事態に顔をひきつらせながら、どうすればいいかわからず頭の中が混乱で満たされた。


「なにって、こういうことだよ」


 おっさんは、とぼけた顔をしながらさらにもうひとりを塵に変えた。


「う、うわぁぁぁ、くるんじゃねぇ!!」


 オレはバックステップを踏んで距離をとりながら、おっさんに対して能力を発動させた。


「ほお、これは重力操作、いや質量操作といったところか」


 おっさんは体を重そうに膝をついた。


「ど、どうだ。身動きとれねえだろ、おまえなんてこわくねぇぞ」


「なるほどねぇ、こりゃ、一般人じゃきついわけだ」


 あらよっとと掛け声をあげながら、おっさんが手を横にないだ。

 すると、さっきまでの調子がうそのようにすっくと立ち上がって、ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。


「くるな、くるな、くるなぁ」


 何度も能力を発動させたがおっさんには効果がなかった。

 近づいてくる姿は、駅でみた巨大な化け物よりも恐怖をかんじた。


「はーい、タッチ」


 肩に手をおかれると、自分のからだが崩れていくのを感じ、すぐになにも感じることがなくなった。


 男は、足元にできた塵の山を見下ろし、おもむろに手を突っ込むと手の中に何かを握りこんでいた。


「おーし、ゲットだぜ、ははははは」


 路地裏にはどこか狂ったような男の笑い声が響いていた。


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