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6. 研究班の仕事

 ギルド局の一画にある研究室では、回収した魔物の死体から、魔物の特性や弱点をまとめてギルド局の勇者に情報を提供している。

 部屋の中の机の上には様々な器具が設置され、壁際に並んだ棚には資料がぎっしりと詰められていた。


 部屋の中央に置かれた金属製の作業台の前に数人の白衣をきた人間たちが立ち、作業台に置かれた魔物の死体を前に、手に持った紙に観察結果を書きつけていた。


「今回は、大量のコボルトの死体にくわえて、サイクロプスのものまで手に入ったし、だいぶ研究がすすむわね」


「サイクロプスの魔石はなかなかお目にかかれませんからね。魔石はその魔物の核ともいえる部分ですから、興味深いです」


 倒した魔物から回収した魔石が机の前に並べてあり、研究班の班長である金城と、同じ研究員であるメガネをかけた太めな男が楽しげにはなしていた。


「金城さん、わたしが今回一番驚いたのは、サイクロプスの一撃をはじき返したっていう彼のことですよ。死体をみたらこぶしの骨がヒビだらけになってましたよ」


「彼を診察したときに、魔紋をみたのだけど、以前見たときより変化していたわ。腕の方に伸びている分が太くなって、細かく絡まるように広がっていたわね」


「へぇ、あとから変化するなんてかなり珍しいケースですね」


「そうね、能力者の体に刻まれている魔紋の形は、体内に魔石が形成されたときに個人の能力に応じたものになるからね」

「体内の魔石は問題なかったですか? 魔紋は体内にできた魔石につながってエネルギーの通り道となってますからね。急激な変化があると体に負担がふえやしないか心配です」


「ええ、大丈夫よ。最初にみたときと変わらなかったわ。どうやら魔紋だけが変化して、より多くのエネルギーを効率よく体に供給できるようになったってところかしら」


 それから、しばらく男と金城は話し込んでから、後片付けをした。


「ふぅ……」


 研究室の奥にある小部屋に金城は入っていった。班長専用の部屋となっていて、薄暗い部屋の中に、大量の資料が雑多に置かれていた。

 金城は部屋の隅におかれた机の前にすわり、さきほどのデータをまとめていた。

 ふいに部屋の中に違和感をかんじて、部屋のなかに視線をめぐらせた。

 部屋の隅の暗がりに、ローブのようなゆったりした形の真っ黒な服をきてフードを目深にかぶった小柄な姿があった。


「……」


「あら、お疲れ様。おかげで異相境界は無事に消えたわよ」


 黙っているフードの人物に、金城は声をかけた。


「……また、でたら、連絡ほしい」


 言葉少なく話すと、目の前に空間のゆらぎを作り出しその中に入ると、部屋から跡形もなく姿を消した。


「相変わらず、無口ねぇ」


 そういうと、金城は机にむきなおり、先ほどまでの作業の続きを再開しながら、初めて会ったときのことを思い出していたた。



 あれは1年ぐらい前だったろうか。

 いつもどおり、部屋のなかで仕事をしていると、そいつは唐突に現れた。

 フードを目深にかぶり表情をみせないまま、淡々とした声で話しかけてきた。

 わずかに見える顎の先と首すじは華奢で、もろそうにみえた。


「……異相境界の、出現地点を、おしえてほしい」


 話しかけてきた声は、成長期を迎える前の中性的なもので背丈もひくく、小学生ぐらいの子供に見えた。


「あら、どうしてかしら」


「……異相境界を、消すことができる」


 わたしは半信半疑ながらも、大阪のほうで対処中の異相境界の場所を教えた。


「……わかった」


 その子はうなずくと、忽然と姿を消した。

 数分後、異相境界の反応が消失した。


「うそ……」


 再び、何もない空間からそいつは戻ってきた。


「あなた、なにをしたの」


「……空間を、操作して閉じた」


「そういうことね。空間操作の能力者なんてものがいるとは予想外だったわ」


 さっきから、急に消えたり出てきているのも能力を利用したものだろう。


「それじゃあ、これを連絡用にこれをつかってちょうだい。異相境界が発生したら電話するわ」


 引き出しにしまっていたギルド支給の携帯電話を渡した。あとで、適当な理由をつけてもうひとつ携帯電話をもらいに行こう。


「……ありがとう」


 あごをわずかに下げると、そいつは姿をけした。


 それから、ギルド局がすぐに出向くことができない場所にいってもらうようになり、人知れず処理された異相境界はいまではかなりの数になっていた。


 なぜ異相境界を消してまわるのか理由をきいたことがあったが、返事はなかった。出現地点を知らせ、淡々と処理に向かうというドライな関係が続いた。


 しかし、この前の新宿駅に発生した異相境界について知らせたとき、いつもは淡々とした受け答えの声にどこか焦りを含んでいるのを電話越しに感じた。

 すでに勇者小隊01と03が処理に動いていたので、知らせはしたが動く必要はないと伝えたが、それでも向かったようだ。


(もしかして、あそこに知り合いでもいたのかしらね)


 とりとめのない考えを消して、作業に集中した。


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