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39. 突入前夜

 紬がいなくなってから、能力をつかって魔物をどんどん処理していっていたら、いつのまにか階級が二等陸尉に上がり、魔物や能力者対策専門の部隊を任されるようになっていた。

 上官は、新しく設置された組織“ギルド”をどうにも意識しているようで、俺の部隊は対抗馬として用意されたというのを言外にほのめかしていた。


 ギルド局の設立者が神埼だったというのには、驚いたが、今の自分にはどうでもいいことだった。


 自由にできる権限が手に入ったのは、都合が良かった。紬を復活させることのできる能力者を、仕事にかこつけて探し回ったが、ハズレばかりだった。


 手詰まり感が出始めたところで、ギルド局の研究員である金城からコンタクトをとってきた。

 超然とした態度で、こちらを見透かした様子が気に入らなかったが、防衛省では手に入らない知識をもっていたので、水面下で協力関係を続けていくことにした。


 やがて、魔石の発動機である“ジェネレーター” “魔物の発生過程” “空間操作能力者”と必要なピースがそろってきていた。


 最後のピースは偶然に手に入った。

 魔物に襲われているガキがいて、そいつが“偏向能力者”であるのに気づいたときは驚きとともに歓喜に心が満たされたもんだ。

 そのガキは、友人を見捨てて助かったという罪悪感に苦しんでるようだったので、操作するのは簡単だった。

 罪悪感から目をそらして楽になるように、免罪符となるような甘い言葉をささやきかけるだけで、まるで、エサをほしがるヒナのように、俺に擦り寄るようになっていた。

 


 目の前の装置にはまっている魔玉をみながら、いままでやってたことを思い出していた。


 ふと、葉月がチリになった場所に目をやると、魔石が転がっているのに気がついた。


(なんで、魔石が? あいつがもってたのか)


 魔石を拾い上げて眺めるていると、不意に魔石が葉月の魔玉のほうにふわふわと吸いよせられていき、スゥッと中に吸い込まれた。

 おそらく、マナの流入を制御しているため、近くにあった魔石も吸い込まれたのだろうと、今見たことを気にも留めなかった。

 

『プルルルルル』

 

 自分以外おらず、装置の駆動音のみが聞こえる部屋の中で、携帯の着信音が鳴り響いた。

 

「はーい、もしもしぃ」


『おい、榎本、貴様なにをしているんだ!!』


 携帯から幕僚長の怒鳴り声が聞こえてきた。


「なにって、作戦通り魔物の発生制御ですよ」


『作戦開始後、駐屯地内の人間がばたばた倒れていったのはどういうことだ。こんなことが起きるなど、きいてない』


「おやあ、幕僚長はご無事だったのですか。能力者排斥派の筆頭が能力者だったなんて、衝撃の事実ですねぇ」


『う、うるさい。いまはそんなことどうでもよい、駐屯地のみならず周囲の人間にまで影響がではじめている。いますぐ作戦を中止せよ!!』


「えー、いやだよ。せっかくうまくいってるところなんだからよぉ」


『貴様ァ、ならばこちらにも考えがある、覚悟しておけ』


 捨て台詞のあと電話はぷつりと切られた。


「なーにがくるのか楽しみだねぇ、まあ、そのまえにつぶさせてもらうけどな」


 葉月の魔玉を操作し空間をねじまげ、上空からの木更津基地の様子を視界を収めるようにした。


「さてさて、さすがに上空から攻撃されると面倒だから、航空基地から潰しておくか」


 装置を操作して、木更津基地に異界のマナが流れ込むようにした。

 魔物が基地内に次々と出現して、中にいた自衛隊員との交戦を開始した。

 突如あらわれた大量の魔物にろくな対応をすることもできずに、無残な屍をさらしていった。

 そして、1時間もしないうちに、基地内の設備、兵器をあらかた破壊し終わった。


 そこに、また携帯に幕僚長からの着信があり、期待通りの反応を返してきた。


「はろ~、どうしましたぁ」


『貴様、なにをした… 木更津基地が魔物によってあっという間に無力化された』


「おお、さすが情報が早いですネェ。リアルタイムでみてるとなかなか見ごたえがありましたよ」


『おまえが、魔物を基地内に出現させたというのか』


 電話越しに聞こえる幕僚長の声は恐怖によって震えていた。


「逆に消すこともできますよ」


 装置を操作し、基地内のマナを吸い取ると、魔物たちは融けるように姿を崩していき、姿を消した。


『おまえの望みはなんだ……』


 搾り出すような声に俺は返事を返した。


「俺の邪魔をするな。それだけだ。まだ、何かするようなら、霞ヶ関に魔物おくりこむからな」


 相手の返事を待たずに電話をきった。

 これで当分なにもしてこないだろう、おそらく無駄に会議を重ねてこちらの対策を練ろうとするはずだ。

 

「おっと、そういえばギルドの連中がそろそろ来るだろうな」

 

 出迎えのための準備をしておくことにした。


 

   ●○●○●○


 

 ギルド局のブリーフィングルームには、勇者全員がそろい、壇上に立つ局長に視線が向けられていた。

 これからの明暗を分ける作戦についての説明があろときき、オレは緊張しながら局長をみていた。


「さあ、みんな、困ったことになったよ~。現状を説明すると、榎本を放置していると倒れる人間は都内のみならず日本中に広がっていくとの予想だ。そうだったね、金城君」


「おそらく、1週間後には都内の人間のマナが枯渇することによって死に絶え、1ヶ月かけて日本中に影響を与えるようになるという予想結果がでました」


 局長のとなりに立っていた金城さんが説明を補足するように話した。


「と、いうわけでだ。今現在、動けるのは能力者だけで、駐屯地にもっとも近い位置にいる我々だけで行っていく必要がある」


 局長の言葉をきき部屋の中にいた面々は顔をこわばらせた。


「今晩、榎本がいる市ヶ谷駐屯地に強襲をかける。駐屯地内には榎本によって作り出された魔物がうろうろしているため、交戦を避けて、すみやかに榎本の制圧および装置の奪取を行うことが重要となる」


 次の説明に移る前に、部屋の照明を落とされ、プロジェクターで市ヶ谷駐屯地の見取り図が壁に映し出された。


「この建物が、作戦目標となる装置が設置されている場所だ。裏側から侵入し、建物への移動を迅速に行う。おそらく、あの数の魔物から見つからずに建物内にはいることはできないだろう。よって、魔物を止める防御班と、装置の奪取を行う攻撃班の2つに分ける」


 ここで、局長はいったん言葉をきり、部屋にいる勇者たちを見回した。


「防御班には苦しい戦いを強いることになるだろうが、攻撃班が目標達成するまで耐えてもらいたい。なあに、攻撃班には私も参加するから、手早く終わらせてやるさ」


 神埼局長まで参加するという言葉に俺は驚いた。局長が戦っているところを見たこともなく、その能力の正体もしらなかった。


「では、これから、攻撃班と防御班の組み分けを始める。小隊01と02が防御班、小隊03を攻撃班とする。金剛君、風間君ほどほどにがんばってくれたまえ」


「まかせてください、いつもどおりでいきますよ」


 声をかけられた2人は緊張した面持ちだったが、口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「さて、夜に備えて各自、装備の点検をおわらせておけ。以上で解散とする」


 イスからがたがたと立ち上がる音がして、部屋からみんな出て行った。

 オレも部屋から出ようとしたところで、金城さんに呼び止められた。


「ちょっと、結城君いいかしら」


「あ、はい、なんですか?」


「渡したいものがあってね。はいこれ」


 金城さんから手渡されたものは、銀色に光る手のひらサイズの装置でどこかで見覚えがあるものだった。


「それは、能力の発動機ジェネレーターよ。使い方は、装置にはまっている魔石に触れながら、効果をイメージすればいいわ」


 これは、まさか、榎本がつかっていたのと同じやつか。


「いらないです」


 他の能力者の命を奪ってつくったものに嫌悪感を抱きながらつき返した。


「そう。でも、いいのかしら。おそらく、榎本君は複数のジェネレーターを使ってくるでしょうねぇ。そんなとき対抗できる手は少しでも増やしておいたほうが身のためよ」


「でも、オレは」


「それと、その魔石の持ち主はあなたの知り合いよ。お守り代わりにでも持っていなさいな」


 そこで聞いた意外な名前に驚くなか、なかば無理やりにオレの手に握らされた。

 仕方なく、ポケットの中に突っ込んでおいた。

 

 夜になるまで、体を休めようとしたがまるで落ち着くことはなかった。

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