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32. 面会

能力者を捕縛しにいった先で、偶然、兄に会ってしまった。

 能力をつかっているところも見られてたので、おそらく、わたしのしていたことも知られただろう。

 

 魔物と戦っていることがばれると兄は止めるだろうから、いままでフードをかぶり、自分が能力者として戦っていることを隠してきた。

 

(まあ、いまさらだよね。ここまで計画がすすんでるのだから)

 

 榎本さんに協力して進めている計画は、後戻りできなかった。

 絶対に成功させなければならない。そうすれば、わたしの望みがかなうのだから。

 

「おーい、葉月ぃ~」

 

 防衛研究所でデータ取りの手伝いをしていると、榎本さんが入口のほうで呼んでいるのが聞こえた。

 わたしと兄の関係をしってから、まぎらわしいからという理由で、下の名前で呼ばれるようになった。

 

「……なにか?」

 

「いやぁ、おまえの兄貴がさ、おまえに会いたい会いたいっていう連絡をよこしてうるせえんだよ。ちょっと、一回会ってビシッっといってくんねえか」

 

「……わかった」

 

 実験の予定になんとか空きをつくってもらい、明日の昼過ぎに会うことになった。

 

 駐屯地の入口で身体チェックをうけて、中に入ってくる兄の姿がみえた。

 兄はギルド局の制服姿で、わたしはいつものローブを着ていた。

 

「よ、よう」

 

 どこか遠慮するようにこちらに声をかけてきた。

 

「……あまり時間がないから、あるきながら話そう」

 

 わたしが淡々と告げると、眉根をよせて悲しそうな表情をした。

 

 入口から脇にそれて、芝生が敷かれ木がまばらに植えられた細い道を歩きながら話した。

 

「おまえ、自衛隊に入ったのか?」

 

「……ちがう、協力してるだけ」

 

「協力ってなんだよ、榎本に無理矢理やらされてるんじゃねえのか」

 

 兄が語気を強めて聞いてきた。

 

「……わたしの意志、でやってる」

 

「そう、なのか…… もうひとついいか?」

 

「……なに?」

 

「おまえ、能力に目覚めてたのか」

 

「……うん」


 わたしは兄に見えるように、空間の揺らぎをつくりだし、その中に手を出し入れして見せた。


 その様子を、愕然とした顔でみていた。


「新宿駅とか、ショッピングモール、あとドラゴンと戦ったときのもおまえだったのか?」


「……そうだよ」


「なんで、いわなかった?」


「……いう必要がなかったから」


 わたしは突き放すようにいうと、兄はカッと目を見開き怒鳴った。


「そんなに、オレは頼りなかったのかよ!!」


「……わたしは、ただ、異相境界を消しに、いっただけ」


「そう、なのか」


 わたしの言葉をきくと、兄はがっくりと肩をおろしうなだれた。


「……もう時間だから、いくね」


 兄を置いて歩き出した。呆然とした顔で立ち尽くす兄を後ろ目でチラとみて小さくつぶやいた。


「サヨナラ」


 もう二度と会うことはないだろう。


 これだけ突き放せば、わたしのことなどどうでもよくなるだろう。

計画の邪魔をさせるわけにはいかない、美里が遊び回り、兄の生きるこの世界を守るためにも……。

 

 

   ○●○●○●○● 

 


 葉月に突き放されるように別れを告げられた後、ふらふらとあてもなく歩いていた。


(オレは、なんのために戦っていたんだ。葉月のためにとおもってやっていたことは全て無駄だったのか)


 いままで自分の支えとなっていたものがガラガラと崩れていくようだった。

 頭の中を、どうしてなぜという言葉が響いていた。

 

 気づくと、見知らぬ土地にきていた。


「どこだ、ここ?」


 どうやら魔物の襲撃によって放棄されてエリアのようで、あたりには崩れかけた建物など荒廃した光景が広がっていた。


「なんだ、おまえ見ない顔だな」


 あたりをキョロキョロとみていると、不意に横から声をかけられた。

 声がしたほうをみると、薄汚れた服をきた男3人がこちらをみていた。


「……」


 警戒しながら無言で相手を見てると、男たちがへらへら笑いながら取り囲むように近づいてきた。


「なあ、あんた、いい服きてんなぁ。なんかもってたらめぐんでくれねえか」


「邪魔だ、どけ」


 押しのけて進もうとすると、肩をつかまれた。


「逃げんなよ、おい」


「あ゛? 邪魔だっていってんだろうが!!」


 つかんでいる腕を振り払って男を殴り飛ばそうとしたら、軽く受け止められてしまった。


「なにしやがんだ、オラ!!」


「グッ」


 男が殴り返してきて、拳が頬に当たった。


「おとなしく、いうこときかねえから、こうなんだよ」


 男たちが取り囲み交互になぐってきた。腹をなぐられ、痛む腹をかばうように倒れると、背中をつぎつぎに足蹴にされた。


(あーあ、よわっちいな、オレ。イキがって、がむしゃらにがんばってみたけど、めっきがはがれてみればこんなもんだよな)


 名前もしらないチンピラたちになぐられ、土にまみれながら、どこか納得している自分がいた。


 そこに、声をかけてくるやつがいた。


「おい、あんたら、そのへんにしておけよ。死んだら死体の処理がめんどくせえんだよ」


 顔をあげて、声をかけてきたやつをみると金髪頭の小柄な男の姿が見えた。


「ん? あれ、あんたはたしか、ギルドのやつか」


 たしか鬼のおっさんと一緒にいたやつだったかと、思い出した。


「このひと、一応知り合いだからさ、その足どけてやってよ」


「ふざけんなよ、横から急にはいってきて」


「おい、やめとけ。こいつ能力者だぞ」


 金髪男に食って掛かろうとしたが、仲間が止めにはいった。

 男たちは舌打ちをしてから、この場を去っていった。


「立てる?」


「ああ、問題ねえよ」


 オレは立ち上がり、服についた土を払い落とした。


「あーあ、口きれてんじゃんかよ。なんで、あんなやつらにやられてたんだよ」


「うるせえな。まあ、助けてもらったことには礼をいう」


「はあ、素直じゃないねえ。まあいいや、おれたちが拠点にしてる場所にきなよ。手当てもしてあげるからさ」


 金髪男はくるりと振り返り、勝手に進んでいった。


「お、おい、オレはいくなんて…… くっそ、勝手なやろうだな」


 ついた先はもとはデパートだったビルで、裏口の扉から中に入っていった。

 中にはいると、化粧品コーナーだったようで、口紅をぬる女性のポスターが張ってあった。

うすぐらく、ほこりっぽいなかを歩いていると、親しげに声をかけてくるものがいた。


「隆二、おかえり~」


 若い女が、金髪男を笑顔で出迎えていた。


「ただいま、悪いんだけど、こいつ怪我してるみたいだから手当てしてやってくんない」


「あら、ずいぶんと若い子ね。ほら、こっちにきなさいな」


 女は身振りで奥の部屋にくるように促してきた。

 オレは黙ってついていった。


「まったく、男の子はケガばっかりしてしょうがないねぇ」


 女は呆れたような表情をしながら、擦り傷に消毒液をぬり絆創膏をはりつけた。


「……ありがとう」


「お、やっとしゃべったね。ちゃんとお礼がいえるなんて、かわいいとこあるじゃないか」

 女はニカッと笑った。

 笑われているのをブスッと黙ってみていると、上の階からどやどやとたくさんの人間が降りてきた


「隆二~、また新しい子はいってきたの?」


「ちがうちがう、こいつは、ただの知り合いだよ」


「ふーん、そっかぁ」


 金髪男が手をひらひら振りながら否定した。

 その言葉をきき、こちらに興味をなくしたようにそれぞれの作業にもどった。

 治安もよくなく、物資も行き届かない、いつ魔物がおそってくるかもしれない場所に住んでいるが、ここにいるひとたちの表情は不思議と明るかった。


 周りの様子をみていると、金髪男が声をかけてきた。


「なんでこんな場所にすんでるのかとか、おもってるっしょ?」


「ああ、ここは危険じゃないのか」


 心中を言い当てられてギクリとしながらなんとか返事をした。


「この前も魔物が一匹まよいこんできたことがあったよ。撃退したけどね」


 異相境界が発生して一匹だけとは考えられないから、おそらく薬の影響で魔物化したものだろう。


「そうか、がんばってんな」


「まあね~、葛原さんがいなくなっちゃったおかげで、なぜかおれがリーダーみたいに扱いされて大変さ」


 金髪男はやれやれと首を振った。


「ああ、あのときは、すまな――」


「ストップ、あやまんないでよね。あれはおれたちが勝手にやったことなんだから。葛原さんもやりたいことをやった結果なんだから、いいんだよ……」


 金髪男はどこか寂しそうにしながら言葉をきった。


「なあ、へんなこと聞いてもいいか?」


「なんだよ」


「がんばって守ってきたものから拒絶されたら、なにをがんばればいいんだろうな」


「はぁ? 変なこときくやつだな。だれかとケンカでもしたの?」


 金髪男は呆れたようにこちらを見ていた。


「べーつにいいじゃん、それならやめれば。そいつは守ってもらう必要がなくなったんでしょ。だったら、求められてもないのにやるのはおせっかいだよ」


「そうか……」


「そうだよ、葛原さんの相棒であるおれとしてはさぁ、葛原さんのやりたいことをサポートしたかったんだよ。だから、ここのひとたちを守ってやりたいと思ってるんだよ」


「相手のやりたいことをサポートする、か……」


 口をとがらせながらしゃべる金髪男に、おれはうなずいた。


「およ、どうしたの、立ち上がって?」


「用事を思い出してな、世話になった」


「そーお、んじゃあね」


 金髪男は手を振ってオレをおくりだした。

 

 ビルを出るとすっかり日が暮れて、夜空に星が瞬いていた。

 伸びをしながら深呼吸をすると、肺の中に冷えた空気が入ってきて、頭がシャキっとしてきた。

 足に力をこめて走り出すと、周りの風景を置き去りにしながら夜の廃墟の街を疾走した。


(おれは、あいつに…… 葉月に、自分の願望をおしつけていただけだったんだろうな)


 目の前をふさぐ倒壊した建物をジャンプし飛び越えた。


(あいつの望みなんて考えようともしなかった。こんなんで兄貴面してたなんて笑えるな)


 自嘲を浮かべながら、地面をけりたててひたすら走り続けた。


(あいつの望みは、いったいなんなんだ。榎本たちといっしょにいてできることか)


 考えてみたがさっぱり見当がつかなかった。

 そういえば、別れ際に金髪男に忠告を受けていた。


『ああ、そうだ。このあたりで能力者狩りがあったから気をつけたほうが良いよ』


『この前、高校生のカップルが逃げてきたのを見かけたんだけど、隠れているところに榎本と自衛隊入っていったんだよ。そのあと、カップルの片割れが縛られたまま運び出されていったね』


『自衛隊のうしろに小学生と中学生ぐらいの小さい女の子が二人ついていってるのが妙な感じだったなぁ』


 この前、路上で榎本と会ったときも、葉月といっしょに中学生ぐらいの女子が一緒にいた。金髪男のはなしに出てきた人間と一致している。


(葉月、おまえは一体なにをしようとしているんだ)


 別れ際の表情を思い出しながら、葉月のことを考えた。

 

 

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