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28. 協力

 金城さんからの提案を聞いた後、市ヶ谷駐屯地にいるという知り合いに会いにいくように言われた。


 迎えの車にのって駐屯地に入ると、入口正面にあった建物内の小さめの部屋に通された。


 部屋の中でイスに座って待っていると、扉がひらきパーマがかかった栗色の髪をした中学生ぐらいの女の子が入ってきた。


 目の前にずんずんと近づいてきて、目の前に立つとこちらをにらみつけるように見下ろしてきた。


「あんたが新入りの子?」


「………」


「な、なによ、なにかいいなさいよね。わたしはあんたの先輩なのよ」


 威圧するように腰に手をあてて、こちらを見下ろしていたが、その態度は虚勢をはって自分を大きくみせているようで、どこかぎこちなかった。


「……葉月」


「うん?」


「……わたしは、結城葉月」


 聞き返してきたのでもう一度いった。


「ふぅん、結城ね。わたしは広崎鏡よ。いい、ここはあなたみたいな子供が働ける場所じゃないのよ。今のうちに早く帰ることね」


 そこにスーツ姿のめがねをかけた男が、ドアを開けて入ってきた。


「榎本二等陸尉!! お疲れ様です」


「よーう、またせたな。ん? 鏡はもうきてたのか、まあいっか」


 広崎が顔をぱっと明るくさせた笑顔を、榎本に向けていた。


「オレは榎本ってもんだ。おまえのことは金城から聞いたぜぇ、まさかウワサの能力者から近づいてきてくれるとは思わなかった」


「……どうも、榎本さん。結城葉月です」


「結城!! ちゃんと榎本二等陸尉ってよびなさいよ」


「いーんだよ、こいつは。自衛隊にはいったわけじゃなくて、ただの協力者なんだからよ」


「榎本さんが、そういうなら……」


 広崎は不承不承といった様子でうなずいた。


「金城から計画の内容を聞かされているとは思うが、計画に協力してくれるってのは本当か?」


「………もちろん」


 うさんくさそうな笑顔をうかべながら話す榎本さんにうなずいた。


「ふうん、変わったやつだな。いや…… おまえもか」


 わたしの目を覗き込み、なにか察したように真顔になったあと、また飄々とした表情にもどった。


「こ~れで計画は最終段階まですすめられるぜ。いやあ、よかったよかった」


「榎本二等陸尉、計画とはなんでしょうか?」


「あ~、わりい。機密情報なんで一部の人間にしか教えられないんだわ」


「……そうですか。失礼いたしました」


 広崎は榎本さんの返答に落ち込んだあと、こちらを横目でにらんでいるのが見えた。

 その様子をどこか面白そうな顔で榎本さんが見ていた。


「んじゃ、結城、おまえさんの仕事を説明するぜ。基本的には計画への参加と、もうひとつ、オレが指揮する特務隊への協力だ」


 そこで、榎本さんは自分のとなりに立っている広崎を手で示した。


「こいつは、特務隊所属の能力者で広崎鏡っていうんだ。自衛隊のなかでも少ない能力者同士なかよくしてくれや」


「わたしのいうことをちゃんとききなさいよ」


「……よろしく」


 広崎は得意げに胸を張りながら高圧的にいってきた。


「さーて、それじゃあ、さっそくで悪いがこれから出動だ。これからいってもらうのは悪人退治だ」


「……悪人?」


「そう悪いやつだ。能力者が街で悪さしてるらしいから、そいつらをな、やっつけにいくんだ」


「悪人から市民をまもるんですね!!」


 広崎が目をキラキラさせながら榎本さんのほうを見ていた。


「ようし、それじゃあ、はりきっていこうか~」


「了解です!!」


「……了解」


 建物をでると、特務隊の人間がすでに整列して待機していた。


 榎本さんをみると一斉に敬礼した。


「こいつは入隊はしてないが、協力者だ。よろしくやってくれ~」


「ハッ!! 了解しました」


 返事をした自衛隊員たちはキビキビした動作で、数台のジープに別れて乗り込んでいった。

 榎本さんや広崎と同じ車両の後部座席にのると、エンジン音を響かせて出発した。


 到着した先は魔物被害により放棄された区域だった。

 瓦礫が散乱した道路は車での侵入が困難であったので歩いて進んだ。

 ゴーストタウンと化した街中を進んだ先に、元は居酒屋などの店舗などが入っていた雑居ビルが見えた。


 雑居ビルから死角になる位置に、戦闘服に身を包んだ人間が見張っていた。


「見張りご苦労さん、やつらは逃げ出してないか」

「ハッ!! 異常なしであります」


「そうかそうか、よし、隊を2つに分けて非常用通路を封鎖後、入口から突入を開始する」


 片方のグループが建物裏に回りこみ、榎本さんにつづいて正面口脇に待機した。


「おーけー、裏口の封鎖完了だとさ。んじゃ、突撃開始」


 榎本さんの言葉をきいた自衛隊員が銃をかかえて、足早に入っていった。

 1階ホールにはいると、中は暗く各階につながるエレベーターがあった。

 電気はすでに通っていないため各階につながる階段を、懐中電灯で照らしながら上っていった。

 最上階となる5階にたどりつくと、居酒屋チェーン店の中から明かりがもれ人の気配を感じた。


「突入」


 榎本さんの掛け声とともに、自衛隊員が一斉に中に入っていった。


 その後から入っていくと、中は広い店内にテーブルとイスが並べられた空間となっていた。

 入口付近に展開した自衛隊員が、奥にいる2人の男女に銃口を向けていた。


 高校生ぐらいの、メガネをかけた気弱そうな男の子と、まなじりを上げてこちらをにらむ気の強そうな女の子で、どこにでもいそうな見た目のひとたちだった。


 榎本さんが腕を広げながら歩みでて、にやにや笑いながら話しかけた。


「はろ~、少年少女。われわれは自衛隊のものだ。君たちには能力者措置法違反で捕縛命令がでている。おとなしく投降したまえ」


「ぼくたちがなにをしたっていうんですか!! 襲い掛かってきた頭のおかしな連中を追い払っただけですよ」


「そうだよ、孝志はなにも悪くない。それに相手にケガもさせてないでしょ」


 榎本さんに反論するように男の子が必死に声を張り上げ、かばうように女の子も横にたった。


「いいねー、じつに美しい。君たちはたしか幼馴染だったらしいね。能力者である彼をかばうための逃避行!! 青春ってかんじだなぁ」


 まるで演劇役者のようにセリフをしゃべりながら足音を響かせて歩いていた榎本さんが、ピタリと足を止めた。


「そういう無駄な努力をするやつみるとさぁ、つぶしたくなるんだよ」


 榎本さんが手を挙げて合図をすると、隊員たちが一斉に銃口をむけて銃撃を開始した。

 相手の二人はテーブルの陰に身を隠して銃弾から身を守っていた。


「ぐあっ」


 そこに、銃を構えていた隊員のもとに、紫電がほとばしり銃にあたると、ショックで体をピンと硬直させて昏倒した。


「引いてください!! 本気で当てますよ」


「ほう、これが報告にあった雷撃の能力か」


 テーブルの陰から男の子の声がきこえたが、気にする様子もなく榎本さんが声をあげた。


「鏡、やれ」


「了解しました!!」


 榎本さんの命令を聞きうれしそうにしながら、広崎が前にでた。


「君、あぶないから逃げるんだ」


「あー、もううるさいわね。おとなしく捕まりなさいよ」


 男の子が警告するために広崎に声をかけたが、構わずズンズンと近づいていった。


「くそっ、しょうがない」


 紫電が広崎にほとばしったが、何かに阻まれるように途中で散らされ効果を表さなかった。

 良く見ると、広崎を中心にドーム状にひろがる半透明の膜が見えた。


「な、なんで!?」


 その後、何度も広崎にむけて能力を使ったが、すべて広崎に届く前に途中で散らされた。


「さっきから……うっとうしいのよ!!」


 広崎がとうとう、男の子の前に到着すると、半透明の膜が急速に広がった。膜が男の子の体を押していき、壁に押し付けた。


「孝志、孝志!!」


 壁におしつけれらて苦悶の表情を浮かべる男の子を助けようと、女の子の方が両手でガンガンと膜をたたいていた。

 とうとう、男の子は白目をむいて気絶したようだ。


「おーし、よくやったぞ、鏡。男の方を確保、女のほうは…… めんどいから殺していいや」


「了解しました!!」


 榎本さんに声をかけられて、うれしそうにほほを染めた後、広崎は女の子のほうに冷めた目をむけた。

 膜が消されて、圧迫によって気絶した男の子がどさりと床に倒れた。


「あんたはいらないから、死ね」


 膜が女の子のほうに広がり、壁におしつけた。


「や、やめ、グ、ガグガガ」


 体から骨の折れる音をたてながら壁にめり込んでいき、口から血をはきだし目から光が消え、人形のように力なく崩れ落ちた。


 わたしはその様子を黙ってみていた。


「状況終了~、撤収するぞ」


 隊員の二人が、気絶した男の子の足と肩をもち運んでいった。

 駐屯地にもどる車のなかで、広崎が榎本さんに話しかけた。


「これで、5人目ですね。まったく、ちゃんと法律を守らないやつらがおおくて困ったものですね」


「そーだなー、ほんと困るよなぁ」


 まったく困った様子ではなく、むしろどこか楽しげにニヤニヤわらいながら榎本さんは相槌をうっていた。


「ところで、捕らえた能力者をつれていくのは警察ではなく、駐屯地で拘束しているのはなぜでしょうか?」


「それはだなー、通常の施設だと能力者が逃げるから、自衛隊の中で押さえつけておくためさ」


「なるほど、すいません、つまらないことをきいてしまって」


 二人の話している姿を横でみていると、駐屯地に車が到着した。

 拘束した男の子は、厳重に拘束された状態で奥のほうにある建物につれていかれた。


「おっし、お疲れさん。今日はこれで解散だ。結城はこの後、研究所の連中がおまえの能力をみたいらしいから、来てくれ」


「……わかった」


「榎本二等陸尉、わたしもついていってよろしいでしょうか?」


「おまえにゃ関係ない話だから、てきとーに待機してろ」


「なんで、あんただけ……」


 榎本さんの後をついていくわたしを、広崎がにらみつけていた。


 研究所は駐屯地の奥にある建物で、入口の両脇には2名の自衛隊員が銃を抱えて警備にたっていた。


「よう、ご苦労さん」


「ハッ!! どうぞ、お通りください」


 正面の分厚い鉄でできた扉を開き中にはいると、白い壁で囲まれたリノリウムの廊下が奥まで伸びていた。


 廊下を進んでいき、前を歩く榎本さんがとある部屋のまえに立った。扉の横には『特殊装備開発室』とかかれたプレートがついてあり、榎本さんが扉にすえつけられたカードリーダーに磁気カードを通した。


「おーい、連れてきたぜ。こいつが結城葉月、空間干渉の能力者だ」


「榎本二等陸尉、おまちしてました。この子がそうなのですね」


 部屋の中にいた数名の白衣姿の男たちが、興味深そうそうにこちらをみていて、そのうちの分厚いメガネをかけたおじさんが榎本さんと話していた。


「……どうも」


 わたしはとりあえず、会釈をした。


「ギルド局の金城さんから送られてきたデータから、装置の理論はほぼ固まっていたのですが、キーとなる部分がどうしても解決できませんでした。しかし、これでなんとかなりそうです」


「そうか、そいつはよかった」


「試作品はほぼできあがってるので、これからいくつかの実験につきあっていただけますか?」


「いいぞー、というわけで結城、こいつらに協力してやれ」


「……わかった、なにを、すればいい?」


 わたしはメガネのおじさんに向き直り、説明を受けた。


「では、こちらに試作機があるので、よろしくお願いします」


 部屋の奥を示すメガネのおじさんについていこうとしたら、急に立ち止まり榎本さんに声をかけた。


「おっと、忘れるところでした。必要な能力者が来たことですし、もう一つの実験も前倒し進めようとおもいます。榎本二等陸尉、さきほど運ばれた被験者での実験おねがいしますね」


「わーったわーった、ちゃっちゃとすませてくれ」


 榎本さんは別の部屋に、他の研究者に案内されていった。部屋の中をちらっとみると、さきほど捕縛した能力者の男の子がベッドに拘束されているのが見えた。


「結城さんはこちらにお願いします。さあ、いそがしくなるぞー」


 メガネのおじさんはワクワクした表情で、ずんずんと進んでいった。



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