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17. 能力者排斥派団体

 その後、発生した魔物に対して自衛隊による対処が進み、ギルド局からの出動回数は減った。

 ギルドの厳戒態勢が解かれ、オレは学校に通えるようになった。

 学校では、他の生徒たちが腫れ物に扱うような態度だったのは変わらないが、ときおり敵意の交じった視線をぶつけられるようになっていた。


(なんなんだ、気にくわねえな)


 イラだちながらも、授業が終了しギルド局に向かった。

 途中の道で妙な集団を見つけた。


「――――であるからに、能力者などというわけのわからない連中にたよらずとも、魔物を一般人でもたおせる。われわれの平穏は、わらわれによって守るべきなのだ!!」


 道の途中で、拡声器をもったおっさんが大きな声でしゃべっていた。

 その周りには、サラリーマンや主婦など10数人が集まっていた。

 変わったやつらがいるなと思いながら横を通り過ぎようとしたとき


「そこの学生さん。きみも聞いていくといい。これからの時代を担っていく若いきみたちにこそ聞いてほしい」


 そこに、群集のひとりがおれの前にたって語りかけてきた。


「邪魔だ。オレは、いそいでんだ」


「おい、君!!なんだね、そのいいかたは。これだから若いやつらはなっとらんのだ」


 そいつの言葉に反応して、周りのやつらがこっちを向いた。


「どうしましたか?」


「この学生が反抗的な態度をとってきたもので」


「まあ、それはいけませんね」


 口々にいってきて、かなりうんざりした気分になってきた。

 拡声器をもって群集に語りかけていた男がオレに話しかけてきた。


「ちょうどいい、若いひとの意見も聞きたかったんだ。魔物を能力がないものでも倒せるようになったが、ギルド局はいまだに必要だとおもうかね」


「しらねーよ、そんな他の人間のことなんざ。自分が守りたいものを、守っていけばいいだろうが」


「君は自分とその周りだけが安全なら、それでいいとうことか」

「なんという身勝手な」

「大変なときだっていうに、自分さえよければいいなど恥を知れ」


 オレの言葉をきいて、さらに周りがヒートアップし、顔を真っ赤にしながらオレに詰め寄ってきた。


 相手にするのもバカらしくなり立ち去ろうとすると、逃げるな卑怯者とオレの背中に怒鳴ってきた。勝手にやってろよとうんざりした気分で歩いていった。


 ギルド局についた頃には、すでにかなり疲れた気分になった。


 入口のドアをくぐったところで金剛さんに会った。


「どうした、そんな疲れた顔をして」


「ここに来る途中妙な連中に絡まれちまいまして」


 オレは、連中のことについて説明した。


「そうか、能力者排斥派の連中だな。能力者に頼ることを悪とし、自分たち力だけで防衛を目指しているやつらだ。やつらも最初のころは特に相手もされていなかったが、最近の自衛隊の活躍の尻馬にのって勢いにのってきてるらしい」


「そうなんですか…… おれたちのやってきたことってなんだったんでしょうね」


「そう腐るな。いままでやってきたことは無駄じゃないはずだ」


「はい、そうッスね……」


 金剛さんに励まされて、力なくうなづいた。


 別の日も、能力排斥派の連中が街角で、道行くひとに声高に語りかけていた。集まっている人数は昨日よりだいぶ増えているようにみえた。


 次の日、学校が終わり宿舎に帰ろうとしたら、ギルド局の敷地の門の前をふさぐように人だかりができていた。


「ギルド局はもう必要ない!!」

「税金どろぼー!!」

「能力者なんていなくなれ!!」

「自衛隊がいれば大丈夫だ!!」


 建物にむかって群集が口々に大声を出していた。


「なんだこりゃ……」


 遠巻きにみていると、同じように学校からきたらしい赤井が隣にたって、迷惑そうな顔をしながら連中をにらんでいた。


「なによ、こいつら邪魔ね」


「たしかに邪魔だけど、どうすっかな」


「いまからどかしてくる」


「おい、まてよ」


 赤井がずんずんと大またに進んでいき、とめようとしたが聞かずに突っ込んでいった。


「あんたら、邪魔よ!! 通報されたいの」


 赤井が仁王立ちしながら大声で連中の後ろから声をかけた。すると、群集の中央に陣取っていた、ポロシャツ姿の頭頂部がはげた中年の男がイラだった顔をしながら振り返った。


「なんだね、きみは」


「あたしはギルド局員よ。そこにいると入れないから、さっさとどっかいって」


「きみのような子供がギルド局員だと!! やはり、ギルド局は腐敗しているというのは間違いないようだ」


「わたしは勇者として戦ってきたわ。なにもしてこなかったあんたたちに、文句をいわれる筋合いはない」


「きみが勇者だって? ますます滑稽だな。さぞかし凄い能力があるんだろうな。見せてみたまえよ」


「そうだ、そうだ」


「いいわよ、いまからアンタを丸焦げにしてやろうじゃないの」


「お、おい、赤井」


 はやし立てる群集に、赤井はにらみつけながら手をかざそうとした。

 そこに、赤井に近づいてくる小さな影があった。


「……花梨、だめ」


 葉月が赤井の腕を握って、首を振っていた。


「ッッッ、しょうがないわね」


 赤井が葉月をみてから、気分を落ち着けるように大きく息をすってはいた。


「まさか、そっちの小さい子の方も勇者だっていうんじゃないだろうな」


「……」


 男が嗜虐的な笑みをうかべながら、葉月につめよった。葉月はそんな男を無表情のまま見つめていた。


「ちっ、黙ってないで、なんとかいったらどうなんだ!!」


 男は顔を赤くして、葉月の肩に手をおいて怒鳴った。


「おい!! テメェなにしてやがる!!」


「な、なんだね、君は」


「うるせえっ!!」

 男の葉月に対する仕打ちに我慢ができなくなり、男に近づき地面を足で踏み抜いた。


「うわ、なんだ!? 地面が陥没してる……」


 オレが踏み抜いた足下は陥没し、周囲のアスファルトの舗装にヒビが広がっていた。その光景をみた、群集たちがどよめき、顔には恐怖を浮かべていた。


「ひ、ひぃぃぃ、助けて、殺される!!」


 葉月をつかんでいた男が、地面の亀裂に足をとられしりもちをつきながら叫び声を上げていた。


「あ~らら、ギルド局の勇者様が一般市民をいじめてるよ」


 そこに、ふざけたような口ぶりをしながら榎本と、装備に身を固めた自衛隊隊員があらわれた。


「榎本、何のようだ。いま取り込み中なんだよ」


「通報があってきてみたら、一般市民をギルド局の人間が能力を使って攻撃をくわえてるところ見ちゃったところでさ。やっぱ、市民をまもる自衛隊としては、これは捨て置けない状況ってやつなのさ」


 さらに、榎本はニヤニヤしながら話し続けた。


「能力者措置法にも、能力による人間への攻撃は処罰の対象となってるんだよなぁ。こーれは、まずいよなぁ」


「てめぇ……」


「おーっと、動くんじゃねえぞ」


 榎本が手に持った鈍い銀色をした装置を操作した次の瞬間、いきなり体が重くなり、地面に膝をついた。


「なに、しやがった」


「いやー、装備課の連中いいおもちゃつくったじゃねえか。ほら、ここにはまってるのはな能力者の魔石でな、この“ジェネレーター”って装置を通して誰でも能力を使えるようになるらしいぜ」


 手に持った装置をオレにみせつけながら、楽しげに笑っていた。

 この能力、どこかで見覚えがあるとおもったら、新宿駅で魔物を襲われていたチンピラのひとりのものだった。


「まさか…… あいつを殺して魔石をうばったのか」


「さーてどうだろうな。よし、お前ら、ここにいるギルド関係者を拘束しろ」


 自衛隊員たちが赤井と、葉月に向かっていった。


「赤井と、葉月は、関係ねぇだろうが!!」


「いーや、関係あるね。大丈夫、ここにいる善良な市民の証言によってきみたちの罪は確定したことになる」


「てんめぇぇぇぇ!!」


 オレは両足に意識を集中し、体への負荷に耐えながら立ち上がった。


「おー、すっげえな。さすが身体能力強化系はちがうねぇ。オレも本気ださなきゃだめかな」


 そういうと、榎本の瞳に剣呑な光が宿り、手のひらを俺に向けてつきだそうと構えをとった。


「えのもーとくーん、ひとんちの前でなーにしてるのかな」


 近づいてきた手をつかんで止めたのは、神埼局長だった。

 つかまれた手をふりほどき、榎本は後ろに下がって距離をとった。


「ちっ、なんでおまえがいるんだ。防衛省のお偉いさんと会っているはずだろ」


「そっちなら途中で切り上げて、いまごろ敷島君が相手してるよ」


 にこやかな顔をしている局長を、面白くなさそうな顔をして榎本がにらみつけていた。


「まあいい、てめんとこの人間が市民に手をだしたんだが、どーするつもりだ」


「ほう、そーれはおだやかじゃないね。証拠はあるのかな」


「証人ならそこにたくさんいるぜ。なぁ」


 榎本が群集の中の一番目立っていた男に同意をうながすと、男はうなずいた。


「うーん、たしかあなたは…… ああ、そうだ」


 男を見ていた局長が、何かを思い出したようにうなずくと


「防衛省の所管法人につとめてる岩崎さんでしたね。こんなところで油うってていいんですか?」


「な、なにをいってるんだ。わたしは一市民として抗議活動に参加してるだけだ」


 局長のことばをきき、男は目を見開いたあと挙動不審になった。そして、横目で榎本の方をチラリとみた。


「じーつは、お二人は仲良しさんなんじゃありませんかねぇ」


 局長が三日月のように口を横にひいて笑い、男に近づいた。

 緊迫した空気のなか、赤井やオレ、局長、葉月の携帯電話から着信音が流れた。


「ちょっと、失礼、緊急の電話のようなのでね」


 局長が電話をとり、おれもつられるように電話にでた。


『至急、ギルド局に集まってください。いままでにない規模の異相境界が発生しています』


 電話口からは緊急を告げる内容を伝えられた。


「おっと、どうやら緊急事態のようだ。結城君、赤井君いそいでギルド局にむかうよ」


「おいおい、まてよ、こっちの用事はすんじゃいねーぞ」


 榎本が引きとめようとしたところで、自衛隊員がちかづき耳元でなにかをささやいた。


「はぁ!? 特務隊も魔物の襲撃への防衛にむかえだと!! くっそ、めんどくせえな。おい、撤収して駐屯地に向かうぞ」


 榎本が指示をだし、自衛隊員とともに去っていった。

 そこに、さきほどの男たちが怯えた表情で話しかけてきた。


「あの、わたしたちは、どうすれば……」


「あなた方は能力者にたよらずに、自分たちでなんとかできるんだろう。どうぞお好きになさってください」


 局長がバッサリ切り捨てるようにいうと、絶望した表情の男たちをおいて、いっしょに足早にギルド局に向かっていった。


 葉月にはギルド局建物内にあるシェルターに避難するようにいって、慌しい空気につつまれたギルド局にはいった。


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