16. 魔銃
朝、葉月と別れてギルド局に向かった。
(あいつ、大丈夫かな、表情にださないからいまいちわかんねーんだよな)
葉月のことを考えながら、建物に入ると敷島隊長がいたので挨拶した。
「すまんな、学校があるのにきてもらって」
「いえ、最近じゃ授業中に、学校からここまで走ってきてるので、むしろ助かるッス」
敷島隊長がすまなそうな顔をしていた。
「あーっと、待機している間ってなにすりゃいいですかね」
「そうだな、特にやることもないし、装備の点検でもしててくれ」
「りょーかいッス」
普段からギルド局にいる敷島隊長や柊さんは、いつもどおりやってる書類仕事などをやっているそうだ。
どうやら待機中はなにかヒマをつぶせるものが必要そうだ。
勇者の装備が保管されている部屋にはいると、赤井がいた。
「よう、おまえも武器の点検か」
「そうよ、といってもアタシの場合、能力で戦うから武器なんて使わないんだけどね」
そういいながら、任務中携えてる小銃を分解点検していた。赤井が銃を撃っているところをみたことはなく、本人はおまもり代わりに持っているらしい。
おれも自分のロッカーの中から、六角棒を取り出した。自分には剣や槍よりも、ただぶっ叩くだけでいいこいつが性にあっていて、ギルド局に入ってからずっと使い続けていた。
ただの六角柱形の鉄柱にもち手がついただけのものだったが、ところどころ傷がついたり、汚れが染み付いてた。
こいつを片手に、経験してきた戦いを思い出しながら、六角棒を見ていた。
ギルド局の入口のほうから、大きな声で怒鳴る声がきこえてきた。人数は複数のようで、かなり騒がしかった。
気になって、六角棒をロッカーに戻してから、入り口の方をのぞいていみた。
そこには、どこにでもいそうな普通の格好をした中年男性が十数人、口々に怒鳴り声をあげていた。
「最近、魔物の出現頻度があがっているが、ギルド局はなにか知ってるんじゃないかってきいてるんだ!!」
口々にまくしたてて、入口受付にいる女性が困った顔をしていた。
そこに、神埼局長が微笑をうかべながら、ゆっくりと歩いて近づいてきた。
「やあやあ、市民の皆様方。いかがなさいましたか」
「あんたはだれだ」
「私は、ここのギルド局東京支部の局長である神埼です。なにか、御用があるのでしたらうかがいますよ」
局長はメガネのふちを手で押し上げながら、男たちを余裕の笑みを浮かべながらでみていた。
「じゃあ聞くが、最近の魔物の発生の多さについて、なんか知ってるんじゃないのか。どう考えても最近のは多すぎる!!」
周りの男たちも「そうだ、そうだ」とはやしたて、局長をケンカ腰の態度で見ていた。
「たしかに、魔物の脅威は高まっており、原因については目下調査中です。ですが、ご安心ください!! 発生した魔物は、われわれギルド局の勇者が、安全、安心、手早く、魔物をパパッと処理いたします」
「口でいうのは簡単だが、ほんとに大丈夫なんだろうな」
「では、自衛隊をたよりますか? 彼らなら街ごと焼き払い確実に魔物をたおしてくれますよ」
「うっ、それは、困る」
ギルド局が出来上がる以前は、ミサイル攻撃など高火力によって多くの街が魔物ごと焼き払われていた。
「もしものときは、ギルド局に避難してください。われわれが全力をもっておまもりいたします」
局長がにっこりと笑いながらいいきると、男たちはしぶしぶ引き下がっていった。
男たちが建物からでていったのをみてから、局長が周りを見回した後、様子をみていた局員たちに話しかけてきた。
「みていた諸君、市民は不安がっているようなので、きみたちが華麗に魔物をやっつけて、大丈夫だということをアピールしていってくれ、ハァーハッハッハー」
高笑いを上げながら、局長は去っていった。
相変わらず、組織のトップとは思えないおかしな人だった。
数時間後、ギルド局内に緊急放送が流れた。
『異相境界の発生を確認、勇者小隊のメンバーはすぐに準備をせよ』
ヒマをもてあましていたので、不謹慎ながらやっときたかと思った。
ブリーフィングルームに入り、神埼局長からの説明をうけた。
「現在、品川区南エリアに異相境界の出現を確認した。発生したのはキャタピラー、キラービー、アーマースコーピオンと虫系の魔物が多数いるそうだ。やつらは、毒をもっているから十分に注意しろ」
出動するのは、毒にも対応できる柊さんがいる勇者小隊03と01がいくことに決まった。
着いた先の現場は、住宅街で、ちかくにはマンションや家が建っていた。
いつもどおり、敷島隊長がまわりを封鎖している自衛隊の指揮官に挨拶しにいった。
「やあ、ご苦労さん。いまごろ来ても、あんたたちの出番はないと思うがね」
指揮官の男はニヤニヤわらいながら、意味ありげなことをいっていた。
「それはどういうことか、聞かせてもらえますか」
「いったら分かると思うぞ」
質問する敷島隊長に、うっとうしそうに指揮官の男は返事をした。
戻ってきた敷島隊長と金剛さんが話し合いを始めた。
「なんだか気にはなるが、まあいい。さっさと済ませよう」
「そうだなあいつらのことは気にしないほうがいい。敷島、おれは前で戦うから指揮を頼む。卯野は敷島のサポートについてくれ」
卯野さんが「あいよー」と返事をすると、頭から二本のうさぎの耳が飛び出てきた。それから、目をつむりまわりの音を拾い始めた。
「えーと、12時の方向の路地を曲がった先にに3体が固まっています。ほかには10以上が点在しています」
そういって、目をあけると
「あー、もう、ブンブン虫の羽音がうるさくて、数が把握しきれないよ」
「いやいい、それだけわかれば上出来だ。まずは、固まっている3体を倒すぞ」
敷島さんが号令をだし、小隊01と共に路地を進んでいった。
家の塀の角から先をのぞくと魔物がいた。
そこには、緑色で人間サイズの芋虫であるキャタピラーが3体いた。
「ひっ」
嫌悪感をもよおす見た目に、全員が顔をしかめた。特に、柊さんが小さな悲鳴をあげ顔を青ざめさせていた。
「あいつらはねばつく糸を吐いて、動けなくなった獲物を捕食する。口をむけてきたら気をつけろ」
敷島隊長から全員にいいきかせると、攻撃を仕掛けた。
「燃えろ!!」
「氷よ、貫け!!」
赤井の炎と、水無瀬さんの氷の槍がキャタピラーに向かって同時に飛んでいったが、いまいちダメージをあたえられなかった。
「あー、もう、アンタの氷のせいで、あたしの炎がよわまったじゃないの」
「あんたこそ、タイミングをずらして攻撃しなさいよ」
「なにやってんだ、おまえらは…… いくぞ結城、草薙」
金剛さんの掛け声にしたがって、キャタピラーに向かって飛び出していった。
金剛さんが走っていった勢いのまま、左手にもった大盾をキャタピラーの鼻先にぶつけた。
のけぞったところに、草薙さんの刀によって胴体から真っ二つになった。
他の一体が糸を吐こうと、口を草薙さんに向けていたので、上から六角棒を振り下ろした。
「オラアアァァァ!!」
叩き潰されたキャタピラーは体液を撒き散らしながらつぶれて動かなくなった。
そこに残る一体が突進してこようとしたところに、氷の槍が何本も突き刺さり倒した。
「ほーら、わたしの氷ならあんたみたいに周りをまきこまないから便利でしょ」
「ぐぬぬ」
自慢げに赤井を見下ろす水無瀬さんに、赤井が握りこぶしを震わせていた。
「はぁ、数も多いみたいだし、うちとそっちで手分けするか」
敷島隊長がため息をつきながら、指示を出そうとした。そこに、卯野さんが首をかしげながら声をだした。
「あれ? おかしい、魔物の数がどんどん減っていってる」
「どうした、卯野。状況を説明しろ」
「えーと、魔物をさがそうとまわりの音を拾ってたのですが、拾っている最中にもどんどんへっていってるんですよ…… あ、全部いなくなった」
「とりあえず、周囲の状況を確認するか」
小隊01と一緒にすすんでいくと、そこには魔物の死体が転がっていた。
「だれが倒したんだ。ほかの勇者小隊がくるって聞いてるか?」
「いや、おれたちだけのはずだ」
金剛さんの問いかけに、首をひねりながら敷島隊長が返事をした。
さらに進んだ先でも魔物の死体が道の上に、点々と転がっていた。
やがて、自衛隊の戦闘服に身を包んだ男たちが、異相境界の周りを囲むように立っているのを見つけた。
「よう、ギルドの連中か。ここの魔物はあらかた倒しちまったぜ」
男たちのなかから、へらへらと笑いながら砕けた調子で話しかけてくるスーツ姿の男がでてきた。
「おまえは、榎本!!」
「教育がなってねえな、年上にはちゃんとさん付けしろって教わんなかったのか」
「榎本特務官、まさか、あなた一人で全部たおしたのか」
「まっさかー、そんなしんどいことするわけねーじゃんよ」
そういって、榎本は肩をすくめた。
そこに、異相境界が明滅しだし、空を飛ぶ巨大なハチの魔物キラービーが1体出現した。
「おっと、またでたな。撃て」
榎本が指示を下すと、男たちは、ライフルのような形をした奇妙な銃を構え一斉に発砲した。
「なっ!?魔物を銃で倒しただと……」
銃弾によって体を撃ち抜かれた魔物は、力なく地面に落ちた。
「この銃は特別製でなぁ。装備課の連中は“魔銃”なんて呼んでたな」
驚くオレたちの反応を楽しむように、榎本は自慢げに語っていた。
それから、ほどなくして異相境界の消失の確認を告げる連絡が入った。
「じゃーなー、能力なしでも魔物を十分倒せることがわかったし、おまえらギルドは用済みになるのかもな」
去っていく榎本は口元をゆがめながら、楽しそうな表情をしていた。
○●○●○●
ギルド局にある研究室のさらに奥にある班長用の部屋の中で、机の前に座って作業をする金城の姿があった。
部屋のなかは窓もなく、薄暗い中、机につけられた照明が机の上に置かれたものを照らしていた。
「へぇ、これが魔銃か。自衛隊もおもしろいものつくるわね」
感心したような口調でいじっているのは、ライフルのような形をした大型の銃だった。
「なるほど、ここにはめられた魔石からエネルギーを取り出して、銃弾に伝わるようにしているのね。妙な形をしているとおもったら、銃に擬似的な魔紋を施して、エネルギーが銃弾まで伝わるようにしていたのか」
金城はぶつぶつとつぶやきながら、銃の側面についている赤い色の石を観察していた。
そこに、扉をノックする音が聞こえた。
「あー、はいはい、ちょっとまってね」
ばらした銃の部品を乱雑に机の引き出しにしまい、錠をかけた。
扉まで歩いて鍵を解除してから開けると、そこには困り顔の男が立っていた。
「部屋を暗くして、扉に鍵をかかっていたので、いないと思いましたよ。まったくもう」
「ごめんね。ちょっとお昼寝してたもんだから」
「はぁ、それでこの間のことですが―――」
呆れ顔の男が話しだし、金城は後ろ手で部屋の扉をしめて、研究室の方に入っていった。
用件が済んだようで、金城が班長室にもどってきた。
「やれやれ、班長ってのも楽じゃないわね」
机の前に座り、引き出しに隠していた銃の部品を取り出し観察し始めた。
「だいたい見終わったかな。とりあえず、榎本君に感想でもいっとくか」
金城は携帯電話をとりだし、ボタンをおして通話しはじめた。
『あ、もしもし、榎本くん。魔銃みたわよ。なかなか興味深い機構してたわね』
『そういう技術的なことはオレは興味ないんでね。銃を提供した見返りの件よろしくな』
『はいはい、つまらない男ね。それじゃあ切るわよ』
金城は携帯の通話を切り、また机に向かって作業を開始した。




