12. 感謝という苦痛
襲撃を受けていた“鬼”の潜伏先に移動し、最後の一人を空間のひずみに通して脱出を完了させた。さっきまでいた学校跡と別区画の人気の無い場所に飛んできた。
「嬢ちゃん、助かったぜ」
「……気にしないで」
鬼のおじさんが笑いながらお礼をいってきたので、
わたしは首をふりながら返事をした。
「榎本のやろう、ギルドの連中の手を借りた上で、伏兵まで潜ませやがって、本気でつぶしにきたな。オレの読みが甘かったせいだ。みんなスマン」
「なーにいってるんスか。葛原さんがいなければ、おれたちとっくにやられちまってますよ」
みんなに頭を下げる鬼のおじさんに対して、みんながねぎらいの言葉をかけていた。
そこに釣り目で頭を金髪にそめた、兄さんと同じぐらいの年の男の人がわたしのことをじっと見てきた。
「それにしても、このおチビちゃんはだれですか? 葛原さんのお知り合い?」
「ああ、まあな。この前知り合った」
「へー、ねえねえ、そのフードとって顔みせてよ」
興味深そうにこちらをのぞきこんでこようとする金髪の男に、鬼のおじさんがたしなめるように声をかけた。
「おい、隆二、あんまり詮索するんじゃねえよ。能力者ならワケありなやつらが多いのは知ってるだろ」
「そうですね。ごめんね、おチビちゃん」
金髪の男の人はあっさり引き下がり、謝ってきた。
「キミなら歓迎するからさ、なにかあったらいつでもきなよ」
そういって、金髪の男がにっこり笑いかけてきた。
そこに周りの人が会話に加わってきた。
「そうそう、暮らしはきついけど、だれかに変な目でみられることもないしね」
「うちなんて能力に目覚めたとたん、家族の見る目が変わったからなあ」
「オレも能力が出たことを、友達に自慢しようとしたら化け物あつかいだぜ」
「化け物扱いならまだましよ、わたしなんて実は魔物が人間に化けてるんじゃないかって疑いかけられたし。魔女裁判かっての」
ここにいる人たちは、能力に目覚めたけどそのせいで周囲に疎まれ逃げ出したひとたちらしい。
それから、今後どうするか話し合いを始めたので、別れの挨拶をしてから、空間のひずみを開いてこの場から離れた。
別れ際にみんなからお礼をいわれた。
でも、わたしにとってお礼をいわれることは苦痛となる。こんなわたしが他人にお礼をいわれるなんて違和感をかんじて、気持ち悪ささえ感じてくる。
空間のひずみを通って、ギルド本部にある研究室に入った。
「お疲れ様、大丈夫だったかしら」
急に現れたわたしに驚かず、金城さんがイスに座ったまま出迎えた。
「……だいじょうぶ、みんな逃がせた」
「それならよかったわ。まったく、榎本もやりすぎなのよね。“鬼”みたいな能力者の避難先もかねたコミュニティをつぶされると、ヤケを起こした能力者が暴れかねないってのに」
「……あの人たちは、ギルドで、かくまえないの?」
「ギルドにはいると、能力者は戦いの場所にかりだされるからね。たたかうのがイヤな能力者は、たいてい自分に能力があるのを隠すのよ」
「……そう」
能力があるってだけの一般人なのに、ばれたとたんギルドにはいるか逃げ出さなきゃいけないのかと思うと、暗い気持ちになった。
「……きになることが、ある」
「ん? なに、いってごらん」
「……最近、異相境界の発生が、多くなってる」
「ああ、そうだね。最近は多すぎてギルド局でも対処しきれなくなってるわね。残った分があんたに回ってきて、方々に出向いてもらってるからね」
「……それと、規模も、大きい」
「討伐後に回収される魔石の種類も数も最近急に増えたし、ん~ ……」
それから、金城さんはうなりながら腕を組んで考えこみはじめた。
「異相境界が…大きくなってる…いや、この場合、向こうの世界からのマナの流入量が増えているのかも」
一人の世界にはいりこみぶつぶつとつぶやきはじめた。
「……それじゃあ、いくね。また、異相境界でたら、連絡、ほしい」
これ以上金城さんに話しかけるのは無理そうだったので、空間のひずみを開いて退散することにした。




