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11. 鬼

 ギルド局の局長室で二人の男が話していた。

 ギルド局東京支部局長の神埼がイスにすわりながら、勇者小隊03の隊長の敷島に話していた。


「防衛省から通達がきた。非合法組織“鬼”の殲滅に協力せよだとさ」


「なんですか、その“鬼”というのは?」


「能力者の非合法組織でな、自衛隊の駐屯地から食料などの物資をたびたびかっぱらっていくから、やっこさんたち相当頭に着てるらしい」


「人間相手なのにギルドがひきだされるのですか?それこそ、警察や自衛隊の管轄だとおもうですが」


「それがだな、すでに何度か、“鬼”にたいして部隊が派遣されたらしいのだけど返り討ちにあってるそうだ」


 神埼が愉快そうに笑いながら話した。


「強力な能力持ちがいるらしく苦戦しているらしい。能力者には能力者をということで、ギルドへの依頼がきたそうだ」


「正直、きがすすまないです。さすがに背後からうたれることはないとおもいますが、あいつらと連携できるとはおもえません」


「そういうなって、今回のことで防衛省のお偉いさんに貸しがつくれるんだから。あいつらもギルドの存在を軽視できなくなるだろ」


 ギルド局は独立機関となっているが、実質防衛省の下部組織のように扱われているため、常に防衛省からの圧力を加えれているのが現状だった。


「わかりました。それで、派遣するのはどの部隊にしますか?」


「そうだな~、制圧するためには大人数はいらないし、建物内部でも動きやすいヤツがいいな。よし、小隊03に頼むとしよう」


「はぁ……、了解しました」


 そういうと、敷島はため息をつきながら隊員たちに召集をかけることにした。




 ブリーフィングルームに勇者小隊03のメンバーだけが集められた。


 全員の前にたった敷島隊長が説明を始めた。


「今回の任務は、“鬼”という非合法組織の壊滅だ。いままでは魔物を相手にしてきたが、今回は人間が相手となる」


「隊長、質問いいでしょうか?」


 そこに、赤井が手を挙げた。


「いいぞ、なんだ」


「我々は魔物相手の訓練を積んできましたが、人間を相手する場合どういった立ち回りがもとめられてるのでしょうか?」


「そのことについても説明するつもりだったが、いましちまうか。“鬼”の構成員のなかに能力者がいてな、俺たちが相手をするのはそいつらだけでいい。ほかの構成員については自衛隊が対処する」


「相手の能力についてわかっていることはあるんスか?」


「ああ、能力者は2人、肉体強化系の能力をもつ葛原宗次と、物質加工系の能力の藤武隆二だ」


 敷島さんが能力者の名前を告げた瞬間、柊さんがガタリと音を立てながら立ち上がった。


「どうした、柊」


「いえ、すいません、なんでもありません」


 いつも柔和な笑みををうかべのほほんとした雰囲気をだしている柊さんだったが、いまはなにか思いつめた表情をしていた。


 その後、“鬼”の潜伏先や、自衛隊との連携方法についての説明があったが、柊さんは拳を握り締めたまま何かを考えているように見えた。



 作戦当日、“鬼”が潜伏しているという地域の近くで、自衛隊と合流した。そこは、魔物による被害がひどく放棄された地域で、人の気配は感じられなかった。


「よう、きたか、ご苦労さん。オレが指揮をとっている榎本だ」


 自衛隊の中でも特に対能力者用に編成された部隊である“特務隊”が立ち並ぶ中から、髪をオールバックにしてメガネをかけたやせぎすの男がでてきた。


「あいつら狭いところがすきらしくて、大部隊で突入することができずに、少数の能力者だけでこっちの足止めをしてる間に逃げていくからな」


 まるでネズミみたいだろといいながらゲラゲラと笑っていた。

 飄々とした口ぶりで、うさんくさい笑みを浮かべながら話す姿は不気味だった。


 敷島隊長が挨拶を交わし、そこからは徒歩で“鬼”が潜伏しているという場所に向かった。もとは学校だった建物だった。


「能力者がでてきたときにおたくらで抑えてもらうから、よろしくたのむぜ」


 自衛隊突入後、後ろからついていき、能力者が現れたらオレたちが対処する手順ですすめることになった。


「んじゃ、突入開始」


 榎本が指揮をくだすと、自衛隊員たちが頭をひくくしながらすばやく建物内部に忍び込んでいった。


 後ろからついていくと、廊下中央に大柄な男がたっていた。


「まーた、おまえらきたのか、しつっけえな」


「そういう、てめえらもあきらめて投降したらどうだ」


 榎本がふざけたようなくちぶりで応じたあと、手で合図をおくり、自衛隊員たちが一斉に銃をうった。


「あっぶねーな、会話の最中に攻撃してんじゃねーよ」


 銃撃がやんだあと、男の前に巨大な盾がそびえ、銃弾がすべて防がれているのが見えた。


「ちっ、おたくら出番だぜ、いいところみせてくれよな」


 ようやく出番らしく、前にでて男と相対した。


「よう、おっさん、うらみはないが倒させてもらうぜ」


「なんでガキがいるんだよ? 自衛隊の連中は相当人材不足らしいな」


 六角棒を構えるオレと、後ろに控えた赤井をみながら、男は眉間にしわをよせた。


「おれたちは、自衛隊の人間じゃねえ。ギルド局の勇者だ」


「なるほどな、とうとう能力者対策のためにギルドの連中の手を借りるようにになったか」


 男はせせら笑うように榎本をみた。


「いいぜ、相手してやる。おい、隆二、他の連中の避難をせかしておけ」


「りょうかい~。葛原さん」


 葛原が後ろに声をかけると、釣り目で金髪に染めた小柄な男が、後ろの通路に下がっていった。

 相手の準備をまってやる義理もないので、すばやく突進して六角棒を振り下ろした。


「いいね、その威勢のよさ!!」


 男は口の端をゆるませながら、真っ向から六角棒を受けた。


「だが、攻撃が正直すぎるな」


 男は片腕で六角棒を掴み取っていた。その手は、男の体格にはあまりに不似合いなほど太く大きかった。なによりも、炭のように黒い肌は人間にはあまりに異質な色だった。


「遊んでやるよ、さあ来い」


 そういいながら、男の体はみるみるうちに巨大化していった。校舎の廊下の天井は3mはあるというのに、廊下が男によって完全にふさがれる形になった。

 太い縄を何本も束ねたような筋肉に覆われた体、炭のように黒い肌、横に裂けた口元の牙、額から生えたねじくれた2本の角、その姿は…まるで、昔話にでてくるような“鬼”のようだった。


「ガアアアァァァァ!!」


 鬼は叫び声をあげ、こちらを赤い瞳でにらんできた。おれはその迫力に息を呑んだ。


 肩を前にして突っ込んできて、まるで、壁が迫ってくるようだった。避け場はなくオレは六角棒を前に構えて盾にした。


「カハッ」


 衝突した瞬間、ダンプカーにはねられたような衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされた。

 後ろに控えていた、自衛隊員を多数まきこみながら床に転がった。

 立ち上がりながら近くの自衛隊員の様子をみていると、榎本さんがいつのまにかいなくなっているのに気がついた。


「おい、榎本さんはどこいった」


 近くの自衛隊員にたずねてみたが、返事は返ってこなかった。


「なんなのよ、こいつ」



 赤井が狼狽しながらも、鬼にむかって火炎弾を打ち込んだ。


「ぬるいぜ!!」


 鬼は腕を大きくふり、手のひらで火炎弾を弾き飛ばした。


「うそっ!?」


 火炎弾は鬼からそれて壁に激突して、焦げ目を作った。


「はははっ、ギルドの連中もこの程度か」


 鬼は口をおおきくあけながら哄笑していた。

 そこに柊さんが前にでて、鬼にむかって話しかけた。


「葛原さん、おひさしぶりです」


「ん…… おまえは、たしか」


 今回、建物内部にひそむ人間と戦闘になるため、攻撃能力のない柊さんは残るようにいわれていた。しかし、本人たっての希望で参加していた。


「そうか、いまはギルドにいるのか」


「はい、おかげさまで、あのときはお世話になりました」


 まるで知人のように二人は話していた。そこに、鬼の後ろから金髪の男が慌てた様子で駆けつけた。


「葛原さん大変だ!! 脱出路に政府のやつらが先回りしてて攻撃を受けている」


「なんだと!? くっそ、こっちは陽動か」


 男の言葉をうけた鬼はあわてた様子で、男についていってこの場を離れようとした。


「おいっ、まちやがれ!!」


「うるせぇっ!! いまはてめえらに構ってるヒマはねえ」


 鬼と男は走りながら去っていった。


「敷島隊長、追いますか?」


「状況がわからん。しかし、ターゲットを逃がすわけにはいかんな。このまま追うぞ」


「了解です」


 鬼の去っていった方向にすすんでいくと、そこは銃撃音が鳴り響く戦場となっていた。


「うてっうてっ、やつらはテロリストだ。のこらず殺せ!!」


 榎本が自衛隊員たちに声をかけ、ものかげに潜んでいる“鬼”の構成員とおもわしき人間たちに射撃を仕掛けていた。

 “鬼”側も数人が物陰に隠れながら、銃で応戦していた。

 逃げようとしている人たちの中には、戦闘員とは思えない若い女性や、子供の姿がまじっていた。


「てめえらっ、この中には子供もいるんだぞ!!」


「ははっ、関係ないな、テロリストは残らず殲滅しろってのが上からの指示だ」


「くそがっ…… おい隆二、あいつらの防御を頼む」


「了解、盾よ守れ!!」


 男が叫ぶと、身を潜めているひとたちの周りにいくつもの金属製の分厚い盾が現れた。

 鬼自身も盾のひとつを手に持ち、隙間をカバーするように前線に立っていた。


「ちっ、また、それか…… おい、ギルドの連中、あれを破壊しろ」


 榎本ができあがった障害物を指さしながら、指示をだしてきた。


「隊長…… ほんとうにあいつらはテロリストですか?」


「わからん、だが指示に背くわけにはいかん」


 敷島隊長は渋い顔をしながら次の指示をどうするか考えあぐねているようだ。


 そのとき、新たな人物があらわれた。


「……鬼のおじさん、こっち」


「おまえは、もしかして嬢ちゃんか?」


 そこには、鬼に話しかけるフード野郎がいた。


「なんで、おまえがここに!?」


 おれが声をあげると、目深に被ったフードの奥から何か意味ありげな視線を向けてきた。

 鬼が指示をだして、別方向の通路に構成員たちを誘導しだした。


「にがすな!!」


 榎本がなにかを察したように、指示をとばした。

 自衛隊員たちが突撃する前に、おれは鬼の前に突っ込んでいった。


「おい、鬼のおっさん!!」


 おれは声をかけながら下からすくい上げるように、六角棒を振りぬいた。

 六角棒は天井にあたり、崩れた天井の破片が降り注いできた。


「総員、後ろにさがれ!!」


 崩れてきた破片から逃れるために、自衛隊員たちは後ろに下がった。


「礼はいわんぞ」


 もうもうとホコリが舞い散る中で、瓦礫の向こう側から鬼の声が聞こえた。


 崩落がおさまり、瓦礫でふさがれた通路の向こう側には人の気配がなくなっていた。


「おたくら、なーにしてくれちゃってんのさ」


 榎本がイラだちを隠せない顔でこちらにつめよってきた。


「そっちこそ、なにやってんだよ。子供に向けて銃を撃つのが自衛隊の仕事なのかよ」


「子供ォ? おれにはドブネズミしかみえなかったな」


「てめぇ……」


 オレは急激に心が冷め切って、目の前の男を全力でつぶしたくなるのを感じた。

 そこに敷島隊長が割って入ってきた。


「榎本二等陸尉、われわれは指示に従い“鬼”が保有する能力者と交戦した。部下の戦闘によって戦場の混乱が起きたことは、厳重に注意しよう」


 榎本は敷島隊長をにらんだ後、舌打ちをして部隊に撤収を命じた。


 帰り道、敷島隊長から榎本には気をつけろといわれた。特務隊は、対能力者を目的に組織された部隊で、政府に敵対する多くの能力者を消してきたそうだ。

 特務隊の隊長である榎本自身が、自衛隊でも数少ない能力者で、その能力が厄介なものらしい。

 榎本は特に危ないやつで、敵と判断したやつは躊躇無く殺しているそうだ。

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