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10. 乱入者

 迫ってくる魔物たちをにらみつけていると、後ろのほうから発砲音がし、目の前の魔物たちに向かって銃弾が浴びせかけられた。


「我々は自衛隊だ!! 援護する」


 到着した自衛隊が、オレの背後で隊列を組んで銃撃をしかけていた。

 しかし、魔物にたいして大きなダメージにはならず、魔物たちが自衛隊たちに向かっていった。


「おい、あんたら下がれ。銃じゃたいした攻撃にならねえ」


「われわれとて市民を守るための盾であるのだ。口は出さないでもらおう」


 後方にいた指揮官とおぼしき男がこちらを向くと、厳しい声で返答してきた。

 はなれた位置にいた自衛隊隊員にゴブリンが襲い掛かり、手に持った小銃をとっさに盾にして防いでいた。


「いまだ、投網をなげろ」


 隊列の後ろからでてきた隊員が、襲い掛かってきたゴブリンに網を投げつけた。

 網に引っかかったゴブリンは身動きがとれなくなりもがいていた。


「いまだ、撃て!!」


 ゴブリンをとりかこみ、銃口を向けると一斉に射撃を加えた。効果がうすいとはいえ、集中攻撃を加えることで魔物に十分なダメージを与えることができる。


「次の魔物にそなえよ!!」


 指揮官の男が声をかけると、再び隊列を組み魔物に備えた。


『グオォォォ!!』


 そこに、雄たけびをあげながらトロールが突進してきた。

 隊員たちが突進してくるトロールにむけて、必死な形相で銃弾を撃ち込み続けた。


「テメェ、こっち向けや!!」


 オレはトロールの腹にむけて、近くにあった鉢植えを投げつけた。

 鉢植えはトロールの横腹にあたり砕けて、中身の土を撒き散らした。

 トロールが腹をおさえながらヨロヨロと後ろに下がった。


「やるじゃねえか、勇者!!」


 トロールの突進する直線状にいた隊員が驚いた表情をうかべ喚声をあげた。


「おい、オレがデカブツをおさえるから、あんたらはゴブリンがいかないようにおさえててくれ」


「了解した!! 総員ここが踏ん張りどころだ!!」


 そこから、自衛隊と連携しながらなんとか持ちこたえていたが、そこに奇妙な魔物が視界に入った。


「なんだ、あいつは……キノコ?」


 人間サイズのしいたけに手足を生やしたような魔物がこちらに近づいてきた。


「む、あいつらを近づけさせるな、撃て!!」


 自衛隊が銃撃をしかけ、弾があたると、キノコたちは体を震わせた。

 キノコの傘部分から黄色い胞子がとびちり、風に乗ってこっちに流れてきた。

 いやな予感がして、身を低くし吸い込まないようにした。

 そして、後方にいる自衛隊員たちのもとに胞子がとどいた。


「ガッ、カハッ……」


 吸い込んだ隊員が咳き込み、そして動かなくなった。


「これは、毒か!? くそ、対BC兵器装備などもってきてないぞ。総員、後退せよ!!」


 風に乗った胞子はあたりを包み込み、逃げていく隊員たちがひとり、またひとりと倒れていった。


(どうする、これじゃあ、オレも身動きがとれねぇ)


 地面に身を伏せているオレのもとに、キノコたちが近づいてきているのが見え、必死に頭を働かせた。


 次の瞬間、キノコたちの動きがとまり、なにかから抜け出そうともがいていた。


(これは…… コボルトのときと同じ現象!?)


 そして、キノコたちの体が一斉に真っ二つになっていった。

 さらに、空間のゆらぎが生じると、あたりに散っていた胞子が飲み込まれていった。


(助かったのか、この前のときといい、だれなんだ?)


 立ち上がり、周囲を見渡すといつからいたのか、そこにゆったりとした真っ黒なローブをきて、あたまにはフードを目深に被った小柄な人間がたっていた。


「おまえが、やったのか?」


「………」


 そいつは無言でうなづくと、手をかざし近くに空間のゆらぎを生じさせた。

 そして、空間のゆらぎから見慣れた六角棒がでてきて、ゴトリと音をたてて地面に転がった。


「……手伝って」


 ボソリとつぶやいた声は、男とも女とも判別がつかない中性的な声だった。

 フード野郎は、より魔物が密集しているところにスタスタと歩きながら近づいていった。


「おい、待てよ。くそ、勝手なやろうだな」


 オレは仕方なく後ろをついていった。


 そこからの戦闘は一方的なものだった。

 目に付いた魔物にそいつが手をかざすと、例の空間の揺らぎが魔物を捕らえ、真っ二つにしていった。


 数が多く、フード野郎が討ち漏らした分をオレが始末していった。

 そして、すべての魔物がいなくなった後、目の前の空間にひび割れのようなものがみえた。


「これが今回の異相境界ってやつか」


 異相境界はある程度、魔物を吐き出し続けると消失する。そのため、魔物を一旦倒しつくしたあとでも、さらに追加で魔物が現れるため、消失を確認するまで警戒を続ける必要がある。


 異相境界に、フード野郎が近づいていった。


「おい、なにをするつもりだ」


 フード野郎が異相境界に手をかざすと、異相境界が小さくなっていき完全になくなった。


「ハァ!? おまえどうやったんだ!!」


 異相境界を自力でふさぐ手段がないため、消失するまで待つというのがこれまでの現状だった。

 困惑している間に、携帯電話が鳴りだし異相境界の消失を告げられた。

 フード野郎も、真っ黒な手袋で覆われた手で携帯を持ち、どこかと連絡を取っているようだ。


「おい、おまえ、何者だよ」


 電話が終わったのを見計らって詰め寄ると、フード野郎はこちらに一瞥だけくれると、空間の揺らぎを生み出し音もなく姿を消した。


「き、きえた……」


 空間のゆらぎがなくなった後、そこには何も残っていなかった。


 ほどなくして、ギルド局の人間が到着したが、すでに異相境界が消失していたため、周囲に魔物が残っていないか見回って撤退していった。

 魔物の処理完了がショッピングモール内で放送され、シェルターに避難していた人々が安心と疲労を顔に浮かべながら出てきた。


 葉月たちと携帯電話で連絡をとって、帰りのバス停近くで落ち合った。


「おーい、リョースケー」


 バス停に、ぶんぶんと手をふりながら近づいてくる美里と、うしろからいつもどおりの様子で歩いてくる葉月の姿があった。


「よう、無事でよかった」


「……兄さんも、無事で、よかった」


 二人の姿をみてホッとしながら、帰りのバスに乗り帰路についた。



 ○●○●○●○●



 晴れた日の午後、この前兄さんに買ってもらった青い靴をはいて散歩に出かけた。

 この前は、足早にそこらじゅうを歩き回っていたが、今回はゆっくりと周りの風景を楽しみながら歩けていた。


 川沿いを歩いていき、前来たときと同じベンチにすわった。


(最近、異相境界の発生頻度があがってるし、規模も大きくなっている)


 考えごとをしながらボーっと川の流れをみていると、横から声をかけられた。


「よう、嬢ちゃん、また会ったな」


 そこには、前にもここであったおじさんがいた。


「……こんにちは、鬼のおじさん」


「鬼か、くくくっ、そうだな、オレはあぶないやつだからな」


 鬼のおじさんは愉快そうに笑っていた。


「ふむ、前あったときに比べると大分ましな表情になっているな。この前は、目の前の川にとびこみそうな面構えしてやがったからな」


「……自殺なんて、しないよ。わたしは、楽になっちゃいけないから」


「なにがあったかしらねえけど、子供がそんなこと言うもんじゃねえぞ」


 おじさんがわたしの顔をのぞきこんでくると、おどけた口調で話した。


「なーんて、オレがいえた義理もねえか」


「……鬼のおじさんも、なにか、引っかかっていること、あるの?」


「むかし、ちっとな……」


 鬼のおじさんは、川の方をみながら別のなにかをみているようだった。


「過去は変えられないからずっとつきまとってくるし、未来に目を向けろつっても、いまのこのご時勢じゃなぁ」


 大きくため息をはいたあと、わたしの足元に目をやった。


「ん、おまえ、靴新しくなってるな」


「……うん、兄さんに、かってもらった」


「ほう、家族がいるのか。そいつは、いいな。大切にしろよ」


「……兄さんは、わたしが、守る」


「ははは、そいつは頼もしいな。だけど、兄貴としては妹に頼ってもらいたいもんだぜ」


「……わかった、おぼえとく」


 ベンチから立ち上がり、鬼のおじさんにあいさつをしてから、散歩のつづきを始めた。


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