第9話 日曜日の稼働
ハナとメアドを交換し、あのマックでの会合を終えてから10日が過ぎた。
ちょっと予想していたことだが、あれ以来1度も彼女のすがたを見ていない。メールも思ったほど頻繁には、ない。あってもオレが仕事で店へ行けなかったりとかで、なんか、いきなりすれ違い夫婦みたいな様相を呈している。呈しちゃってる。
今年の梅雨明けは遅い。いつもどれくらいに明けているんだっけ? あまり気にしたこと、ない。
ただ通勤途中や店からの移動時にゲリラ豪雨に遭ったりすると、まだ梅雨なんだと感じる。
梅雨の話はいま、どうでもいい。
まあ彼女にしてみたら、元彼の顔写真はメールしたわよ、あとは頑張ってくださいね探偵さん、みたいなことなんだろうか。
ちょっと待て。ふと思いついたんだが、ハナにはオレ以外にも仲間がいるんじゃないだろうか。複数いるんじゃ、なかろうか。
そうだ、そう考えたほうが自然だ。効率もいい。オレだって365日パチンコ屋さんへ行けるわけじゃないんだから、探偵役は複数いたほうがいいに決まっている。
なんか、いきなりハナに対する疑念みたいなものが頭をもたげてきた。会えないと、こうなる。アラフォー男の醜い嫉妬か。
まあまあ、しかし、ですよ。彼女が仲間を厳選していることは、たしかだ。誰でもいいってわけじゃない。
彼女はじつによく人を観察している。店での常連さんの挙動だったり、もちろんオレの立ち回りもだ。
観察……そうか! ハナはオレの休みのローテーションまで把握しているのかもしれない。だとしたら、怖っ。
考えすぎだろうか。
彼女は、いったい何者なんだろうか。
ま、いっか。
考えても仕方ないので、いつものごとくパチスロを打ちに出かけた。やっていることは基本的に、なにも変わらない。
日曜日の稼動は久しぶりだった。
オレは交代勤務という仕事の都合上、どうしても平日に休みが多い。土日の休みは月に1回程度だ。
これもすべてローテーションで決まっている。なので、さっきも言ったが、オレの行動パターンを観ていれば休みの日を割り出すことは可能である。
はたしてハナは、そこまでするだろうか? 愛する元カレのためなら、するんじゃなかろうか……。
いかんいかん。油断しているとすぐ彼女のことがアタマに浮かぶ。どんだけゾッコンなんだって話ですよ。
そりゃあまあ、オレはハナに好意を持っている。だが彼女は元カレのために粉骨砕身しているわけで、そもそもがお門違いである。そんなことはわかっている。
ハナ自身の魅力もさることながら、彼女の思考、行動といったものがさまざまな謎を呼び強烈にオレを惹きつける。
正直、パチスロよりこっちのほうが面白いかもしれない。オレはいま、彼女のためにパチスロを打っている。
ただし、だからといってパチスロで負けていいわけではない。むしろハナのために勝たなくては、いけない。
いやオレはオレ自身のために、全存在を賭して勝たなくちゃならない。
さもないと、彼女のなかでオレのランクが、いつも負けている平和おじさん(第8話参照)とおなじになってしまう……。
集中集中。リラックスしろ、無心になれ、勝ちを意識しろ。あれ、ちょっとオレ混乱してる?
こんなときは基本に立ち返る。自分の立ち回りを思い出すのだ。
最後に蘊蓄シリーズ、行っときますか。
土日祝日の立ち回りは平日のそれとは異なる。お客の入りがぜんぜん、ちがう。
競争率が上がるため狙い台をゲットするのが困難になる。
そのかわり、オレの好物であるハマリ台も生じやすくなる。店の稼働(総回転数)が上がるからだ。
どうすっぺ。とりあえずM田のアークから覗いてみるか。ハナちゃんからもそこを重視するよう、それとなく言われてるし……。
今日あたり、彼女に会えるんちゃう?