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第7話 雨のち、おしゃべり

 バケツをひっくり返したような雨が途端に止んだ。ハンバーガー屋の2階席から、オレはその様子を見ていた。

「ハナちゃんの、苗字は?」

 オレは彼女に聞いた。ハナちゃんと呼ぶのはちょっと馴れ馴れしい感じがするので、できれば苗字で彼女を呼びたかった。

紫田(むらさきた)です。呼びづらいので、ハナでいいです」

「そ、そうなんだ……。めずらしい苗字だね」

 いつの間にか彼女に敬語をつかわなくなっている自分に気づいた。この20分くらいの会話で、だいぶ打ち解けたような気がする。


「まあ、オレの下の名前もけっこう、めずらしいんだけどね」

「なんて言うんですか」

「鳳男です。火野鳳男(ひの とりお)

「めずらしいですね……トビウオって」

「いやトビウオじゃなくて。鳳男です。と、り、お」

「3人組のかたですか」

「そのトリオじゃなくて。ダチョウさんとかの」

 ついに彼女は吹き出した。完全に名前で遊ばれてる感があった。


「ハナちゃんは、なんでオレを選んだの?」

 オレなりの解釈はあるのだが、いちおう聞いてみた。もしかすると、ぜんぜんちがう回答が飛び出す可能性もある。

「お店の地域エリアがアタシと似通っていたから。それに、」

 言って彼女はオレを見た。

「いろんな意味で、火野さんは合格でした」

「じゃあ、このあと飲みに行かない?」

「……そういうことを言わないかた、だからです」

 オレは苦笑しながら、うなずいた。そうだ、オレは鳳男だがチャラ男じゃない。ヤ○ザでもチンピラでもない。

 彼女には、きっちりと仕事をこなしてくれる仲間(バディ)が必要だった。オレはそのお眼鏡に適ったのだ。


「じゃあ、雨も止んだことだし、そろそろ実戦に戻りますか」

「まだ、いいじゃないですか」

「えっ」

 ハナの対応が意外だったので、オレは面食らった。まだ話し足りないのだろうか……。

「まあ、べつに急ぐこともないけど」

 言ってオレはコーヒーの紙コップに口をつけた。


「火野さん、十円BBAってしってますか」

「なにそれ……十円くれるお婆さん?」

「じゃなくて。M田アークの常連さん、の」

「あーっ、はいはい!」

 彼女の言う十円BBAの意味が、やっとわかった。

 M田のアークという(ホール)でいつも10スロ(*註1)を打っている、常連のお婆さんのことだ。にしてもBBAて、ひどいな。

「あのお婆さん、いつもおなじ台を打ってるよね。端っこの北斗」

「そう、しかも毎回そこそこ(メダルを)出してるってゆう」

 ハナはさも可笑しそうに言った。


「あのヒキは見倣いたいね」

 言いながら、オレにはとてもムリだと思った。

 毎日おなじ店に通い、おなじ台を打つ。そういう立ち回りをしている人も、たしかにいる。お年寄りの方などに多い。

 十円BBAのように、それで勝っている人もいる。まあ毎日そのお婆さんを監視しているわけではないので、じっさいの収支はわからないが。

 最近のパチスロは目押しなどの技術介入要素をほとんど必要とせず、じつにユーザにやさしい仕様となっている。

 なので、お年寄りの方でも安心して遊べる。ヒキ次第で勝つことができる。まあ以前にも言ったが(ヒキ)なんてものは、あてにできないんだけどね!




*註1……10円スロットの略称。メダル1枚10円の貸玉(レート)を意味する。一般的に1枚20円(20スロ)を高貸玉、1枚5円(5スロ)を低貸玉と言う。店によって10スロや2スロなどといった変則的なレートも設けられているが、あまり一般的ではない。

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