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第6話 ユウト

 ゆっくりとハナは語りはじめた。昼下がりのバーガーショップ。ちなみに外は豪雨である。

 話を聞いたところによると、彼女はどうやら人を待っているらしい。誰を? 元カレを。どこで? パチンコ(ホール)で。いつから? 半年まえから。

 いつまで? それは彼女にも、わからないらしい。とりあえず現時点では待ち人(きた)らずの状況だという。

 元カレは半年まえに突然すがたを消した。なんの前触れもなく。

 電話もつながらなくなり、住んでいたアパートもしらぬ間に引き払われていたそうだ。失踪やね、世間で言うところの。


 ようするに、半年まえのその時点からカレは()カレになったのだ。現状つきあっていないわけだからね。

 だが心配する彼女の気持ちもわかる。別れを切り出されたならまだしも、いきなりそんな消えかたをされた日には……。

 その彼が、なにかしらの事件に巻き込まれた可能性もある。

 警察には失踪届けを出したの? 出していない。結婚を約束していたわけでもないし、それにアパートがもぬけの殻になっていたことからも、彼が自発的にすがたを消したと考えられる。

 ハナは静かにそう語った。


 じゃあ、やっぱりフラレちゃったんじゃ……その言葉を寸前でオレは飲み込んだ。あっぶね。

 元カレの帰りを待つか待たないかは、ハナの自由だ。もしかしたら明日にでもフラッと帰ってくるかもしれないしね。

 それで彼女はパチンコ屋さんを見て回っている。そんな理由でパチスロを打っている。正直、オレには驚きだった。


 むろんハナはパチプロではない。本業はべつにあって、しかもこれがまた妙な符合でオレとおなじ交代勤務らしい。

 交代勤務は1回の拘束時間は長いが、そのぶん休みが多い。週休3日がデフォルトだ。

 つまり週3日をまるまるパチスロのために費やすことができる。オレの場合はね。彼女はその3日を元カレ捜しにつかっている。だが、やっていることはおなじパチスロである。


 もし、この界隈でユウトを見かけたら、私におしえてほしい。ハナはそう言った。

 ユウトというのがその元カレだ。また今風の名前だな。ユウトの顔写真もメールで送ってもらった。

 そんなこんなで、ただのパチスロおじさんだったオレは探偵の真似事をはじめることになった。

 たしかに本物の探偵に頼むよりオレをつかったほうが安上がりだし、それに探偵さんは1日中パチンコ屋にいるわけには、いかない。

 たくさんのパチンコ屋さんを見て回ること。そしてときにはタコ粘りでパチスロを打つこと。それが彼女にとって、もっとも効率的な元カレの捜索方法ということだ。


 半年まえまで、ハナはパチスロに触ったことがなかったという。まさに「見学組の彼女」(第1話参照)だったわけだ。

 ユウトはパチスロが好きで、よくハナをパチンコ屋に連れてきた。彼が帰ってくる場所はここしかない。ハナはそう考えた。

 そして彼女は時間の許すかぎりパチスロを打つようになった。ユウトのうしろでアホほど見ていたから、パチスロのことはイヤでもしっていた。

 とにかく、1秒でも長くパチンコ屋さんにいるためにはパチスロで勝つしかない。そのために多くの店を回ってパチスロ台の研究に(いそ)しんだ。

 なんか……合ってるんだか合ってないんだか、わからない努力の仕方だが、パチスロの攻略法としては正しい。

 じっさいオレもそうしているしね。


 さてさて。ハナの話を20分ほど聞いて、オレははたと考えた。これってオレにメリットがあるのだろうか?

 ありますよ、そりゃあ。これまでも彼女がくれる情報には世話になっている。

 オレはオレで、彼女は彼女でいままでどおりパチスロを打つだけだ。なにも変わらない。

 ただメアドを交換したことにより、これまで以上に情報交換がスムーズになることはたしかだ。

 メモを手書きして渡すのとはスピードが格段にちがう。

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