最終話 離別(後編)
さて、というわけで、ですよ。前々回のフリを今日ここで発表しようかなと。みんな、おぼえているかな?
ハナがいったい何者なのか。彼女の行動、その目的は何なのか。それらについてオレなりの解釈を述べようと思う。
むろんこれはオレの考えであって、正解かどうかはわからない。きっと永遠にわからないだろう。
彼女は、いわゆるノリ打ちのグループのひとつに属しているのではないか、というのがオレの考えだ。
ノリ打ちについては過去2回にわたって話をしているので、しらない人はそちらを読んでいただきたい。
ノリ打ちにも、いろいろある。若者が友人同士で行なうものもあれば、それこそヤ○ザが資金提供して打ち子をつかう本格的なものもある。
ハナがどういったノリ打ちのグループに属しているかは、わからない。だが現実的に考えて、ヤ○ザ絡みという線は薄いように思う。
では、なぜ彼女は仲間を募ってまでして、大々的にユウトという男を捜索しているのか。
彼がハナの元カレかどうかは、この際どうでもいい。
ユウトもまたハナとおなじノリ打ちのグループに属していた。が、彼はノリ打ちにおけるタブーを犯してしまったのではないか。
ノリ打ちにおける最大のタブー。それはパチスロの収支をチョロまかすことだ。
彼はそのことで仲間から問い詰められた。だから姿をくらましたのだ、というのがオレの考えだ。
はっきり言おう。ハナはユウトの帰りを望んでなどいない。
逆だ。ノリ打ちのルールを破った裏切り者が、ふたたびM田もしくはS原の界隈にあらわれないか、彼女はそれを見張っているのである。
もしユウトが発見されるようなことになれば、彼は何らかの制裁を受けるかもしれない。
いや、かならず受けるだろう。バッファローマンだって悪魔将軍から制裁を受けたのだから……。
†
そんなわけで、オレはこの突飛な推論をわざわざ手紙にしたためて、アメリカへ発つピーターさんへの餞別とした。
恥ずかしいので手紙は飛行機のなかで読んでくださいね、みたいな、ちょっと気を持たせるようなやり口をオレはした。
そーお? とピーターさんは、まんざらでもない様子だった。
ハナはけっきょく空港のロビーには、あらわれなかった。
ピーターさんもそれを予想していたらしく、待ち合わせの時間を搭乗時刻ぎりぎりに設定していた。本当に15分かそれくらいしか余裕がなかった。
「じゃあ、名残惜しいけど、アタシ行くわ」
そう言うと、彼は笑顔で搭乗口にむかって行った。
ピーターさんはいっさい、こちらを振り返らなかった。オレは彼を男前だと思った。ピーターさんはおゲイである。
ん? よくわからないことが起こった。
いきなりピーターさんが後ろから誰かに追突され、よろめいて倒れたのだ。
追突したほうの男は、倒されたピーターさんに声をかけようともしない。かといって搭乗口へ進むわけでもなく、その場に仁王立ちである。
つぎの瞬間、女性の悲鳴が聞こえた。
嫌な、とてつもなく嫌なことが起きたのだという空気が伝わった。オレはピーターさんに近寄ろうとしたが、恐怖でまえへ行くことができなかった。
仁王立ちの男がナイフのようなものをからん、と投げ捨てた。その手は真紅に染まっていた。
……とまあ、ここまでをストーリー仕立てにして手紙にしたためたわけですよ。
これを機内で読んだピーターさんは、きっとほくそ笑んでいることだろう。火野さんってばお茶目さん、なんて思いながら。
誰がお茶目さんですか、あなた。私はねえ……絶好調! 中畑清です!
 




