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第15話 離別(前編)

 ピーターさんが突如アメリカへ行くことになった。仕事の都合だとかで、最低でも1年以上は帰ってこないらしい。

 彼はいったい何の仕事をしているのだろう?

 土日しかパチスロをしないという彼のスタンスから、土日が休みの、つまり一般的なサラリーマンなんじゃないかという考えはオレにもあった。さらにアメリカへ転勤となると、かなりのエリートなんじゃなかろうか。

 だが、しかし。ピーターさんはおゲイだ。

 べつにおゲイのかたをわるく言うつもりはないが、バリバリの企業戦士というイメージとはどうしてもかけ離れてしまう。

 彼はおネエ口調を隠そうとしない。隠そうとするとストレスになるという。じゃあ、勤めている会社で彼はすでにカミングアウトしているのだろうか……。


 そういった事情について、めっちゃ気になったが、オレはけっきょく彼に聞くことができなかった。そこまで親しい間柄じゃない。

 そうですよ、そこまで親しいわけじゃないのに、彼は日本を発つまえにオレに会いたいと言ってきた。

 これはヤバイと思った。愛の告白でもされる流れか、と。

 なのでオレは彼にはっきり言った。愛の告白ならヤメてください、と。

 したらば彼は、バカねえそんなんじゃないわよ、と電話口で笑って言った。


「べつに襲って食べたりしないから安心なさい。集合が成田空港なら火野さんも安心でしょ? 成田エアポートでアタシの出発(たびだち)を見送ってほしいのよ」

「なんか、ひと昔まえのマンガの終わり方ってゆうか、キャッツアイの最終回みたいですね」

「ロマンチック? ……あと火野さん、サプライズゲストも用意してあるから」

「え、ちょっと……。おゲイの友だちとか紹介してくれなくて、いいですから」

「んもう、そんな流れになるわけないでしょ。火野さんとアタシといえば、もうひとりはあの娘にきまってるじゃない」

 思わず心臓がドキリとした。

「それって、ハナちゃんのこと?」

「イエス」


 わかりましたよ、じゃあなんとか都合をつけて行きますよと言って電話を切った。いつの間にかピーターさんに対して敬語に戻っていた。いま、その話はどうでもいい。

 彼はハナにも声をかけたという。この成田での会合が実現すれば、オレはひさしぶりに彼女に会うことになる。

 なんか、よくわからないが超ドキドキした。

 けれども。ピーターさんの誘いのメールに対し、ハナからの返信はいまのところないらしい。

 まあ、ハナの気持ちもわからんでもない。彼女にしてみたら、なに勝手に仲間バディを辞めてんねん、ってゆう話である。

 すでに仲間ではない人間を見送りに、わざわざ成田空港まで出向くだろうか。いや、その条件はオレもおんなじなんだけどね……。



 当日。ピーターさんはものっすごいシュッとした恰好で成田空港にあらわれた。いまはじめて言うが彼はかなりのイケメンである。

「どうもお。わざわざ来てくれて、ありがとう火野さん」

「いえいえ。……まさか、今日ってオレだけ?」

 すると彼は満面の笑顔でうなずいた。

「どんなお見送りなんですか。ピーターさんの同僚とか友だちとか、こないの?」

 オレの問いに彼はまた、うなずいてみせた。

「本当は独りで発つ心算(つもり)でいたのよ。でも、どうしても最後に火野さんに会いたくって」


「やっぱそれって、かぎりなく愛の告白に近いんじゃないっすか」

「そうかもねえ」

 彼は、はにかむように笑った。

「あと、できればハナちゃんにも会いたかったなあ」

 じつはオレも、さっきから周囲をキョロキョロと見回していた。これだけ広い場所で、しかもたくさんの人がいるなかで、あらわれるかどうかも定かではない女性を見つけるのはけっこう骨だ。

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