第13話 ノリ打ち、ダメ、ぜったい2
「どうする、お近づきのしるしに、ノリ打ちでもしちゃう?」
ピーターさんの提案にオレはちょっと心が揺れた。
「まあ、そうですね……男同士、それもアリかなってオレも思ったんだけど」
「おゲイですけど」言って彼は小さく頭を下げた。
「どうだろう……やっぱ、ヤメといたほうがいいかも」
「あら、そうなの?」
彼はちょっとビックリしていた。オレがすんなり了承する流れだと思っていたらしい。
オレはピーターさんに、やはりノリ打ちがあまり得策ではないことを説明した。
ノリ打ちというのは収支を折半することだ。
かりにオレが負けても相方が勝ってくれれば、彼がオレの負け分を補填してくれる、というメリットがある。
逆にオレが勝っても相方が負ければ、彼の負け分を補填しなくちゃいけない。それがデメリットだ。そういう契約でもある。
かるくシミュレーションしてみよう。オレとピーターさんで2万オカーネずつ出し合うとする。ふたりの投資限度額が4万オカーネになる。
この4万で2台のパチスロを打つ。見た目上は個別に2万ずつ投資しているようにみえる。
が、いま言ったように、結果(出玉)の配分が個人で打つのとはぜんぜん、ちがってくる。
かりにオレが勝ったとする。2万投資の4万回収でプラス2万オカーネだ。
かりにピーターさんが負けたとする。2万オカーネをペローン(*註1)だ。
プラス2万とマイナス2万で差し引きゼロになる。それはまあ、いいのだけれど、つぎのような展開が考えられる。
手持ちの金額をペローンしてしまったピーターさんは、帰らざるをえない。いっぽうオレはメダルが出ている状態だから、とうぜん遊戯続行となる。
ここに時間的・空間的断絶が生じる。
さっきも言ったように、勝ったほうは負けたほうの損失を補填してあげなくてはいけない。
つまり、つまり! オレは実質的にピーターさんに借金をしていることになる。
ピーターさんとつぎ、いつ会えるかわからない。が、とにかくオレは彼に2万オカーネを返さないといけない。
すると、つぎのような展開が考えられる。考えすぎと言われるかもしれないが、あくまでひとつの可能性である。
ピーターさんはオレに、代打ちを頼むかもしれない。
『アタシいま、ちょっと時間がなくて自分で打てないの。だから火野さん、このあいだのアレ(2万オカーネ)でアタシの代わりに打ってちょうだい』
……みたいなノリだ。ノリ打ちだけにね!
これは最悪ですよ。自分の意思でパチスロを打てないなら、ヤ○ザ屋さんに資金を提供してもらっている打ち子と何らかわらない。
「ちょっとお、考えすぎよ……」
苦笑しながらピーターさんは、ストローでグラスの中身をかき混ぜた。
「あくまで可能性のひとつ、ってことで」
オレも笑いながら答えた。
「まあでも、たかがノリ打ちといっても、最悪そういう負債のシステムになりかねないから、やっぱヤメたほうがいいっす」
「わかりましたあ。あくまでパチスロは自己責任ってことね」
「そう」とオレ。「そして、ただの趣味」
けっきょく、そのあとピーターさんとふたりでツレ打ちをしに行った。
ツレ打ちはノリ打ちとちがう。ただ並んでパチスロを打つだけだ。もちろんお財布はべつ、である。
彼はゴッドとかハーデスとか、そういうハイリスク・ハイリターンな台が好きらしい。オレの好みとは、ちがった。
もちろん、パチスロを打つ以上どんな台もリスクをともなう。高貸玉ともなれば、なおさらだ。
なので、ってゆうわけでもないが、オレらはアークを選んだ。この店は低貸玉メインなので、ツレ打ちみたいな遊びにはちょうどいい。
*註1……所持金を使い果たしてしまうこと。または出玉をすべて、台に飲まれてしまうこと。