第11話 風のピーター
日曜の昼下がり。だが天気はどんよりと曇っていて、気温も7月とは思えないくらい涼しい。
いま、ちょっとゲイっぽい男性とお茶をしている。イタリアン・ポマトという喫茶店だ。
突然の流れでこうなった。が、オレは飛田と名乗るこの男を無視することができなかった。ハナつながりの人物だったからだ。
「いきなりですけど、カミングアウトしても、いいですか」
「どうぞ」
「さっき自分のことボクって言いましたけど、アタシ、じつはおゲイなんです」
「そうですか。なんとなく、そうなんじゃないかなーって思いましたけど」
「ゲイに抵抗のあるかたですか?」
「いいえ。パチンコ・パチスロライターでも有名なかたが、いらっしゃいますよね。チャー先生とか」
「よかったあ」飛田さんはうれしそうに言った。「しゃべりかたを矯正するのって、アタシ的にかなりストレスなんです。本当に『ボク』なんて言ったの、何十年ぶりかしら」
オレは彼をいい人だと思った。初対面で相手にドン引きされないように、彼は無理して「ボク」と言ってくれたのだ。
それだけ真剣さが伝わってくる。たぶん、飛田さんもハナのことを真剣に考えてくれているひとりなのだろう。
「じゃあ、あらためまして。飛田ノリユキこと『風』のピーターです。よろしくぅ」
「……いま、ちょっとドン引きしましたよ」
ちょっと「ドン」引きって、我ながらヘンだと思った。当然ピーターさんは意にも介さなかった。
「うそうそ、火野さんは、そんなことでドン引きしません。アタシにはわかる、火野さんが超いい人だってこと。やっぱりハナちゃんの目は、たしかだわ」
ようやく本題に入れそうな感じだった。
「じゃあピーターさんも、ハナちゃんの審査に合格したひとり、ですか」
「そうね、ハナちゃん五者星のひとりよ」
「ごしゃせい、て。……ああ、それで『風』なんですね」
五者星というのは人気漫画・北都の県に出てくる5人の戦士のことである。この漫画はパチンコ・パチスロにもなっており、昔から店では絶大な人気を誇っている。
「ちょっと待ってください。じゃあオレも、その五者星のひとりってこと?」
「そうね。『風』以外なら好きに選んでもらって、けっこうよ」
「海、山、雲、炎……どれにしようか迷っちゃう、じゃないから」
「あら、いいじゃない火野さんのノリつっこみ」
ピーターさんは胸元で小さく拍手してくれた。
「あれ、でも先約はないんですか。ってゆうか、オレらのほかに、どんな人たちがいるんです?」
すると彼はゆっくり首を振った。
「アタシもよく、しらないの。今回はじめて、よ。自分以外にハナちゃんの仲間がいるって聞いて、勇気を出して声をかけたの」
オレは身を乗り出す。ぜひ、くわしく聞きたいところだった。
「確認させてください。ピーターさんはオレの先輩で、その初の後輩がオレ、ってゆう認識でいいですか」
「先輩といっても、たかだか2、3ヶ月だけどね。だってほら、Xデーが半年まえだから」
Xデーというのは、ハナの捜し人・ユウトが失踪した時点を指しているのだろう。すべてはそこから、はじまった。
「歴史の浅い五者星ですね。……じゃあ、まだ5人もいないんじゃないですか?」
「火野さん。アタシに敬語つかわなくて、いいです」
「……いないんじゃ、ない?」
「アタシは、いると睨んでいる。だってS原をカバーする五者星メンバーも必要でしょう」
オレは頭をフライパンで殴られたような衝撃を受けた。彼の言うとおりだ。
たしかにM田ではオレとピーターさんの2名だけかもしれない。が、S原(神奈川)にもおなじくらいの人数、仲間がいてもおかしくない。
人数が多いほどユウト監視網は強固になる。ハナだったらそれくらいのこと、するだろう。