第10話 あいにくの天気で
M田アークは一風変わったパチンコ屋さんだ。
5スロ1パチといった低貸玉をメインとし、それに加えて10スロ2パチという変則的な貸玉も取り扱っている。M田で10スロが打てるのは、ここだけだ。
が、なかなかに繁盛している。
じつはこの場所、オレがしっているだけで2回パチンコ屋さんが潰れている。アークは3店舗目だが、まあ頑張っているほうだろう。
店も生き残るのがたいへんなご時勢だから、それぞれ特徴みたいなものを打ち出して行かねばならない。
アークのように低貸玉メインで、バラエティに富んだ機種陣で勝負するのもひとつの手だと思う。
大型店などはその逆の手をつかう。人気のある数機種を大量導入してお客を呼ぶ。レートはもちろん高貸玉(20スロ、4パチ)だ。
べつにどっちが優れているというわけじゃない。それぞれに良さがあり、またリスクもある。いまさらですが。
日曜日の店内はやはり活気があった。いつも見慣れているここM田アークだが、日曜日にくるのはオレにとってひさびさである。
どうだろう……けっこうお客さんで埋まっているので、台を選べるかどうか微妙だった。
店内を1周してあまり良さげな台が見つからなければ移動しよう。そう思いながら台を物色しているとき、ひとりの男性客と目が合った。
ってゆうか、あきらかに彼はオレをガン見していた。べつに睨んでいるわけじゃない。興味ありげな、あの目。
たぶん彼はオレのことをしっている、直感的にそう思った。いや経験的にか。ハナとの出会いがあったからこそ、そう思えたのだ。
ちなみに、オレは彼をまったくしらない。写真で見たユウトとも、ちがった。
誰やねんこいつ、と思いつつ、とりあえず台のほうに視線をそらした。そしたら彼が近づいてきた。それを横目で確認した。
彼はおもむろにスマホを取り出すと、なにも言わずその画面をオレに見せた。まあ店内はパチスロ台の音で喧しいので、こうするのが最良と考えたんじゃなかろうか。
スマホに映し出された画像を見て、オレは目玉が飛び出しそうになった。ユウトの写真だった。ハナがオレにメールしてくれたのと、おなじ顔写真だ。
頭が混乱した。いま目のまえにいるこの男は何者だろう。ユウトの顔写真を持っているということはハナの仲間か。
つまりオレの仲間でもあるわけで……。
いや待てよ。なぜ彼はオレにユウトの写真を見せる。見せる必要がある。もしかして、もうユウトを見つけちゃったとか?
考えることわずか数秒。とりあえず、目のまえの男と話す必要があると判断した。轟音鳴り響く店内で会話はムリなので、彼を店外に誘った。そういうジェスチャーをしてみせた。
彼はにっこりと笑いオレについてきた。
「生憎の天気ですね。ボクは飛田といいます」
7月も終わろうかというのに、まだ梅雨がつづいていた。気温も低い。彼にならってオレも名乗った。
「火野です。あなたはハナちゃんつながりの、かたですか?」
ええ、まあと彼は言い、また笑顔を見せた。なんか途轍もなくチャーミングな笑顔だった。
正直、飛田さんはゲイっぽかった。彼のイントネーションだとか所作からそう感じた。もちろん初対面なので、いきなりゲイですかとは聞かなかったが。
飛田さんとお茶する流れになった。場所はイタリアン・ポマトだ。
日曜の昼時ということもあり、ファーストフード系は激混みであると予想された。イタポマはわりとガチな喫茶店で、まあ混んではいたが座ることができた。
オレはブレンドコーヒーを、飛田さんはアイス・ミルクティーを注文した。午後のカフェテラスに男ふたり。
これから、なにが巻き起こるのだろうか……。




