第1話 出会い
オレの名前は火野鳳男、3*歳。
はじめて会った人からは、すごい芸名みたいですね、宝塚の人みたいですねとかよく言われる。
残念ながらこれは本名だ。ウチの両親はごくマトモだが、こと子どもの命名に関してはファンキーな感覚の持ち主たちだったと言わざるをえない。
長じてからマンガの神様こと手塚先生の存在をしり、あ、オレの名前って代表作『火の鳥』からきてんじゃね? と思って親に聞いてみたが、どうやらぜんぜん関係なかったらしい……。
親いわく、不死鳥のように何度でも何度でも蘇ってほしい、つよい男になってほしいとの願いをこめて命名されたそうだ。
重い重い重い! 重いから。生まれたてなのに、もう復活すること考えちゃったよ……。
そんなわけでスクスクと育ったオレは可もなく不可もない人生を過ごし、紆余曲折あっていまは、なんちゃって会社員をやっている。ってゆうか非正規社員だ。
自己紹介はこれくらいにしよう。みんなもう、だいぶ飽きちゃっているだろうし。
じゃあ、とびきりの話行くよ?
寂れたパチンコ屋さんで、朝から若いカップルが1台のパチスロを打っている。
正確には遊戯しているのは彼氏ひとりで、彼女はうしろで見学している。見学用に店が別個にイスを用意してくれる。
店内はがらがらで、彼氏の両隣りの台も空いているのだが、遊戯しない彼女はそこに座ることができない。そういうルールだ。
べつに、めずらしくもない。パチンコ屋さんではよく見かける光景だ。が、こんなとき、彼女はいったいどんな心境なのだろう?
十中八九、退屈だとオレは想像するわけですよ。だって遊戯しているのは彼氏ひとりで、彼女は見ているだけなのだから。
退屈ならば彼女も彼氏の隣りでパチスロを打てばいいのだ。それをしないのは、なぜか?
彼女には金銭的余裕がないのかもしれない。それは彼氏のほうもおなじで、自分が遊ぶぶんの金はあるが彼女に出してあげるほどの余裕は、ないのかもしれない。
金の問題じゃなく、そもそも彼女はパチスロなんかに興味がないのかもしれない。
たとえ打つ金があっても打ちたくない、だとすれば、彼氏のうしろで見学していること自体そうとう退屈なはずだ。
それでも彼女が我慢してつきあっているのは、もちろん彼を愛しているからだろう。
愛はどんな困難にも打ち勝つ。はやく連チャン終われ、と彼女は彼氏のうしろで念を送っているだろう。
……とまあ、おわかりのように、オレの趣味は人間観察だったりする。人間観察と書いてパチスロと読ませるあたり、泣かせるっしょ。ね?
まあパチスロ自体、好きなんだがね。
彼女、紫田ハナとの出会いは突然やってきた。
それがまた、なんとも奇妙な出会い方だった。彼女と話をして彼女のめずらしい苗字をしるまで、けっこう時間がかかった。
その日オレが地元の店でパチスロを打っていると、ひとりの女性が近づいてきて、オレにカードみたいなものを差し出した。
はじめ店員さんかと思った。店員さんはよく新装開店の案内をくれたり、会員カードを作らないかと勧めてきたりするからだ。
だが、服装からして店員さんではないとわかった。パチンコ屋の店員は店ごとに統一されたユニフォームを着ている。
じゃあキャンペーンガールのお姉さんだろうか。それにしちゃあ服が地味すぎる。もっと露出度を上げていかないとね!
オレがそのカードに目を落とした隙に彼女はどこかへ行ってしまった。なんなんだ、いったい……。