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PLAYERS QUEST  作者: Zyuka
1/1

もょもとの冒険

「ギャオオオオオン!!」


 黒き波動が縦横無尽に空間を揺るがす――!!

 漆黒の魔獣が放つ攻撃を、純白の鎧を纏った男性はそれを軽く体を動かすことによってかわしていく――

 そして、ほんの少しの隙を見つけると――!!


「必殺!! カオティック・ソード!!」


 ザン!!


 必殺の一撃が叩き込まれる――!


 倒れた魔獣の体が、小さな光の粒子となって、消えていく……後に残るのは、この世界の流通硬貨とドロップアイテム、そして経験値の宝玉と呼ばれる輝く石だった――


「残念だったな!! まあ、相手がこの勇者ハレン様が相手だったのがお前の不運だったとあきらめるんだな!」


 相手はもう、聞こえていないのに高らかに宣言する勇者ハレン!


「やれやれ、Level 120のモンスターを単騎撃破とは……さすがは俺様! かっこよすぎるぜ!!」

「おお、勇者ハレンよ――よくぞ我が領地を荒らす魔物マデラを倒してくれた」

 勇者ハレンに恩賞と名声ポイントを与えるべく、依頼主の王様が現れる。

「勇者ハレン様の御活躍に勝る者など、この国にはおりませんわ」

 王の後からその娘、カナリア姫も現れる。

「あたりまえだ! この勇者ハレンこそがこの世界最強の勇者だ!!」

 王と姫を従え、声高らかに剣を天上に掲げ宣言するハレン――!!


 ■名前■ ハレン

 ■性別■ 男

 ■職業■ 最上級職・勇者

 ■Level■ 99

 ■武器■ 最高の剣・エスペルダソード

 ■防具■ 破魔の鎧・ファルコンメイル

      防魔の盾・ジュオンシールド

      英知の冠・トルククラウン

 ■所有技■ 最上位・スキルマスター

 ■所有魔法■ 最高位・スペルマスター


 勇者ハレン――――彼こそが、この世界において最高の『プレイヤー』だ――――




 グランド・ウォーリア・オンライン――それは、よくあるファンタジー系オンラインロールプレイングゲームの一つだ。


 プレイヤーは、あらかじめいくつかのパターンがある制作パーツから自分の分身を作り出し、職業を決めて、ゲームを開始する――最初は基本職、基本装備、基本魔法しか使えないが、冒険を進め経験値を集め、それをLevelUpやステータス上昇に消費することによって、上級職へのクラスチェンジや装備のカスタマイズ、上級魔法の習得などが可能になる。

 基本は、町や村の人たちからの依頼をギルドから受け取った……またはお城の兵士や王様などから直接依頼された、クエストに赴き解決し、報酬と名声ポイントを得る――それは、いくつか存在するダンジョンの攻略、危険モンスターの討伐、防衛戦等、特に変わったものはない。

 カジノや闘技場、ミニゲームなどのお遊び要素、ケモ耳やエルフ耳やフルフェイスマスクなどの見た目が亜人種になれるアイテム、武器防具のオリジナルカスタマイズ、町や村に家を買ってカスタマイズするくらいの自由度はある、良くも悪くも中堅どころのロールプレイングゲームといった感じがあるゲームだ。

 そう多くのやりこみ要素があるわけではなく、ダウンロードで手に入る拡張パックなどは販売されていたが世に出てから2年ほどで、ほとんどプレイヤーが離れていっていた。

 多い時は万を超えていたというプレイヤーは、今は千人ほどがプレイしているくらいにに落ち込み、サービス終了の噂をちらほら出始めていた。


 しかし、ある日、異変が起こる――


 ゲームの世界が本物の世界のように実体化し、プレイヤーたちはその中に自分の作ったキャラクターとして、閉じ込められる事となってしまったのだ――


 それと同時に、現実のように色づき実体化したゲーム世界、自分たちと同じように動き会話し考え、独自の個性を得たNPC達……

 すべてのプレイヤー達に襲いかかったゲーム世界の実体化と言う謎の出来事……

 常識では考えられない突然の出来事に、ある者は驚愕し、ある者は呆然自失し、ある者は夢だといいはり、ある者は元の世界へ帰ろうと様々な努力を行った――


 そんな中で、最強職の一つである勇者の職についていたハレンというプレイヤーは、この世界を受け入れ、勇者として活躍することを決意したのだった――


「何かあれば、この勇者ハレンを頼るがいい!! 俺はどんな敵でも、どんな依頼でも、どんなクエストでも解決してやる!! 何せこの勇者ハレン様はLevelカンスト、武器は最強、クエスト達成率100%という、この世界最強の勇者様なのだからな!!」


 多くのこの世界に閉じ込められたプレイヤーたちの前で、ハレンは堂々と宣言した――


「さて、次のイベントは――アルセウスの街の闘技大会か――!」



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



『――RPL起動――Spirit Download……Game Start! ……なのです!』


 パリパリパリ……ズン!!


 ■名前■ もょもと

 ■性別■ 男

 ■職業■ 基本職・剣士

 ■Level■ 1

 ■武器■ 基本剣・長剣

 ■防具■ 基本鎧・旅人の鎧

      ゴーグル

 ■所有技■ 基本技・全力攻撃

 ■所有魔法■ なし

 

「……救世主もょもと、ここに推参……!!」


 男――もょもとはそう言って、グランド・ウォーリア・オンラインの世界に降り立った――


 そこは、周りに誰もいない、広大なフィールドの片隅だった。


「……しかし……本当に現実世界と変わらないんだな。いや、現実よりもはるかに素晴らしいのかもしれない――」


 そんなこと言いながら、もょもとはあたりを見渡す。


 ――少し遠くに白亜の城を抱いた大きな街が見える――


 その周りにある大地、そこに生える草、木々、空に浮かぶ雲、照らす太陽、肌をくすぐる風――五感で感じるすべてが、現実と区別がつかない――


「鎧や剣、初回プレイ記念プレゼントが入ったバックも、なんか重さを感じるしな――」

 長剣をブン、ブン、と振ってみる青年――上げ下げするバックもずしりと重い――

 それどころか周りの風景と同じで自分自身でさえ、現実のものだと感じてしまう――

「……確か、グラウォって、そんなに大したグラフィックを使っていなかったよなぁ。それがここまでになるなんて、冗談としか思えない……まぁそれが、RPLの効果だと言う事なんだろうが……」


 もょもとは、そう言うと、近くに見える城に向かって歩き出そうとする。


『こらこらこら!! ちょっと待て!!』

 そんなもょもとに、どこからともなく突っ込みの声が上がる。

『新!! なんなんだ? そのモヨモトって名前は!?』

「決まっているじゃないか……救世主の名前だよ」

 その声に対して、もょもとは自信満々に言う。

「知っているか? モヨモトっていうのは、とある国民的RPGで過去最高難度を誇ったナンバリングタイトル――そのゲームで何人もの子供達を救った正に救世主――!! 俺は、その遺志を受け継ぐべく、何かのゲームにオリジナルキャラを作る時には必ずこの名をつける事にしている――!!」

 モヨモト、と……自分でも自分の名前を言えないもょもと。

『あのなぁ、僕達の目的を考えると、名前なんてなんてどうでもいいだろ? お前の名前から、ビャクヤとかアラタとかでいいんじゃないか?』

 呆れたような口調で、空間から突っ込みが入る。

「あのな、ゲームキャラに自分の名前を付ける趣味やつって、そう多くはいないはずだぜ?」

 薄ら笑いを浮かべながらそう言って――ハタと、真顔の戻るもょもと。

「ところで銀河、何もない空間から声を出すのはやめてくれないか? なんか、気味が悪いんだが……」

『は? どういうことだ?』

「そっちは、モニター越しだから特に問題ないんだろうけどな……ここにいる俺には、何もない空間からお前の声が聞こえるんだよ!」

 もょもとはどこを向いていいのかわからず、とりあえずそう叫ぶ!

『それなら、鈴にまかせるのです!!』

 突如、空間から女性の声が聞こえる。

「鈴、なんか手があるのか?」

 もょもとが言う。

『おい、鈴――! お前なんで横からしゃしゃり出てくるんだ?』

 最初に聞こえていた男の声が女性の声にも反応する。

『RPL起動なのです! ――Unit Create――!』


 シュルリン!


 小さな光が集まり、小さな人形を構築する――

『これでいいのですか?』

「タンジュンキッド……?」

『そうみたいだな』


 もょもとの前にシンプルランドと言うアニメやゲームに登場するゆるキャラ、タンジュンキッドの……20cm位の人形が現れる。もょもとに対する男女二組の声は、そこから聞こえるように調整されたようだ。


『七瀬先輩は、タンジュンキッドが大好きなのです!』

『……僕がうまくコントロールできるゲームキャラクターは、タンジュンキッドしかいないんだ』

「もう少しゲームをうまくなれよ、銀河」

 タンジュンキッドから聞こえた言葉に、もょもとはあきれた。

『とりえず、まあ、これでいいだろ! じゃあ、行くぞ! 新!』

「モヨトモ……いや、モヨモモ――もよもとだ!」

 言い直しても、ちゃんと自分の名前が言えないもょもと――そんな、もょもとを無視して、タンジュンキッドはもょもとの体をよじ登り、肩の上に腰掛ける。

『レッツゴーなのです、ヨリトモ!!』

「どこの征夷大将軍だ!?」


 だって、もょもとって……いえないんだもん。




 さて、自信満々で歩き出したはいいものの、もょもとのLevelは1で、基本初期装備と初回プレイ記念アイテムしか持っていない。

 イルダゴブリンやイルダスライム、イルダシーフといったLevel 1でも倒せる最下級のザコモンスターならともかく、ちょっとした強敵が現れたら即死する可能性があるそんな状況で、もょもとは何の気もなしにトコトコと歩いていていく。

 グランド・ウォーリア・オンラインはランダムエンカウント方式なので、運さえよければ無事に町までたどり着くことができるだろう――――と、思ってはいたが…………


 モンスターが現れる!


 イルダゴブリン ■Level 1■×3

 バンディットガルーダ ■Level 6■×1

 ワーム ■Level 2■×2


 イルダゴブリンと イルダゴブリンはLevel1でも楽勝――ワームならどうにか勝てそう――だが、バンディットガルーダはかなりの強敵――


 ダン!!


 そう判断する間もなく、もょもとは、イルダゴブリンとワームは無視して、バンディットガルーダのみに狙いを定める――!!


「ギャギャ!!」


 バンディットガルーダが身構えるより早くもょもとの全力攻撃が叩き込まれる!!


「先手必勝!!」


 バギ!!


「ギャ!!」


 Level 1の全力攻撃では、Level 6のバンディットガルーダを絶命させるには至らず、地面に落ちたバンディットガルーダは羽をはばたかせ、舞上がろうとする!!


 ガ!!


 その頭を、もょもとは踏みつける!!

「ギャ!!」

 そのまま、長剣でバンディットガルーダの頭を打ち砕く――

「まずは、一匹!!」


「キアー!!」


 ビャクヤの隙をつき、二匹のワームが襲いかかる!!

「ハッ!!」

 もょもとは長剣を軸に、地面を思いっきり蹴り上げ体を高く浮かす――!!


 ズダン!!


 そのまま、両の足でワームを踏み潰す!!

「悪いな、ゲーム通りの攻撃じゃなくて!!」


「「グエラ!!」」


 続けてイルダゴブリンが襲い掛かってくる――が、イルダとつくモンスターは最下級のザコと相場が決まっている――Level 1でも苦戦するほうがおかしい――

 もょもとはバンディットガルーダとワームをあっさりと倒した。それは、ゲーム自身のステータスは関係なく、戦闘テクニックが素晴らしいということを意味する――

 そんなもょもとに、イルダゴブリンごときが勝てるわけがない。

 あっという間に――二匹のイルダゴブリンが沈黙し――


「く、けら――」


 もう一匹は、逃げ出そうとする――!!


「逃がすか!!」


 もょもとは、逃げるイルダゴブリンに向かって肩の上にあったタンジュンキッドをつかんでぶん投げた!!


「ぐぎゃ!!」


 最下等のザコにはそれだけで致命傷になったらしく、あっさりと沈黙する――

『おい、今何をやった?』

『タンジュンキッドを投げたのです……』

 数テンポ遅れて、タンジュンキッドから文句が聞こえてくる――


「まあまあ、ザコモンスターにはすぎた武器だったかもしれないな……」

 その言葉と同時に、モンスターたちは経験値の宝玉と流通硬貨を残し、光の粒子となって消えていった。ドロップアイテムはなかった。


 もょもとはとりあえずそれらを回収すると、再び歩き始める――そこへ、新たなモンスターが現れる!!


「――!!」


 ボスゴブリン ■Level 28■


「グオオオオオオオ!!」


 ボスゴブリンが吠える!!


「マジかよ……なんでこんなところにあんな高Levelモンスターが――!?」

『……ゲーム世界がRPLによって現実化することで、実体同然と化したモンスターが倒されずにさまよって、この辺までやってきた――そういう風に考えるのが普通だな』

 タンジュンキッドから冷静な声が聞こえてきた――

『モンスターの出現エリアは、もうすでにあってなきものになっているんだ――』

「おい、解説はいいから、何か策はないのか? 銀河! こんな所を人に見られたら――?」

『白夜先輩、ファイト、オーなのです!』

 たった一匹だが、先程のモンスターたちより段違いに強い――その、ボスゴブリンが……咆哮を上げる!!


「グロロロロロ!!!」


 長剣を抜き、身構えるもょもと!!


 ギュオン!!


「――!!」


 赤黒い旋風がボスゴブリンをなぎ払う――!!


「だいじょぶ!?」


 ギュルルルルルン!! パシッ!!


 ボスゴブリンを討ち倒した巨大な斧が回転しながら一人の女性の手に収まる――!!


 ――重層戦士――


 戦士の上級職で、超重量級の武器や防具を装備できる職業である。

 あと、戦闘時に簡単な魔法まで使うことができる――


「誰だ!?」

 もょもとは、聞く――Level 1のくせにやけに態度がでかい――

「――誰だって……私はアネッサ……この辺では有名な守護戦士なんだけど?」


 ■名前■ アネッサ

 ■性別■ 女

 ■職業■ 上級職・重層戦士

 ■Level■ 88

 ■武器■ 重量戦斧・グレイトアクス

 ■防具■ 重層鎧・グレイトプレート

 ■所有技■ 上位・アクススキル

 ■所有魔法■ 初級回復魔法


 ボスゴブリンを打ち倒したのは、彼女のグレイトアクスだ。アクススキルのブーメランアクス――ブーメランのように斧を投げて敵を倒し自分の手元にブーメランのように戻すという上位スキル――


「……Level 1!? こんなところで何しているの?」


 相手のステータスを見抜くスキルを持っているのだろう――アネッサはもょもとの元へとカチャカチャと音を立てて近づいてくる――


「いや、あの街に行こうとしたところなんだけど……」


 もょもとはアネッサにそういう――

「アルセウスの街に? あなたどこから来たの? というか、今このゲーム内にLevel 1の人がいるなんてなんか思いっきり怪しいですけど――?」

「いや、問題ないって――俺はLevel 1が好きなだけなんだ――とりあえず自己紹介しとくよ――救世主モリモト――いや、モモモト、モヨモト…………」

「は……?」

 もょもとの自己紹介に呆れた目を向けるアネッサ――


『だから言ったんだ……発音できない名前なんてやめとけって――』

『白夜先輩はその名前が好きなのですよ』

 タンジュンキッドから、そんな声が聞こえていた――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 アルセウスの街――中心にこの国を治める王が住む城があり、神殿や闘技場、魔術学校やカジノなどの様々な施設が揃っていることから、多くのプレーヤーがこの街に集まっている――そのため、様々な情報が手に入る――そして、いろいろなイベントが起こる――


「大勢のプレイヤー達に会うにはどうしたらいいんだ? やっぱり、城とかに行って王様とかにあった方がいいのか?」

 この街まで一緒に来てくれたよしみで、アネッサにそう質問するもょもと――

「Level 1で何言ってるの? 城に入ろうと思えばギルドで受けた依頼を確実にこなして名声ポイントを上げて名前を売り、城の兵士から依頼を受けられるまで名声を得て、それから王族っていうのが定石――その時になって初めてお城に入れるの。Level 1じゃ、たいした依頼も完遂できないし、お城に入るなんてとてもじゃないけど―――」

 詳しく説明してくれるアネッサ。彼女はこのゲーム世界にだいぶ慣れているらしく、知識も高い――

「名声ポイント?」

「まさか知らないの!? っていうか、Level 1だし、あなた一体――このゲームが現実化した後、どこで何をしていたの?」


『ま、今さっきこのゲーム世界にログインしたばかりとは言えないよな』

「へ?」

 タンジュンキッドからの声がアネッサに聞こえたのだろう――

「今、その人形……しゃべらなかった?」

 しげしげと、タンジュンキッドを見つめるアネッサ――


『……気のせいなのです』

『……コラ』


「これって、タンジュンキッド……だよね? シンプルランドの……こんなアイテム……グラウォにあった?」

 タンジュンキッドは、子供向けのアニメとそれを原作としたゲームのキャラクターだ。グランド・ウォーリア・オンラインとは制作会社が違うから、キャラクター制作パーツやアイテムに、タンジュンキッドそっくりの物を作れるようなものはない――

「別に今、こいつに興味を示す必要はないだろう? さっきの名声ポイントってやつについて教えてくれないか?」

「……わかったわ」

 アネッサは、このゲームで高位Levelのプレーヤーだ。最強と言われる勇者ハレンには及ばないものの、88という高Levelは、中堅ゲームのグランドウォーリア・オンラインでは稀なものであり、その影響力は多数のプレーヤーに知られている。その面倒見の良さから、勇者ハレンより人望が厚いと言っていい。

 が、もょもとがそれを知るはずがなかった――

「村人や町人からの依頼で、成功した時に上がる名声ポイントの数値は総計5――引き受けた時に1加算され、依頼放棄がマイナス4、失敗すればマイナス3。成功時に4加算――そして、名声ポイントが100を超えれば、王城に招待され……兵士や王族からの依頼を受けることが可能になるの!」

「何か、すごくめんどくさいな」

「出来た当初は、画期的なシステムだって言われたわ――依頼が難しくて達成不可能だと思う時は、仲間を募って一緒に挑戦したりしてね――その場合、仲間にも名声ポイントは入るから」


 しかし、今ではそういうことがあまりないという――フィールドでモンスターを倒していれば流通硬貨が手に入るし、それさえあればとりあえず食べることや寝る所などの生活には困らない――ギルドや城から依頼を受け、名声ポイント貯めるなんて言うめんどくさいことを酔狂でやる人間など、もう、ほんの一握りしかいない――


「王様に頼みがあったんだが――あえないのか……」

「闘技大会で優勝するとか、そういうことをすれば名声ポイントはたくさんもらえるんだけどね――」

 ゲームシステムを思い出しながらアネッサはそういう――

「――そんなもんあるのか!? それなら、それに優勝すれば、多くのプレイヤーに会えそうだな――!!」

「優勝できればって……無理よ、最近は勇者ハレンがいつも優勝を持っていくもの」


 闘技大会に興味を示したもょもとに、アネッサは言う――


『勇者ハレン――そいつ、有名人か?』

 タンジュンキッドがボソッと言う――

「……? どうした? 銀河?」

 アネッサに聞こえないように、もょもとがタンジュンキッドに聞く――

『いや、その勇者ハレンってやつを使った方が早いんじゃないかと思ってな……』

「また悪知恵か? 銀河……」

『悪知恵に関しては、七瀬先輩以上の人を、鈴は知らないのです』

 タンジュンキッドの中で怒鳴るような声が聞こえた――声が遠いのはおそらく、マイクを手で押さえたのだろう――


『確かに計画を考えると、有名なやつを使った方がいいかもしれない――王様とかに会うよりも、その勇者の方が楽そうだ。というかそいつプレイヤーなんだろう?』

 咳払いが聞こえてから声は元に戻った――

『……プレイヤーなら、話せばわかる。か……』

「またなんか企んでいるのかお前は……」

 タンジュンキッドの言葉に、軽くうめくもょもと――


「どうしたの?」


 なんかひとりで、ブツブツ言ってるようにしか見えないもょもとに、アネッサが聞いてくる――

「いや、その勇者ハレンというやつに会うなら、どうすればいいかと思って――」

「……勇者ハレンに? そうねえ……あの人、名声ポイントを貯めることに躍起になってような人だから――今も何かの依頼を受けてる最中だと思うし……闘技大会には出るだろうから……それが終わった直後なら、会えるかも……?」

 詳しく教えてくれるアネッサ。本当に面倒見が良い。

 そんなアネッサにもょもとは、フト、興味を持ち聞いてみた――


「……現実世界に帰りたいか?」


「え……?」


 もょもとの意外な言葉に、アネッサは一瞬を呆ける――そして、その顔はだんだん赤くなっていき……


「それは、当たり前でしょ!? それと今のあなたの状況が何か関係あるの!?」

 怒りで大声を出すアネッサ――

「帰りたいと願うのであれば、帰してやってもいいぞ――」

 それは可能だと言うようにもょもとは言う。

「何を訳のわからない事言っているの!? それが不可能な事は知っているはずよ!! みんながこの世界を脱出しようと、どれだけ努力したと思っているの!?」


 そう、アネッサが高Levelなのも、それが原因だ――


 このゲーム世界に閉じ込められたとわかった時――プレイヤーたちは必死で脱出方法を探した――

 ゲームクリアが脱出の方法かと思われた時、シナリオ上のラスボスを始め、裏シナリオの裏ボス、さらには拡張パックの隠しボスまで何度となく倒された――


 だが、それらは何の意味もなかった――


 オンラインロールプレイングゲームは、通常シナリオをクリアした後こそが本番――中堅所といえど、グランド・ウォーリア・オンラインも例外では無い。


 どんなに努力しても――どのダンジョンのどんな深奥にも――


『……努力していたのが、このゲーム世界に閉じ込められたプレイヤーだけだとでも思っていたのか?』

『そうなのです! 鈴たちも一生懸命努力しているのです』

「……!?」

 

 アネッサは、その声が聞こえてきた、タンジュンキッドを凝視する――


「闘技大会って、ここでやるのか――?」


 もょもとが、その時丁度着いた闘技場の前で立ち止まり、そういった――

「お、参加受付やってるじゃないか――!」

 そのまま、闘技場内へ入っていてしまう――

「闘技大会、か、これで優勝すれば名声ポイントは跳ね上がる――」

「ちょっと待って!」

 アネッサももょもとを追いかけ闘技場内に入る――

「参加だけで名声ポイント3上昇、敗戦時のペナルティは無し、優勝時は67のポイント上昇――計70ポイント……へぇ、これなら楽に名声ポイントを稼げそうだな――」

「無理よ!」

 興味を示すもょもとに、アネッサが声をかける。

「あれを見て!」

 アネッサはあたりを見渡し、出場参加者の表示を見つけると、それを指差す――


「――勇者ハレン――」


 今現在、闘技大会に出場しようというプレイヤーはただ一人――勇者ハレン、その人だけだった――


『好都合だな――』

 タンジュンキッドから、そういう声が聞こえる――

「――!!」

 小声でつもりだったが、アネッサは目を見開く――

「どういうことだ?」

『好都合とはどういう事なのですか?』

 そんなアネッサに気づくことなく、もょもとはタンジュンキッドと話を進める――


『いや、勇者を利用するなら好都合だと思ったのさ――別にお前が名声ポイントを得るよりも、既に持ってる奴にやってもらった方が楽だと……そう思うだろ?』

「さっき勇者の話を聞いてから、そんな事を考えていたのかお前は――」

『悪知恵にかけては七瀬先輩の右に出るものはほとんどいないのです』

「だが、いい考えかもしれないな――タイムアタックには利用できるものはすべて利用するのが定石だ――」

 タンジュンキッドの言葉にそう答えるもょもと――


「それじゃあ、闘技大会で、勇者と戦うとしようか!」

『それは面白そうなのです!』

 賛同の声を聞きながら、もょもとは闘技大会出場の手続きを行う――


「……私も、出場します――」


「え――?」

 もょもとと、タンジュンキッドの後ろからアネッサがそう言ってきた――

「ええっと――?」

「もし、私が勇者ハレンと戦うことになったら――あなたと会うように頼んでみます――それで、いいですよね……?」

 アネッサは、そう言ってもょもとを――その肩の上にのるタンジュンキッドに目を向ける――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「え? アネッサが?」

 勇者ハレンは、送られてきた闘技大会出場の案内を見ながらそう言った――

 ハレンとアネッサは知らない中では無い―――あくまで、ゲーム内だけの知り合いではあるが、ともに何度も高難度クエストに挑戦した仲だ――


「フフフ……あいつは、アルセウスの街のプレイヤーたちのまとめ役のような事をやりだしてからクエストには参加しなくなった――それがまた、こうして俺と同じイベントに参加してくれる――嬉しいことだね――少しは、楽しみが増えたということだ――」


 ハレンは昔を懐かしむように目を閉じる――


 コン、コン――


 その時、ハレンのいる部屋のドアがノックされる――

「誰だ!?」

「私です」

 ドアが開き、入って来たのは――


「姫……?」


 そこに現れたのは、このアルセウスの街にある城に住む王の娘――カナリア姫だった――


「お話があります――勇者ハレン様――」

「――?」

 ハレンは、カナリア姫がここに現れた理由がわからなかった――


 カナリア姫は、NPCだ――このグランド・ウォーリア・オンラインが実体化したときに、人間と同じような姿を、意思を、心を、自由を手に入れた――NPCの1人……


「ハレン様――私、あなたをお慕いしております――」


「え―――?」


 ハレンは、カナリア姫が何を言ってるのか一瞬、わからなかった――が、抱きついてきた姫の重さを、やわらかさを、その香りを実感した時、現実だと気がついた――


「これは……」


「ハレン様――私の想いを……受け取ってください――」




 ――これは、イベントだ――


 グランド・ウォーリア・オンラインの名声ポイントが、1万を超えた時――その街に住む高貴な女性が告白しに来る――


 名声ポイントを1万も貯めたプレイヤーは今までいなかった――


 だからこういうイベントがあること自体あまり知られていなかった――




「ハレン様――私と一緒に――」


 カナリア姫の瞳から涙がこぼれる――


「姫――」


 ハレンは、混乱しながら姫を抱きしめた――


「私と結婚してください――」


「……」


 姫の願いに、ハレンは口付けで答えた――


 ――緞帳が降りる――


 やがて、明かりが消えた室内に男女の絡み合う声が聞こえ始めた――

 それはゲームではありえない、紛れもない現実だった――


「あなたに、明日の闘技大会の優勝を捧げましょう――カナリア姫――」




       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 闘技大会は、8名の参加者からなる――本来なら、全員がプレイヤーキャラクターではあるのが普通だが、参加締切時に人数が足りなかった場合はNPCが参加する――

 前回の大会では、勇者ハレン一人が出場し、後はNPCだった――


 今回は、勇者ハレンの他に、重層戦士アネッサと、Level 1の剣士が参加している――

 後の5人はNPCだ――


「てめえが、もょもとさんかい? おりゃあ、 一回戦であんたとあたるアセリアつ~~んだ! よろしくな!」


 NPCの強さは対戦相手が勝てるよう、調整されている――それはこのイベントが、プレイヤー同士の戦いを想定しているからである――


「うぎゃ!!」


 だからこそ、たとえLevel 1だとは言え、負ける要素はまず無い――


「まったく、選手の控え室がバラバラなんて、試合前に勇者に会っておこうと思ったのに……しかも次の相手はあの嬢ちゃんかよ――」


 もちろん、アネッサやハレンも負けてはいないだろう――もょもとの次の相手は組み合わせ表ではアネッサとなっていた。




「よう! 久しぶりだな、アネッサ!! まさか今回の闘技大会に出場するとは思ってなかったよ――!」

「ずいぶんと、テンションが高いのね――」

 勇者ハレンの控え室で、アネッサはハレンと相対していた――

「そりゃそうさ! なんたって、カナリア姫との結婚が決まったんだからな!」


「……ハァ?」


 頬を染め、得意げに言うハレンに呆れるアネッサ――

「ここにきて、闘技大会の相手が君だというのは喜ぶべきことだよ! 君なら、俺との戦いを大いに盛り上げてくれるだろう――!!」

「待って!!」

 アネッサはハレンの語りを大声で止める――


 今、彼女はそんな話をしに来たのではない――!


「……ねえ、ハレン……あなたは……、あなただって今でも元の世界に戻りたいと思ってるよね!?」

 アネッサは真剣な気持ちでハレンにそう聞く――答えは決まってるはず――だが……


「はぁ?」


 ハレンの返事は、先ほどのアネッサと同じものだった――


「君はまた、そんなことを言いいだしているのか? 現実への帰還――これで何度目だ?」


「――――!!」


 アネッサは言葉を失う――


 アネッサは、現実に帰る事を諦めていないプレイヤーだった。そして、自分がそうだからこそ他の人間もそうだと考えていた――

 しかし――この時、ハレンは現実への帰還を諦めて、このゲームの世界で幸せをつかもうとしていた――


 そんなハレンが、アネッサに同調するはずがない――


「そろそろ俺の試合だ――阻止て次は君の二回戦――その相手は、プレイヤーなんだろ? だとしたら、一回戦のNPCより手強いはずだ――まぁ、君が負けるなどとは思ってもいないけど――がんばれよ……決勝戦で会おう――!!」


「―――――っ!」


 ハレンは、アネッサの顔を見ず、そのまま控室を出ていった――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「続いて準決勝第二試合、剣士もょもとと重層戦士アネッサの戦いです!」


 観客のNPC達より歓声が上がる――そんな中、暇潰しで見物に来ているプレイヤーたちはローテンション、まるで休日の家族サービスに付き合わされているお父さん、といった感じの人間までいる――


 彼らは、決勝戦のハレンvsアネッサと言う、高Levelプレイヤー同士の戦いを見物に来たのだ――ゲームと言う娯楽世界の中にいながら、ほとんど娯楽というものを持たない、それどころか生きる意味すらも分からないプレイヤーたちにとって日々は、盛大な暇潰しなのかもしれない――


 対して、意思を持ち自分たちの自由を持ったNPCたち――だが彼らも、ゲーム内で与えられた役割は全うする――闘技大会の観客という役割を持ったNPCたちは、闘技大会があるたびに必ず集まり、見物人として選手たちに大いに声援を送る――


「あれ?」


 それを言ったのは、暇潰しに来ていたプレイヤーの一人だった――

「おかしくないか? あれ――?」


 もょもとは、いつも通りだ――Level 1、長剣――旅人の鎧――初期装備で、頭にゴーグルをつけ、肩にはタンジュンキッドを乗せている――


 だが、対するアネッサは――


 ■防具■ シルクのローブ


 ――だけだった――


 アネッサは重層戦士である――本来なら、重量級の武器を持ち、分厚く重い鎧を着ている――はずである――


 でも、今の彼女は武器を持たず鎧も着ていない――


「……俺のこと、なめている……?」

 もょもとが、イラっとした顔でアネッサに聞く――


「いいえ、私は今、これで充分だと思います――」

 アネッサは軽装のままかまえる――


「はじめてください!!」


 審判を司っているNPCの声が響く――!!


 ダッシュ!!


 真っ先に動いたのはアネッサだった――それはいつもの鈍重な動きでは無い――装備をほとんど外した重層戦士は凄まじいスピードで動ける――


「――!?――」


 アネッサは、一瞬のスキを突き、もょもとの肩の上にあるタンジュンキッドを奪い取る!!


「な――!?」


「ごめんなさい!! これ、借りていきます!! 試合は私の不戦敗でいいですから!!」


 そう言って試合会場からものすごいスピードで飛び出して行くアネッサ――


「え? あれ、なんで?」


 もょもとはそれを呆然と見送るしかなかった――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



『ちょっと待ってるのです――今、モニター画面を2つに分けるのです!』

『あ、いやモニターを二つ用意すればいいだけの話だろ?』

『あ……そうなのですよね、さすが悪知恵の七瀬先輩……』

 タンジュンキッドからそんな声が聞こえる――やがて、

『僕らに、何か用か?』

 男性のほうの声がアネッサに向けて放たれる――

「やっぱり、何かあるんだね――あなたは……」

 アネッサはタンジュンキッドを持って闘技場のある一室に入る――

「……集まってくれていたのはこれだけ?」


 部屋の中には、十人くらいの人間がいた――


「ずいぶんと、少ないんだね――」

「まあ仕方ないさ、アネッサ――」

 回復術師、ヒーラーらしい服装した少年がそう言う――

「何度裏切られたが、わからないからね」

 もょもとよりはるかに高価な装備をつけた魔法剣士の女性がそう言う――

「暇潰しってやつも俺を含め何人かいる――」

 簡易装備をつけた侍がそうぼやく――

「現実に帰る事、何度夢見たことか……」

 きらびやかな衣装をつけた踊り子が言う――

「まあ、色々と世話になっているアネッサが声をかけてくれたから、これだけ集まったんだ――」

 筋肉隆々な武闘家がそう言った。


「それで? 君が見つけた現実世界への帰還の手がかりって?」

 期待はしていない――そんな表情で彼らは言った――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「闘技大会決勝戦! 勇者ハレン対剣士もょもと!!」


「……どういう風に発音しているんだろう?」

 人間には発音しにくい言葉も、NPCは間違えない――現実の人間とそう変わらないが、やはりNPCたちは機械なのかもしれない――


「アネッサじゃなかったのか?」

 準決勝の戦いを見ていなかったのだろう。ハレンは驚いた顔でもょもとを見た――

「Level 1……? よくそんなんでここまで来れたものだな……」

 ハレンは、剣を抜きかまえる――

「だが、容赦しない――この大会は、カナリア姫に捧げる俺の聖戦なのだ!!」

「あ、ちょっと! 勇者に話があるんだけど――」

 もょもとはそういう――


「――――試合開始!!」


 NPC達の歓声とともに、戦いが始まる――!!


「先手必勝――!」


 勇者ハレンは問答無用でもょもとに切りかかる!!

「聞く耳なしか!!」

 もょもとはハレンに対し、Level 1でも使える技――全力攻撃を行う!!


「速攻!!」


 だが、ハレンは油断せずに技を発動させる――戦いの初めに行動し、相手を攻撃できる速攻――Level 99のハレンがそれを使う――!!


 Over Kill!!


 ズシャァ!!


 一瞬で、もょもとの生命値を大きく上回るダメージを喰らわせてくる!!



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「――タンジュンキッド――? たしか、シンプルランドって言う、アニメとゲームのキャラクターだよね? なんで、ここにいるわけ――?」

「この子は、ゲームの外、現実から来たみたいなの――」

 アネッサは仲間たちにその小さな人形を紹介する――

「そうか? コラボアイテムか何かでこんなのなかったか?」


 少々興奮気味なアネッサに対し、彼女が集めたプレイヤーたちはあくまで冷静だった――期待して、失敗して、失望するのにもう疲れていた――そんな表情が、そこにいる人間たちから見てとれる――


『つまり君たちは、元の世界に戻りたいとと考えているプレイヤーだと言うわけだね――?』


 タンジュンキッドからそんな声が聞こえてきた――


「「――!?」」


 その声に、周りの人間たちの視線が集まる――


『安心するのです! 鈴たちが現実に返してあげるのです!』


 二種類の声を出すタンジュンキッド――


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 そこにいたプレイヤーの一人が口を挟む――脳筋そうな屈強な武闘家の男だ。


「現実世界に帰れるって事は、あんたらは現実世界にいるんだよな? という事はあんたら、このグランド・ウォーリア・オンラインが現実化した理由をしっているのか!?」

『理由……? なぜそんなことを聞きたいんだ?』

「知りたい決まっている……こんな事がゲームや小説、漫画などでなく現実で起こるなんて考えられない――そもそも今、現実はどうなっているんだ!?」

 どうやらこの武闘家、見た目とは裏腹に、インテリっぽい――


『現実、か……混乱しているよ……なんたって、下手をすれば一億人近い人間が、意識不明で昏睡状態に陥っているんだからね――』


 タンジュンキッドからそんな声が聞こえてきた――タンジュンキッドの表情は変わらないが、聞こえてくる声からは相手に対する驚きの感情が見え隠れしている――


「い、一億人!? グラウォのプレイヤーってそんなにいたっけ!?」

 別の女性プレイヤーがびっくりした声を出す――

「確か、全盛期は一万人以上のプレイヤーがいたって言うけど、今ではもう千人いくか、いかないかってぐらいだったと思うが?」

『いや、このような事態に陥っているのがグランド・ウォーリア・オンラインだけじゃないってことさ――』


「「ええっ!?」」


 そこにいた全員が驚愕する――


「どういう事ですか!?」


 アネッサもたまらずにそう聞いてきた。


『悪いのです――それだけRPLの拡散が大きかったということなのです』


「アール、ピーエル……?」

 聞きなれない言葉に、ヒーラーがつぶやく――

「なにそれ?」

 剣士の女性がタンジュンキッドの前に手を突き、顔を近づけて聞く――


『RPL――魔法機械言語、Runic Programming Languageの略称なのです……』


 剣士の顔が目の前にあるのにもかかわらず、タンジュンキッドの口調は変わらない――


「るーん、ぷろぐらみんぐ、らんげーじ……」


「ねぇ、ぷろぐらみんぐらんげーじって、何なのかわかる人いる?」

「――機械言語――コンピュータを動かす上での命令書を作る文字みたいなもんだ」

 武闘家が、説明してくれる。見た目とは裏腹にそういうことに詳しい人間のようだ。

「それを使い、既存のプロトコルを実行することによりコンピュータは様々な事が出来る。また外部接続で動くプリンタやスキャナを制御するのにも使われる――」

 周りにいるプレイヤーたちが感心する――そういった知識は持っていなかったらしい――

「だが、ルーン・プログラミング・ランゲージなんて、聞いたことがないな――」

『ほんの少し前に、ある二人の姉弟が作り上げた――ルーン文字をプログラミング言語に混ぜこむことでコンピュータに信じられない現象を生み出す魔法の機械言語――それにより、据え置きのゲーム機でバーチャルリアリティをはるかに超えた現実感があるゲームを作り上げることができる――そういう風に作られていた――』

「そんなものが……実在するのか!? っていうか、どうしてそんなものが作られることになった!?」

 武道家は女性剣士からタンジュンキッドを奪い取り揺さぶる――

『だって、普通のプログラミング言語じゃ鈴たちの理想を実現させるゲームを作る事ができなかったのです。だからRPLを作り出したのです!』

 女性の声がそう言う――


「……あんたが、作り出した――?」

『そうなのです、鈴と麗が苦労して作り上げたのです! まず、魔法の達人であるファロ・ヴェルバーンちゃんに協力を要請してキーボードをルーン文字に対応できるよう改造して――』

 タンジュンキッドからの声はまるで自慢をしているようだが、言っていることが全然わからない――

「……あの、男性の方のほうに出てもらえませんか? ちょっとあなたではよく理解できないので」

 武道家はそうリクエストした――

『ええ!? ここからがいいところですのに――』

『鈴、少し黙っておいてくれ――』

「あなたは、その兄弟の弟のほうなのか?」

 武道家が質問する――彼以外は内容を理解できそうにない。

『いや、僕は七瀬銀河――今回の件の解決を上から命ぜられた人間だ』

『七瀬先輩は高校時代の先輩なので鈴も協力しているのです!』

 女性――鈴は黙っていることができそうに無いようだ――

『……きっかけは、ここにいる鈴と弟の麗が、RPGツクレールというゲームを買った時だったと言う――』



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「なに!?」

 勇者ハレンはそこに立つもょもとを見る――

「Level 1で耐えきるなんて、驚きだな」

 相手は、予想以上の強敵かもしれない――そう思いつつハレンは愛剣をかまえる――

「おいおい、問答無用かよ……こっちは話があるんだぜ落ち着けよ」

 もょもとは、さほどダメージを受けていないような感じで歩き出す――

「これはなかなか楽しめそうだな――アネッサではなかったのが残念だが、お前の敗北を持ってカナリア姫との結婚の祝儀としてやる――」

「人の話を聞いているのか?」

 再びハレンの剣撃がもょもとを襲う――!!


 ズバッ!!


 再び、Over Kill――!!


 が、

「話きけよ!!」

 もょもとは倒れていなかった――

「何かあるな――その不死身ぶり――!!」

 ここにきて、ハレンは相手が何かしら方法を使って自分の攻撃を無効化していると気づいた――


「別に大した事じゃないさ……救世主モモモトにかかればこんな事――」

 相変わらず、自分の名前を発音することができないもょもと――

「まあ、紙一重の護符と神速の看護婦さんを持ってるくらいだけさ――」


「なに!?」


 ■紙一重の護符■

 レア度 S

 自身の生命値を超える攻撃を受けたとき、必ず生命値がポイント1だけ残るアイテム――持っているだけで効力を発揮する。

 ■神速の看護婦さん■

 レア度 S

 ダメージを受けた際、すぐさま生命値をポイント10回復させてくれる看護婦さんの人形――持ってるだけで効力を発揮する。


「ふざけるな!」

 ハレンは叫んだ――どちらも通常のプレイでは手に入らないレアアイテムだ――どんな攻撃をくらっても1の生命値を残す紙一重の護符と、その瞬間生命値を10回復させる神速の看護婦さん――それを待つものを倒すことなど――まず、不可能――!!


「どうやってそんなものを手に入れた!?」

「ああ、初回特典で!」

「はぁ!?」


 初回特典――ゲームを始めた際、運営会社からプレゼントされるアイテムだ。

 時期や何かしらのイベントなどで変化するものの、レア度Sのアイテムがもらえるなんて聞いたことがない――せいぜいレア度Aの高価アイテムがいいところのはずだ――


「銀河のやつがグラウォの運営委員会を脅して――じゃなくて、今回の件解決のためにグランド・ウォーリア・オンラインの運営会社に協力してもらってな。この二つのアイテムを初回特典としてつけてもらった」

「なんだって!?」

「知らなかったのか? モユモトは最初からありえない状況でゲームをプレイできる――救世主たるものそれくらいでなければ、務まらないってことさ!!」


 自信満々でもょもとは言う――


「カオティック・ソード!!」


 ズシャァ!!


 ハレンはもょもとの話を聞かず必殺技を放つ!!

「無駄なことを――」

 どんなOver Kill Damageを与えても、必ず生命値が1残り、すぐさま10回復する――どうあろうと、もょもとを倒すことなどできはしない――

「とりあえず落ち着いて、話を聞けよ……悪い話じゃないんだが――」

「お前の話――? 一体なんだ!?」


「俺は救世主だ――このゲーム世界にとらわれているプレイヤー達を助けたい! 協力しろ――」



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



『RPGツクレールとは、様々なパーツを組み合わせてロールプレイングゲームを作り上げるというゲームだ』

「それは知っている――俺もやったことがある……敵モンスターのバランスを考えず、ラスボスを強くしすぎた結果、誰もクリア出来ないって、ラスボスの設定を変えられたことがある――」

 武道家がうなずく。周りの人間の中にも同じゲームをやった人間もいるらしく、理解できているものといないものがいる――

『かなりいろいろなことができたゲームなのですけど、鈴と麗の理想には全くとどかなかったのです』

 鈴の声は、愁いに満ちている――

『理想にあうゲームを作るために鈴と麗はまず、RPGツクレールから作ろうとしたのです――が、それもうまくはいかなかったのです――』

『なんせ目指していたのが、魂で感じる事が出来るゲームとか言っていたからな――はっきりって、どんな高スペックなゲーム機でも実現は不可能だっただろう――』

 銀河、そう名乗っている男性の声のほうの説明のほうも、基礎知識がなければ理解は不可能だ――

 ここに集まったプレイヤーの中にもわかっているもの半分、わからないもの半分といった感じだ――

『それを、RPL――Runic Programming Languageを作り出すことによって理想に近づけたのです』

「簡単に言っているけど、それ、ものすごくすごいことなんだぞ……」

 この中で一番理解力が高そうな武道家がいう――


「……それで、あなたたちが作り上げた魂で感じることができるゲームと言うのが、このグランド・ウォーリア・オンラインなの?」

 アネッサが聞く――

『違うのです、このゲームじゃなくて、もっと別のゲームなのです――』

 鈴が言ってくる――

『僕もやったことがあるがすごいゲームだったよ――未完成だったのが惜しいくらい素晴らしいゲームだった。まあ、グラウォとは違うゲームだ』

「なら、おかしいじゃない――人間の魂に影響があるのは、その~アールピーエルとか言うものを使って作ったゲームだけなんでしょ?」

『……鈴と麗がRPLを使って作られたゲームは、まだ未完成品だったためにそんなに話題にならなかった――それなりに、凄まじくとんでもないゲームだったが、それよりも他の人間の興味は新たなるプログラミング言語、RPLに向いてしまった――』

「なるほど、モノ珍しいプログラミング言語といえば、ゲーム開発やそれに関えあるクリエーターなら興味津々だろうな――それに、ゲーム世界の現実化などと言うとんでもないことができるプログラミング言語だ……俺も見てみたくなったよ――」

 武道家が言う――どうやらこの武道家、現実ではそういった職種に付いているようだ――


『そういう人たちは何人もいたのです――で、鈴と麗は欲しいと言った人にRPLのデータをあげてしまったのです――』

 鈴と呼ばれる女性の声は、少し落ち込んでいる――

「おいおい、あげるなよ! 新しいプログラミング言語なんて、売ったらどれくらいの値になるか――」

 武道家が言う――

『だって、鈴たちも見てみたくなったのです――鈴たちが作ったプログラミング言語で他の人がどんなものを作ってくれるのか、ということなのです――』

「じゃあ、現実に帰ったら俺にもくれ――」

『……人間の魂をゲーム世界に閉じ込めるという問題を引き起こしたことで、RPLは厳重管理されているんだ。今、そういうことできないぞ――』

「な……」

 武道家はタンジュンキッドからの声に明らかにショックを受ける――

「ちょっとおかしいじゃない?」

 タンジュンキッドと武道家の会話を聞いていたアネッサが口を挟む――

「今の話じゃ、そのアールピーエルは、このグラウォには使われていなかったんでしょ? ならなんで私たちはこのゲーム世界にいるの!?」

 それは当然の疑問だった――

『……鈴と麗が開発に使っていたコンピュータは、ネットにつながってはいなかった――』

 武道家の手の中のタンジュンキッドは、アネッサを見ずに話を続ける――

『ネットにつながっているといろんなデータが入り込んできて処理が遅くなるのです――だから、RPLがネットに流出したらどうなるか、知らなかったです』

「……どういうこと?」

『二人は、ネット対応を想定していなかったということだ――当初RPLで作られるゲームは単独プレイを想定していた――』

「なるほど……」

 銀河と呼ばれる男性の声に武道家がうなずく――

 すでに、半数以上のプレイヤーが理解を諦めている――そういうプレイヤーたちは武道家の表情を見ることによって、事態の深刻さを知ろうとしていた――


『だが、RPLのデータを受け取った人間たちの中にはそれでネトゲを作ろうとした人間もいたし、完全な不注意者やまったくの不心得者もいた――』

「不注意者――何か問題のあるコンピュータでそのアールピーエルとやらを使ったのか……」

『ネットに接続しているだけでなく、ウイルス感染してたコンピュータを使ってしまったためRPLがネット流出する原因となった――さらには――』

『鈴たちが作ったRPLで、コンピュータウイルスを作った馬鹿までいたのです――!!』

 悲しそうな鈴の声――それを聞いた武道家の顔が険しくなる――

「つまりそれが、不心得者って訳か――」

『それによってRPLはネット上に拡散してしまった』

「それって、大変なことなんですか?」

 いまいち理解の及ばないアネッサが聞いてくる。

「ネットにそのアールピーエルが拡散した場合どうなるかシミュレーションしていなかったのか?」

『やっていれば、こんなことにはならなかったと思うのです――』

『まさか、ファイアウォールを書き換えて破壊し、他のゲームのプログラムまで侵食するとは思わなかった――』

『RPLは、侵食したゲームのプログラムを同じRPLで書き換え、プレイしている人間の魂を取り込んで、まるで現実のようにゲーム世界を構築してしまったのです』


「「――――!!」」


 周りのプレイヤー達は武道家のすさまじい表情に目を見張る――

「つまりこの世界は、アールピーエルに犯されたグランド・ウォーリア・オンラインに俺たちの魂が閉じ込められて作られた世界ってことか!?」


 バアン!!


 武道家が今までつかんでいたタンジュンキッド人形を床にたたきつける!!

『オンライン対応のゲームだけでなく、ランキング共有や修正パッチ、拡張パックをネットで手に入れるゲームは最近では多いからな――それに最近のコンピュータは初期設定やバージョンアップのためにネット接続が必要となっている……被害はかなり広がってしまっていた――』

 タンジュンキッドからの声は冷静だ。この声は現実から飛ばしているだけに過ぎない――

「お前それ……どれほど大変な事なのか理解している? 人間の魂をゲーム世界に閉じ込め現実化させるなんて――どんだけとんでもないプログラミング言語なんだよ!?」

『……わかってるさ。だから解決のために動いてるんだよ僕たちがな――』

「……ああ、ぜひ解決してくれ――そして、現実に帰ったら俺にもそのRPLを使わせてくれ――魂を取り込み、ゲーム世界を現実化させるプログラミング言語――それを使えば……究極のエロゲーが作れる……」


「「「はぁ!?」」」


 武道家のその発言にアネッサを始め、その場にいた全員が驚きの声を上げた――


『……あなたはまさか、エロゲー関係者だったのですか?』

 呆れた鈴の声が、タンジュンキッドが聞こえてきた――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「元の世界に、帰る――」

「その通りだ――それも、ここにとらわれているプレイヤーたち全員でな。だからお前に、すべてのプレイヤーを集めてほしい。できるだろう? お前の知名度なら――」

「……」

 勇者ハレンは剣士もょもとの言葉に黙り込む――

「とりあえず、俺をこの闘技大会で倒す事は不可能だ――お前が優勝するためには、俺のGive Up以外ない――」

「ふざけるな――!」

「――?」


「ふざけるなぁ!!」


 ハレンは、吠えた!!

 吠えた後、ムチャクチャに剣を振り回す!!


 その一撃、一撃がOver Kill Damageとなり、もょもとを襲うが、もょもとは倒れない――!


「俺はこの世界でやっと幸せを手に入れられるんだ――それを、邪魔するんじゃない!!」

「はぁ?」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ガギィ!!


「俺はお前を倒し、本当の幸せをこの世界で手に入れてみせる!!」


 勇者ハレンはもょもとを倒そうと必死になって剣を振るう――


「何を言っているのか分からない!?」

 ハレンの攻撃はむちゃくちゃだ――しかし当たったとしてももょもとは倒せない――


「俺は、俺は!! やっとこの世界で、生きる意味を見つけた――!! それを邪魔させはしない!!」


「幸せ? 元の世界に戻ること以外に幸せなんてあるのかよ!?」


「あるさ! 俺はこの世界でやっとそれを見つけたんだ!!」

 ハレンの目は危険な光で輝いている――!!

「……わかった――じゃあお前をぶちのめしてでも言うことを聞かせてやる!!」


 ドガ!!


「無理だ! いくら紙一重の護符を持とうとも、神速の看護婦さんがいようとも――このLevel 99の勇者ハレンを倒すことなど不可能だ!! この世界での経験が違うんだよ――!!」


 バギ!!


「ぐ……っ!」

 ハレンの一撃で、もょもとは闘技場の壁に押し付けられる!!

「その二つのアイテムを破壊しさえすれば、俺の勝ちだ!!」


 グギ!! バギ!! ドゴ!! ダグ!!


 ハレンは、もょもとをこれでもかというくらいに切りつける――それは、およそ勇者と呼ばれる人間とは程遠い光景だった――

 ズダボロに切り裂かれながら、もょもとの目はまだ死んでいない――

「く――悪いが……こっちだってまだ切り札ぐらいはあるんだぜ……!!」


 もょもとは叫ぶ! ――現実世界に向かって――!


「鈴!! Infinity Legendを発動しろ!!」



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「とにかく、私達は現実世界に戻る事できるんですよね――だったら早く――!!」

『そう慌てるな――この世界に閉じ込められているのは君たちだけじゃないだろう?』

 アネッサの言葉にタンジュンキッドからの声は冷静に返してくる――

『鈴がやっと完成させたログアウトプログラムは、鈴たちが送り込んだ特殊プレイヤーキャラクターが認識している範囲にいる人間にしか効果がないのです――そして、一度ログアウトすると、その特殊プレイヤーもログアウトしてしまい、もう一度スピリットダウンロード――ログインしなければいけないのです――だから、一回のログアウトでこの世界にとらわれているプレイヤーたち全員を集めなければいけないのですよ』

「特殊プレイヤーキャラ――……モーモヨさん……」

『そうなのです、モヨモヨの事なのです』


 ここまで来ても、誰一人もょもとと発音できない――


『真面目な話してるのに、名前だけでここまで緊張感をなくす――新も、罪なキャラクターを作った物だな――』


 タンジュンキッドから銀河はあきれた声が聞こえてきた――


『――七瀬先輩! 今、白夜先輩から――!!』

「どうしたの?」

『Infinity Legendの発動申請きたのです――!!』



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「クッ……!!」


 突如もょもとの周りに光が集まり、ハレンを吹き飛ばす――!


『白夜先輩――Infinity Legendの発動申請、受け賜ったのです』

『新――しっかりしろよ』

 何もない空間から、そういう声が聞こえる――タンジュンキッドがないからこういう処置になってしまうのだ――

『Runic Programming Language起動、Restoration Spell展開――Infinity Legend発動――なのです!』


 鈴の声が響く――


 Y~♪T~♪ M~♪O~♪ K~♪K~♪

 H・R・I・Y・U・G♪ T・R・Y・M・A・K・R♪

 Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ 

 Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ Pe♪ 


「なんだこの歌は――!?」

 ハレンが動揺する――


 謎の歌と共に世界中からかすかな光が少しずつ、少しずつ溢れ出してくる――やがてその光は一カ所へ――もょもとの下へ集まりだす――!!


「教えてやろう……この俺の名には、世界を救った英雄の末裔と言う意味がある!」


 もょもとの周りに光が集まりだす――そうそれは……この世界の、このゲームの世界の伝説にある英雄の光――


「このゲームの設定にある伝説の力を……今、見せてやる!!」


『――Go~~なのです!!』


 カッ!


 ■名前■ もょもと

 ■性別■ 男

 ■職業■ 英雄の末裔

 ■Level■ ∞

 ■武器■ レジェンドソード

 ■防具■ レジェンドメイル

      レジェンドシールド

      ゴーグル

 ■所有技■ 伝説の剣技

 ■所有魔法■ 失伝魔法



「な……に……?」


 ほとんどのファンタジーRPGでは、かつて世界を救った英雄がいたという伝説――その設定――が存在する――それはこのグランド・ウォーリア・オンラインでも同じこと……


 プレイヤーたちは、その英雄の軌跡をたどると言うクエストに挑戦することもある――ゲーム世界各地にその伝承が残っておりその英雄を超える事は決してできないと言われている――


 ストーリー上のラスボスや、隠しボスなども、その英雄に一度倒され、復活したという記述があるほどだ――設定上は……


「英雄の伝説……? そんなものゲームの設定上だけの話だ!!」

「そう、設定上――誰も超えることのできない英雄というのは過去に存在していたとされる――」


 美しく複雑な文様が描かれた剣、青くきらびやかに光り輝く鎧、傷一つ無い透き通った面を見せる盾――それらは、グランド・ウォーリア・オンラインにおける伝説の英雄が使っていた武具そのものだ――


 プレイヤーがどれだけレベルを上げようと、どれだけ強力な武具を作り出したとしても、その英雄を超えることなどできない――英雄は伝説上の存在であり、ゲームの中には出てこないのだから――


「RPLによって現実化した世界では英雄伝説が別の意味を持つ――設定上にしかなかったそれは、現実としてかつて存在していた実在のものとなる――だったら、その末裔がいてもおかしくないだろう? かつて英雄が使っていた伝説の武器・防具を受け継ぎ、英雄が納めた剣技を親より教えられ、一子相伝の魔法を体得している――そんな末裔がな――」


「何――!?」


 勇者ハレンは目を見張る――目の前にいるもょもとは、英雄伝説に存在する人物そっくりだ――そんな、ゲーム設定の一つとしか見ていなかった存在の力を目の当たりにする――


「ふざけるな! 英雄の末裔なんてそんなものあるか!!」


「俺は、そうなんだよ! ――最強の力を持つ英雄の末裔――その名を自らの名前としたとき、このLegend Infinity Modeを発動する条件は整っていたのさ!」


 もょもとはゆっくりと伝説の剣をかまえる――その力はLevel ∞の表示により全く想像がつかない――そして今まで使っていた戦法とはまるで違う洗練された動き――それが、英雄の動きだとわかるものがどれだけいたのか――




「ふざけるな!! 俺はこの世界最強の勇者ハレン様だ!! お前などに……たかだか英雄の末裔だと言う設定などに……負けるものか!!」


 伝説の英雄の力をまとったもょもとに、ハレンは気落とされそうになりながらもすんでの所で立ち止まり自らも剣をかまえる――!!


「悪いな――いくらLevel 99の勇者でも今の俺には勝てん!!」


 シュンッ!


「っ――――――!?」


 もょもとの攻撃が、ハレンが生命値をを大きく奪う――


「グ、グ……」


 ハレンが倒れなかったのは、ほんの少しだけ残った生命値のおかげだった――

 急ぎ回復魔法を使おうとするハレン――しかし、もょもとはそれを許さず伝説の剣を上段にかまえる――!!


「お前の負けだ」


 現実を目の前に突き付けられる――伝説の英雄は、プレイヤーにとって超えることのできない壁――その力を使うもょもとは、史上最強の敵――


「う、うわ~~あああああああああああああああああ!!」


 ハレンは半乱凶になり、剣を振り回す!!

 華麗な剣技を持つもょもとに当たるわけはなく、また当たったとしても、ダメージなど微々たるもの――


「ふざけるな!! ふざけるなよ!! なんでお前みたいな奴がいるんだよ!!」


「ゲームが現実になる様なプログラムを生み出した奴に言えよ。そういう不条理が成り立つから、俺みたいな奴も存在できるんだ――」


「そんな無茶苦茶なことがあってたまるか!! あってたまるか!! 俺は今までどれだけ苦労してこの地位に来たと思っているんだ!? そして今、やっと幸せを手に入れる事が……勝者になることができるというその時に――!!」


 ガキィン!!


 ハレンの手から、剣が弾き飛ばされる――


「…………」


 ハレンは絶望したような目でもょもとを見る――


「敗北ENDは嫌か? なら次は勝利ENDを目指せ――――現実でな!!」


 ――斬ッ!


 もょもとはハレンに最後の一撃を加える――


 決着は、ついた。


 倒れるハレン――


「勝者もょもと!!」


 NPCの審判が大声でそう叫んだ――!



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 戦士、魔法使い、僧侶、武道家、盗賊、魔物使い、ヒーラー、呪術師、剣士、賢者、重層戦士、弓砲士、ガンマン、魔導士、龍使い、修験者、モンク、魔女、魔法少女、神官、ダンサー、遊び人、舞姫、騎士、パラディン、ギャンブラー、医者、怪人、関取―――――


 ありとあらゆるファンタジー系職業の人たち――


 それがこのグランド・ウォーリア・オンラインのプレイヤーたちだった―――


 現実化したゲームの中に閉じ込められていた人間たちの魂――


 プレイヤーキャラクターの姿となってこの世界の中で過ごしていた人々の魂は今、解放される――――――!!


『RPL起動――Spirit Log Outなのです!』


 鈴の声が響きわたり魔法の効力を持つプログラミング言語が、ゲーム世界にとらわれていた魂たちをログアウトさせる――!!


「ありがとうございました! またいつかお礼をします!」

 アネッサは、ぺこりと頭を下げ、


 一人一人が、光の粒子となってゲーム世界の空へと消えていく――その先にあるのは現実、彼らがもともと過ごしていた世界――


「……これでよかったのか……」

 未練があるのか、勇者ハレンは次々と消えていくプレイヤーたちを見ながら言う――

「ゲーム世界は、夢や幻みたいなもんだ。よく言うだろ? ゲームは一日一時間ってな」

 いまだ伝説の武具を身につけたもょもとがいう――

「……そういえばあんた、白夜新とかいう名前だったか?」

 何かを思い出したようにハレンが言う。

「ああ、現実でははな……」

「聞いたことがある名前だな……確か、悪質チートや違法プレーで有名なプレイヤーだろ? ゲーム業界じゃかなりの嫌われ者と言われ、ゲーム会社や公式サイトのブラックリストに名前が載っているような――」

「確かにそう言われている」

 もょもとは笑っていう――


「……そんな奴じゃなきゃ、俺みたいな者は救えないってことなのか……」


 勇者ハレンが光の粒子へと変わり、ログアウトして行く――これにてこのゲーム世界のプレイヤーはほとんど救われたといっていい――


 それを見届けて、もょもとも光の粒子となりログアウトしていった……



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「おかえり。新――」

 軍服姿の青年が、目覚めた男にミネラルウォーターを手渡す――

「とりあえず、タバコもくれないか? ゲームの中じゃ手に入らないんだあ」

 男は一応ミネラルウォーターを受け取るが、青年をにらみつけていう――

「……まったく、ほらよっ」

 黒い機械をつけたタバコを手渡す青年――

「イカロスかよ……煙の出ないタバコは気分が乗らないんだよな……」

「贅沢言うな――タバコを飲む人間は飲まない人間の健康を考えるものだ。副流煙だけでも押さえられるイカロスは僕のそばで飲んでいい唯一のタバコだ」

「ちっ!」

 男はミネラルウォーターを一気飲みほした後、イカロスのついたタバコを口にくわえた。


 ■イカロス■

 太陽電池のついた電熱タバコ――太陽電池の力で熱を発する電熱版でタバコの葉を熱することでタバコの香りを出す――火を使わないので、煙の出ない、飲んでいる本人以外には嫌な思いをさせないタバコ。


「ふう……」


 大きく息をついた男は、あたりを見渡す――

 自分以外には、軍服姿の青年――といっても、同い年だが――と、机の上に並べられたコンピュータに向かい、猛烈な勢いでキーボードを叩いている女性がいる――

「あ、目が覚めたのですか? 白夜先輩――」

 キーボードを叩く手を止め、女性が男を見る――

「鈴、何をやってるんだお前?」

「ゲームのスナップショットを撮れるプログラムを組んでいたのです!」


 女性――鈴は勢い良く立ち上がる――


「……見るのです――RPLを使ったスナップショット機能を――!」

 鈴の後ろには新が先ほどまでいたグランド・ウォーリア・オンラインの世界が写真のように表示されていた――

「これで、思い出を残すことができるのですよ!」

「こいつ何やってんだ? 銀河……」

 軍服姿の青年、七瀬銀河は、肩をすくめてさあ、というジェスチャーをした――


 RPLの暴走により、ゲームの中に閉じ込められた人々を助け出すために結成されたメンバー――RPLを生み出した姉弟の片割れ、三王子鈴――悪知恵の天才……いや、参謀的な立場にいる、七瀬銀河――そして、悪質チート王、違法プレイヤーと呼ばれた男、白夜新――


「……なんか、鈴以外はまともな呼称がないのですよ――つまり、主役はやっぱりこの三王子鈴なのです!」

「おいおい、総責任者この僕だ!」

「ゲーム世界に入るのこの俺だぞ! 俺が主役に決まってるだろうが!!」


 仲はそんなにいいわけじゃない――だが、ゲーム世界にとらわれているプレイヤーたちの魂を救うためにこれからもこの三人は活躍していく――



       ☆ ★ ☆ ★ ☆ 次回予告 ★ ☆ ★ ☆ ★



「鈴なのです! 次回に入り込むゲームは『Start Riser・On-Line』なのです!」



「可愛い子が、来たのです!」


「お兄ちゃんを助けてください!」


「これは……イベントなのか……?」


「勝利ENDは好きか? なら、現実でも勝利ENDを目指せ!」


『――RPL起動――Spirit Download……Game Start!  なのです!』


                      ――次回『星空の大レース』

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