除夜の鐘が響くとき。
雪が降っている。
鐘の音が響いている。
僕の温度で暖かくなった、公園のベンチ。
隣の場所、少しだけ雪が解けて水浸し。
「…ほぅ」
息吹けば、雪の子と白い吐息が舞っていく。
また、ひとつ。鐘の音が鳴った。
ゆっくりと、ゆっくりと。
ごーん、ごーん。
とくん、とくん。
今ので62回。
僕の音も、鳴っている。
「本当に。言わなくて、良かったのかな?」
ごーん。ごーん。
鐘の音で、僕の独白は聞こえない。
ごーん。ごーん。
隣に座ってた、僕の彼女は。
ごーん。ごーん。
巫女さんの格好で、来てくれた彼女は。
ごーん。ごーん。
辛いとき、懸命に励ましてくれた彼女は。
ごーん。ごーん。
「いや…。行かなきゃ、言わなきゃ」
ごーん。ごーん。
76回。
とく、とく。
「まだ、大丈夫」
僕の音は、まだ、鳴ってくれている。
ごーん。ごーん。
この公園から、神社まで。
ごーん。ごーん。
50段。
ごーん。ごーん。
伝えなきゃ、いけない。この事を。
ごーん。ごーん。
40段。
何時も、ご飯を作ってくれてありがとう。
ごーん。ごーん。
30段
とくん、とくん。
何時も、元気をくれてありがとう。
ごーん。ごーん。
23段。
とくっ、とくっ。
何時も、笑顔でいてくれてありがとう。
ごーん。ごーん。
17段。
とくっ、とくっ。
何時も、好きって言ってくれてありがとう。
ごーん。ごーん。
10段。
とくっ、とくっ。
「はぁ…もう少し」
ごーん。ごーん。
ちょっとしたお祭りのような、喧騒が聞こえてくる。
探さなきゃ。彼女を。
ごーん。ごーん。
「いない…」
「おや、あらあらまぁ~」
ごーん。ごーん。
「おばさん…」
「--くんじゃないのぉ。--ちゃんを探してるのぉ?」
「あ、はい。そうです」
ごーん。ごーん。
「--ちゃんなら、除夜がおわっちょったら…あそこに出てくるよぉ」
社の大本堂を指差す。
とっ、とっ。
ごーん。
「もうそろそろで出てくるからぁ、もうちょっと待っててぇ~」
「あっ…はい」
とっ、とっ。
「ぅ…」
ごーん。
まだ、倒れちゃだめ。
と、と。
ごーん。
伝えなきゃ、いけない。
ごーん。
いつまでも、笑っていて欲しいから。
ごーん。
僕には、もったいないくらいの彼女。
ごーん。
嬉しいことは、僕が笑ってることって言った彼女。
ごーん。
だから…。笑って。
ごーん。
伝えなきゃ…。