始まりの日
風の吹き抜ける草原の空。
雲の上のお家の中で、一人の竜人が頭を抱えています。
竜人の仕事は、世界の竜に「物語」を食べさせること。
戦いの物語、恋の物語、陰謀の物語、旅の物語。
物語を食べることで、世界の竜は成長していくのです。
「どうしよう」
竜人がポツリと呟きます。
「いくらなんでも、こんな旅人は予想外だ」
人は一生に一度、誰もが心踊る旅に出ます。
その旅人を影から支えたり、時にはアクシデントを起こして、竜人は物語を作ります。
どうやら、この竜人「なとりうむ」が選んだ旅人は、ずいぶんハチャメチャな旅人たちだったみたいです。
「まあ、それはそれで有りか」
諦めたような、開き直ったようなため息を吐いて、なとりうむは物語を書き始めます。
星屑の降る街「ダーウメ」で出会った、三人の旅人の物語を。
星の街ダーウメの中央広場。
普段は大道芸人や司祭様、街人たちが集まる憩いの場として利用される大きな広間。
今日も今日とて喧騒に包まれているが、どうやらいつもとは毛色の違う騒がしさ。
役人や店員、野次馬など。色々な人が言葉を交わしているのは、広場の真ん中に立った看板について。
『冒険者募集!』
大きくそう書かれた文字の下には、たくさんの旅人たち。
街で起きた困ったこと、ちょっとしたお使い、頼み事。
旅人たちはそうした『クエスト』を解決することで冒険に必要な路銀を稼ぐ。
普段なら酒場や宿屋に貼りだされるクエストだが、広間で発表されているあたり、どうにも大きな問題のようだ。
とにかく沢山の人手を集めたい。
大々的な募集が功を奏して、その目的は達成できた。
旅慣れた2人組、人の良さそうな5人組、コネコゴブリンと男女のパーティ。
そして、街についたばかりの旅人が1人×3。
集まった人達の視線を一身に受け、細身の男が説明を始める。
「この度は、集まっていただきありがとうございます」
手元の資料を凝視しながら、慌ただしく喋る気弱な男性。
その男性が言うには、街の存続に係る問題が発生したとのこと。
ダーウメが星屑の街と呼ばれる所以、その星屑に問題が起きた。
聖夜に空から降ってくるはずの星屑が、今年は街の周りに散り散りになってしまった。
「我々の生活は星屑を加工し、販売することで成り立っているため、これは由々しき問題です。
幸い星屑はこの街の上空付近で飛散したようなので、街の周囲に散在していると考えられます。
あなた方にはこの星屑を集めていただきたい、これが今回の依頼です」
ひと通り説明を終え、安堵の息を漏らす男。
その男に金髪のマーチャントが質問を投げる。
腰に差した2つのそろばんが特徴的な男だ。
「それで、成功報酬はどうなっていますか?」
「はい、えーっとですね、報酬の方は出来高制としてまして、具体的にはですね、えーと、集めた星屑の数×10Pとして考えております」
資料をめくりながらたどたどしく喋る男。
10Pとは、この世界の共通通貨ペリカのことだ。
「なるほどなるほど。それで、どれくらいの星屑が散った感じですか?」
「えーっとですね、大体例年100個程の星屑が街に降りますので、おそらく今年も同程度だと考えております」
その言葉を受け、大柄な男がポツリとこぼす。
「となると、よくて300Pといったところか」
その声音には明らかに不満の色が聞き取れた。
「う、うぅ、えーっとですね、そのー……」
「代わりましょう」
重く響く声が、しどろもどろの男にかかる。
「私がこの街の代表者です。
えー報酬に不満がある方もいらっしゃるようですが、最大で1000P程度になると考えると妥当でしょう。
とは言え、確かにこの場の人数で争うとなると、ロクに報酬が得られず終わる方も居るかもしれません。
そこで、皆様の滞在費は我々が負担します。食事と寝る場所の用意はこちらで行いましょう。
また,旅に出る際には一回につき最大で3日分の食料と水を支給します。
それでも納得がいかないというならば、仕方ありません。この度はご縁がなかったということで。
以上です、何か質問はありませんかな?」
威圧的な声。言外に「代わりは居る」という宣言。
その声を受け、3つのパーティは方々に散っていく。
残ったのは、孤独な三人。
「これはー、なかなか、大きな仕事になりそうですね」
金髪のマーチャントが独り言ちる。
商人としての思考が、脳内のそろばんを軽快に弾く。
「こんにちは、お二方も、お一人ですか?」
「………なんだ?」
「んー?」
損得勘定に従って、彼は2人の男に声をかけた。
1人は大柄な男。体も顔も人一倍大きく、燃えるような赤髪の男。
もう一人は小柄な男。ぶかぶかな服に透き通った緑髪の男。
金髪のマーチャントは、笑顔を貼り付けたまま語りかける。
「私は商人の町から来たリョウと言うものです。
私の町では成人すると行商に出る仕来りが有りまして、その旅に出たところなんですよ。
どうも今回の依頼、協力して行ったほうが効率が良いとは思いませんか?」
ベルトにさした2つのそろばんを見せながら、リョウは自分の境遇を語る。
「どうです、一時的でも構いませんので、パーティを組みましょう。
他の方々と対抗するためにも」
笑顔の奥に金勘定と、損益計算、そしてあらゆる手段を押し隠し、リョウは交渉を続ける。
不自然さを感じさせない会話術に、大小両方の男が賛同を返した。
「………オレはハンターのくすもと(´・ω・`)だ」
大柄な男が自己紹介をする。
「Aridaというところから来た。この斧は、まあ、気にしないでくれ」
「それよりも(´・ω・`)の部分が気になるのですが」
「こいつは、あー、無理して発音しなくていい」
「分かりました」
続けて小柄な男が自己紹介を行う。
「俺はハジだ。ど田舎グリーンランドから来た」
「グリーンランドというと確か……」
「ああ、最近天災に見舞われてさ、もうボロボロなんだよねー
んで、腕の良い大工を探しに来たんだ。あとそいつを雇うための金稼ぎだな」
「なるほど、ちなみに職業は?」
「ファーマー。農耕民族だぜ。よろしく頼むわ」
「はい、よろしくお願いします」
ハジが右手を差し出し、リョウがその手を握る。
その上に、くすもとの手が重なる。
「よろしく頼む」
「楽しく行こうぜ」
「ええ、そうですね、よろしくお願いします」
ここに、1つのパーティが生まれた。
まだまだ1+1+1のパーティが。
キャラクターデータ
竜人(GM):なとりうむ
レイス:緑竜
アーティファクト:六分儀
特徴:
日々なんとなくで生きており,その皺寄せに悩む日々.